2023/06/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にサリスさんが現れました。
■サリス > ビュオ――!
鋭く吹き抜けた、一陣の強い風に目を細めた。
風切り音が鼓膜を震わせ、髪や制服の裾が夜風の方向に引っ張られて、舞い上がってはふわと落ちる。
そんなどこか湿っぽい水無月の、暗がりに満ちた夜も更けた帰り道。
「………遅くなってしまいました……」
思わずぽつりと呟いてしまうのは余りに辺りが静まり返って、街灯も少なく宵闇の深い、不安を煽るような区域だったからかも知れない。
夜光も届かず、そこかしこに闇が溜まる人気のない路地で脚を速める。
暗がりに潜んで何がいるとも知れない。
関わり合いになるのを忌避するように、速足で行き過ぎようとしていた、その時。
「―――……」
不意に路地の向こうで、影から浮かび上がってくるように現れる人影。
こう人気のないところで何がしかに出くわしてしまうと、反射的にぎくり、と肩を揺らして反応してしまい。
「…………」
一瞬踵を返そうとしたが、街中なのだから誰かは通るだろう。ただの人影だ。
何事も起こってない内に引き返すのは尚早であり、ここを通らねばかなり遠回りをしなくてはならず、帰宅が遅れてしまうと判じて、やり過ごそうとすれ違いかけた、その時――
■サリス > すれ違う瞬間、無意識に一瞬身構えてしまったが。
す、と何事もなくその人は通り過ぎた。
「…………」
往々にしてそういうものだ。取り越し苦労だ。
若干の安堵を覚え、僅かな緊張を解いたが。
「…………?」
すれ違ってから、ややあって。一度は遠ざかったはずの足音がまだ響いていることに気づき振り返ってみると。
「…………!」
先程すれ違ったはずのその人物が途中で踵を返して反転し、こちらの背中について来ていた。
これは、と危機感を覚えさらに脚を速めると、やはり背中越しに距離を埋めようとしている気配を感じ。
「―――!」
ダッ、と強く地を蹴って駆け出し始めた。
走れば背後の人物も引っ張られるかの如く追いかけてきて。
薄汚れた暗い路地に追う人影と終われる女学生。
っはあ、はあ、と息せき切らして振り切ろうとするが、
(不審者の癖に健脚とは――…!)
忌々しいことに存外脚力優秀らしく簡単に撒けず、いつしか汗して全力疾走で逃げ惑うが……
「―――っ!!」
予想以上に早くその一瞬は訪れた。
視界の天地がぐるんと大きく逆さになり。
路傍に引き倒されたらしく、背面にどん!と強く打ち付ける衝撃が走る。
何が起こったのか瞬時に理解は追いつかないまま、喉奥から脊髄反射的に突き上げられた悲鳴が路地に響き渡った。
■サリス > 自分の声か、と発した本人さえ疑うような高く切な叫び声。
馬乗りになるその人物の顔は薄い逆光で黒く塗りつぶされて、まるで悪夢の中のように現実味がなかった。
投げ出されて鞄の中身が飛び散る様がスローモーションで目の端に映るのも、誰かの下で押さえつけられて足掻くのも何故か他人事のように見えるが。
しかし、暴れ藻掻くそれは悪夢のような現実で。
引きちぎられるような濁った悲鳴と、どたばたと響く打音、ばし!と頬を張られて響く乾いた音が生々しく路地に満ちていたのだった――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からサリスさんが去りました。