2020/04/03 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「……いやぁ、イイねぇ……」
暖かくなってきたので、ちょっと泳ぎたいな。
そう思って、男は水遊場に来たわけなのだが。
「いいねぇ……」
水着の美女を見ながら、男はそんなことを口にしていた。
ハッキリいって、エロオヤジである。
「こりゃあ泳ぎよりも目の保養だなぁ」
うんうん、と頷きながら女性を目で追う男。
当初の目的、どこへやら、である。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ――泳ぎの練習と気分転換の為に訪れてみた水遊場。露出の少なめな水着に着替えて、プールサイドで手首を回したり腰を伸ばしたり軽く柔軟体操をしていたその時。
「あ………」
ふと流した視線が、プールサイドでナンパする相手を物色しているような、そんな風に見える男性に留まった。
すぐに声を掛けても良かったのだが……女性を眼で追っている姿を見ると声が掛け辛くなって、手首をぶらぶらさせながら、どうしたものかと小首を傾げる。
知った顔なので、見ないことにするのは失礼だし。と云って邪魔をしても悪い……。
ここは一言挨拶だけしとくが吉か。そう決めると、柔軟を終えて。
「どおもぉー。セインさーん」
彼の脇を通りがかるように近づいて会釈し。ひらっと手を振って無難に一声。
■セイン=ディバン > 「うっはぁ、あのネーチャンすっげぇなぁ」
大胆な水着の女性を見て、鼻の下伸ばして声上げる男。
もはや泳ぎなどどうでもいい、という感じであったが。
「んあ? ……あれ、ティアちゃん?
こんなところで会うなんて奇遇だな」
声をかけられれば相手の姿を認識し。
そこで、男は驚いたような表情になる。
「泳ぎに来たのか? ……うん。
その水着、似合ってるな。とっても可愛らしいと思うぜ」
それまでだらしなかった表情を引き締め、相手の水着姿に率直な感想を漏らす男。
うんうん、と頷きつつ、この男にしては珍しく、いわゆるエロい視線ではなく。真面目な視線で相手を捉え。
■ティアフェル > あちゃぁ……拙い所に声かけちゃったかな……。
鼻の下を伸ばしてのエロオヤジの定番な言葉を漏らす様子に、何だか気まずいような悪いことしたような気持になりつつ。思わず苦笑も零れ。
お盛んな人でんな。と内心呟きつつ。ひらひら、と上げた右手を横に振り。苦笑を消すと愛想笑いを浮かべ。
「やあ、お久?かな?
偶然だねえ。……ってかごめんね、今取り込み中だった?」
好みの女性を探している最中だったかと若干心配そうに口にして。
「うん、いざって時に溺れたりしないように泳ぎの練習に来たの。
泳ぐってか、浮きにきたって感じ?
――やはは、ありがと。こう、あーゆう丈が膝まで肘まである……そう、あーゆうの良かったんだけど、サイズがなくってね」
あーゆうの、と、おじいちゃんが着用している袖が七分丈、膝七分丈の保守的を絵にかいたようなボーダー柄の下手をすると囚人服のような水着を指差して苦笑い。
■セイン=ディバン > 「う、見てたか……。
違うんだ、若き少女よ。さっきまでの姿は……。
……世を忍ぶ……仮の姿……とか……」
相手の指摘に、男は呻くものの。
なんとかそれっぽい言い訳を、とひねり出したのは。
まぁ子供も騙せないであろう言葉で。次第に声は小さくなっていき。
「すいません、普通に水着のギャルを見て喜んでました」
最終的に素直に謝るのであった。
「なるほどな。って、ティア、泳ぎ得意じゃないのか?
