2020/05/04 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にカグヤさんが現れました。
カグヤ > ゴトゴト、ゴトゴト―――――
雨上がりの午後、僅かに泥濘んだ街道を、一台の幌馬車が辿っている。
所謂乗合馬車というものだろう、中には年代も性別もばらばらな乗客が数人、
暢気に馬車に揺られていた。

そんな中で、明らかに異国の出であると知れる装束を纏う娘の姿は、
ちらちらと衆目を誘ってはいるようだったが――――当の本人は無自覚であり、
珍しく緊張感や警戒心も手放しているのか、ぼんやりと足許の暗い床を眺めていた。

今朝がた、気が付いたら港に程近い倉庫街を歩いていた。
直近の記憶は無く、頭は茫としており、聊かの不安を覚えぬでも無かったが、
ともかく、王都とやらを目指してみることにして、乗合馬車の切符を買い求め、
風呂敷包みひとつを抱えて乗り込み、現在に至る。
ともすれば襲い来る睡魔が、一層神経を鈍化させているようで――――
王都に辿り着くまでには、少し頭をしゃっきりさせなければならない。

そんなことを考えながらも、うとうとと微睡み始めた時。
不意に馬車が速度を落とし、鋭い馬の嘶きと共に停車した。
幌の中からは知る由も無いが、停車の仕方からして、明らかに尋常では無い。
不安げに眉根を寄せ、ひそひそと囁き合う乗客たちの中、
娘は一人、荷物を胸に抱え直して腰を浮かせかける。
最悪、何事かが起こった場合に備えて――――馬車の降り口を、確かめるように一瞥し。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアンヤさんが現れました。
アンヤ > 馬車の揺れは酷く心地良く、惰眠を貪るに丁度良し。
今日も今日とて目的を持たずに流れ雲の如く道から道へ、街から町へ、村から王都へと行ったところである。

雨上がりの湿った緑と土の混じる香りを胸いっぱいに吸いこみながら当面の目的地である王都とやらへ向う乗合馬車の中で、馬車の壁面に寄りかかり首が痛いのを堪えながら、そんな惰眠を貪っているのだが――…不意に唐突に面白そうな気配を肌で感じ、続く馬車が停車する衝撃でパっと壁面から背中を離し、薄らと右眼を開く。

「何ぞか面白いことでも起きたかの?それとも、もう王都とやらに辿り着いたのかい?なぁ、どうなんだい?」

口端を高く吊り上げて、愉快そうに喉奥で笑いを堪えながら、現状を把握すべくわざわざ気配など探ったりもせず人に尋ねる――…この場合は丁度近くにいた、自分の事は棚に上げておくが何とも目立つ服装の女に距離感薄く馴れ馴れしく訪ねてみる。

ひそひそと現状を話し合う一山幾らの人間の話などたかがしれている、必要なのはそんな中で周囲よりは冷静に対応しようとしている腰を浮かせかけているその女が把握しているであろう情報、そちらの方が確実に価値はあるだろう。

帯状の眼帯をまいた左目は閉じたまま、開く右眼は蛇を想像させる縦細長い瞳孔の眼、その眼でチラリと横目に眺めるだけで、さあ、早く、面白い話を聞かせろと言わんばかりに女からの返答を待つのだ。

その最中に肩膝を立たせて、肩肘を乗せて頬杖をつく。
何時でも動けるようにと言う姿勢とは真逆のこの状況下を愉しむような素振りを。

カグヤ > 直ぐ傍らから聞こえた声の主へ顔を向けた、其の瞬間。
自分がどれだけ無防備に、ぼんやりと、車中の人となっていたかを思い知る。

乗車してからずっと、ちらちらと感じていた視線の何割かは、
娘の程近くに座していた、此の男に向けられていたものなのでは無いか。
ひとのことは言えない、言えないが、然し、如何見ても此の国の人間とは思えない。
どころか、此方を見遣る隻眼は明らかに――――普通の人間が、持っていて良いものでは無いように見えた。

「――――王都は、未だ先のようだわ。
 今の停まり方、…初めから決まっていた所で停まった、って感じじゃ無かったし」

何か不測の事態が起きたために、慌てて停めた、あるいは、無理矢理停めさせられた。
そういう類の停まり方だった、と思うのだが、――――周囲のざわめきも、
外の様子も、当然、気にはなるのだが。

上げかけた腰をそっと下ろし、僅かに眦へ力を込めつつ、
薄暗い馬車の中、娘は異装の男に向き直る。
剣呑な光を内包した其の眼差しは、男の挙動を警戒心たっぷりに窺うもので。

