2019/03/29 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にシュンさんが現れました。
シュン > 王都からの道をゆっくりとした、しかし確実な足取りで歩く小柄な影。
フードを深く被っており、傍目からは顔や性別は分からないだろう。

「この辺りでそろそろ……」

月を見て時間を測ると、道を逸れていく。そのまま背負っていたリュックからテントのパーツを取り出し組み立てようと……

「―――獣?」

した所で、くしゃみのような音を捉える。
このまま確かめないで寝るのも危ない。そう考えて出しかけた荷物をリュックに戻して、音の方へと近づいていく。

ぼたん > 溜息をついた、その鼻で息を吸い込んで、びくっと飛び上がって視線を気配へと巡らせる。

(……まずい)
こんな時間にうろつくヒトが居たとは…
じりじりと後退りする。
その黒い尻尾が、背後にあった先日の雨ででも出来たらしい水たまりに触れ、思わず

「ひゃァっ」

獣らしくない悲鳴を。
不味い。思わず前脚で口を抑えて…今更ながらべちゃっと伏せた。

(気づきませんよおに…)

シュン > ――しっかりと聞こえた人らしき声に、足を止める。
確かにくしゃみ自体は獣っぽい声だったはず。でも今聞こえたのは人の声。周りに人の気配はない。

「……なるほど、魔法かなにかで獣に変化…もしくは逆かな?
そういうことが出来る割にドジっぽいけど……」

こちらも気づかれているなら隠れる必要は無い。
声変わりが済んだ直後ぐらいの若い少年は、相手に呼び掛けながら近づく。

「……君が何もしないなら、僕は何もしません。
僕はただこの辺りで静かに野宿したいだけですからね」

ぼたん > 相手は近付いて来る……
(神様仏様…こッちにいるかわかンないけど…)
ぎゅっと目をつぶって神頼みしていた所、柔らかな声が掛かって、恐る恐る伏せていた顔を上げる…

黒の尻尾を伏せたまま一振り。
彼が草叢を掻き分けたなら、鈴蘭の傍、地面に伏せた黒い獣を見付けるだろう。
その獣は、背負った荷物以外はごく普通の狸にしか見えない、筈だ…

シュン > 鈴蘭が咲きほこる場所まで歩みを進めれば、現れるのは地面に伏せた狸。
怯える様子を見て、周りを一通り見回してから声を掛ける。

「……僕以外は誰もいません。
貴方は誰ですか?ここで何をしていたんですか?
……もっとも、貴方が誰であろうと僕は特に何もしません。僕に危害を加えたりしない限りは」

そうやってゆったりとした口調で話しかけつつ、リュックから携帯食料を取り出す。
小さくちぎったそれを、目の前のたぬきに差し出してみる。

ぼたん > ゆったりした口調と共に、鼻先に食料が差し出された。

(……調理したごはん…!)
暫く森の中でずっと生食だった。
思わず差し出されたそれをぱくりとやってしまって

(……アタシの馬鹿……)
色んな意味でそう思って、気まずげな視線で彼を見上げた。
もぐもぐやって、ごくんと飲み込むと、すこし躊躇う間を空けて

「……アタシは『ぼたん』てえの。
暫く森に籠ってたンだけど、王都に帰ろうと思ってたとこ」

少し鼻にかかった女の声で、流暢なヒトの言葉が狸から零れる。

シュン > 相手が差し出した食料を食べるのを見れば、自分も携帯食料を少しかじる。
勿論保存食じゃない普通の料理の方が美味しいけれど、そういうものは自分にとっては贅沢品だ。

「ぼたん、だね。僕はシュン。
君は狸?それとも人?どっちでも大差はないけど……。
もう遅いし、もし急がないなら休んだ方がいいと思うんだけど……」

まあ、普通のたぬきは言葉を話したりはしないだろう。たぬきは人を化かす、とも聞くけれど。
……人、もしくは混ざりものならば、自分と似たようなものだ。

ぼたん > ヒトか獣かと問われればううん、と考え込む吐息を漏らし、後ろ脚で立ち上がって前脚を器用に組んだ。

「まァ、どっちも、半分ずつってえとこだねえ…
急いじゃいないケド、アタシこの時期昼間ぼおっとしちまうからさ」

組んでいた前脚を下ろすと、尻を落として座り、厚ぼったい尻尾を一振り。

「キミこそどしたのさ?
子どもがうろつく時間じゃァないと思うケド」

年齢不詳の狸から『子供』よばわりは、ちと妙な響きかもしれない。
そんなことお構いなしに、少し説教めいたものと気遣わしい音が声には混じる。

シュン > 「なるほど、……ミレー族とは違う感じ、なのかな?聞いたことないけど……」

獣っぽい人と言えばミレー族だ。でもミレー族魔法とか使わない限り完全な獣の姿には成れないはず。
そして、自分の方に話題が向けば、フードを外して少し幼げな人間の顔を見せる。

「僕?僕は冒険者だから。今日は野宿。だからそろそろ寝る時間。
昼間ぼうっと……夜行性?なら仕方が無いけど……大丈夫なの?」

相手の説教めいた口調に動じず、逆に余裕そうに相手を心配する。
……何にせよ、相手に敵意も何も無いのなら、自分自身の眠りは安泰だろう。
会話しながらリュックを降ろしてゆっくりと野宿の準備を始める。

ぼたん > ふふふ、と含み笑いを漏らす狸。
「アタシは東国の方の出でね…
親父がね、化狸なの。それとヒトの合いの子がアタシ。
…こッちには長生きの獣とかモノが化けたりってえの、あンまないみたいだね」

