2017/06/17 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジュウザさんが現れました。
■ジュウザ > 夕暮れ迫る時分である。どこまでも野を貫くこの街道にも斜陽の赤い輝きが満ちて、風に揺れる草葉の頭は燃え立つ炎の原の如く、道を少し外れた所にある岩陰に腰を据えた男の目を眩しく射る。
男は傍らに大きな背嚢を置いて座り込み、目の前にあれやこれやの食事の支度が並べられている。固焼きの小さなパンだとか瓶に詰めた小魚の油漬けだとか、日持ちのよさそうな旅の伴だ。尤も味の方はというとどうやら……大口を開けて固焼きのパンを齧る男の顔が苦そうに曇った。咀嚼の音がガリガリと、まるで石でも砕いているかの如く響く辺りで味の程は知れようか。
それでも無いより遥かにマシと、手のひら大のそのパンに食らいつきながら、男が遮光のために目を細めながら西の空を見る。茜色の空の下から藍色に染まり始めた雲がたゆたい、すぐ夜が訪れることを通告している。
■ジュウザ > 量だけはたっぷりと、しかし味は粗末な食事がほどなく終わる。指にべたつく魚の脂をぺろりと、しかし旨くもなんともなさそうな顔で舐める男の背後には宵闇を湛えた森が迫っていて、その木々の合間にさっそく夜の帳をかけて視界を埋め、その訪れを宣言し始めていた。男は何の気もなしとそこをチラリ振り返ったがすぐに顔を正面に戻し、食事の片づけを始めた。が……
その男が唐突に右手を縦に振った。それに一瞬遅れる光の尾が夕陽の残滓を赤く弾いて生まれ、夜の闇に飲まれて消える。その手にいつの間にやら握られていた小刀を静かに腰に戻しながら、男は初めてその方にゆっくり、ジロリと目を巡らせた。
何か、飛来するものの気配を斬った自覚がある。しかしそれが何であったのか……何かの弾みで飛来しただけのものだったのか、はたまた何者かが意図を以って放ったものだったのか。であれば、それが何だったのか……それらの思考が頭の中で形を成すより前にそうしてしまっている。その気配の正体を探るべく、何かが飛来してきた方をジロリ……
■ジュウザ > 風のざわめきを孕む木々の枝葉は他の何物も現さぬ。それで男がジロリとしたままの目で側を見下ろすと、親指ほどの甲虫が二つに割られて転がっているのが見えた。
飛来したものの正体はこれか。ならば懸念するほどのこともなし、男は正面に目を戻して腕を組む。その上にどっぷりと、宵闇の影が覆いかぶさり――
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジュウザさんが去りました。