2019/07/26 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 天候に左右されるこの施設は、めっきり夏らしさを増した昨今の情勢下では、活況を示す。
王都に居て、魔導具の恩恵に預かり、冷えた空気で満たされた部屋で涼を得ても、其れは其れ、これはこれと別腹になろうもの。
その流れに便乗した訳ではないにしても、取引をする相手が此方で油を売っているなら、自ずと顔を出さない訳にもいかない。
……というのが建前。
「ま、商談ついでに羽を伸ばすぐらい、大目に見てもらいたいものじゃからのぅ。」
そう呟く妖仙は、プールサイドのデッキチェアでゴロゴロしている真っ最中。
一泳ぎした後らしく、強い日差しにも係わらず、日焼けする気配さえ無い白い肌には、仄かに水気が残り、新たにかいた汗と混じり合っている。
仕事は終わった。
軽食も摂った。
ならば、それ以外の娯楽を見つけようとするのが、道楽者の道楽者たる所以。
眩しそうに黒い瞳を細めながら、プールサイドを歩く他の客達を物色する。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にセレーナさんが現れました。
■セレーナ > 「……ふぅっ」
賑わう水遊場に、一人の少女がいた。
パッと見はミレーだが、その事実はそうではないのだが。
少女は、プールから上がり、息を吐くと、体を拭き、シャツを着込んだ。
「……結構良い訓練になるなぁ」
少女の今日の目的は、プールによる訓練、であった。
水中での肉体の動かし辛さ。また、どれだけ行動し辛いか。
また、基礎体力向上のため、泳ぎは効果的であるからだ。
「……ちょっと休憩しようかな」
施設内の売店でドリンクを買い、休める場所を探してプールサイドを歩く少女。
その姿は、冒険者、とは思えないだろう程に無警戒だ。
■ホウセン > 遊興の種を探して網を張る妖仙の知覚に、ふと気になる存在が引っかかる。
人ならざる感覚が、何処かで見知った気配を拾い上げる。
記憶を遡るのに暫しの時間。
奇縁というのはあるのか、その間にも少女は小さな妖仙の寝転がる区画に近付いてしまうようで。
売店から少し離れた立地ということもあり、デッキチェアには幾つか空きがある。
それらが観葉植物で二つずつに間仕切りされているのは、視覚的にプライベートの保持を目的としているせい。
空きはあるものの二つの内片方には先客がいる状況で、不幸にもそれらの先客から少女に向けられる視線は純朴とは言い難い。
比較論という話にはなろうが、相対的に、見目だけは子供らしい人外の隣が、未だしも精神的抵抗感を刺激し難いかも知れぬ。
「ふむ、其処な者よ。
暑さの盛りにフラフラ惑うておっても仕方あるまい。
其処に腰を落ち着けたらどうじゃ?」
そんなお膳立てがある中で、目の前を通る少女に声を掛ける。
近付けば近付くほど、記憶が手繰り寄せられて、嗚呼と得心したように小さく呟く。
彼女自身と会ったことは無いが、腐れ縁のある三十路冒険者のそれに似た気の色彩は、見間違えようが無い。
■セレーナ > 少女としては、まずとりあえず少し休みたいという思いがあった。
今日は一日、長く訓練をするつもりであったし、プールは涼むにも丁度良かった。
ドリンクを手に、休める場所を探していると、声をかけられ。
少女は、そちらを振り向く。そこに居たのは少年という見た目の存在だが。
その姿を見た瞬間、少女は、頭痛に襲われ、頭を押さえる。
「づっ……! ふ、ぅぅっ」
激痛に呼吸を乱してしまうが、すぐに相手に向き直る少女。
相手を見下ろしながら、少女は記憶の底から色々なものを甦らせるが。
「……えぇ、そう、ね。
まぁ……いいわ。それで?