ふすふす、と鼻息を漏らして首を傾げる。
フードを外した彼を見上げれば、また逆に首を傾げて

「その年でねえ?こッちの子は働きモンだね…
うン?…まァ夜行性ってえのもあるけど」

本当は発情期のせいというのが大きいのだが…まあヒトには関係ないので、わざわざ言うこともあるまい。

「大丈夫かそうでないかというと…たぶん大丈夫」

腰を降ろした狸はふふふ、と笑う。

「まァ、死にはしないよ…」

シュン > 笑う狸に自分も微笑んで、左手の中指の指輪に手をかける。

「……普通の、僕ぐらいの人はまあ働いたりしないでしょう。普通じゃないですから。
―――解除《リリース》」

語句を口にした途端、頭と尻尾から黒い猫耳猫尻尾が現れる。それと同時に敏い者なら自分から少し溢れる魔力を感じるだろう。

「誰の奴隷でもないミレー族が、普通の仕事するのは少しきついですから。寝てる間は魔力とかはともかく、身体は隠せないので」

そう話す顔は少しいたずらっ子のようで。人のような動物に近づいたのも自分自身がその類、だからだった。

ぼたん > 彼の仕草と――それから耳と尻尾が現れるのを見るとあんぐりと口を開ける。狸にすれば精いっぱいの驚き表現だ。

「――あれ、まあ」

微かに感じる所謂『妖力』のようなもの。
続けて、言葉を漏らして尻尾を一振り。

「大変だねえ…
アタシも、ミレー族に間違われて、袋詰めにされそうになった事あったケド」

はあ、とやるせないため息を付くと、ずり落ちてきつつあった風呂敷を背負いなおした。
そうして、改めて彼を見遣って

「親御さんは?どおしてンの?」

何だか、迷子を見つけた近所のおばさんのような質問を。

シュン > 相手の心配そうな声を聞きながら、テントの組み立ての手を動かす。ついでに口も。

「親は……どうしてるんだろ、一年前に親が捕まって一人で逃げて……それから最近までサバイバルしてたから。
僕を襲ってきた裏商人を返り討ちにした時に手に入れたこの指輪のおかげで、こうやって依頼が受けられる冒険者になれたわけだけど。……よし」

小型テントの設営を手早く済ませると、今日の食料……さっき渡したのとかじった分を除いた残りを取り出す。

「……まあ、ミレー族にも色々居るよ。僕みたいに種族隠して冒険者やってる人、真っ当な人の元で奴隷として買われて暮らしている人、里で隠れて暮らす人、……本当に、最低の扱いの奴隷の人」

食料を食べながら話すが、最後のところだけ少し声のトーンが落ちる。どこかで何かを間違えたら、自分も堕とされるかもしれない道だから、どうしても意識してしまう。

ぼたん > 彼の語る生い立ちを、時折あら、あらと小さく言葉を零しながら生真面目に聞き入る。
そうして、ちょっとだけ食料を物欲しげに見てしまっているのに気付くとぶるる、と頭を振るって。

「……まァ、『人間万事塞翁が馬』ってえ言葉もあるし…何がどうなるか解らないケド。
取り敢えずアタシは、シュンに何かあッたら駆け付けたげるよ」

ぽんと、自分の胸を叩く狸。

「こう見えてもアタシ、色々手妻が使えるんだよ」

そう言うと、指先にふわりと光の蝶を舞わせて見せる。
それはすぐに天へ、光の粒となって吸い込まれていく…

シュン > 光が天に吸い込まれるのを見てへぇ、っと感嘆の声を漏らす。

「……東方で伝わる、式神って術、ですか?」

何となく聞いたことがある、という程度の知識で推測してみて。
言いながらリュックの中を漁ると、比較的綺麗な携帯食料を取り出す。

「……2食分、渡しておきますよ。似たような者同士ってことで。僕はまだまだ余裕あるので気にしないでください」

相手の視線には気づいていた。携帯食料をまとめた袋を、風呂敷を一旦解いて中に入れようと手を伸ばそうとする。

ぼたん > 感嘆の声を漏らす彼にまたふふふ、と笑う狸。

「ううン?そンな行儀のいいモンじゃないよ」

ぽんぽん、と両の前脚を払うようにしてから、伸ばされた手にはぴょんと跳び退った。

「…あァごめん、ちょッとびっくりしちまって…
大丈夫。帰ったらちゃんと自分で…
あ、そうそ、アタシお弁当屋と居酒屋やってンだよ」

平民地区の西はずれで、と言葉を継ぐ狸。
つと見上げた月は中天をもう過ぎている。
それに気付くとまたぴょんと少し飛び上がって。

「いけない…アタシ、もう行くね。
ごはん、ありがと。今度お店にも顔、出しとくれよ」

風呂敷を背負いなおすと降ろしていた腰を上げて、尻尾を一振り。

「ゆっくりお休みね……」

またふふふ、と笑い声を漏らすと、再び街道脇の叢の中へと潜り込んでいく。
厚ぼったい尻尾が最後、ふさりと上機嫌に揺れた――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からぼたんさんが去りました。
シュン > 伸ばしかけてた手を引っ込めて、受け取らないと分かると食料はリュックへと戻す。

「居酒屋はともかく……弁当屋ですか。お昼に使わせてもらおうかな。
……おやすみなさい」

相手の小さな影を見送ると、自分も設営したテントに入り、防護用の魔法をかけてから眠りについた。
日が昇る頃には起きて、また歩き出すだろう……。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシュンさんが去りました。