2020/06/27 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジェイクさんが現れました。
ジェイク > 王都から離れる事、半日。昼下がりの近隣の村落に通じる街道。
普段から人の往来が多い、その道を遮るように柵が設けられ、
道の脇には幾つかの天幕が建てられ、簡易的な陣営の趣きを為していた。
街路に立ち、通行する馬車や通行人を差し止め、積み荷や身分の検査を行なっているのは、王都の兵士達。
曰く、此処最近、山賊や盗賊の類が近隣に出没するために検問を敷いているという名目であるが、
実際の所は隊商からは通行税をせしめ、見目の良い女がいれば取り調べの名を借りて、
天幕でしっぽりとお楽しみという不良兵士達の憂さ晴らしと私腹を凝らすための手段に他ならなかった。

「――――よし。次の奴、こっちに来い。」

でっぷりと肥った商人から受け取った賄賂を懐に入れて、彼の率いる隊商を通せば、
列をなしている次の通行人に声を掛けて近寄るように告げるのは一人の兵士。
何よりも厄介なのは、彼らが紛れもない王国の兵士であり、市井の民が逆らえない事だ。
そして、その事を理解している兵士達は、御国の為ではなく利己的に国民を食い物にしている最低最悪な屑揃いであった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジェイクさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアントワーヌさんが現れました。
アントワーヌ > 夕闇迫る街道に、二頭立ての馬車がぽつりと停まっている。
お仕着せ姿の御者は車輪の傍らに屈み込んでおり、馬たちは何れも退屈顔で、
馬車の扉は開け放たれ、中に座っていた『青年貴族』の姿は、少し離れた木陰に在った。

「……大丈夫、いざとなれば歩いて帰れば良いのだからね。
 そんなに気にするものじゃ無いよ」

車輪が食んでしまった何かを取り去ろうと、先刻から苦心している御者が、
此方を気遣うような台詞を繰り返すものだから、木陰でぼんやりするだけの己は、
せめて笑顔で頭を振ってみせよう。
王都まで、実際に歩くとなれば未だ幾らか掛かりそうだが、
幸いにしてドレス姿の貴婦人では無いのだから、無理、ということもあるまい。
旦那様にそんな真似はさせられません、と、御者は一層恐縮してきたので、
己の気遣いは逆効果だったような気もするが。

ともあれ、完全に日が暮れ落ちるまでには、もう少し間もありそうだ。
暗くなる前に決断すべきか、思案するように茜色の空を仰ぎ見た。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にメレクさんが現れました。
メレク > 夕刻、メグメールの街道を王都に向けて一台の馬車がやってくる。
その馬車は途中、停車中の先客の馬車を通り過ぎた後、ややあって離れた位置にて停まり、
御者が馬から降りると停車中の馬車に駆け付けて御者同士で幾つかやり取りを重ねる。
二人は青年貴族の馬車の車輪の具合などを確認して、悩んだり、首を振ったりの仕草を繰り返した後、
一旦、後からやってきた馬車の御者が自身の馬車に戻り、中の主に状況を報告して、
再び、彼女の御者の元に戻って、二、三の言葉を交わす。
其処で何らかの取り決めが為されたらしい。青年貴族の御者は安堵の表情を浮かべると、
二人して木陰で休んでいる彼の下へと歩み寄ってくる。

『旦那様、こちらの御者の主の貴族様が、宜しければ同乗されないかと仰られております。
 更には王都に戻った折には人を寄越して下さるとの事で、……如何致しましょうか?』

後から訪れた馬車の御者は紹介を受けて主の代わりに青年貴族に恭しく頭を下げる。
青年貴族の御者は馬車や馬の番のする為にこの場所に留まり、応援が訪れるのを待つという心算らしい。
暗くなる前に主だけでも、王都への帰還の足が出来た事に安堵しながら、主の決定を待ち。

アントワーヌ > 其の馬車が近づいて来た時、己も、御者も、其方をちらと見はしたのだが。
馬車の造りや御者の身形から、其れが恐らくは貴族のものであることは知れ、
―――――最近、同じ貴族階級の人間には、かなりの警戒心を抱くようになった己は、
敢えて、其方へ助けを乞えとは言わずにおいたのだった。

