2017/11/07 のログ
■シド > 眺めおろしていた葡萄色の眸は意図した緩慢な瞬きを繰り返して沈黙を保つ。
そして間を開けてから頭を垂らして笑みを装った。
「いや、申し訳ない。温泉で寝ることはあるのだが。
このような公衆プールにて眠ろうとしていた御方は初めてでね。
邪魔をしたようだ。ゆっくりと憩いの時を過ごしてくれ。」
広い背筋を相手に向けて過ぎ去ろう――とした最中。
耳慣れぬ言葉に肩越しから振り向く。
微笑みにいつも細める葡萄色、微かに睥睨を模して。
「ギャラリーに見せつけたかったとは……それはどういう意味かな?
眠る前に返答を願いたい。」
広い背筋は微動だにせず、されど相手の元からも去らず。
ただ髪先にまで滴る水珠が鬱陶しいもので無造作に掻き上げて。
■ジーナ > 「―――ひとが居なければ、どちらだって変わらないわ。
むしろこちらの方が広々として、気持ち良いと思うけれど…、」
プールで浮かびながら眠るのは、珍しい、のだろうか。
もしかしたら大変に珍しいのかも知れないが、残念ながら少しばかり、
人間の常識、というものに疎い身である。
ぱちぱちと繰り返し瞬く反応は、聊か幼くも映るかと。
いずれにしても、彼が立ち去るならばそれで良し、と思いかけた矢先。
付け加えた余計なひと言が彼の足を止めさせ、葡萄色の双眸が再びこちらを捉える。
軽く瞠目して一拍、それから、くふりと喉奥に笑み声を籠らせて。
「お気に障ったのなら失礼、――――てっきり、
ご自分の外見に、とっても自信のある方なのか、と思ったものだから。」
くふくふと、如何にも楽しげに喉を鳴らしてみせるのだから、
謝罪の言葉にどれほどの誠意が感じられるものか。
小生意気な娘の笑顔は、彼を怒らせるだろうか、それとも。
■シド > 少女の笑みのさざめきを水の揺らぎのように不定形な葡萄色が静かに見据える。
明白に眉間に皺寄せて落としながら。
「……泳ぐときは泳ぐ。口説くときは口説く。
公私共に回り諄いことは嫌いでね。
それでよく周りからは身勝手な者と言われることには慣れている。
だがナルシストと呼ばれるのは初めてだし心外すぎる。
泳ぎを見られて恍惚に浸っていたのだと。」
怒気では無く困惑に寄せる眉宇をその儘に、幽かに吐く詞。愚にもつかぬと詰れる程造形が美しい位置に吾身を馳せた覚えは無い。
感情を映さぬ声音で少女の問いを正面より打って落とせば。
またこの場から一歩去ろうと。
だが、耳に張り付く幼気な声が心の何かに触れて不快感が胸に広がる。
濡れて重み増した銀の長髪を振り乱して振り返り。
「どこぞの小娘かわからんが。私は一国より領地を任された領主だ。
その相手の問いに笑みで返すのがどれだけ無礼なことかわかっているのか?」
さして大して重い罪でなし。機嫌が悪かった故。
逞しき腕が水面で横たわる少女の腕を掴み上げようとする。
■ジーナ > 刹那、己の方が彼に見惚れたのだと思う。
繰り出した言葉遊びは無意識に、己自身の揺らぎを誤魔化す為のものだったのだ、と。
けれど勿論、今更それを相手に悟られる真似はすまい。
己の言葉が、表情が、相手を不快にするというのならそれでも良い、
それで会話が物別れになるのなら、それまでのこと、と―――
「きゃ、っ―――――!」
父の威光が届く範囲で、己に手を挙げる者など居なかった。
だから完全に油断していたのだ、振り返った男の腕が思ったよりも素早く動き、
想像以上の力でもって腕を捉えられ、強引に吊り上げられて、
バランスを崩した体躯が派手に水面を乱す。
打ち乱れた長い髪を、濡れた肌に纏いつかせながら。
ほんの一瞬、零れ落ちんばかりにルビーの瞳を見開いたものの、
――――すぐに、深く寄せた眉の下から鋭く、彼の面を睨み上げて。
「無礼を働いたから、なんだと言うの?
身の程をわきまえるのは、いったいどちらだと思って、この…―――」
人間風情が―――――
そのひと言だけは、辛うじて飲み込んだけれども。
にわかに紅潮した頬、凛と煌めく瞳、上がる体温、跳ねる鼓動。
必然的に近づく距離が、彼の鼻先へ甘い香りを届けるかも知れないが、
―――それを芳香と捉えるか、危険な兆候と見るかは、彼次第、である。
■シド > 「無礼を働いたら謝るのが当然だろう。
人としての常識すらないのか貴様は。」
女性には手を上げない主義……だから水面で優雅に寝そべる肢体を吊り上げるのみ。
身長差故に地に足も付かぬ少女は、身を振りほどこうととしても万力の如く細腕を握る大柄な手からは逃れられない。
肉体以外の抵抗が無ければ――
同じ視線の高さに軽々と持ち上げ今度こそ明白に険しい眼差しで寄せる。
「どこぞのご令嬢だと思うが言葉遊びも礼儀もなにもなっていない。
父君が今の君を見られてどう思うことやら。
――そしてここの治安の悪さは知っているだろう。」
眺める眸が細められる。無意識だといえど雄を誘うような痴態と香りに。
欲情というよりは呆れと侮蔑を綯い交ぜに。
間近にて不躾に見つめ言葉の数々ぶつけられた後は睫毛伏せて半眼にと思慮に及び。
「……幼いご令嬢に男への礼儀を教えてやるのも一貴族としての役割か。
さて、どこまで君が私をそそるかわからんが。その生意気口は叩けぬようにしておこう。」
抵抗せぬならば持ち上げた腕を捻り上げて背筋に回し。プールサイドから近くの休憩所にまで連れ込もうとした。
■ジーナ > ―――勿論、己に“人として”の常識など、ある筈も無い。
しかし流石にこの状況で、そんな屁理屈を捏ねられるほど強心臓でも無かった。
掴まれたとは逆の手を彼の手首の辺りへ伸ばし、掴み返して引き剥がそうとしても、
男の腕はびくともしない、どころかますます不安定な高さへ吊り上げられて、
間近に剣呑たる眼差しを突き合わせることになる。
―――――ひゅう、と無意識に喉が引き攣れたような音を立てたが、
それが己の、彼に対する怯えの発露だなどと、気づくゆとりも無い儘に。
「お父様がここにいらしたら、こんな真似、許す筈が無いわ…!
貴方なんて、あっという間に……、
――――― ぃ、たい、離して、離しなさい、っ……!」
掴まれた腕を振り解けぬうち、捻り上げられて苦痛の声が零れる。
身を捩って抗おうにも、身長差、体格差、膂力の差、何もかもが圧倒的に不利。
いたずらに関節が軋むばかりで、痛い目をみるのは己の方でしか無く。
婀娜な香りが更に強く、彼の鼻腔を擽るのは、己が怒りに我を忘れているからか、
あるいは初めて感じる種類の感情―――恐怖、に、身体が防衛反応を示しているものか。
どちらにしても、男の腕に捕らえられた己が、そこから逃れ出る術は無い。
甘く、絡みつくような香りを振り撒きながら、彼の思う儘、何処ぞへと連れ去られて―――――。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からシドさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からジーナさんが去りました。