2017/09/24 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > タナール砦付近に展開している王国軍に、物資を送り届けること。
そんな貿易商という本業とは少し毛色の異なる依頼を受け、王都を出発して幾日か。
取り急ぎということらしく、任された補給品は、荷馬車二十台程度に収まっている。
其々の馬車に御者が一人と、積み下ろし要員兼護衛の冒険者なり傭兵なりが幾人か。
盗賊が現れる可能性は否定できないが、戦地の真っ只中を突っ切るでもなし、騎兵の類が張り付いていることもない。
これに二騎の伝令役を加えて、一つの集団を形成している。
無論、王国軍正規の輜重隊に比べれば小規模だが、一般の隊商としては大きい部類に入るだろう。

「宮仕え…なんぞ、ぞっとせんのぅ。」

先頭の荷馬車で、小さなシルエットがぼやく。
この集団の長であり、依頼を受けた当事者である豪商の”息子”を名乗る人外。
これまでも、軍からの依頼を受けたことは枚挙に暇がないが、荷馬車の幌に縫い付けてある紋章が気に食わない。
何処かの騎士団だか軍団だかの紋章らしいが、如何にもこうにも自由気侭な気性にそぐわないのだ。
素性を担保されることで街道の通行に多少の便宜が図られるし、無用ないざこざをある程度避けられるという利点は認めよう。
だが、嫌な物は嫌だとは、まるで駄々っ子の其れに近しい。

ホウセン > 出発の準備こそ特筆すべき急ピッチで進められたけれども、一度王都を出発してしまえば普段より少し急ぎ足という程度の進み具合。
何しろ街道といっても大都市の主要幹線程に整備が行き届いているはずもなく、無闇に速度を上げても人馬が疲弊し、機材に負担がかかるだけ。
結果として効率が低下してしまうのなら、焦るだけ損という話。
それでも依頼者の意向はできるだけ汲むようにし、払暁から出発し、完全に日が没するまでは行程を進んでいる。

「今日こそは、簡素でも良いから布団の上で眠りたいものじゃなぁ。」

一日の進み具合は、平均的な旅行者の移動距離を上回る。
平均的な一日の旅程を加味しつつ発展してきた宿場町はあるのだが、町々の距離とこの隊商の進み具合の間尺が噛み合わないのだ。
お陰で野宿という日も間々あり、斯様な呟きが零れる。
仕立ての良い衣服に袖を通した身なりではあるけれど、徹頭徹尾の成金趣味ではないため、致命的なものではないのだが。
仏頂面の三歩手前、退屈に表情筋を塗り固められてしまったが如き無表情を晒しつつ、ゴトゴトと路面の凹凸を律儀に尻に伝える馬車に揺られる。

ホウセン > ぼぅっとした無防備な面を披露しつつ、頭の中は凡そ煩悩塗れ。
旨い飯が喰いたいだの、湯に浸かりたいだの、ふかふかの寝台で横のなりたいだの、妙齢の美女と床を共にしたいだの。
総じて、この場では叶えられない彼是に思いを馳せながら、半分瞑られていた黒い瞳を大きく開く。
聴覚に先んじて視覚が、この隊商に接近する者を認めたからだ。
人ならざる”眼”は、明暗を問わず良好過ぎる視力を有し、良きにつけ悪きにつけ退屈を払拭する何かしらの到来を看取する…が。

「……ほうほう、それはまた難儀な話じゃな。
 これでは、全体の行程を見直さねばなるまいて。」

一瞬、期待に輝いた表情は、数分の後にどんよりと、元よりも覇気を失う始末。
やってきたのはこの集団の伝令役の一騎で、先触れと物見として先行させていた傭兵。
何でも、二日か三日先に通過する予定の川が増水しており、架けられた橋が少なくない損傷を受けているというのだ。
己の身一つなら、或いは妖仙として振舞うなら障害にもならぬ事態だが、状況がそれを許さない。

「ご苦労。
 馬と共に、暫し休息するが良い。」

労をねぎらう一方で、荷袋から羊皮紙の地図を取り出す。
天然の明かりは聊か心もとなく、傍らにランタンを置いて。

「途中の村で、通行再開の報を待つ方が良かろう。
 皆も多少の疲労は溜まっておろうしのぅ。」

地図の街道沿いに細い指を滑らせると、一つの村で止まる。
”ゾス村”と王国語で綴られた文字を一撫でしてから、隊商全体に停止の号令をかけた。
情報の共有と、今後に対する認識を摺り合わせるための打ち合わせをする為だ。

ホウセン > この辺りでは、街道はなだらかな丘陵地帯の縁を走っている。
一応は整地されているのだけれど、地面は土が剥き出しだ。
そう広くもない道の両側は、大人の背丈ほどの茂みになっている。
心持ち荷馬車を街道の端に寄せて――あまりキッチリと端に寄せると脱輪する危険性が上がる為――停め、まずは各御者を呼び寄せる。
不幸中の幸いというべきか、誰も彼も確りと場数を踏んでいるようでで、突発的なトラブルによって取り乱す輩はいない。
それでも、多少の落胆と、安堵の情は漏れ出る。
前者は仕事が長引くことに、後者は一息つけることに。
受け持ちの荷馬車に戻って護衛にも状況を伝えるように指示を出し、己も車上の人となる。

「とはいえ、少しばかり気になることがないでもない。
 先触れとして、儂自身が話を通しておいた方が良いかのぅ。」

腕組みをして、暫しの思考。
件の村に留まるのは良いが、果たして隊商の全てを受け入れられるだけの許容量があるかは分からぬところ。
橋が通行止めになっていることは他の者にも知れていろうだろうし、同じような考えをする人間は少なくあるまい。
村の中では差し障りがあるだろうから、近くの平地を野営地として貸してもらえるよう村の長なり有力者に要請する必要があるかもしれない。
その際に必要になるのは金であり、必要以上に足元を見られるのも業腹だ。
なればこそ、裁量権を持つ己自身が出向いた方が、交渉において切れる手札も多く、話が早かろうと。
村までは、馬を飛ばせば半刻に満たぬ距離。

「儂は先行するが、お主らは焦らずに追うて来るが良い。
 夜道ゆえ、くれぐれも慎重にのぅ。
 …安心せい、手当ては出すのじゃ。」

もう一騎控えていた伝令の馬に便乗すると、先頭の御者に言い置いて街道の先へ。
己一人の方が軽く、馬への負担も少ないのだが、子供一人で現れても不審がられこそすれまともに取り合ってはもらえまい。
同行者の存在は、其れを回避する為のいわば小道具の類。
夜道とて危なげなく、そう時間も要らずに村の周辺に辿りつけば、住人の姿なり、或いは旅行者なり、果ては盗賊なりと出くわす事もあるかもしれないが――

ホウセン > 馬は夜道を駆け、特段のトラブルもなく村の外周部に辿り着く。
街道沿いの集落だけあって、建物は道を中心に広がっている。
人の気配はある。
旅人を当て込んだらしい酒場らしき箇所からは、笑い声もする。
だが、健全な活気に満たされているかといえば、否である。
その何ともいえぬ空気に首を傾げつつも、滞在の段取りを整えに奔走し…

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からホウセンさんが去りました。