けれども御者同士に何某かの遣り取りが在ったのか、其の馬車は少し先で停まり、
降りてきた御者と当家の御者との挙措を、やや遠目に眺めつつ、
無意識にステッキを強く握り締めてしまっていた。

御者たちが連れ立って此方へ歩いて来た時、きっと己の顔は、
少しばかり緊張し、蒼褪めて見えたことだろう。

「――――有難いお申し出だけれど、見ず知らずの方に、
 其処までして頂くのは聊か気が引けるよ。
 人を呼んでくれると言うのなら、私も此処で待っていても良いのだし」

御者に此れ以上気遣わせるのも申し訳無い気はするが、
――――貴族というものは気紛れで我儘なものである、という、
先人たちの悪い前例を利用させて貰おう。

メレク > 青年貴族の言葉に御者達が顔を見合わせる。
特に青年貴族の御者は馬車を動かなくしてしまった負い目があるのか、
眉尻を下げると困惑気味に食い下がるような素振りを見せて、

『ですが、旦那様。お顔の色も優れない御様子ですが……』

と主の何処か蒼褪めて見える表情を心配する始末。
逆に後から訪れた馬車の御者には相手が貴族とは言っても、
その気紛れや我が儘に付き合うような義理は存在せず、
さっさと頭を下げると薄情にも自身の馬車へと戻ってしまった。

だが、恐らくは馬車の中の主へと報告を行なっていた彼は、
其の侭、御者台には戻らず、馬車に備え付けられた昇降台を持ち出すと、
出入口に置いて扉を開き、その入口からはでっぷりと肥えた男が降りてくる。
彼は御者を伴えば、青年貴族の傍へとゆっくりとした歩調で歩み寄って。

「御機嫌麗しく、ジェラード伯爵。
 ですが、感心しませんなぁ。貴族の我が儘で使用人を困らせるのは」

口端を弛め、笑みを浮かべながら近付いてくる貴族の男。その人物は相手にも面識がある筈で。

アントワーヌ > 顔色については、指摘されて初めて気づく有り様だったが、
ステッキを握り締めた指が、冷たく強張りつつあるのは解っていた。

後から現れた馬車の御者が、頭を下げて馬車に戻ろうとするのを横目に、
当家の御者へぎこちなく笑み返して。

「大丈夫だ、……彼方の御者に、当家の名は伝えたのだろう?
 ならば王都へ戻り次第、当家に知らせて貰えれば、―――――……」

其れで済む筈の話だ、と、そう言って聞かせながら、
木陰から馬車へ戻ろうとしたところ。
てっきり立ち去ると思われた彼方の馬車から、降りて来る人物が目に入った。

「―――――サ、マリア、卿………」

見覚えがある、どころの話では無い。
己が此れ程までに貴族を警戒するに至った、元凶とも呼ぶべき男だ。
蒼褪めるどころか、己の顔色は一気に、紙よりも白く色を無くしてしまう。
声が震えてしまわぬように、より強く、ステッキを握り込まねばならなかった。

「……確かに、過ぎた我儘は良くないでしょう、ね。
 ですが、『親切』というものは、あとが高くつくことも多いと聞きます、
 貴殿は商売上手でもいらっしゃるようですし、……どうぞ、私にはお構い無く」

男が間近に辿り着いてしまう前に、と、普段よりも幾らか早口になっていた。
言い終わり、ひとつ礼をするや否や、己は素早く馬車に戻る。
直ぐに動くものでは無いとしても、馬車の扉には内鍵が掛かる。
―――――かしゃん、と、錠を降ろす音が響いた。

後に残された御者が、主の非礼を平身低頭で詫び、
王都の屋敷への託だけでも、と願い出るが―――――
酷くなるばかりの震えと戦い始めた己は、外の様子を確かめることも無かった、という。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアントワーヌさんが去りました。
メレク > 早口に捲し立てた青年貴族が自分の馬車に戻り、錠を落として立て籠もる。
その光景を前にして相手の御者は顔色を蒼褪めさせながら頭を下げるが、
貴族の我が儘のツケを使用人に求めるのは筋違いというもの、
でっぷりと肥えた貴族は頬肉を弛めながら嗤うと踵を返して馬車へと戻っていく。
それでも、機嫌を損ねた訳ではなかったのだろう。
その日の夜には、言付けを受けた王都から伯爵家の者達が馬車の復旧に駆け付けた筈で――――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からメレクさんが去りました。