2020/12/15 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  天頂を過ぎ緩やかに傾き始めた太陽が没するまでは、まだ数刻といった頃合いに…… 

「いやああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 まるで、断末魔もかくやというような悲鳴が木々の枝葉を揺らし、枯れかけた茂みを震わせ木霊した――

 街をつなぎ、大地を割るように平地を走る交易路は森の方へ一本分岐していて、枝葉を擦り合わせるようにして立ち並ぶ常緑樹林を別つように旅人を導いて通っていた。

 その道に入ったのが、不幸の始まりだとも知らずに数刻前足早に分け入り、日が暮れる前にこの先の宿場に着かなければと懸命に歩を進めていた。
 この、大型の馬車は通れないほど幅が狭い森林の道は、交易路の途中にある宿場町までの近道となっており、身軽な旅人や冒険者御用達となっている。

 そんな道の途中で出くわしたのは、魔犬・ヘルハウンド。よりによってコレだ。相性最悪苦手中の苦手。
 大の犬嫌い、総じてイヌ科の魔物も同等に無理。
 他の魔物ならいざ知らず、これと遭遇してしまっては完全に戦意を喪失して泣きわめきながら逃げる、という情けない行動一択となってしまう。

 そこらの町娘と大差ない様子でがたがたと震え怯え、絶叫の尾を引きながら裸足で逃げ出す冒険者。

「いや! いや! いや! いやああぁぁー!! いやだぁあぁぁ!! やめてやめてやめてこないでえぇぇぇ!!」

 背後に迫る燃えるように真っ赤な双眸をギラつかせた魔獣から全速力で逃げ惑いながら、悲鳴を上げ、泣きじゃくるみっともない女が、周囲の静寂を薙ぎ払っていた。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にソウレンさんが現れました。
ソウレン > 絶叫が響きながらやってくる。
あまり王都では見ない着衣の女が、叫び声の主の先をゆっくりと歩いていた。
肩下げの荷物を一つ。お世辞にも動きやすい、冒険者的な姿形ではないが…。
しかし、もう片方の手には長剣が一振り下がっている。
何やら騒々しいな、と足を止めてゆっくり振り返っていくだろう。

荷物の中にはいくつか森の奥地で得たもの。
龍の姿のまま空を行き、目当てのものを得てから宿場を徒歩で目指していた所だ。
概ね、店で使う天然の食料品と言ったところ。

さて、絶叫と共にやってくるのは犬の吠え声のようだが…。
このままでは叫び声は真横を通り過ぎてしまうのではないかという所。

ティアフェル > 「いーやーだーあぁぁ! 怖い! 怖い! 怖い怖いー!!」
 
 こんな風に全身全霊で取り乱して、こけつまろびつ逃げ惑う女なんて、魔獣にとっては愉快な玩具でしかない。
 わざと捕まえずに肉薄して、鼻先が触れそうなほど迫っては、その度に上がる悲鳴を聞いて悦に入る。

「やめてえぇぇ!! いぃやあぁぁあぁぁ!!」

 しばらくこの獲物を甚振って遊ぶ気の魔犬はすぐには飛びかかって来ず、戯れていたのだが。
 賢しい魔獣は知っていた。この先に人間の集落があり、そこまで逃げ込まれると獲物には手が出せなくなることを。
 前方を歩く女性の気配までを察知したかどうなのか、彼女に辿り着く手前。そこで仕留めるつもりで、追い詰めた獲物の背に飛びかかった――

「きゃああぁぁあぁ!!!」

ど、ン!

 一気に距離を詰めて差し迫った魔物に引き倒され、前脚で肩を押さえつけるように組み敷かれて大気を劈くような絶叫が和服姿の女性の背中に降りかかるのだった。

ソウレン > やってきた女性は何やら犬型の魔物に追われているようだった。
見た事か、聞いた事くらいはあるような魔物。
一匹だけか、と視線で捉えた所でどうやら追いつかれたらしい。
追いつかれた、というよりは獲物を焦らすか弄ぶかしていたのだろうか。

「…ふむ。」

ざり。砂を噛む音を立ててゆっくり振り返る。
薄青い長髪がわずかに揺れ、視線は魔犬を捉えるだろう。

びく。

身体を震わせ、魔犬の視線がこちらを向いた。
ぐぅぅという唸り声と共に威嚇するような気配を向けられるが…。

ソウレンは、じっと魔犬を見つめているだけ。

次第に唸り声は小さくなり、女の子を押さえつけていた脚を離し徐々に後退っていく。
まるで何かの気配を感じ、怯えるように。

ティアフェル > 「いやー!いやー!いいぃやあぁぁー!!」

 魔犬に引き倒され、圧し掛かられながら恐怖で全力で泣き喚き、喉が焼き切れるのではというほど盛大に悲鳴を迸らせて、じたばたと牛程もあろうか巨躯の下でもがいていたが――