この天才冒険者、セレーナ様に何の用かしら?」
対外的に使っている自身の姿、という演技をしながら。
デッキチェアに座る少女。目の前の少年。
その存在が、とんでもない相手だという事は覚えているが。
まだ記憶は完全には引き上げられていない。
■ホウセン > 風紀の紊乱著しい王国内のこと。
娯楽施設において、その傾向は強化されようというもの。
事実、何処かの温泉旅館と同様に、客同士が密事に勤しむことを想定して、其処彼処に死角が存在している。
観葉植物の仕切りも、言ってしまえばその一種。
己の姿を認めた少女の反応は大きく、それこそ見落とせという方が無理がある。
それでも遁走を決め込まなかったのは、妖仙をしても意外ではある。
「自らを天賦に恵まれておる等と、大風呂敷を広げずともよかろうに。
其れは其れとして、用、という程の事があるように見えるかのぅ?
儂はこのとおりの見てくれで、重ねて言うのなら”ばかんす”とやらの最中じゃ。」
そう構えずともよかろうにと、自らの顔の前で右手をヒラリ。
見た目だけは、何処から如何見ても妙な言葉遣いの子供にしか見えまい。
「それに言うたじゃろう。
歩き詰めても良いことはなかろうと。
席を探して彷徨い歩くお主に、止まり木を提供してやろうという善意じゃよ。
お主とて、此処に冒険者としての仕事を探しに来た訳ではあるまい?」
疑り深い奴めとでも言いたげに、柔和な微笑にはほんのりと苦味の片鱗。
サイドテーブルに置かれ、表面に結露の付着したグラスを手に取り、ストローを用いて柑橘果汁の吸い上げる。
あまりにも自然な表情の移り変わりは、自然過ぎて逆に胡散臭くもある。
特に、この人ならざる存在に、根拠が明確ではないまでも、違和感を覚えているのなら尚更だろうか。
■セレーナ > ある種、遊行施設娯楽施設においてそういった行為の助長が強まっているのは……。
この国では、当たり前のことなのかもしれなかった。
なにせ、今この国は激動の只中にある。
だからこそ、人目や、治安を気にせずに行為に及べる、という場所が求められているのだろう。
「はんっ、天才が天才であると名乗るのは義務の一つよ。
偉大な、冒険者の存在を知らしめるというね。
……バカンスぅ? それなら屋内ではなく野外に行くべきでしょ」
ふん、と鼻息鳴らしつつ、相手と対峙する少女。
少しずつ甦る記憶を、必死に自分の物へと消化していく。
「……フン。アンタからはそんな殊勝な心掛けは感じ取れないわ。
アンタは、アタシを見下している。
いえ。アンタはアンタ以外の生き物を全て見下してる。
……そうでしょ? ミスター・ホウセン?」
ようやっと思い出した相手の名前を口にし、ニヤリ、と笑う。
これは一種の宣戦布告である。
キサマを知っている。油断はしないぞ、という。
それを、暗に伝えたのである。それはつまり、相手が白々しくも自身の正体などに触れないことを、不要だ、と伝えたのに等しい。
■ホウセン > 多少の話し声は、水の音によって掻き消される。
そういった意味では、誠に都合の良い仕組みだ。
今の所、やましい何事も存在していないけれど、隣の区画にも会話の内容は伝わっていないだろう。
己の名を呼ばれても、眉一つ動かさない。
小さな人外について、何も情報を持ち合わせていないのなら、先刻のような反応は無い筈だと、折込済みであったから。
「これはあの”戯け”からの風評被害という代物やもしれぬな。
見下しておるのではなく鑑賞しておるだけじゃよ。
そして観劇は、何も俯瞰だけとは限るまい?」
天才を称する少女とは異なり、人ならざる存在だと言い当てられても、直接的にそれを肯定も否定もしない。
手にしていた背の高いグラスをサイドテーブルに戻し、寝返りを打つように身体の正面を冒険者へと向ける。
