2017/05/31 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジュウザさんが現れました。
■ジュウザ > 地に沈んだ三日月に代わって満天の星々が地に落ちる。無数の光が青白く、どこか荒涼として街道を照らすのは、地を蠢く影の一つも見当たらないことが手伝っているのかもしれなかった。この、薄青く光り浮かぶ街道が漆黒の夜の森にまさに飲み込まれていくこの場所で、縦横に地を走る木々の影の中に丁度納まるようにして、一人の男がどっかりと座り込んでいる。一本の木の幹に背中を預けているこの姿は、星空が生む黒い影の中にいることも相まって、岩か何かがどすんと置かれているようでもある。
男は大きな背嚢を傍らに投げ出して座り込んでいる。あぐらをかいた股座と、どっかりと腕組みしたそのかいなとで長剣を抱え込み、俯けた顔に色濃い影を蓄えて、まんじりともせず。
■ジュウザ > 男の背後の枝葉を揺らして一陣の風が、サァと吹いた。昼に容赦なく照り付けて未だに残る暑熱を吹き払うような涼やかな風だ。走り抜けるその音に木々のざわめきの音が続くのもつかの間、すぐに静寂が立ち戻った。まったく、静かな夜だ。それから男がゆっくりと顔を上げるのだが、そのためだっただろうか。身じろぎと衣擦れの音がやけに大きく響くように思えるのは。
首を捻じ曲げ斜めを見上げた途端に目に飛び込む、無数の星々の煌めき。夜空の漆黒の内にあるそれらは必要以上に網膜を刺激し、それがために男は開いた目を、真昼にそうするかのように凝らし見る。そうすると元来が細い眼が、横に引いた線のような細さを示し立て、捻じ曲げて見上げる半顔に落ちた星明りは頬の辺りを影で塗り、大柄な体格に反して落ち窪んだ頬のこけを浮き彫りにする。そうして夜空を見上げていた男が再びその姿勢で動きを止めて、長いこと――星々の傾きの他にその長さを示すものもなし。幾時をかけたかわからなくなったような頃、再び目を閉じ顔を俯けた。座り込む男を濃い影が、孤独の裡に押し包む。
■ジュウザ > こうして孤独の裡に座り込んでいると、夜の闇に同化し溶けてしまうのではないか……ありえぬ妄想だ。されどあながち否定もできぬ。そうした疑念がこの夜のどこかでむくりと頭をもたげかねないほどの時間が経った頃。どっぷりと影に沈んだ男を現世に呼び戻す物音がした。それは小さく、とても小さく、木々をそよりと揺らして吹いた風の中に消え入りそうな小さな物音だ。しかし男は顔を上げずに目を薄く開けてその方を見る。じろり、と形容したくなるような目つきだった。
横合いに迫る森の奥から聞こえたようでもある。乾いて聞こえたから、落ちた枝を踏み折った音か何かだろうか。だとすれば誰が?人か獣か、或いはそのどちらでもないものか……
「――……」
じろりと睨む目つきのまま男がわずかな身じろぎを示す。長剣ごと腕組みしていたその腕を解き、左手で鞘を掴んで体に引き寄せる。そうして睨む先にあるのは星明りに照らされる青白い木々と、それらの間にぽっかり口を開けたような漆黒の闇ばかり――ぱしん、ともう一度。その闇の中に果たして何が……?
■ジュウザ > 睨み据える先の闇は、その裡に何を孕むか示さぬまま時のみが過ぎる。影に彩られまんじりともせず闇を見据える男の姿もやがて、荒涼とした夜の街道の景色と化した。その遥か高みを大鳥が一羽、一鳴きを甲高く残して飛び去って行ったが、それは果たして男のその後を知っただろうか――
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジュウザさんが去りました。