「……気になるなら、あなた、確かめに出てみたらどう?
 随分余裕ありげですもの、さぞかし、腕に覚えあり、なんでしょう」

今や最大の関心事は、眼前の男、ただ一人であった。
抱えた荷物の影でこそりと、符を隠した懐を探るのも忘れない。

アンヤ > 王都は未だ先と、なると馬車の急停止は何愉快な出来事の先触れか、或いは既に渦中に放り込まれた状態か、はたまた……数秒後には首と胴体が離れ離れになる状況下か――…まあ愉快である、どのように転んでも誰かが不幸になり、不幸な誰かが己に救いを願い請う、そんな状況になるかもしれぬ可能性が出てきた事に愉快。

「うむ、我はそう思うよ。急停止、そう、急停止と言う奴だ。何にせよ……おっとなんだい?立ち上がって外を見てきてくれるのではないのかい?それとも主のお尻はもちあがらん程にでかいのかい?」

喉奥の笑いが思わず零れ、カラカラと特徴的な声色で一頻り笑うと、突き刺さる眼差しがまあ何とも心地良し、これもまた愉快、と笑いを堪えるように抑えながら、視線を……チラと警戒を見せる娘の上げかけた腰に下りた尻へと向けて、指先を自分の顎にそえてから「ほうほう確かに確かに……。」とぼやく。

「ああ、我は……腕に……憶えは、なくも……なあー……請われれば振るうぞ?振るう分は頂くぞ。なあに死にはしないだろ、若しかしたら酒樽が転がってきたとか、金塊が地面に埋まっていたとか、そんなところかもしれん。それに我は男集が汗水たらして殴りあうのを眺めるよりも、女子の尻を眺める方が大好きでな。」

ぼやきを終えた後に冗談半分に言葉を紡ぎなおし明らかに諸々誤魔化すような返答を返すが言葉の終りは濁る濁らせて最後まで紡ぐことは無い。

……気配と感じた呼ぶか、本能と呼ぶか、自分に憶えのある技術の香りというべきものか、深くは考えるのを止めるが『符』、その気配を感じ頬をヒクと僅かに吊り上げると、自分もするりと自分の浄衣に手を滑り込ませる、勿論探っているのは符ではなく酒瓶なのだけども。

――…しかしだ。
愉しい予感はするが馬車の外が妙に静かである。
其処だけがこの状況下で女の次に気がかりでは、あるが、鉄錆の香りは未だしない、ならか囲まれただけか、それとも……。

カグヤ > 男はひどく愉快そうではあるが、娘の方は其れどころの騒ぎでは無い。
街から大分離れた場所で急に停まった馬車、不意を突かれた馬の嘶きも、
御者の声も聞こえない不可解、は勿論のこと。
じわりと車内に広がる動揺、そして、眼前の男の存在。
其の何れもが、此れでもかと娘の神経をささくれ立たせてくれる中、
愉快どころか――――愛想笑いすら向ける余裕も無く。

「――――――お尻の重さは関係無いわ。
 初対面の女に、そんな品の無いことを言うような男のために、
 先陣切ってやりたいとは思わないだけよ」

体型を揶揄されて頬を赤らめるなら可愛げもあろうが、
娘が選択したのは真正面から切り返すような物言いである。
其れでも視線の方向は気になったのか、無意識に緋袴の腰を僅かにずらし、
男から少しだけ距離を取ったが。

「……あなたに見て来て貰うためには、お金を払え、って言ってるの?
 お金を払ったら、払ったなりのご活躍を期待しちゃうのが人情だけど」

対価を求める、ということは、仕事としてなら請け負ってくれるというのか。
聞きようによっては図々しい、と眉根を寄せながら、荷物の影で符を手繰る。
眼前の男の方を優先すべきか、其れとも馬車の外への対応が先か。
―――――此方の動きを察知してか、男が同様に懐へ手を滑らせるのを、
刹那、息を呑んで見つめた、ものの。

「―――――――あ、ちょっと、あなた!」

痺れを切らしてか、不安に耐え切れなくなってか、乗客の一人が降り口から外へと飛び出して行く。
慌てて声を掛けたけれども、其の姿はふっと『掻き消えた』。
跳ね上げた幌の向こう、未だ日も高い筈の時間であるのに、闇が広がっているようにも見えたが、
―――――果たして気の所為か、否か。