「物事を、上の方からふんぞり返って見下ろすだけではつまらぬ。
時には、登場人物と同じ視線の高さで見ることで、新たな愉悦が生まれることもあろう。
なれば、それは全てを見下すとは言わぬだろうさ。」
黒い瞳を、赤い瞳に向ける。
視線を重ねるのは、数秒で良い。
「じゃから、壇上の登場人物に、ちぃとばかり手を伸ばすのも致し方の無い話でのぅ。
ほれ、先刻まで泳いでおったのじゃ、”眠ぅなっても仕方ない”所ではありゃせんか?」
屁理屈を並べ立てる舌が、変声期を迎えていない高い声音で告げる。
少しばかり、言葉に圧を乗せた言霊の行使。
万全の状態であれば、さして影響も無かろうが、もしも妖仙の瞳を無防備に見続けてしまっていたら。
眠りにつかずとも良い。
睡魔に思考を妨げられ、周囲に助けを求めて叫ぶという選択肢を封殺さえ出来れば。
■セレーナ > 少女としては、この相手に関して今のところ、敵意は無い。
体の奥底。魂の中核に、気に入らない、という思いが眠ってはいるものの。
それは逆に、この相手の存在が自分にとって重要な立ち位置の存在だと告げている。
「戯け? 誰のことなのかしら。
そうやって。鑑賞だのなんだの、って言うのがそもそも見下してるってのよ」
相手の言葉に、かすかに苛立ちを見せつつ。
少女は相手の動きに注意を払う。
何をしてきてもおかしくない。そう思いながら、相手と一定の距離を取り。
いつでも動けるように、緊張を維持する。
「下らない。方便、虚言。アンタの言葉はそういったのに塗れてるわ。
どんな相手にも本音を、奥底を見せず。
ただ翻弄し、弄ぶ。アンタはそういうヤツよ」
相手が真っ直ぐ自分を見るなら。
少女もまた、真っ直ぐに相手を見る。
「なるほど。今度はアタシを遊び相手にしようってわけだ。
……アンタ、何を言って……?
……っ!?」
相手の言動に不審なものを覚えるが、既に手遅れであった。
少女は、見事に相手の術中に落ち、体から力が抜けている。
デッキチェアに寝転がり、少女は、正に睡魔に襲われているような状態で。
「何、を……アナタ……」
少女の演技の仮面が剥がれ、地の言葉遣いになってしまう。
これもまた、相手によって少女の防御が崩されている証拠だ。
■ホウセン > 糾弾の言葉は、概ね間違いではない。
当人も隠すつもりは薄いし、道義的な引け目も感じていないのだから、結論に容易く辿り着けるだろう。
それと同時に、妖仙の厚い面の皮を小揺るぎもさせることは出来ないのだけれど。
下準備の為の下準備が終わると、妖仙は口の中で三音節程度の”呪”を転がす。
簡素な代物ではあるけれど、唐突に大出力の術を行使しては、かえって目の前で焚き火をするようなもので目立って仕方がない。
大部分は魔術の知識も素養も無い一般人ではあろうが、気取られるリスクを上乗せする必要はあるまい。
眠ってしまわぬよう抵抗に意識の大部分を費やしているなら、周囲の変容に危機感を覚えられたかどうか。
「何を…とだけ言われても、答えに窮するのじゃ。
強いて言うのなら、色々と話を聞く為に人払いをしているというところかのぅ。」
肝心なことを答えない癖に、無駄に饒舌。
妖仙が行っているのは、極小範囲での世界の書き換え。
”帳”に飲み込めば後腐れも無いが、其れは其れで雅量に欠けると。
二人がいる空間が裏返る。
静かに、密やかに、誰にも気付かれぬように。
数秒後、初めからその場所には誰もいなかったかのように、空席となったデッキチェアが二つ並ぶだけで――
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からセレーナさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からホウセンさんが去りました。