2015/11/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にシドさんが現れました。
シド > 昼の温かさを溶かすように深秋の夕暮れの冷たい風が吹き抜けるのに、1頭の馬が街道の石畳を颯爽と蹄で叩いていった。
それに跨る青年は天を忌みしげに睨む。少し前まで青空だったのが、化かされたように茜色に染まっているのだ。
まだ自分の公領に戻るには今少し距離がある。

手綱を更に強く引き締めて後髪が乱れるも構わず走っていた。
その肌に雫が流れ落ちる。汗、ではない。天から地に糸紡ぐように降り注ぐ小雨。
葡萄色の眸はますます観念したように瞼を閉ざして馬首を撫でて、眸眇めて周囲を見渡す。

「雨宿り出来る場所は……。」

シド > 街道の脇にこれみよがしにと大きく枝を広げる大樹を見つけたのは幸運か。馬を寄せて雨足から逃れるようにその根本に馬を寄せた。
それでもチュニックは濡れそぼりて肩の膨らみも張り付き、銀の長髪に張り付きて見るも寒々しき己の風体に苦笑い。
総の髪を束ねあげて口元に咥えた紐で括りながら周囲を見渡していく。

しのつく、さかまく、雨脚は弱い。といっても雨は、 雨―― 天候ゆえに、人気の疎らな、街道に、馬車など中々見当たらない。

「さて、どうするかな。」

額にへばりついた濡れ髪を掻き揚げ懐から取り出した紙巻に火を灯そうと。
大気の湿り気に晒されたそれに、中々火が灯ることはない。
火を灯すこと諦めた腕は寒さを知覚して、腕袖を捲りあげ、露とした二の腕を胸前に組みて高い背筋を大樹に寄り掛からせる。
この場に佇むを決めた証に、不満気に嘶く馬を見詰める。今暫しの辛抱、と。

シド > 地表から遠いこの高さに、雨雫の砕ける響きはない。蕭々と、風雨の擦れ合う音だけが鳴った。
静かなる街道、肌に鼻腔に、秋雨を感じながらどれほど経っただろうか。
馬の大きな嘶きに天を仰ぐ。雨は通りすぎた。遠い山合の袂から覗く茜の日差しに眩く眸を眇めながら馬に跨る。

「今から急げば日暮れまでには帰れそうだな。いくぞ。」

手綱を強く引き締める。帰路に焦がれた栗毛の馬はまた街道に馬蹄を響かせて、その姿は遠く消えていった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシドさんが去りました。