「へぅっ…?」

 余裕が皆無でまったく気づいていなかった前方の女性。先に察知したのは魔犬の方で。
 不意に身を震わせたかと思うと食らいつきかけてばっくりと大きく開けていた咢が、閉じられる。真っ赤な燃えるような双眸はもう獲物たる自分を見ておらず、その視線の先を不思議そうに追ったところで――。

「ぇっ? あ、ぁ、れ……?」

 押さえつけていた前脚が緩々と離れ、そそくさと、まるで咎められた子どものように去っていく様子にきょとん、と目を瞬き。
 それから魔犬と見合っていた女性の方に首を向かせて存在を認識すると、訳が分からぬ表情で首を捻り、ながら。

「ぁ。あ、の……? あなた、は……?」

 彼女が魔犬に何か具体的なことをしたようには思えないが……それでも出し抜けに退散していったことは無関係ではなかろう。
 だが、明確になんと問いかけていいのか分からずにあやふやな声を掛けて。引き倒されていた上半身を起こし、そちらをへたり込んだまま見やり。

ソウレン > 特に何もしていない。
ただ見つめ合っているだけで、魔犬は何かに怯え去って行った。
こちらはその長剣を抜いてもいない。
それを確認すれば、ゆっくり引き倒された女性へと歩みを進める。

「大丈夫だったかな?」

へたり込んだままの姿に手を差し出す。
一目では少し涼やかな印象かもしれないが、柔和な笑みを浮かべていた。

「ただの旅人だよ、一応王都住まいではあるけれど。先立って山菜などの採取に来ていてね。
ひょっとしたら荷物の中に何か嫌いなモノでも入っていたかのかもしれないね。」

と、至って普通に答えた。本人的にはシラを切ったという所だが…。
まぁ、そう簡単にべらべらと喋るようなことでもない。
…魔犬は正体を感じ、逃げていったのであろうが。

ティアフェル >  緩やかに近づいて来る彼女の涼し気な相貌を、どこかぽかんとした表情で眺め。
 こちらは魔犬のように、何かを察知して尻尾を撒いて逃げることもなく。
 ただ、親切に差し出された手を、ひと呼吸遅れて取り。

「あ、あ、りがとう……だい、じょうぶ……怪我もないし……」

 彼女との遭遇が今一歩遅ければどうなっていたかは判らないが、傷をつけられる前に魔物を圧してくれたお蔭で無傷だ。ただ、引き倒されて少しばかり土埃に塗れたくらいで。
 立ち上がりながら、その、なんだか信憑性には欠けるが、さりとて反論する材料もない言に耳を傾け。

「うくっ……こここ、怖かったああぁぁぁ~っ、あ、ありがとう! マジでありがとう旅人のお姉さん死ぬかと思ったいっそ死んだかと……!!」

 本当に彼女の所持品の関係だったとしてもそれ以外でも助かったことには間違いない。
 ほっとすると、急にスイッチが入ったかのように、じわあと双眸から落涙しながら、ぎゅううとその取った手を堅く握って、なんなら勢い抱き着きそうな程のノリで。大層情けない相貌で。

ソウレン > 柔和に微笑む姿には魔犬を怯えさせた何かは感じ取れないだろう。
尤も、自身の気配を感じ取れるのであれば人間ではない可能性は高いだろうが。
さて、先から同様、女の子に対して威圧する事はない。
取った手を引き上げるようにして立ち上がらせようとする。

「はは。そんな大げさな物でもないだろうに。
ともあれ怪我が無くてよかった。何よりだね。」

固く握ってくる手は若干白くなっているような。
それほど怖かったのだろう。まぁ、普通の人間なら魔物に押し倒されて生きた心地のするものではない。

女の子が立ち上がっていれば、肩を抱きながらぽんぽんと背中を擦ってあげるだろう。

ティアフェル > 「か、神……!」

 大仰が突き抜けた。
 柔和な笑みを刻む表情、オリエンタルな容貌、和服。そんなここら辺では珍しい出で立ちも相俟って。なんだか神々しく見えていた。
 身を案じて掛けてくれる優しい言葉よ。なんと刺さる。
 握った手は小刻みに震えていた。通常であれば魔物相手だとて、ただ悲鳴を上げて逃げ惑ったりここまで腑抜けに怯え竦んだりはしないのだが――超絶苦手なヘルハウンドとなれば事情はまったく別で。
 死ぬような思いをしていたところに通りすがってくれた彼女を即座に神と崇め。

