2023/02/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
ドラゴン・ジーン > 王都マグメール。夜の貧民地区の一角となる。出鱈目に乱建造を積み重ねた安普請の家宅は、下手糞な積み木のようだ。今にも瓦解寸前に見えながらも、寄り添い合う様にして奇跡的なバランスを維持している。その奇妙な形の屋根や、窓と窓を繋ぐ紐に吊るされる洗濯物のアーチが。あたかも家家で出来た森林、晴天の空を塞ぐように切り取り、遮光された街並みを暗く醸していた。
饐えた臭気、古びた葡萄酒のような。軒先や窓辺に飾られた怪しげな光が暗がりを照らして視野を拡げて客人を迎え入れる。その妖しくも芳しき芳香が場に蔓延っていた。その淫売窟の片隅において奇妙な光景が織り成されている。種族を問わぬ数多くの女達で賑わっていた、それだけならばさして驚くべき事でも無いだろう、何故ならば此処は前述通りに淫売窟なのだから。
だが、その顔触れが一風異なっていた。どの女も例外もなく、見目麗しい顔立ちのように窺える。貧民窟の住民とは思えぬ程の栄養の良さ、豊かな乳や尻、艶やかな髪の質、その肌の絹の如き肌理細やかさたるや…あるいは街中の何処かで見たような顔すらもそこに混在しているかも知れない。その多くは淫蕩の蜜を道行く人々に振り撒いて、申し訳程度の布切れしか身に着けていない扇情的な衣装に包んだ蕩けるような柔らかさの肢体を擦り寄らせ、糖蜜さながらの媚びた囁きを持って、あるいは蛇のようにくねる腕を回し、その巣窟となる家の中にへと隙あらば招いて導き入れようとしている。

「………」

その全てが分化させた己自身の端末だ。剥き出しの土壌が曝け出されている貧民地区の土地に菌床が如くに植え付けられた黒い粘液質は、この街に長らく根付きながら観察して来た特に美しいと評価される女達を模倣し、あるいは混ぜ込んで姿形を築き上げてコントロールしていた。子実体として構成された端末達はいわば粘菌で練り上げられたキノコのようなものだ。
しかし、柔らかさも、放つ芳香も、身に宿している温かさ、その悉くは全て完璧無比に『本物』と瓜二つに擬態化済。そして操り人形のように使役する事によって、こうして道行く人々を誘惑させていた。無論においてその目的は遺伝子を回収する事であり、また、遺伝子を植え付ける為でもある。

ドラゴン・ジーン > 「………」

『疑似餌』は彼処に放ってある。中には『悪漢などに襲われて窮地に陥った所を助けられ』、または『落としものを拾ってくれた』、『道を教えてくれた』など何でもいい。街中で繰り広げられていた美人局の手口を模倣し、縁を結んだ対象を男女を問わずしてこの場所に引き込もうとしている者達が働いている。
黄色と桃色の声と息吹の津波。姦しい、などと言う言葉でも最早不足している。人間、エルフ、ドワーフ、ミレー種、魔族、他様々な異種族達、体つきも極端なまでの爆乳爆尻からなよやかな細い子供同然の身形まで自由にして自在だ。形作った疑似的な肉の海に囲まれ埋もれこんでいる犠牲者がまた一人、理性を食われ、あるいは押し切られて対抗しきれずに、家の中にへと引きずり込まれていった。
…内部で何が起きているのかは、まだ外に居る者達には解らないだろう。絢爛にして煌びやかな装飾を施された、貧民地区に場違いな建物はそれ即ちは竜の寄生し、擬態した胎内そのもの。周囲に吹聴され、喧伝されている長閑な噂の内容は、物好きな富裕地区の金持ちが魔宴(サバト)を催している程度に伝わっている。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からドラゴン・ジーンさんが去りました。