2019/11/25 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアルフレーダさんが現れました。
アルフレーダ > 月の綺麗な夜、カルネテル王家の紋章を刻んだ馬車が街道を走る。
王都へ帰還する途中である王女は、カーテンを開けると窓から外の様子を見た。
舗装された街道は昼間は冒険者の他、行商などとすれ違うことも多いが
この時間では静かであり、夜目の利かない彼女には月明りが届く範囲の外の様子はわからず―――
有体に言えば、退屈極まりない景色であった。
気性の激しい王女を下手に刺激してはならないと、侍従も御者も必要最低限の言葉以外はかけたりしない。

「あぁ、疲れた。まだ着かないの?」

そろそろかと予想していた侍従が声を拾い、謝罪した。
彼らは何も悪くないが、そうしておかなければ王女の機嫌を損ねてしまう。
幼少からわがまま放題育った彼女の周囲にいるのは、そういった基本的な王女の扱いを弁えている者だけになっていた。
おかげで早くしてよとは言うものの、癇癪を起こすでもなく王女の視線は外に戻る。
いくら眺めていても変わらない車内を見るよりは、退屈だろうが窓の外を眺めていた方がマシだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアダンさんが現れました。
アダン > 「ふん、このような時間になってしまうとはな。だがこれで、あの連中も多少はおとなしくなるだろう」

月夜の中を一輌の馬車が駆ける。
黒い車体には名門貴族であるフェリサ家の紋章が刻まれていた。
王都周辺に領地を持ち、アダンに対し敵対的だった貴族家への訪問の帰りである。
結果は重畳であり、敵対的な貴族家の弱みを握ることで無理やりこちらの陣営へと引き入れることができた。
だがアダンとしてはまだまだ己が権力欲を満足させるには至らなかった。
もっと大きな、強大な王家をも屈服させねばならぬと考えていた。そんな矢先、目の前を走る一輌の馬車が目に入る。

「ほう……あの紋章にあの馬車。なるほど、あの王女殿下か。……おい、速度を上げろ。あの馬車に近づくのだ。何、処罰されるかもしれぬと? 心配するな、そのようなことはさせん。行け」

前を走る馬車はカルネテル王家の悪名高い王女の馬車だと思われた。王女とは何度か拝謁したことがあり、彼女の暴虐にも付き合ったことがある。
だが、彼女の存在はアダンにとっては邪魔なものであった。王城ではなかなか手を出すことは難しいが、今は彼女の守りも少ない。
いい機会だと下卑た笑みを浮かべ、御者に命じて馬車の速度を上げ、王女の馬車のそばに近づいていく。
王族の馬車を追い越すような行為は、王族によっては不快に感じることもあるだろう。アダンはそれを承知で馬車を近づけさせた。

「よし、今だな」

アダンは自らの指にはめていた指輪に力を込めて何かを念じる。
すると、王女の馬車めがけて魔力が発動し、彼女の馬車の車輪の一つに干渉し、それを破壊しようとする。
それでもし彼女の馬車が止まれば、その横に自らの馬車を停めるつもりであった。

アルフレーダ > 車内の王女には聞こえなかったが、御者の耳には馬の蹄と車輪が回る音が届いていたようだ。
今にも追い越そうとするかのような速度を感じ、振り返ったときだった。
ガタンと馬車が傾き、驚いた馬が高く鳴く。
もちろん驚いたのは馬だけではない。

「きゃあっ…!?」

馬車が傾いたことより王女の身に傷ひとつでもつけられない侍従は、その声に驚き、彼女の体を支える。
『車輪が破損したようです。見て参ります。』と、謝罪と共に即座に声をかける御者からして、
王女の機嫌を損ねないようそれぞれが最善の行動をいち早くとり始めた。
だが傾いて乱れた髪を掻き上げた王女は、すでに若干の不機嫌さを滲ませていた。
車輪が壊れたとあれば修理に時間を要する。
こんな夜に。こんな退屈な場所で。

「出発前の確認を怠ったんじゃないでしょうね。事と場合によってはどうなるか、わかっているわね。」

車外で車輪を見ようとした御者に声が届くよう、窓を開けた。
同時に馬車が横付けされる。
何を不躾な―――と眉を顰めた王女の目に入る、見覚えのある紋章。

「―――ああ。久しいわね。あの男、血筋は悪くないのだけれど…。
 それにしてもなんというところに出くわすのかしら。」

瞬時に頭を過る男の記憶に、自然とこぼれる独り言。
御者を手伝うためかフェリサ家の馬車に用向きがあってか、侍従も外に出た。

アダン > アダンの目論見は成功した。王女の乗る馬車の車輪が破損し、馬車が停止した。
すぐに彼女の御者は馬車から降り、破損箇所の確認を行い始めた。
車輪は魔力の迸りにより完全に破壊されており、即座の修復は困難であろう。
そこにアダンの馬車が横付けされる。

「おや、これはこれは……アルフレーダ様の御車でございましたか」

彼女の馬車から降りてくる侍従はフェリサ家の馬車へと近づいていく。
アダンはその侍従に対し窓から声をかける。そして、馬車に乗る王女に対しても一礼をして。
その間に御者たちは馬車の点検を行うが、修理に時間がかかることを用意に理解することだろう。

「王女殿下の御車に近づくことをどうかお許しください。いや、とんだ災難でしたな。しかしちょうど良かったとも言えましょう。見た所王都へとご帰還される途中のご様子。私も王都に戻るところでして……もしよろしければ、お送りいたしましょうか。
 王女殿下に粗末な馬車にお乗りいただくというのは恐れ多いことですが、このような夜道に王女殿下を長くいさせるなど、臣としては見過ごせぬこと。……それに、どうやら馬車の修理には時間を要するようですな」

アダンは自分が彼女の馬車の車輪を破壊したというのに、ぺらぺらと言葉を並べて侍従と会話する。
その間にも指輪には魔力が従者たちにも浴びせられ、軽い催眠状態に陥らせていた。
従者はアダンの言葉をそのまま受け取り、アダンの提案を彼女に伝えるだろう。
アダンは彼女が乗ってくるのを当然とばかりに馬車の扉を開けてその時を待つ。
彼の従者たちも王女の乗車の介添をするために馬車から降りてきていた。