「お姉さーん!! むしろ神ー!!」

 なんだか訳の分からんノリと勢いに任せて、宥める様に肩を叩き背を擦る優しい手に、どさくさに紛れて、がばっとしがみついていく。信者というかセクハラ。

ソウレン > 「おいおい。」

がばっと抱き着いてくる女の子にそういうモノの、特に嫌がる素振りは見せる事もなく。
着物の下はそれほど豊かな身体ではないのがわかるかもしれない。
細身ではあるが、筋肉質。そんな。

「…ともあれ、一人旅なら宿場には行くのだろう?
これも縁。そこまでは同道すれば良いと思うが。」

先程握った手の震え、根は明るい様子だがやはり恐怖は感じていたのだろう。
安心させるようにそう言うのだった、が。

「…まぁ、その。お節介だとは思うが、身を守る手段がないなら一人旅はあまりおすすめするものではないよ?」

と若干の苦笑を交えてチクリと釘を刺すのだった。
スタッフを持っているのだからそれなりには自衛できるのだろうけれど。

ティアフェル > 「はっ、ごめんなさい、つい…!
 いやそんな決していやらしい意味じゃ、そんな邪なあれじゃなくってですね…!?」

 がばーと抱き着いてしまって、あ、結構筋肉…と一瞬思ったが、それから、はっと我に返って、慌ててぱぱぱっと手を離し。
 ぶんぶんアホ毛を振ってあたふたと云い募るが――云えば云うだけドツボな印象はぬぐいがたい。

「あ、は、はい! そう、これからこの先の宿場に……。
 え? いーの? うわあ、嬉しい助かる! よろしくお願いしまーす!」

 同行を許可されて、またヘルハウンドが現れたらとビクビクしながら進まなくって良くなって、一気に安堵に表情を緩めて、ぱあ、と明るさを満面にしていたが。
 ごもっともなご指摘に、いやはや面目ない…と後頭部に手を当てて。

「んー。いや、これでも一応冒険者でして。
 ………他の魔物だったら平気だし、道中適度に捌きながらやってきたんだけど……そのー……犬、が苦手で………ほんと、怖くて……」

 情けなさそうに表情を崩して眉を落とし。冷や汗交じりに口にして。
 唯一のウィークポイント魔犬に出くわした姿を見せた後だからそう話しても説得力がないかも知れないなあと頬を掻き。
 普段ならば出没情報をよく加味して、ヘルハウンドが出そう、出る、となれば全力でその界隈は避けて道行きを選ぶのだが……今回運悪く情報漏れしていて、今に至る。

ソウレン > 「わかっているよ。」

あたふたする様子に少しだけ笑みを深める。
何とも可愛らしい様子である。
こちらの様子は然程変わらず、至って涼し気な様子で前に立って歩き始めるだろう。

「こちらこそ。あぁ、私はソウレンという。
王都で小さな居酒屋をやっている身だよ。」

簡潔に自己紹介をする。
背を向けているので、照れている様子は目にしないだろう。
あえて目にしない様にしたのかもしれない。

「なるほど。それなら災難だったね。」

苦手なものならば仕方がない。
苦手が無いのに越したことはないのだが、嫌いなモノはどうやっても嫌い何が人のサガというものだ。
それは食べ物にも通ずるのだからよく理解できる。
だからそれを咎めたりはしないだろう。

ティアフェル > 「ほんとに……?!」

 我ながら客観的に観て、あっさり「そうだね」と肯定するには難しいキョドり方をした自覚があるので、笑ってそんな爽やかな返事を聞けばむしろ疑ったように反問していた。

「ソウレンさん。わたしはティアフェル。
 冒険者で、ヒーラーなの。居酒屋さんかあ……どこら辺にあるの?
 今度行ってもいい?」

 歩き出した歩幅に合わせてついて行くように、こちらも意識して少し歩幅を大きくして遅れないように背中を追い。
 彼女の風貌からして東国風の、と想像すれば興味を持ったように。

「だけど、地獄に仏とはこのことよ。
 捨てる神あれば拾う神あり! 助かったから結果オーライ……なんて調子に乗ってたら怒られちゃうね」

 不運は不運だったが、綺麗なお姉さんに助けてもらったのでチャラである、とお調子だったが。
 さすがに咎められるかと自覚して、苦笑しつつ。

ソウレン > 「? 思わず抱き着いてしまった。とただそれだけの事だろう?」

何を不思議な事を?とでもいうように。
不安から解放された、という事もあるだろうし、と余裕のある素振りであった。
まぁ、男ならまた話は別だが、と付け加える。

「治癒の魔法使いか。私は魔法には疎くてね。仕事の料理と、手慰み程度の剣使いだよ。
店はそうだね、平民地区の…。」

と、場所を説明してあげる。
通りに入りさえすれば赤提灯が下がっているので見つけやすいだろう、とも。
歩調はゆっくりとしたもので、慌てず騒がず、という雰囲気を感じるかもしれない。

