2015/10/23 のログ
ティネ > 「み、ミレー族ぐらい知ってるし、魔法もちょっとなら使えるし……」
と言ってもミレー族に関しては存在しているというのを知っているレベルだし、
魔術はこの身体になったときに勝手について来たものなので充分な知識があるとは言いがたい。

妖精のくせして、という言葉が突き刺さる。
そりゃそうだ。自分は純粋な妖精ではないのだから。
かといってそのことをしゃべるわけにもいかない。
……それはあまりにも恥ずかしいことだ。

「レディを虫扱いするヤツに言われたくないもん……」

森が出自ではないのか、と言われ言葉に窮する。痛いところだ。
初めて問われたわけではないがうまいごまかしや言い訳は今のところ思いついていない。
答えられずに、掌の上にへたりこんで顔をそむけた。

「で、でも……
 キミはこうしてお話に付き合ってくれてるじゃない」

反論としてはいささか情けない。

チェシャ > 「変な奴。妖精ならもっと悪知恵使えよ、気が抜ける。
 だってどう考えたって虫みたいな羽根じゃないか。……まぁどうだっていいけど」

ここで相手の話に付き合ってもたもたしているのもあほらしいと思うと、
頭をかいてどうするか考える。
追突した自分が悪いのだが、機を逃して謝罪の言葉を言い忘れた気がする。
それにどうも自分の言葉は彼女を気落ちさせまくっているようだというのはなんとなく察した。

不愉快そうに眉を寄せて、ティネをそこら辺の草の上に乗せると再び四つん這いになる。
見る見るうちにその身が縮み、再び猫の形をとると雑にティネを口にくわえ、うまく放り投げて自分の背に乗せた。

「僕だって暇じゃないんだ。たまたま今はお前が珍しかったから口聞いただけ。
 話し相手なら他をあたってくれ、……追突して悪かったな、詫びに王都近くぐらいには運んでやる。
 振り落してもお前は軽くてわかんないから、しっかりつかまらないと知らないぞ」

ふん、と面白くなさそうに言うとのそりと歩きはじめる。

ティネ > 「わ、わ」
再びの変化に、あっけにとられたまま背に乗せられる。
続く悪かったな、という言葉に表情を緩ませる。

「ううん……平気」

わりと遠慮無くベルベットの毛に全身でしがみついて顔を埋めた。
猫の背で運ばれるというのはあまりない経験でちょっとドキドキする。

「……ありがと!
 じゃあもっと珍しがってよー。そんでもってあわよくば友達になってよ。
 どーせキミだって、友達いないでしょ。口悪いし。
 ボクはティネって言うの。覚えといてね!」
一転して調子に乗って矢継ぎ早にまくし立てた。
先ほどまで邪険にされてしょぼくれていた様子が嘘のようである。
泣いた妖精がもう笑ったと言ったところか。

チェシャ > 「ちょっと、変なとこ触るな。すけべ妖精」

むずがゆそうに体を振るもティネを振り落さないよう最低限の気遣いはしているらしい。
彼女がしっかりしがみついていることがわかれば徐々にスピードを上げていく。

「ともだちぃ~?やだよ、別に僕は友達なんて要らない。
 いなくたって困らないし、必要なものはもっと別にある。

 ティネ……ふぅん、あっそ。覚えていられたら覚えておく」

自分はあえて名乗らず、そっけない態度で返事をする。
打って変ったようにまた饒舌になった妖精に辟易して街道を駆け出した。

「舌をかみたくなかったらそのおしゃべりな口を閉じてろよ」

あっという間に景色が流れてゆく。どうやら普通の猫のスピードよりもずっと速いのは何らかの魔術なのかもしれない。

ティネ > 「えっ、変なとこってどこどこ」
ドキッとする。誓ってそんなつもりはなかったと証言したい。
それに、だからといって手を離すわけにもいかないのだ。

「そんなツンケンしないでよー。作っておくといざというとき助け合えるんだよ?
 いつか困ったって知らないんだからー。あ、そのときはボクが助けてあげる!」

彼のうっとおしそうな態度を大して気にした様子もなく
やたら上機嫌で言葉を口にする。
加速したなら、再び姿勢を低くして身体を背中に押し付ける。
……確かに、手を離せばひとたまりもなさそうだ。

「……王子様の絨毯みたい」

特に聴かせるつもりもなく、つぶやきを零す。風に衣服や赤を帯びた金髪がなびいた。
それきり口を開くこともなく、王都へとたどり着くまではじっとおとなしくしているだろう。

チェシャ > 「うるさい、馬鹿。それ以上毛並みの下まさぐったら羽根むしってやる。

 ……はん、お前がどうやって他人を助けるっていうんだ。
 自分の身一つも守れなさそうなのに、他人の手助けしてる場合かよ」

余計な世話だとばかりに突き離す。
大体こういうことを言うやつに限って本当に何の役にも立たないし
甘い言葉を吐いたくせに嘘をつく。
道すがらであった妖精なんて誰が信用するものか。
とげとげとした雰囲気を隠すことなくそのあとは黙々と道程を駆ける。

ティネがつぶやいた言葉も特に何も心を揺らすことはない。
毎日せっせと自分が舐めている毛並みだから、王子様の絨毯よりも手入れがされているのを教えるつもりもない。
誇るべきことでもなんでもない、チェシャにとっては当然の毛並みなのだ。


とうとう王都の門が見えるころにはあたりはすっかり暗くなっていた。
幸い夜目が効く猫の身だから道に迷うことも無い。
もしかしたら眠ってしまったかもしれないティネを少し乱暴に身をゆすって起こす。
起きていようがいまいが、背中を地面にこすり付けてでも降ろすだろう。