ふむ、そうなのか。そりゃあ残念だな。
泳ぎの練習だっていうのなら、あ~いう、ある程度全身に装着する水着の方が練習になるからな」
ふむふむ、と男は納得したように頷く。
冒険者稼業。時に泳ぎが必要になることがある。
沈む船からの逃走、お宝への道が水没している。
敵地への潜入・奇襲。泳ぎは重要なスキルだ。
そして、そういう時に生きるのは実は『着衣水泳』のスキルだったりする。
特に、装備品を身につけたままの泳ぎというのは、練習が必要だし。
実に実用的なスキルなのである。
■ティアフェル > 「――あー、大丈夫大丈夫、別にそーゆうのいーから。
分かってるってば。男は全員ケダモノっていうのは熟知しておりますので……?」
こっちは弟と書いてサル5匹の姉ちゃんだ。お察しはするし、別に悪くも思わないというか当然のこととして受容しており、云い訳染みた声が零れると掌を向けて、ストップをかけるように。
「だろう。……てか、水着ギャルって表現よ」
率直に認めた言葉に。ヤベエ、というような表情を浮かべてアホ毛が揺らめいた。
「普段泳ぐこともあんまりないから……得意って程でもなくって。
そうそう、海や川に落ちた時死なないように練習しにきただけだから、本当は着衣水泳可能だったらそうしたんだけどねぇ。ダメだって」
うむうむと云わずとも大体意図を理解しているような声に肯き返して肩を竦めた。ついでにふと質問も。
「セインさんは泳ぎは得意なの?」
■セイン=ディバン > 「ぜ、全員が全員ってわけじゃないぞぅ」
俺以外なら、マジで紳士なやつだっていると思う、と言うものの。
具体例を挙げれないのでちょっと弱々しい反論だ。
「ん? 何だ? 水着のおねーちゃんなら、水着ギャル、で当たってるじゃないか」
何か間違ったか? と首を傾げる男。
どうやら自分の言葉が相当古いことを自覚していないらしい。
「そうなのか。ちょっと意外だ。
ティアは活発な印象だったから。泳ぎも得意かと。
さすがにこういう施設で着衣水泳はダメだろ」
可能なら、かなり訓練施設としては優秀なのだが。
まぁ、そういう施設ではないからな、と笑い。
「ん? 得意ってこたぁないが。
少なくとも、最近の服装になる前。
普通に鎧着て泳ぐくらいはできた。
なんなら特訓してやるぞ?」
一応これでもベテラン冒険者。スイスイと泳ぐ、まではいかなくとも。
装備を装着したまま多少泳ぐくらいは出来るぜ、と。
胸を張る男。珍しく下心なしの提案だ。
■ティアフェル > 「表に出さないだけでいつも胸に下心でしょ? でなきゃ不能じゃね?」
あんまりな暴言が畳み掛けられた。紳士の敵のような偏見である。
男所帯は無神経かつ、偏った思考に落ちるのか。淡々と人差し指を立ててバッサリ切った。
「わたしのあなたの間に壁を感じる」
首を傾げている様子に表現に隔たりを覚えてぼそりと零した。
「泳ぐって経験が少ないから自信はないのよ。特に泳ぎの型?っていうのかな? 決まった姿勢はできないし。ここみたいな施設ってそもそもかなり珍しいっしょ? 地元には川くらいしかなかったしさ……」
清潔であれば普段着でもいーじゃないか、と水遊なんて文化がない奴は思うけれどやむなしというように同感して。
「おー。やべえ。鎧か……わたし無理だわあ。
じゃあ教えてもらおうかな。
取り敢えず浮くのは結構得意よ。
立ち泳ぎと仰向けで泳くやつ…背泳ぎ? 覚えたい
――先生、よろしくお願いします」
甲冑水泳はスゴイとパチパチ軽く手を叩いて。
それならばご教授願おうと。頭を下げ。マイノルマを口にして。
柔軟は終わってます、と一応伝えた。
■セイン=ディバン > 「ぐぐっ……反論できねぇ~……」
確かに。下心の無い男などいないかもしれない。
あるいは、下心の無い人間などいない、か。
そこを指摘されてしまうと、もう反論は出来ないのであった。
「うえぇ!? 何が!? え、何で!?」
いきなり壁とか言われてショックな男。
どうやらジェネレーションギャップというものを理解していないらしい。
「なるほどな。まぁ確かに。
泳ぎに限ったことじゃないが、型は大事だ。
練習しようにも、浅い川じゃ練習にならんしな」
泳ぎの訓練、となると。これが結構難しい。
ある程度以上の深さ。そして、清潔さのある水場なんて、なかなかないのだ。
「よし。任された。
そうと決まれば早速訓練開始だ。
……ふむ。浮けるってことは、泳げないタイプじゃないんだな。