「運も実力のうち、とは言うが、危機意識も大事だね。
平時は無理をしないのが一番だろう。」

と、歩き始めてそれほどでもないが、宿場の明りが見えてきている。
まだまだ明りは小さく、それなりの距離ではある様子。
陽も完全に落ちたというわけではないので、目が良い事には感づけるかもしれない。

ティアフェル > 「ええまあそういうことですけれども!
 何故あっさり信じれるのかと!」

 逆に心配になってきた、ちょっとくらい疑う心がなくって大丈夫ですか、日常騙されていませんか、とお節介な心情が頭をもたげて来て、でもそれを云うのは厚かましいだろうかと非常に複雑そうな表情で「うーんうーん」と唸り始めていた。

「充分だと思うわ。――お料理ってどんなものが出るの?
 ふんふん、それならまた、近くに行った時に寄らせてもらうね」

 今日のお礼を兼ねて、と、純粋にどんな酒と料理が楽しめるのかに興味があって説明された場所を頭に入れて把握し。
 近くまで行ったら分かるだろうと肯いた。

「いやはやごもっとも……。
 誰かがこうして通りかかってくれるなんて――まあ普通はないことだからねえ。
 命あっての物種だし」

 10回ピンチに陥って1回あるかどうかだ。うむうむと得心顔で肯いて。
 森の中を走る街道を真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいく。目的地までには日が暮れるまでには到着できそうだと算段しながら。

ソウレン > 「恐怖から解放された途端で、下心満載で女性に抱き着く女の子は少し想像しづらいね。」

と、至極普通に言ってのける。
いないわけではないだろうが…率は低そうである。
うんうんと唸る姿に、ふっ、と小さく笑い声を漏らし…。

「東の酒に東の料理。そんな所だよ。あまり王都では馴染みがない料理だね。
気に入る人は気に入る。気に入らない人は気に入らない、という所だろうか。
客層は…働き盛りの男性が多いかな。酒も品ぞろえで言えば少々強めではあるしね。」

気になるなら来てみるといい。とも。
味の好みを訊けばそれなりの料理は出せるだろう。
王都風の調理もそれなりには学んで入る事だし。

「それはそうだ。命は大事。身体は資本。どちらも代え難いものだからねぇ。
…さて、見えてきたようだね。さっきのが意趣返しに来る前に入れるようにしようか。」

そう言って少し後ろの女の子に笑いかける。
魔犬が徒党を組んでくるとそれなりには面倒だ。
まとめて全滅するのはたやすいが、抜かずに済むのならそれに越したこともない、と鞘を小さく撫でた。

ティアフェル > 「実はそんなに怖くなくって、隠れ同性愛者でそんな隙を狙った邪心の持ち主だとしたら!
 一体! どーするの! それは事件よ…?! もっと自分大事に…!」

 そんな事件起こっていませんが。架空の事件を捏造してその場合はいかに、と云い募る顔は割とマジ目だったので、本当にそうなのかこの女、と疑われたらピンチだが、その可能性に気づいてはいない。

「わあ、やっぱりそうなんだ! それは楽しみ。シェンヤンの料理だったらそこそこ入ってきてるし、食べる機会もあるけど、さらに東の料理ってほとんど知らないから、ぜひ寄らせてもらうね。
 ――分かった、髭とかつけていけば馴染めるかなっ?」

 にこにこ笑いながら弾んだ声でのたまうが――コレが冗談じゃなかったら、かなりやばい客が来店してしまう。入店拒否推奨である。

「冒険者は危険を冒すものだけど、敢えて死にたい奴はいないしね。
 ――うぉぉ……群れとの遭遇となったら……発作起こして死ぬかもだわ。くわばらくわばら。急ぐとしましょ」

 斜陽となり始めた頃合い。没してしまう前に闇の帳が下りる前に街に入るに越したことはない。
 笑みを向けられて、自然とへら、と笑い返しては、意趣返しとやらが現実にならない内にと少しばかり顔を蒼くしながら足を急がせ始めた。

 ――そうして、無事に日暮れ前に、魔物と遭遇する前に宿場町に辿り着いたという。
 街に入ると改めてありがとうと深々頭を下げてお礼を云い、また王都でと笑って手を振るのだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からソウレンさんが去りました。