2020/06/19 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」に白冥花さんが現れました。
白冥花 > 太陽が沈んで、月が目覚める時間だと言うのに風は真昼の太陽が残した熱を帯びてほんのりと生ぬるく、そんな生ぬるい風に混じって今夜は雨がザァザァと降っている。

視界が不明瞭というほどではないが、降り注ぐ雨の所為で何時にも増して夜のメグメール街道は闇深く危険な場所へとなっている。

無事通り抜けたいのであれば馬車などで駆け抜ける他無い。
いつもどおりに灯りをもって徒歩で歩いて進むのであれば……その道は泥沼の如く生ぬるく、砂糖菓子のように甘い地獄が待っている。

ぬかるんだ道は足元に気をつければいい。
夜の闇が加わる事でその泥濘は足を奪うが、命は奪わない。
夜の闇だって視界を奪うが、命は奪わない。

だがしかし、足を奪われ、視界を奪われ、隙を見せてしまえば雨降り注ぐ街道に咲いた真っ白い花がその新緑色の蔦を伸ばし、肉色をした根を伸ばす、その肉体を苗床に変えんと。

闇に裂くように周囲に灯りを向ければ、其処は何時ものメグメール街道ではない。

道のあちらこちらには純白の花が咲き
水溜りの中にはその生々しき肉色の根が泳ぎ
辺りの木々には新緑の蔦が絡みつく美しくもおぞましい光景が広がるだろう。

――…何れにせよ、今宵のメグメール街道に足を踏み入れるのは間違いである。

純白の花が咲いたという噂を聞いて、自ら足を踏み入れたというのであれば別の話である。

うわさは真実であり、望むだけの金と交換できるだけの白冥花を見る事が出来るだろう、だが見るだけで摘むだけで終わるはずも無く、その胎に種子を抱えて帰る事となるだろう。


あるいは、此処で新たなる純白の花となるか花を守る騎士に変えられるか、何にせよどれにせよ、待つのはやはり地獄であろう。

白冥花 > 万病に効く霊薬、女神も跪かせる惚れ薬、天使も堕落させる媚薬……諸々。

「生きた」まま摘んで帰れば同じ重さの白金と交換できる、は大げさであるがその花を欲するものは貴族から王族からと権力者であればある程に欲するだろう、一説には不老不死の妙薬にさえなるといわれる白冥花であるが、今宵はそれが雨に濡れながら風も無いのに左右にゆらゆらと大輪の花を揺らす。

その可憐な姿とは真逆に水溜りの雨水を啜り蠢く根。
是もまた霊薬の素材となる部分ではあるが、まるでそれだけが独立した存在の如く、濁らず透き通る水溜りの中を泳ぐ。

――…馬車であれ、その水溜りに踏み込めば容易に引き摺り倒す強靭さをもちあわせた白冥花の根。

白冥花の生命力の強さは根が一番表している。
それはそれだけが獲物を求め蠢き泳ぎ、純白の花は見るものを魅了するように揺れ続ける。

幸いなこと、に今宵の雨で彼の花が香らせる甘い誘惑の香りは消えている、消えているが決して香らないわけではない。

近づけば、あるいはその花に包まれれば鼻腔を直ぐにも犯し、煉獄へと嗅いだ者を誘う……。

白冥花 > ――…夜の闇の静けさにただただ雨の音だけが響く。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」から白冥花さんが去りました。