2023/06/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクレイドルさんが現れました。
クレイドル > 貧民地区。広場。
空は暮れなずんでいる。透き通った青色が茜色に変色しつつある境目の時刻。
誰の私有地かも曖昧な敷地には火が焚かれている。
毎週恒例で催される、恵まれざる人々への炊き出しの為だった。
食事で関心を引いて勢力を広げようとする新興宗教団体と、今日明日の食事に在り付く為ならば鰯の頭でも拝む貧民の利害は一致し、場は大分盛況な様相を呈している。

「さあ、こちらを…神の御恵みですわ…♪」

そこで、当たり前のように提供側に与して労働しているシスター服の女の姿が有る。
周囲の関係者達もあの人は誰?という疑問を最初こそは抱いていたが、多忙にかまけている内に貴重な働き手という事で気にしなくなっているという背景となる。
今は石を積み上げ、廃材を薪にした竈で煮炊きをしている鍋の前に立ち、行列を成している人々に食事を与えている真っ只中。
メニューは安い燕麦を脱穀したオートミールを主菜として、野菜くずや野草とゴッタ煮にして塩で味付けした粥となる。
決してお世辞にも美味しいと言えるような代物ではないが、腹を満たして栄養を摂る事が出来れば良い人々にとっては十分だと言えるだろう。

クレイドル > 「貴方の今日と明日にご加護と祝福が在らん事を…♪」

にこやかな愛嬌と物柔らかさは老人から、小さな子供相手まで平等に接する。
食事をするのも難しいような病人相手には、配膳だけではなく食事を介護し。
心の余裕が無く人間関係の軋轢から生じる小競り合いなどのトラブルの仲裁に入り。
団体側の思惑に乗って信仰を知らぬ者達に祈りの言葉と神の名前を刷り込み。
甲斐甲斐しく方々にへと世話をして回っている。

「御匙は、このように持つんですのよ?ほら、これなら御粥を零さずに食べる事が出来ますわ」

貧民たちの教育水準は当然ながらに余り高くは無い。
食事の作法すらも知らずに汚い食べ方をしている子供相手に食器の使い方を手取り足取りで辛抱強く教え。
時にはただ与えるだけではなく、環に入り込んで、同じ粥の椀を手にして食事の団欒に興じ。
するりと人々の懐に滑り込もうと身骨を砕いている様子も窺えた。

クレイドル > そして少しでも互いの信頼関係を築いた所で、更に踏み込んで行く。
さりげなく周囲に他の団体の関係者の姿が乏しい立ち位置となり、相手が炊き出しの食事だけでは不足していると見込むや否やに。

「…ところで、お食事が物足りないとは思いませんこと?わたくし達の団体は清貧を心掛け、贅沢品は節制している為、提供出来るものが限られておりますの」

そっと耳打ちをして、誘い掛けるかの様な。
ペテンを得意とする人物の目からすれば、いっそあからさまに下心が透けて見えているだろう。
仮面を張り付けたような柔和な笑顔や物腰は、不自然な程に心の振幅の兆しすらも無い。

「でも、あくまでも団体としてならばで在って。個人ならば、また別ですのよ?肉や魚、必要ならば嗜好品としての酒の支度が実はしてありますの…勿論、タダ程怖いものは無いと言うでしょう?別口で少しお仕事をして頂く事になりますが…♪」

釣り針のついた饒舌な言葉にかける。
そのようにして、屯する誰かを引き上げ、この敷地の外側にへと連れ出そうとしていた。
この一帯だけを見渡しても少し外れただけで、人目がつかなくなる様な場所は数多く在る。
壊れかけた家屋に挟まれた路地裏や、建造物の物陰などは人攫いの仕事場としては絶好の領域となる。
見えているトラバサミを踏むような愚か者は居ないと笑う人間も居るかも知れない。
だが、そのような賢明さが当然ならば、この世に詐欺が横行する訳も無い。

クレイドル > 「ふふ…損はさせませんわよ。共に素晴らしい一時を」

そして獲物が一人掛った。
連れ添って場を離れて行く者達に意識を傾ける者達は乏しい。
群からはぐれた獣は大抵が狩り取られる定め。
陰にへと消えて行く誰かが次の日からいなくなっても、精々が軽く噂に昇って消える程度。
仲間としての繋がりが堅いコミュニティなら兎も角も、これが当たり前の事となる。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からクレイドルさんが去りました。