それじゃあまずは水に入って、普通に浮かぶのを見せてくれ」
柔軟が終わっているのなら、まず実戦だな、と判断し。
男は、一足先に近くのプールへと入る。
そのまま、ざぶざぶと歩けば、足のつかない深さのエリアへ到達し。
この辺りなら深いから練習に最適だ、と。男は水中を指差し、気をつけろ、と合図する。
■ティアフェル > 「っふ……まだまだよのう……」
お前の方が年下だろう、とは思えないような態度を見せる生意気な暴言女。勝ち誇ったようににやりと口角を上げて、ぱったん、とアホ毛を跳ねさせた。
「壁がより高くなりました」
気づかないところで余計に隔たりが増した気がする。
衝撃な表情とは裏腹至って冷静な声と顔でごちた。
「その型すら教えてくれるほど知ってる人も少ないしね。
弟は滝壺での潜水が得意だったわ――覗き目的で」
そのまま軽く沈めたことを無駄に思い出して遠い目をした。
下心の話なんてするとついつい余計なことを思い出すとかぶりを振り。
「やったあ。ありがとー。セインさんが泳げて得したわ。
最低限浮ければなんとかなるから、水死体の浮きはマスターしたよ。
とくと見せてしんぜるぜ」
水死体のぷかー。
それは、水死体のように全身を脱力させてとにかく水の浮力に逆らわずに浮くという――この女の内輪での基本。
自信ありげににやりと目を細めると、彼に続いてプールサイドに寄って、足先からとぽん、とゆっくり身を沈めていく。
先に深い場所へ行く背中に続いて。こちらは一足先に脚が付かなくなって、その時点で、体中の力を抜いて弛緩させ。
顔を付けたうつ伏せ状態で水死体をイメージさせながら、ぷかーと下半身を沈め肩甲骨から背中辺りまでを浮かせた、水死体になり下がった。そして上手く受けたら顔を上げて空気を取り込み。また水中に顔を没し。
■セイン=ディバン > 「くっ……侮れないな、ティア……」
これは強敵だぜ、と。まるで場違いなシリアスっぽい雰囲気を見せる男であったが。
そこで気になったのか。ふ、と手を伸ばす。
伸ばす先は相手の頭、やや上。そう。アホ毛である。
アホ毛の元気よさが気になったようであり。触ろうということらしい。
「なぜだぁ!? オレ、何かしました!?」
何もしてないのに!? という男だが。
この場合、その何もしてないっていう無自覚さが問題である。
「基本泳ぎってセンスだ、みたいな風潮あるよな。
……弟君の気持ちは痛いほどにわかる」
実際のところ、泳ぎも反復練習が大事なのである、と頷く男だが。
相手の弟君のことを思うと、ちょっと涙が零れたり。
「ただ、得意じゃないからな? 過度の期待はするな?
……ふむ。なるほど。見事なもんだ。
泳げない人間ってのは、水に入った時、無駄にもがいたりするから沈む。
脱力。究極的にはそれができてりゃ人間ってのは浮かぶからな」
相手の見せる浮き方。それを見て、男は拍手をする。
どうやら、この少女は素質はあるな、と考え。
男は、相手の肩を軽く叩き。
「よし。なら早速いくぞ。
まず立ち泳ぎだが、基本的には三種の足の使い方。
それのどれかが出来ていれば水中でその場にとどまれる。
よく見てろ?」
そう言うと男は手本を披露する。
立ち泳ぎ基本の三種の足の動き。
いわゆる踏み足・巻き足・あおり足、である。
それぞれ、水を踏むように足を上下する。
内側に向かって円を描くように足を回転させる。
その場で立ったままバタ足をする。
このどれかが出来れば立ち泳ぎになる、と。
男はゆっくりと相手に足の動きを見せ、一番やりやすいのをやってみろ、と言う。
■ティアフェル > 「なーに? 侮ってくれてたの? 失礼ねえー」
っへっへっへ。と今いち品のない笑いを響かせながら悪い貌で歯を見せた。
不意に手を伸ばされたアホ毛は、ぺしこい、と突くような払うような所作を見せ――生きているような活きのイイ動きで本日も不気味だった。
「壁が高く……厚くなっていっておるぅ……。
その内キミが見えなくなるよ……」
予言者の老婆のような口調と、エセ詩人のような口調の二段構成で壁を表現して、空中で壁を叩くパントマイムもしてみた。
「そうそう逆に泳げない体質ってあるみたいよね。ほんとーに浮けないヤツ。カナヅチっての。
うちのサルと同類なの…? ヤバ」
泳げるも才能、泳げないのも不の才能。
まさか潜水してまで覗きはしてないだろうが、通じるものはあるらしい。そう分かると顔をしかめた。
「甲冑泳法できる人が得意じゃないとか云い出すと――イヤミよ?