「―――――やっぱり、」
変だわ、と呟くより早く、再び腰を上げていた。
男が如何動くものかは知らないが、兎に角、馬車の外へ出てみねば始まるまい、と。

アンヤ > 抜き身の刃、は大げさであろうか。
冗談半分のからかいの言葉をズバと真一文字に切り捨てられると、これもまた愉快痛快、何とも愉快なひと時である。
――…それなら尻ではなく乳が?と続けようと思いはしたが、言葉ではなく実際に符でも額に突き刺さらん予感がしたので、言葉は笑い声と共に飲み込むのであった。

「ああ、金か、金も悪くは無い。金は人の欲望の象徴であるからな。だが我は金なんぞより、その重たい尻が……。まて我の冗談はまだ終わって……。」

少しだけ距離と取られた事よりも言葉半ばで動き始めた事が『不愉快』である、言葉とは他者と他者がわかりあう為の術であり、懐を探り当てて見事取り出した酒瓶を傾けて説教……なんて悠長なことも出来そうも無い、何故ならまず興味の欠片も持てぬ男が外へ飛び出した。

それは『どうでもいい』。
だが飛び出した後が非常に『面白い』。
掻き消えた、右眼は女の言葉に合わせて確かに男を捉えた筈が消えたのだ――…面白くない筈がない。

だから笑った。
カラカラとまた特徴的な声をあげて、数秒前の不機嫌な空気など吹き飛ぶほどに愉しげに笑って、取り出したばかりの酒瓶を辺りに放り投げると、自分より先に重たい腰をあげた女のほうに手をヌルリと伸ばして軽くその尻肉をパンッと叩いた挙句に自分も重い腰を持ち上げて、ついでに良い位置のその尻を鷲掴みにしようとする。

「……やっぱり重たそうであるなぁ……。ほれ行くぞ、我が愉しめそうな予感がする、何、我がいる限り死にはせんよ。すくなくとも死には……それに……やばかったら、その尻抱きかかえて逃げてやろうぞ。」

浄衣の重たい袖をひるがえしながら、先にまず一歩女より抜きんでて馬車の外へと出よう、外に何が待ち受けているかは、宝箱をあける玩具箱をひっくり返す前の子供に気分に相違なし、表情もまたそれに見合った無邪気な笑みを浮べていよう。

気配を探るなど勿体無い。
罠があれば蹂躙すれば良い。
待ち受けるものが危ければ危いほど――…愉しいのだ。

カグヤ > 対話、駆け引き、腹の探り合い――――そういうものは、娘の苦手分野だった。
世間というものを知らず、仇敵の面影ばかりを追い駆けて、
視野狭窄とも呼ぶべき状態でどれだけ諸国を巡ろうと、改善の傾向は見られない。
もしも今、一人の男が飛び出して行かなければ、またしても尻が如何こう言い出した男を、
今度こそ平手が襲っていたかも知れず。

「冗談なんか言ってる場合、じゃ、――――――きゃ、っ!」

得体の知れぬ男の不興を買ったところで、知るものか、と言わんばかり。
腰を上げて、懐から一枚、選び出した符を片手に、馬車の外へ向かおうとした瞬間。
殊更楽しげに笑った男が、腰を上げた、と思う間も無く、緋袴越しの臀部を叩かれた。
否、叩かれただけならばまだしも、―――――我が物顔に掴まれた。
其れはまるで、売り物に出された奴隷の肉付きでも確かめるような手つきで。
ば、と振り返った娘の顔は真っ赤に上気し、明らかな怒気に彩られていた。

「あ、……あなた、あなた、後で、覚えてらっしゃい!」

そんな場合では無いと分かっているが、分かっていても、言わずには居られなかった。
何が待ち受けているかなど知らぬ、けれども此の男の活躍で、
其の場が無事に収まったとしても―――――不埒な男の右手ひとつぐらい、
此の手で罰してやらねば気が済まない。

もしも此の身が危うくなっても、男の助力など決して求めまい、と、
かたく心に決めて外へ出る。
唇に咥える隠形の符、男と違って戦闘能力には自信の無い娘だから、
一応の策は講じた上で、だが。

外に待つのがナニモノであれ、男の敵では無いのだろう。
けれども娘の口から男への労いや礼の言葉を引き出すには、
先ずは一発、振り上げられた掌を受け止める、あるいは受け流す必要が生じる。
まともな会話が成立するとすれば、更に、其の後の話となる筈で―――――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からカグヤさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアンヤさんが去りました。