2019/08/22 のログ
ホアジャオ > はっ、はっ、と軽く息を継ぎながら、三つ編みを揺らし軽い駆け足が街道を行く。

王都から遠く、山賊街道付近の山まで散策しに行った帰り。
本当は昼過ぎには山散策を止めて発つつもりが、夕方も陽が沈むぎりぎりまで粘ってしまったせいで、帰途の途中でとっぷり日が暮れてしまった。

「―――我不好(まずいなあ)…」

月明りが雲に覆われようとしているのを細い目がちらりと見上げて、紅い唇から吐息の合間に言葉が零れる。
駆けるのは苦ではないが、足元が解らないでは無用の怪我の恐れが増すだけだ。
かと言って徒歩に変えては―――

(おなか減った……!)

駆けながら平らな腹をさすって、細い目の上の眉が情けなさそうに下がる。
その時だ、ぽっかりと少し見通しのいい場所に踏み込んだのは。
何やら、美味しそうな香りがして――――

「――――ッッ!!」

胃を刺激するそれにもう堪らず、足取りが2歩、3歩と歩みへと変わって、終には止まってしまう。
その間にも視線は辺りを彷徨って、その香りの元へと首を回して―――
闇の中はまり込んだ絵のような、炎の灯りの中の光景を見付けた。

「―――ごはん……」

次にはほぼ無意識に足取りは路を逸れて、その灯りの方へと、ゆっくり夏草を踏み分けていく……

ジェイ > 闇は深まっていく。
静かに静かに時間が過ぎていく。
その中に、息遣いと足音が混じって来たのは少し前から気付いていた。
此方に来ることがなければ捨て置くつもりだった気配。
けれども、その向かう先は――

――来てしまうか。
と、内心で独りごちる。
此方に向かってくるのならば、炎の前に腰を下ろす後ろ姿が見えるだろう。
炎の傍らには鞘に収まったままの剣が無造作に放置され
黒い姿は焚火に向かって調理の真っ最中、という風情。
そして、ちょうど彼女が数メートル――。
常人ならば踏み込んで攻撃するまでに数秒かかる程度の距離まで来たときだった。

「――念のために言っておこう。
 夜盗や物取りの類なら、そこで止まって何も見なかったことにした方がいい。」

背中を向けた侭、最初に向けたのは警告。
警戒している色も、況や怯えている色もなく
ただ、「こんばんは」の挨拶の代わりのような色合いの声で告げる。
そうして、ゆっくりと、また、手はスープをかきまわす作業に戻る。

ホアジャオ > ぴた、と足が止まる。
同時にはた、と細い目を数度瞬いて、それから擦って、うーんと首を傾げた。

「アレ……幻とかじゃないや。
 呀(ヤッホー)。ちょいと夜の散歩中の通りすがりだよ。
 ソレ、晩ご飯?」

相手が挙げた夜盗でも物取りでもないので、いかにものんびりとした声を掛けながら再び、遠慮なしの足取りで相手へと近付いていく。
同時にいい匂いも強くなってきて、きゅううと締め付けられる胃の辺りをさすりながら。
それでも相手が背を向けたままで動かなければ、女は相手のすぐ隣まで辿り着いて、鍋の中を無遠慮に覗き込んで、香りを嗅げばうっとりと細い目を更に細めるだろう。

ジェイ > のんびりとかけられる言葉。
それに、軽く振り向く。細い目と触れる金色の眼差し。
頭の先から爪先まで、軽く観察するような視線。

「――ああ。そんなところだ。」

遠慮ない足取りも、鍋の中を覗き込む仕草も咎めることはしない。
鍋の中は、鳥と野菜を煮込んだ簡素なスープ。
香辛料の強い香りが、鼻孔を擽ってしまう。
焚火から外して、傍らの木の台――その辺りの木を切ったものだ――の上に置く。
――完成、というところだろう。

「それで、其方は――散歩か旅の途中かは知らないが
 思ったより遅くなって、夕食も取らずに帰ろうと思ったが
 たまたま見つけてしまって、匂いか何かに惹かれてきた、というところか?」

そして、問いかける、というよりは推測するような言葉。
相手の顔を見返しながら軽く首を傾げて、投げかけて。

ホアジャオ > 此方を咎めることはせず、替わりのように眺めまわす視線に紅い唇がにっ、と笑って見せる。
そこで黒ずくめの、季節外れな衣装に気付いてきょとんと一度瞬きをくれるが、すぐに鍋の移動と視線の動きが重なって行く。
恐らく、空腹時でなくても胃を刺激するであろうその香り。
細い視線を張り付けたまま、すとん、と思わずその鍋の前に座ってしまって。

