2021/11/07 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「あー……遅く、なったなぁ……」

 月に叢雲が差す薄暗い夜の街道。使いの依頼を受注して完遂して帰還する頃にはとっぷりと日が暮れてこんな時間になってしまった。
 手にしたランタンで足元を照らしながら小さく嘆息し、街へ戻る道を辿り。時折吹き抜ける冷たい夜風にぶるり、と身震い一つ。
 そこは街道の中でも古道に類しており、利用する者も少ない方なのか雑草が侵食してきていて幾分か荒れ気味であった。足元に注意が必要だ――、そう思いながら十字路にふと差し掛かりかけたところで、ぴた、と歩を止め。

「あ……? 古道……十字路……月のない夜………」

 声に出して呟くと今自分が置かれている状況を遅まきに察して。サ――と一気に蒼褪め。

「いや、いやいやいやいやいやっ。まさか……まさか、だからって。ねえ……そんな……」

 こんな状況下で出くわす確率の上がる魔物がいる。その可能性に思い当っていきなり震えあがりながら、十字路の向こうに何かの影が黒く微かに背景から浮き上がっているのに気づくと、ギクリと肩を震わせ。

「や……やだ、やだやだ、まさか、そんな……嘘でしょ……っ?!」

ティアフェル > 「ひ―――!」

 十字路の中心に立つ、その影かぞろりと動く。深紅のぎらついた炯眼がこちらに焦点を合わせた――瞬間、総毛立ち。

「ヘールーハーウーンドオォォォォォォォ!!!
 ヘルハウンドヘルハウンドへるはへふあ!!!」

 大絶叫の尾を引きながら、全力で地を蹴り一目散に駆け出した。

 がしゃん!と手から落とされたランタンが道に叩きつけられて割れ砕け、燃えていた炎が消え周囲は闇に閉ざされたが。そんなこと微塵もお構いなく「大混乱・錯乱中」と顔にでかでかと大書して「怖い死ぬ怖い死ぬ怖い死ぬ」とそんなテロップを頭の上に炸裂させながら猛ダッシュ。

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!゛」

 なんならエクスクラメーションマークにまで濁点くっつけ、はやばやと双眸からぶわ、と滂沱しながら魔物から全身全霊の超絶逃亡。

ティアフェル > ただでさえ犬嫌いなのに、地獄の番犬だなんて冗談じゃない。見ただけでショック死しそうな勢いだ。
 多少の魔物ならばビビリもせずになんならカチ割ってやる!と特攻根性旺盛な凶暴ヒーラーだったが、ヘルハウンド・ケルベロスの二大魔犬だけは絶対に断固として無理。目が合っただけで凍り付いてしまわれる所存。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!!!」

 何も過失はないはずだが、とにかくぼろ泣きで自分でも何に対して謝ているのかは分かっていないが、とにかく見逃して欲しい一心で泣き叫び。まるで悲鳴に釣られたように後を追って来る真っ黒な魔犬から無我夢中で逃げて、逃げて、逃げて、逃げる。
 しかし――、

「あっ…!」

 こんだけ焦って怯えて舗装もガタガタな古道を走っていると、足もひっ絡まるってもので。碌に見ていなかった足元の小石に毛躓いて、どさっと派手に転倒した――。

「ひ…きゃあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 大きく地を蹴って跳躍した魔犬に一気に追いつかれて一段と大音量の悲鳴が、静かな黒々と深い宵を劈くように響き渡った。

ティアフェル >  そして悲鳴の尾も途絶え、周囲には再び宵の静寂が訪れた。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティアフェルさんが去りました。