そうそう、水死体浮遊法。これが出来れば流されても生き残る可能性が残されるのよ」
プールの真ん中で見る人が見ていたら溺れてるのか心配させそうな水死体振りを見せつけ。
ざぷ、と顔を上げて一度立てる位置まで後退すると、拍手を受けて、やあやあどうもと悠長に片手を挙げ。
それから早速見本にお目にかかると、
「えっ? えっ? あっ? っは?
ちょっと、早いー。もう少しスロースロー! ゆっくり……良く分かんないよ……」
その場で三種類の足の動きをしてもらい、水の中に潜って水中で見てみるが――裸眼では大して見えない。一度潜ってから、水の上に顔を出し。
「ちょお、おにーさん。教え方よ……
ティア泳ぎ得意じゃないんだってば」
教えてくれている先生に取り敢えず片足を着いて片足をばたばた縦に動かして試してみるが、浮く気がしない。
■セイン=ディバン > 「そりゃあまぁ、まだまだ若いと思ってたから。
アイタァッ!?」
正直、舐めてました、と素直に頭を下げる男。
そのまま相手のアホ毛を撫でようとしたところ、なぜか斬り払われた。
なんだ、意思を持ってるのか!? と。少し怯える男。
「おおおおおい、なんでだよぉぉぉ!
説明しろよぉぉぉぉ!」
どうやら更に壁ができているらしく。
無自覚大王の男は、ちょっと半泣きっぽい様子になってしまっていた。
「あぁ。いるらしいな。
ただまぁ、基本ある程度人間ってのは泳げるもんだ。
いや、その、気持ちが。気持ちだけ理解できるって話」
慌てて取り繕う男。
もちろん、男だって覗きとかは趣味でもない。
しないでもないけど。
「だって、速く泳いだりとかできねぇもん。
ただし、その浮き方は前方確認できないからな」
滝の近くでやるなよ? と言いつつ。相手に手本を見せ始めるのだが。
「……しまった。水中の姿ってのは見えづらいか。
……う~ん。よし、わかった。
今からオレが潜って、文字通り手取り教えてやる。
それを覚えて、一番馴染む足の動きを習得しろ!」
そう言うが早いか。男は、相手のことを支えつつ、じゃぶんっ、と水に潜り。
相手の足を、本当に触れるか触れないか位の感じで触ると。
それぞれ三つの足の動きを、手でナビしてみせる。
これまた男にしては珍しく、下心を感じさせない。
最低限の接触での指導であり。一通り足の動きをナビすれば。
「ぶはぁぁぁぁっ!
ど、どうだ? 今度は、できそうか?」
かなり長い時間潜水していたため、浮上し、息を大きく吸う男。
そのまま、相手の体を支えつつ、もう一回やってみろ、と言う。
■ティアフェル > 「それだけで侮っちゃうなんて――まだ青いな……。
……?」
アホ毛を触ろうとした動きに反応してアホゲカウンターが発動した。アホ毛的に叩かれると思ったらしい。しかしアホ毛の持ち主に自覚はないらしくきょとんと首を傾げていた。
「やだよ。めんどくさいよ。
ここで解説して理解を得られるかどうかも分かんないのに」
解説をしれっと拒否った。云って分かるような明確なものでもないのでめんどい、と首を振った。
「泳げない人間にそう云っても駄目なのよね。泳げないって思い込みもあるんだろうけど。
っふ……。いつも心にスケベ一徹。そーいうもんよね……」
開き直って堂々と語ってた弟を思い出して、気持ちを理解しているという発言に重々しく首肯した。
「甲冑で早く泳げたらバケモンよ。
水死体法はとにかく突発的に水に落ちた時に備えてのだからね。前後ろってより、沈まないようにってのが基本よ」
滝壺にいきなり落ちたらやるしかないよ。と返答。
「セインさんってさ……自分ができること他の人間もやればできるって思ってるとこ、ない…?
てか、もしかして人に教えたこと、ない…?」
普通そんなに人に泳ぎを教えるということも少ないだろうから、教え慣れをしていないのが普通。
こういうマルチで色々できちゃいそうな人はできない側の心情はピンとこないのでは、と勝手に疑ってしまいつつ。
足をもって動きを教えるという言葉には若干慌てて。
「へっ? あんたってお人は教えが力技だなぁ!