「――ン?
 哎呀(あれま)……図星。 良く、解ンね…」

首を傾げる相手を見遣って、口を尖らせて気まずげに返答すると、思わず緩みそうになる口元をぐい、と擦った。
そのまま視線はすいーと鍋へと戻る。

「強盗、するつもりはないケド……
 今、分けてもらえなけりゃ、悪戯ぐらいはする、かも……」

タイミングを合わせたようにぐるる、と盛大にお腹が鳴って。
流石に気まずげに、横目でちらり、と伺う視線を相手へ放った。

ジェイ > 無論、というほどでもないが
彼女の視線が鍋に張り付いているのは認識している。
季節感のない服装で、汗すらかいていない自分の姿ではなく、鍋に。
焚火から移せば、その動きで湯気が軽やかに舞って、芳香を散らす。

「その様子を見れば、誰でもわかる。」

少しだけ、唇の端に苦笑めいた色合いの表情を浮かべた。
けれど、それが黒い目の映るのも微か。
すぐに問題のもの――鍋に視線は映ってしまうだろう。

「それは止めておいておいた方がいいな。」

悪戯ぐらいは――という言葉に前置きするように返す。
鳴る腹の虫には、吐息のようなものを吐き出して。

「分けるくらいは構わないが
 人に施しを頼むなら、頼むなりの礼儀というものがあると思うが?北方のお嬢さん。」

視線に応えるのは静かな色合いの金色の眼差しだろう。
咎めるというよりは、指摘するような、そんな声音で。

ホアジャオ > ううん、堪らない。
鍋から漂う芳香に、くぅーと唇を噛んで、再び伺うような視線を投げれば男の微かな苦笑を捉えるかもしれない。
それも一瞬の事。
視線は鍋が磁力でも持っているかのようにまた引き戻される。
指摘の言葉を受ければぐいいと視線を男の金色に戻して、紅い唇は思いっきりへの字に曲がる。

「えーッ!
 ンな事言ったッて、アタシ今何も持ってないし……」

ぐわっと立ち上がると、ポケットにも何もない、とばかりにひっくり返して見せてひらひらと振って見せる。
そうして自分でも首を捻ってから、そうだ、と視線を男に戻した。

「アンタ、王都住まい?そンならあと少ししたらバイト代入るから。そンとき奢る、ってえのは?
 ―――それか、今からアタシと喧嘩して、アタシが勝ったら只でくれるとか」

後半、全くの自分の趣味を強引に、さりげないつもりで選択肢に混ぜ込んで。
にーっと紅い唇が笑って、いかにも『2択しかない』とばかりにどうする?と首を傾げて見せた。

ジェイ > 何も持っていない。
そんなことは概ね推測がついている。
ポケットをひっくり返す様。それから考える様をゆっくり眺めて。
そうして告げられる選択肢ふたつ。
今度こそ、はっきりとした苦笑の色合いを唇にだけ浮かべて。

「随分と君に都合の良い選択肢だな。
 本命は後者かな?それならまさにそれこそ物取りだ。」

一拍置く様子から察した内心。首を傾げる様に、そう言葉を返す。
その間に手が動いて、用意した木の器にスープを盛りつけるだろう。
また、漂うのは芳香――

「そういうときは単純に
 “空腹なのでスープを分けてくれませんか?”と名前くらい名乗って頼めばいい。
 勝てない喧嘩をして、冷ますのも勿体ない。」

――それが、言葉と共に差し出される。
スプーンを添えて「どうぞ」と一言告げる。

ホアジャオ > 相手の明らかな苦笑、そして続く言葉に、ちぇっと小さく零してしまった、と舌を出して見せる。
その間にもどうやって喧嘩相手と食料を確保しようかと次の手を捻ろうとしていた所で――差し出された、焦がれに焦がれた、芳香。
どうぞ、と言われればほぼ無意識に、すうと手がそれを受け取ってしまって

「――…ありがと。
 アタシは、『ホアジャオ』てえの……」

ぼそぼそと、上目で相手を見ながら気まずげに礼を言い、再びすとん、と男の隣に腰を落とす。
器を再び、十二分に嗅いではうっとりと目を細めて…

「…いただきます」

横目をちらりと男の方に放って言いながら、スプーンですくって一口。
次には、ほおーと細く唇から湯気を漏らしながら、幸せそうに細い目を更に糸のようにして、もぐもぐと頬が動く。
そうしてごくん、と飲み下してから
暖かくなったお腹を片手で撫でつつぐいん、と男へと首を巡らせる。

