2020/04/30 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」に影時さんが現れました。
影時 > ――やれやれ。

街道の只中に立ち、手にした鞘込めの太刀を腰に戻しながら吐息して思ったのはそんなことだ。
早朝の冷たい風が吹き抜け、強張った四肢を緩ませるに程良い日差しが差している。
まぁ、それも良い。やがては暑くなるのであろうが、今は此れ位であれば程良い位である。
問題はだ、この先に王都に向かいたいのだが――。

「……あンの業突く張りめ、先払いだからと思い切りよく俺を置いて先に行きやがるとは」

これだ。事は数日前に遡る。
冒険者としての依頼を果たし、定宿を置いている王都に戻ろうと王都に向かう奴隷商のキャラバンに雇われたのはいい。
相場には劣るが、先払いでの護衛業だ。
薄汚れたミレー族たちが向ける目線やら呪詛の言葉など、それらを堪える、あるいは意にしない胆力があれば、足代わりには悪くない。
しかし、何やら昨今の奴隷の相場やら何やらで、ミレー族には「需要」があるという。

「まだ日も過ぎンうちに賊が跋扈するたァ、随分と荒れたもんだ。例の騒動の所為か?」

そんな需要狙いで賊に囲まれて足が止まった馬車を降りて、切った張ったのはしたのはいい。
丁々発止で薄くなった周囲を強引に奴隷商のキャラバンが自分や他の護衛を置いて、走り出したのだ。
そういうことを予め弁えたうえでの、前金だったのだろう。
やってくれる、と。嘆息を零して、街道に残る蹄鉄や轍を確かめる。
難を逃れた同業者は、運よく残ってた馬を渡して先に行かせた。生きていればまた、会うこともあるだろう。

影時 > 「有名無名の武士団……否、こっちだと騎士団かァ? 
 兎角、その類も動くってなら人手が足りなくなる――でも無ぇな」

風が吹けば桶屋が儲かるではないが、この辺りの因果がどうにも腑に落ちない。
首を傾げながら、己が荷物を確かめる。
大きくはない背負い袋を付けたまま、馬車に乗っていたのが幸いした。手持ちの仕込み武器の類も多くはない。
失っているものは無いとなれば、是非もないと割り切ることはできる。
気になるとすれば、所詮は己に関わりのないことである筈の些末事である。

賊がミレー族の奴隷を奪って、如何とするのであったのだろうか?
生かしておくこともさることながら、金銭に変えるとするにはそれこそ、手間であろうに。
精液を吐き出すためだけの肉人形の用途にするにしても、ただの人間よりもいくらか丈夫である位か。

「……一人捕まえて、直に聞ぃてみりゃ良かったか」

些事と宣う癖に、一度気になるとスカッとするまで突き詰めてみたくなるのは悪い癖だ。
口元を歪めて腰に付けた水袋を外し、一口中身を含んで喉を潤す。
丁度良い行商でも何でも便乗できる者が居れば良いが、戦争絡みとなるとそうもいかないらしい。遠く、元来た方を睨む。

影時 > 急ぐ旅ではない。正真正銘急ぐ場合、手立てを選ばなければ手段はある。
だが、そうするのは気が引ける。気になりだした些事について聞けるのであれば、己が雇い主の知見も聞いておきたい。
知った処でどうするのか? どうにもしない。
引っ掻き回して盤面の端で愉しめるのならば、善し。そうでもないなら、酒を呑みながら眺めようか。

「流れ者の分は弁えとかねェと、なァ」

無駄に力を振るって、目をつけられるというのは忍びの者のなれの果てとしても良いことではない。
伝え聞く戦乱の舞台に赴かないのも、それだ。
別途金を積まれて乞われれば考えなくもないが、己がかつての雇い主からそのような声がないのは、政治的云々に基づく判断だろう。
或いは手紙の送り先となる定宿を留守にしているから、かもしれないが。

「賊でも戻ってくるか、……振り捨てられた奴隷でもおっこってたなら、哂うか」

あの業突く張りそうな商人のツラを思うなら、そういうことはあるまいと。肩を竦める。
少なくとも、護衛を使い捨てにする前提で先を急いでいる。そう判断できる素振りはあったのだ。
そうそう金蔓を落とすことはすまい。否、多少は売り物が欠けていてもそれ以上の採算が見込めるのか?
考えれば気にはなる。使い潰すのかもしれないにしても、如何にしてそうするのか?

影時 > 「……――都合よく、足の一つや二つは来てくれやしねェわな」

酒を呑むには、まだ早い。否、それ以前に酒の手持ちが尽きている。
情勢が落ち着いていれば各地の地酒巡りでも考えたが、如何せんそうするには難しい頃合いである。
歩いていれば、そのうち着くだろう。そう思い直し、王都の方角に身体を向ける。
腰に差した刀の位置と背負い袋を結び直し、足を踏み出す。

少なくとも、細々としたものを追う限りで有れば、退屈はするまい。そう考えながら――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」から影時さんが去りました。