ちょ、――わっ! えぇ……っ?
こ、こぉ……? わ、わ! ムズイって!
ひゃあぁぁっ! こうかー?!」
水中に潜って、立ち泳ぎの型を手でナビしてくれる動きに最初はかなり戸惑いつつも、顔を足先へ向け動きを見づらいながらも確認し、ばちゃばちゃと、捻る動きや、ばたばたと前後交互に動かす型、踏みしめるような動き、と必死で覚え込むように自分でも動かして。
そして少しは分かってきたところで水の上に顔出した方を見て、支えてもらって浮き上がったような状態のまま。
「よし、見てろ師匠――!」
教えてもらった動きを一生懸命踏襲する。一応縦バタ足だけは上手くいった。足を回転させる動きが最もおぼつかなく、踏み足は辛うじてという感じ。
■セイン=ディバン > 「……?」
明らかに意思のある動きで手を斬り払われたのに。
相手はきょとんとした様子。
どうやら、このミステリーには触れぬ方がいいのか、と。
少し戦慄する男であった。
「うぅぅぅ、ひどい。
なんだか知らんが、不当に壁を作られてる気がする」
恐らくこの溝は一生埋まらないものなのだが。
男としては、説明してもらえないとなれば、悲しいらしく。
「それはある。思い込みで肉体が動かなくなるんだろうな。
そ、そこまでじゃない。ただ、時にそういうものに心惹かれるってだけで」
このままではタダのスケベ扱いだ、と。
男は相手に何か言おうとするのだが、上手い言葉が見つからず。
「ま、そりゃそうだ。
まぁたしかに。見事な浮きではあったけれど」
本格的に泳ぎを教えねば、イザという時に困るよな、と。
「う、そ、そんなことは……。
いや、戦闘技術とかは教えたことあるぞ?」
もちろん、この男が指導者に向いているかどうか、となると。
これはまた別の話。向いていないのは明らかなのであるが。
「こういう肉体の動かし方は、習うより慣れろ、だ!
がぼがぼがぼがぼ……」
たしかに、かなり無茶苦茶な教え方ではあるが。
男は男なりに考え、相手の足に。いわば足の筋肉に、動かし方を教えていく。
そうして、教えたことの成果を見れば。
「おぉっ、出来てる出来てる。
ふむ、ティアはあおり足が向いてるようだな」
だったら、その足の使い方だけマスターすればいい、と言い。
男は、続いて考え込むような仕草。
背泳ぎ。これもなかなかハードルは高い。
だがとりあえず教えてみるか、と思いつつ。
目の前で少女が立ち泳ぎを形にしているのを見てご満悦。
■ティアフェル > 「どしたの?」
寄生虫かなにかとりついているのかというようなアホ毛の動きはちょうど死角になる真上で、何が起こったのかは知らず怪訝そうに口にした。
「セインさんならその内自力で分かる日も来るよ……多分……。
説明されるより自分で理解した方がいいと思うよ…?」
誤魔化し半分もっともらしいことを云って、にっこり……と淡く微笑んで見せた。
「できないと思うとできなくなるのは何にも当て嵌まるよね。
男がエロくなきゃ、繁殖停滞するでしょうから、別にいいと思うんだ……わたしも男に生まれたら同じ穴の狢だろーし」
スケベを責めているのではない。弟達を見てお姉ちゃんは肯定的というか慣れた代物だ。ただ、実弟は遠慮なくエロザルと罵るが。他者にはそんなことは思わないししない。
「コツは自分が死体だと思い込む強固な意志よね」
水死体が得意で泳ぎは不得手の分際で知った被ったような言。
「大して練習せずにできちゃう人ってさー……できない側に立たせたくなるわぁ」
そういうできちゃう側の人にしか思わず。戦闘訓練もこんな感じの指導ではないんだろうかと勘繰ったヤな女。
「な、慣れるにはいい、のかな……?!
ってか、大丈夫なの教えてる側はこれは…!?
シンプルに怖い…!」
ばたばたさせてしまった足が急所にクリティカルしてそのまま沈んでたりしないだろうか、と教えてもらう方もどきどきだった。お蔭で覚えは早かったけど。
少しその手を離れて、自分一人でできるかバタバタやってみる。練習は必要だが、なんとなくコツはつかんだような気がして、しばし動きを忘れないようにひたすら繰り返し。ばちゃばちゃ水を掻きながら。
「これってあおり足なんだ?