「……ちょッと。さっき、ドサクサに紛れてアタシがアンタに喧嘩で勝てない、ッてえ聞こえたンだケド?」

細い目は剣呑な視線を装っている、が
(もしかしたら、事と次第によっては
 喧嘩相手になってもらえるかもしれない?)
何て、期待で瞳がきらきらと輝いていたりもする…

ジェイ > 手渡す木の器。
名乗られる名前は記憶に留めておこう。

「どういたしまして。ホアジャオ。俺はジェイだ。」

告げられる礼。
軽く右手を帽子に触れさせながら、言葉を返す。
「いただきます」と口元に運ばれるスープ。
香辛料と塩を効かせた、如何にも歩く後に食べるとちょうど良い味になっているだろう。
幸せそうな糸のような目を見れば、味付けは失敗していないようだ。
自分は直接鍋から、スープを口にしていって。

「――そうだな。恐らく、勝てないだろう。
 とはいえ、勘違いするな。今相手をするつもりはない。
 君も、食事を施された相手をいきなり叩きのめすのも、叩きのめされるのも本意ではないだろう?」

剣呑と期待が混じった視線。
それに、言葉を返す。今は静かに食事をしろ、とでも言うように
スープを口に運んで。

ホアジャオ > 「『ジェイ』ね。拜托了(よろしく)!」

相手も名乗り返してくれば、にいーと紅い唇を三日月にして笑み返した。
そうして2口目を口に運び、もぐもぐと頬を動かしながら相手の静かな言葉を聞く。
ごくん。
飲み下せば、香辛料の風味が鼻に抜ける。
それにまたすこし目を細めて、んふーと吐息を吐いた。

「うーん…まあ、そォかも知ンないケド。
 でも、いろんなのを叩きのめしたり叩きのめされたり、でそれが『人生』ってェやつじゃないの?」

解ってるような、解っていないような言葉を口にしてから
行儀悪くスプーンを咥え、ぽりぽり、と後頭部を掻いてくるりと目を回す。
次いで男をちらりと見遣るが、もうけしかけるようなつもりもなく
大人しく3口目を掬って口に運んで、また目を糸にしている。

「――ねェ、アンタ、料理人かなンか?どこで覚えたの、こういうの」

喧嘩できない不満もあるが、それはさておき相手への好奇心丸出しで、弾む声で問いかけた。

ジェイ > ころころと表情のよく変わる彼女。
それと比すれば、無表情にも見えるかもしれないが

「拜托了。」

軽い会釈と共に、その声が相手の挨拶に倣った言葉を返す。
それと共に口元に運ぶスプーン。
機械的に一定のペースで口元に運んでいたそれ。

「そうかも知れないな。
 時と場合が違えば、君とやり合う時もあるだろう。
 例えば、依頼があればな。」

彼女の言葉を否定も、肯定もしない。
戦う意思がなくなったとみれば、糸になる目を見返して
問いかけに、少し考えるような仕草を見せてから。

「どこで、と言われると旅している間に自然と、としか言いようがないな。
 残念ながら料理人ではないな。俺は傭兵だ。」

弾む声に、また少しだけ苦笑めいた色合いを唇に宿して言葉を返す。
「君は冒険者か何かか?」と問いかけをひとつ返して。
その侭、奇妙な出会いと食事は続くだろう―――。

ホアジャオ > 流暢に男が故郷言葉で返せば、またきょとんと瞬いてからにいーと嬉しそうに笑った。
そうして、次の一口を掬いながら興味深げに男の規則正しい動作を見守り、スプーンが口に入ればんふう、と満足の吐息をいちいちと漏らす。

「依頼があれば喧嘩してくれる、ってェならアタシが幾らでも『依頼』するケド」

『ごはん一回おごり』でどう?なんてけらっと笑って言葉を掛けて。
出自を問われれば、それに何だか嬉しそうに笑い返す。

「アタシは、風来坊ってえのかなァ? アルバイトで用心棒とかしてたりするよ。
 ジェイは?何してご飯食べてンの?―――」

1つ聞けば10の問いが返って来る、くらいの勢いで。
静かだった夜は、薪が消えるまでは賑やかにかき乱されて、更けてゆく…

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジェイさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からホアジャオさんが去りました。