2017/02/27 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にティエンファさんが現れました。
■ティエンファ > 「ふぁああ…あーあ …ああ、平和だ」
そう言って、街道を行く荷馬車の山積みの藁の上でぐうっと伸びをする姿。
旅汚れした長衣、長い髪は黒く、黄色い肌を持った少年。 一目で帝国生まれだとわかる風貌。
王国からすれば敵国の人間…にしては、しかしその様子は穏やかなもので。
「なあ、商人のオイチャンよ、マグ・メールにはあとどれくらいで着くんだい?
…ふぅん、二、三日かぁ…へへ、ワクワクするね。 賑やかなんだろ? 人がいっぱいいるんだろうなあ!」
手綱を握る老人に声をかけ、成長伸びた脚を揺らす。
見た目は大人だが、声は柔らかくはしゃぎ、酷く子供っぽい言動。
■ティエンファ > 商人が笑いながら言う。 『慌てなくても町は逃げないよ』と。
しかし、少年は藁の山に腹ばいになり、商人に首を振る。
「そんな風に言えるのは、オイチャンが何度も王都に行ってるからだろ?
こちとら田舎の山から出て、初めての大都会なんだ。 心がうわっつくのは仕方ないのさ!
沢山の人、見たことない場所、美味い飯に綺麗な女、そんでもって、強い奴等!
はー、どんな生活が待ってんだろうなあ…!」
釣り目がちの目を輝かせ、少年は藁の上をゴロゴロする。
長い髪に藁が絡まって酷い有様だが、特に気にした様子もなく。
そんな風に、老商人との旅路を行く異国人。
■ティエンファ > それだけであれば、商人の孫か息子かが行商にくっついてきたようにも見えるけれど、
しかし、それにしては、物騒な物が見え隠れする。
それは、無邪気に商人に話しかける少年の身体だ。
細身に見えるその少年だが、その首筋は滑らかに筋張った男らしい線。
伸ばした腕は日に焼けてなお白いけれど、なだらかに隆起し、逞しい。
そして、体を起こした少年の、長衣の合わせから覗く胸元に刻まれているのは、鮮やかな青と赤。
堅気とは思えないも事な彫り物で描かれているのは、龍と牡丹であった。
「王都に行ったら、とりあえずー… … …」
ふと言葉を止めて周囲を見回すその目は鋭く、一瞬前までの緩み切った色はない。
髪に藁を絡ませたまま、猫のように身軽に、柔らかな藁の上に立つ。
「狼だ。 群れでこっちを狙ってる。」
■ティエンファ > 「今年は間の冬だったからな、餌が少なかったんだ。
ぷくぷく太って脂の乗ったオイチャンと、若くて食べ応えのありそうなガキの二人旅。
狼も狙いやすかったんだろうさ、まあ、道理だけど。…オイチャン、止めて、藁の中に。」
少年がそう声をかけると、慌てて荷馬車の藁の中に潜り込む商人。
そちらに視線もやらず、荷馬車から飛び降りる少年は、夜闇になお爛々と輝く獣の目が現れるのを眺める。
「にー、しー、ろー、やー…10か、そんな大きな群れじゃあないけど、
…まあ、2人襲うには十分だろうな。」
腕組みをしながら、のんびりした口調で狼に語り掛ける。
言葉は通じないが、迎え撃とうとしているのが分かったのだろう。
周囲から狼の唸り声が地響きのようにゴロゴロと鳴り出す。
しかし、少年は口の端に不敵な笑みを浮かべたまま深呼吸をして、一歩踏み出す。
だすん、と、地を踏みしめる音は重く。
「だけど、俺を食おうってんなら全然足らんぜぇ?来いよ犬ッコロ!」
その声に誘われるように、狼が茂みから2頭、少年の足や喉笛をめがけて飛びかかった。
■ティエンファ > 少年は軽く腰を落とし、拳を緩く握って構える。
街道の脅威に襲われながらも、その身体に強張りはなく。
右手がゆるりと動いたかと思えば、飛び掛かった狼は宙で弾かれる。
鞭のように腕をしならせた一撃は、人間の子供ほどもありそうな体躯の狼をひるませる。
同時に足にかみつこうとしたオオカミの頭上を、膝を抱えるようにして飛び越えれば、
打ち払った狼が地に落ちるよりも先に、槍で刺すような鋭い蹴りを見舞う。
「1匹、」
尾を引く狼の悲鳴を背に受けながら爪先から地に着き、身を翻す。
同時に振り返っていた狼に反転の勢いのまま放つ拳。
鈍い音。狼の鼻面を真正面から打ち据えた拳が、狼の顔を砕く音。
「2匹っと」
■ティエンファ > 流れるような動きで狼を打ち据えた少年の背に、また2頭、息もつかせずに飛び掛かるけれど、
少年はくるりと踊るように身をかわし、その襲撃を逃れ、幼さの残る目を楽し気に細めるのだ。
「はは、どうしたワンころ、鬼さんこちら!」
子供が遊ぶように声をあげながら、遅れて飛び掛かった1頭の頭を、真上から足裏で踏み抜く。
絶命の声すらなく、土地面に赤い花を咲かせる狼。
少年はその一撃を踏み込みに変え、むしろ己が襲撃者であるかのように狼に躍りかかるのだ。
夜の襲撃者達はあっという間に半分以下に数を減らし、散り散りに逃げていくことしかできなかった。
「ふん、なんだ、根性無しめ。襲ってきたなら最後まで戦えっての!」
狼達の悲鳴が遠ざかっていく方向に元気一杯に声を飛ばす。
その少年の後ろで、荷馬車の藁から顔を出した商人は、感心と呆れ半分の表情をするのだ。
■ティエンファ > 「や、オイチャンも馬も怪我なく、良い感じだな!
ひひ、飯奢ってくれた礼にはなってるっしょ?ね?」
狼の返り血のついた腕を長衣の裾で拭いながら商人に得意げな顔を向ける少年。
「腹減って行き倒れかけて倒れに恵んでくれたんだ、これっ位の事はするともさ、
一宿一飯…宿はないか…一飯の恩ってやつだね!」
白い歯を見せて明るく笑えば、血で汚れた靴を脱いで、裸足でまた荷馬車の藁の上に飛び乗った。
御者台に戻ってまた馬を歩かせ始めた商人が、少年の技量に感心の声を漏らす。
しかし、それを聞いた少年は照れ臭そうに笑いながらも首を振る。
「あんがと。でも、親父殿が言ってたんだ。俺なんかまだまだ弱っちい駆け出しだって。
王都や帝国に行けば、もっともっと強い奴らがいるって。俺はまだ何にも知らないって。」
自分の掌を眺めながらの思い出話。思い浮かんだ養父の顔。ぐ、と拳を握って、気合を込める。
「だから、俺の力がどれ位なのか、世の中にはどんな人達が居るのか、
それを見る為に、旅を始めたんだ。…魔族とタイマン張って渡り合ったり、
竜を討伐したりした強い奴らもいるって聞くし…っ」
話しながら段々と熱が籠る声。期待と希望に輝いた眼は夜空を見上げる。
思わず立ち上がった少年は、両腕を空に突き上げて叫ぶのだ。
「よろしく頼むぜェ!まれびとの国!俺はティエンファだあああああああ!」
その雄叫びは、狼の咆哮よりも高く強く、夜の街道に響き渡ったのだった。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティエンファさんが去りました。