2019/09/15 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 真円に近い月が、漆黒の夜空に白く輝く夜。
雨上がりの街道を、灯りも持たずに進む影がひとつ。

辺りは殆ど遮るもののない広々とした草原で、路から外れた草むらからはからは秋の虫の声。
時折遠くに見える森の木々を揺らす音とともにざあ、と渡ってくる風が、まだ少し水気を含みながら、街道を行く影―――赤銅色の肌の女の黒髪を揺らし、その体温を少し、奪っていく。

(―――季節が、変わるな……)

女はその風に翠の視線を少し細めて内心独り言ち、所々水溜りの残る道を進んでいた足を止める。
そうして白い瞬きが散った空を見上げ、熟れた唇からそっと吐き出した息は未だ流石に色を残さない。
そのことにふっとまた独り微笑って、視線を月明かりに照らされた足元に戻すとまた歩みを進めていく。

帰途だ。
待つ人も無く、凍えるほどの寒さでもない事とて急ぐ理由もない。
心もち緩くなった足取りで、虫の音と、ただ自分の足音と、草木を揺らす風の音とに耳を傾けながら歩いていく。

ジナイア > 足元は舗装されてこそいないが、十分に踏み固められた地面だ。
轍の跡に残るような水溜りに踏み込めば靴を濡らしてしまうくらいの障りはあるだろうが、その他薄く広がるものについては静かに夜空を映し返し、寧ろ魅入られるものがある。

まるで、路の途中を夜空で穿ったような光景。

そう考えれば、踏み出す度裾に散る泥の跳ねも、特に気になることも無い。
それに元々、王都の植物学者に頼まれたものを探して森林地帯を散策した帰りで、白のシャツとて所々土やら草やらで染まっている。
多少の汚れなど今更というものだ。

「―――♪…」

足元に広がる、月光に照らされた景色を眺めながら、小声で故郷の歌を口ずさんでみる。
子守唄のひとつだ。
聞かせる人もなく囁くような声で紡ぐ歌は、虫の音に混じって吹く風に散らされていく。