「着いたぞ、ここでお別れだ」

面白くなさそうにつんとそっぽを向いてそういった。

ティネ > (せーかく悪っるぅ~~)というのが最初に浮かんだ率直な感想だったが
それを口にしてもあんまり意味はなさそうだった。

「むー、それは思いつかないけど。
 なんでもしたげるよ。その時が来たらさ。
 嘘になったら、羽根でもなんでもむしっていいよ」

膨れながらも、そんなわけでもう一つ素直な思いを、なんでもなさそうな口調で告げる。
なんでこんなにトゲトゲしているのかティネには想像もできない。
それでも何故かこの猫少年のことを嫌いにはなれなかった。

もーちょっと丁寧にしてよねーとかなんとか言いながらも、王都の前の石畳に着地する。
改めて観察すると、夜に一体化したような色の毛を持つこの猫は、とても美しく完成されている。
簡単に気を許そうとはしないその気高さまでもが、彼により触れ得ざる美しさを与えているのかもしれない。
――などと、そこまで思考を言語化できたわけではないけれど、中途半端なみすぼらしい
自分との差を見せつけられたようで、ほんの少しの嫉妬が湧いた。
そんな胸中はけして口にすることはなく、ただため息をひとつつく。

「お世話になりました。じゃ、また会おうね、猫くん!」

元気よく別れを告げて、輝く燐粉を残しながら、へろへろと王都のどこかへと飛び去っていく。
強い風が吹けばたちまちどこかへ飛ばされてしまいそうな覚束ない飛び方だった。

チェシャ > 「いらない。お前の羽根なんかむしったって一銭の価値もないんだ。
 今日であったことなんて忘れろ。僕も忘れるから。

 ……おしゃべりな奴も嫌いだし、余計なお節介も嫌いだ」

妖精の羽は薬の良い材料になる可能性はあったが、チェシャだってそこまで悪人ではない。
第一なんだかどこぞの里の妖精かもしれたものではない奴の羽を売ったところで二束三文の値段しかつかないだろう。
無駄な苦労は避けるべきだ。つっけんどんにそう返事してしっぽを揺らす。

よろめきながら飛び去って行く姿に本当に大丈夫かと心配はするものの
これ以上余計な手間をかけるのはいやだった。
それに一日動きっぱなしで大分疲れたし眠い。くあっとおおあくびをして伸びをすると
別れの挨拶もせぬまま、チェシャはのたのたと主の待つ屋敷のほうへとかけていった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティネさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からチェシャさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にリーシャさんが現れました。
リーシャ > (今日は街道の見回りがお仕事。それなりの金額を受け取って、魔物に襲われている商隊や旅人がいたら、其れを救援するのが任務。とは言え今の所は街道も平和そのもの。等間隔に置かれた松明の火が石畳をぼやりと照らしているのが見える。――夜に移動する人は中々居ないんだよなぁ。などとは思いながらも)

「ま、仕事受けてるのに、その任務中にやられるとかあったらボクのお給料減っちゃうしねー……」

(真面目にやるよ~、なんて小さくつぶやきながら、石畳をゆっくりと歩いて行く。今回の管轄は街道のT字路。ゾス村と神聖都市ヤルダバオートへ繋がる道の合流点まで。ともあれ魔物や人の影がないかどうかを確かめながら、ゆっくりと道を歩き進んでいく)

リーシャ > (さぁ、何かいるか、或いは居ないか。出来れば優しいお貴族様辺りを助けて、素敵な金貨の袋でも頂きたいところ。だが、そんなおいしい話が転がってるわけもなくて。歩き行く先はなおも篝火に照らされた石畳と、夜色の闇が広がっている。吹き抜ける風は秋特有の涼やかさ。もう少ししたら外套が必要になってきそうな冷え方だった)

「ん……もうすぐ半分って感じかな?町が遠くなる分、気を引き締めなくちゃね」

(何が相手でも逃げるよりは立ち向かったほうが速いけれど、万が一もあるはず。故に警戒は怠らないようにする。魔法で隠した耳をそばだてて、周囲の気配を探るのだ。何かが入れば腰の刀を抜き放てるように、柄へと手をかけつつ、ゆっくり進む。編み上げブーツの踵がカツンと石畳に当たり、子気味のいい音を出していた)

リーシャ > 「っと、これだけ見回ればいいかな?」

(しっかりと一往復歩いた少女は、街の明かりが見えてくると足取りも軽くかけるようにして自分の宿へと戻っていく――)

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からリーシャさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にフィオさんが現れました。
フィオ > 宝石箱をひっくり返したような夜空。
散りばめられた星の周りで綺麗に割れた月が薄暗い街道を照らした。
ダイタラスからマグメールへ続く畦道、フィオは一人、帰路につく最中だった。
久々の休暇を港湾都市で過してみたものの、一人と言うのは思いの外退屈で。
さして欲しくもない物を購入したり、賭博場へ顔を出したりしてみたものの、どれも肌に合わず、知り合いの一人でも連れてよかったと後悔の道中になってしまった。

「……こんなことなら、任務についていたほうがマシだったかな」

んーっと引き締まった腕を伸ばして、漸く港湾都市から半分が過ぎた頃合い。
普段なら、それなりに魔物や人が彷徨いてもおかしくはないのだが、今日は寝静まったような静寂さを見せ、その不自然さは異様とすら思えた。
杞憂であればいいのだが。と、彼女は道中を進む。