なんとかできそうだよ! ありがとう!」
自主練しつつ感謝感謝。続いて背泳ぎだが、
「取り敢えず仰向けになってみるからこの、肩らへんとかちょっと支えてもらっていい?」
上半身が浮かせるのを手伝ってもらえば下肢は自分でばたばたできる。そちらに背中を向けて顔だけ振り向かせてお願いし。
■セイン=ディバン > 「い、いや……」
え、本当に自覚ないの!? と。驚きを隠せぬ男。
しかして、男の視線はアホ毛に向けられている。
とりあえず、触れないでおこう、と。
「やめろぉ、そんな微笑を向けるなぁ」
明らかに同情されているじゃないか、と。
男は溢れる涙を拭ってみせる。
「そうなんだよなぁ……。
いや、その理解は逆に辛い……!」
女性サイドから理解力溢れる言葉を向けられるのは。
これはこれで辛いのである。なんていうか、惨めな気持ちになってしまうのである。
「いや、コツっていうか。
緊張せずに力を抜けば人は浮くわけで」
ただまぁそれも慣れていない人間では出来ないわけで。
「練習してないわけじゃねぇぞ。
オレだって、冒険の最中川や海に叩き落されたりしたんだからな」
主に、師匠と呼んでいた相手に叩き落されたり罠にはまったり。
男も、最初から泳げたわけでもないのである。
「がぼごぼぼ……」
相手の声は聞こえているが、男は器用に、相手の足の動きを邪魔しないようにする。
そうして、相手が立ち泳ぎのコツを掴んだのであれば。
「よし、大体オッケーだな。
わかった。支えるだけでな。
背泳ぎのコツは、身体をしっかりと伸ばすこと。
足は大きく動かさないこと。そして、手は一定のリズムで動かすことだ。いいな?」
相手の言葉に従い、相手の体を支える男。
肩を軽く持ち、相手に姿勢を覚えさせようと。
バタ足が安定したのなら、手の動き、いわゆるストローク習得。
そこを段階的に覚えさせようとしていく。
■ティアフェル > 「?」
やはりどこか腑に落ちないような表情で小首を捻ったがそれまで。アホ毛の方は『叩いちゃったごめんね?』みたいにゆらゆら気まずそうに揺れていたが。
「ティアフェルの生温い微笑み=34歳男子の心にダメージを与えられる…と覚えとこ」
攻撃コマンドのひとつになると判断して心にメモった。「あーよしよし泣かない泣かないー」とついでに男泣きにフォローもいれておく。
「だって……わたしは、うっかり弟の部屋のドアをノックなしで開けちゃって気まずい思いを何度もしたことのある女だもの……」
理解せざるおえません……遠い目をして語った。
分からないで済むものならいっそそうしたかったと切ない空気が過る。
心を空っぽにとか緊張せずに身体から力を抜け、とか基本的なことほどできるようになるのは案外難しいもの。彼が出来る側の人間であることは間違いなさそうだと肩を竦めた。
「フツーはね? そこで溺死する訳よ?
自力で這い上がって来た時点でできる側なのよ……命の危機に遭ったってできない人は出来ないからそのまま死ぬ」
他者の力を借りずに生き残ったのならば、それは泳ぎの才能があった人だよ、と泳ぎ苦手、他にもいろいろ苦手なタイプは溜息をついた。
「怖いなあぁぁっ……」
水の中でがぼごぼ云っている様子に、足を動かし足をヒレのように前後に動かしながら呟いた。溺れた瞬間との判別が全くつかないよこの指導法。
「うん、取り敢えず背面浮きまで今日は頑張ってみる。一度に全部はわたしには難しいから」
腕の動きより足の動きや浮き方の方が覚えやすい。姿勢さえしっかり覚え込めれば後は手は手だけで練習して部分的に覚えていこうと地道なタイプは目指した。
「ええっと……うん、支えて貰ったら浮きやすいな……まずは、足から……」
バタバタと立ち泳ぎと似たような要領で水を両足を交互に出して掻き。それで支えがほとんどなく浮き上がれるようになってくれば、足は一旦お留守にして。今度は云われた通り手だけを一定のリズムで動かし、前に進むように水を回し掻いて。
形だけ大体覚えてくると――
「っふ、ふう……なか、なか……疲れる……」
慣れない動きで水中で汗しながら。疲労感を覚えてきて。