2018/01/31 のログ
スフィア > 「……見過ぎだってば。ほら、早く早く。今は私がご主人様だからね!」

前情報として、ガラッゾという種が酷く女好きである事は知っていた。人間の子供程の背丈しかないが、その体は巨大な戦斧を担ぐだけの膂力を備えており、決して線が細いわけではない。寧ろ逆だ。人間に近い立ち位置から見ると酷くアンバランスなその立ち姿が木々の影に姿を消すのを見送って、無意識に胸元を探った。今日は冬物の外套を着こんでいる為、厚い生地の感触に覆われている事を再確認して息を吐く。妖精の視線が服を通り抜けて、裸の胸をみていたような、そんな錯覚さえ抱かせるような露骨なものだったから。杞憂と改めて思い知ると、なだらかな肩が下がる。力が抜けた。

「カンテラのガラッゾ。今は私の方がえらいんだから、スケベな事言わないの。って、ちょっと、こら!お尻たたくわよ、もう……、…? …っちょ、………な、に、…なんで?」
相手の背丈が低く、自然と見下ろす形になるためか。会話が通じる事で気安さを感じた所為か、あるいは両方が原因か。近所の子供に接するような、距離の近すぎる言葉で卑猥な物言いを咎め、肩を軽く叩いた。手に余るような量感の豊かな胸を突如揉まれたので、更に追加で二回。幾分低い位置から届く、水中で喋っているような聞き取り辛い呟きが丁度途切れた時。ガラッゾを見て、言葉を失くした。暗い喜びに満ちた双眸、愉悦に満ちた唇。その表情の意味を悟ったのは、何秒か経ってからの事だった。もともと生白い顔が、青ざめたように色を失くす。痛い所を突かれたと言わんばかりの表情で、我が物顔で胸に五指を鎮める掌も、焦点が合わない程に近い位置で貪婪に目を光らせて笑う様も、止めずにいたというのに――さきほどよりも細い声でつぶやくように言った。
「お前、…主を脅す気? ………ねぇ、ガラッゾ。わたし、持ってないわけじゃないのよ。お金――」
この場を切り抜けるための嘘でしかない言葉を、固い笑顔で口にする。王都に戻ってかき集めて、それでも足りたかどうか。嘘で切り抜けようとするには邪魔な思考が、計算が、嘘を糊塗するために作った笑みを頼りないものにする――ガラッゾの罰。書物と噂で聞いたそれが怖くて、示唆された何かを実行する事で安心でくるのならばと、考えてる所為だろう。口以外がろくに抵抗していないのは

ガラッゾ > 「……ナラ、今すグ、兄弟呼んデ、その金が足りルカ数えよウカ?」
愉悦で溢れんばかりの口の両隅を持ち上げ嗤う歪んだ表情。
僅かも揺らさずずらさないドロリと澱んだ両眼と邪魔な衣服を食い破らんとする視線。

主人が作る固い笑顔の意味も放つ虚飾された言葉も見通しているからこそ、言葉を一つ一つわざわざ区切るような返答を濁った声色で返し、その区切る言葉が一つ終われば節くれた五指で乳房の膨らみを揉み、言葉が終わればまた力を込めて揉んで、衣服の上からでも生唾ものの女の柔らかな身体の味見を続ける。

それに増して言葉も女が言うとおり脅迫染みた意味合いを深めていく……ガラッゾの罰が良いか、それとも妥協する事で幾分マシな欲望の捌け口になるか、……と。

「こんなスケベな乳してオイテ、何がスケベな事言うナだ。サア、どうすンダ?オレはドッチデもイイゾ?どっちデモ、楽しめるんだからナ……グヒュ……今夜の野営は愉しくなナリソウダ。」

カンテラがガシャンと音を立てて固い地面に落ちると、その硝子は割れて油は飛び散り、其処に残り火がついて僅かな時間だけ一人と1匹を揺らぐ炎で照らし、直に包み込むような闇が落ち様か、その闇の中で濁った眼はその妖精の本質を表わすかの様なギラギラとした輝きで闇夜に浮かび上がる。

――妖精の放つ言葉通り、長い夜は始まったばかりである。
召喚した女がどのような選択を選ぶかで、長い夜になるか、それともあっと言う間に朝日が昇る事になるか、その唇から零れる言葉一つで決まるだろう。

与えられた時間は斧のガラッゾが戻るまでの数十分

選択肢はいかに?

スフィア > ――見透かされている、と思った。
欲望と喜悦、情念が火のように宿る妖精の双眸は、その一方で底なし沼のように暗い。
嘘も、衣服も何もかも、遮蔽物を擦り抜けて真実を探り当てる。
その嗤う顔に、妖精を甘く見た自身の失敗を思い知り、悔しそうに唇を引き結び、睨むように強い視線を返した。

「………わかった。わかったから、呼ばないで。……おねがい、ちょっと、もうすこし……みえないとこ、で…っ…、ぅ…ん」
抗議するような眼差しを返しながらも、結局は観念したように言う。
更に重ねて懇願した言葉は、斧のガラッゾを警戒した所為ではなく、羞恥と心もとなさから漏れた願い。
それを聞いてるのかいないのか、鍛冶に従事する男の手が、関節の目立つ指が弄ぶように胸を丁寧に揉みしだくのに抑えた声を小さく零す。青ざめていた頬に徐々に血の気が戻り、微妙に色味の違う双眸が濡れたように潤み始めた。

「スケベなのは、アンタでしょ…! ………内緒にして。お前が約束を守るなら、……」

騒がしいのは此処までだった。カンテラの落ちた音に掻き消えそうな、ガラッゾにしか届かない声で囁くようにそこまで言って、胸を捏ねる手に己の手を重ね。その手を握って歩き出す――依頼主が馬車を止めた場所から少し離れた林へと。
斧のガラッゾが戻った時には、一人と一匹の姿はなかった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からガラッゾさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からスフィアさんが去りました。