2023/01/30 のログ
■クレイ >
いかにも真面目な挨拶を受ければケタケタと笑う。
「気にするな。俺は依頼を受けて来てるだけだからな。仕事よ仕事」
そうは言うが、炊き出しの護衛というのもあって本来の彼に比べればかなり安値で引き受けてはいる。
貴族の話が出て相手が顔をしかめれば。
「なんか、大変だったんだな……ああ、気にせず食え。別に俺の分は俺の分であるしな。ただ、腹が減ったってよりは眠たい感じだったな」
なんて少しだけ弄るように笑う。
だけど手は差し出したまま彼女に渡すように。
「食ったまま寝て喉に詰まらせるなよ」
そう言いながらも、鼻を少し動かして周囲の匂いを嗅ぐ。
誘いの妖花、それの効果として非常に良い香りという形で表れていた。とはいえ、まだその出所まではしっかりとつかみ切れていない様子だった。
「でも、あれだぞ。さっき協力してくれたみんなのお陰とか言ってたけど……お前も頑張ってんだからそれを忘れてやるなよ。まぁ、そうだな。でもたぶん自分で自分をほめるなんて難しいだろうし。そのお菓子が俺からの褒める代わりってことで。他にしてほしい事ありゃ出来る範囲なら叶えてやるよ」
しかし確実に魅了の効果は出ているらしく。かなり甘目の対応になっていた。
■ミュゼット > 「え? み、見てたんですか…?
うぅ、ちょっと気が抜けちゃっただけで……」
人前で欠伸はしていなかったはずだけれど、眠そうな顔を見られていたと判ると恥ずかしそうに顔を隠し。
教会関係者の手前、普段以上に気を張っている部分もあって、そういう意味でも疲れている。
だから、身体が甘いものを欲してしまうのも、当然と言えば当然で。
「―――お言葉に甘えていただきます。
って、そんな子どもみたいなことしません!」
素直に受け取った包み紙をいそいそと開いている少女を揶揄うような言葉に、ぱっと赤くなった顔を上げ。
普段から無意識に身に纏う奇跡は、人から親切にしてもらいやすいだとか、困ったときに助けて貰えるだとか、そんな効果がある。
そしてそれは力を使えば使うほどに、それに比例して効果を増していく。
今日は炊き出しばかりで、奇跡を使う機会がなかったから、他者の好意を促す程度のもので。
口の中に放り込んだお菓子の甘さに、綻んだ自然な笑み
魅了の効果があれば、それはどう映るか。
「でも、言い出した私が頑張るのは当然のことですし……。
むしろ皆さんには、私の我儘に付き合わせてしまった、とも言えますから。
―――ご褒美までもらえて、幸せです。これ以上、望むものなんてないですよ?」
自己肯定力の低さを露呈しつつ。
けれど褒めてもらうのは嬉しいらしく、「えへへ」と年頃の少女らしくはにかんで見せる。
ただ「他に」という言葉には、ふるふると首を振り。
「あ―――」
視界の端に何かが見えた。
そちらへと視線を向けると、傷ついた仔猫が蹲っているのが見え。
あたりも確認せずに、パッとそちらへと駆け寄っていき。
■クレイ >
「神父様に護衛しろって言われたからな。護衛対象はしっかり見ないと。だろ?」
なんて冗談めかして笑う。別にそれは間違いではない、見てしまったのは偶然だけど。
子供みたいな事という言葉には何かを含む笑いを見せる。まだ子供だろうと。
そして自分もポケットから取り出して口に運ぶ。
彼女の笑顔を見れば釣られるようにこちらも少しだけ笑うだろう。
「まぁ、お前さんみたいなタイプはそういうだろうなって思ったよ」
だからと一瞬頭でも撫でようかと思ったが、その直後動く彼女の目線。
それを追いかければ傷ついている仔猫。
「……怪我してんな、でも子供ってことはたぶん近くに……っておい!!」
辺りを見ずに走り出す少女を見て魅了も何も無かった。仔猫が近くにいる、それはつまり親猫が近くにいる可能性があるという事だ。
予想通りというべきか物陰から飛び出してきた親猫。
「おっと、護衛役がいるから勘弁なドラ猫」
そのまま親猫を捕まえて護衛は成功。
引っかかれそうになりながらもなんとか腕の中へ。
「……教会の中に連れてくか? 流石に治療薬は持ってきてねぇし……後あんまり時間かけるとこの猫の爪か牙が俺に届きそうだから中に連れ込みたい」
教会の依頼だからそれは持ってきて無いと。そりゃそうだ。教会からの依頼だ、困ったら治療を受けさせてもらえると思っていた。だから今回はそれらは準備をしていなかった。
■ミュゼット > 「だいじょうぶ、もう、大丈夫だよ。」
どうやらお腹を空かせて炊き出しの匂いに誘われたらしい。
住民に餌を強請って無碍にされたか。
軽く追い払っただけのつもりだろうけれど、身体の小さな仔猫からすれば殴られたに等しいもの。
薄汚れ蹲った小さな身体を、服が汚れるも厭わずに抱きかかえ。
「主よ……傷つき、迷えるものに、慈愛の御手を賜りますよう――」
鈴を転がすようなソプラノで小さく紡がれる聖句
ふわりと柔らかな光が、少女の腕の中の仔猫を包み込む。
同時に甘い香りがほんの少し強くなる。
「これでもう大丈夫。お腹空いてるんだよね?
こっちはみんなが居るから、向こうでね。
―――親御さんも一緒に連れてきて貰っていいですか?」
よしよしと仔猫の耳を撫でながら、優しく話しかける。
「みぃー」と小さく返事する様子に、少女の方はすっかり魅了されてしまったらしく。
炊き出しを配っている鍋の方には、さすがに衛生上、連れてはいけない。
ならば教会の裏手に回って、何か食べるものを取ってこようと思い立つ。
傭兵の腕の中で、気を荒立てている親猫にも微笑みかければ、魅了の効果かたちまち大人しくなり。
■クレイ >
「…………ん、ああ」
彼女の起こした奇跡。それに伴い強くなった花のような甘い香り。それで香りの出所を感じ取った。
とはいえ、既に魅了を受けてしまっている自分では今更解除をすることは難しい。というよりそもそも魅了にかかっているとすら感じ取れていない。ただの魔力か何かの香り。そう思っていた。
「なるほど、神父様が護衛につけるわけだ。治療の奇跡……結構特別な力を持ってるみたいだな」
なんとなく大事にされた理由も納得して。
一緒に裏手まで歩いて行く。人込みから離れてしまえば魅了によって強められた邪な感情が顔をのぞかせる。
だが、流石に元々身持ちが固いシスター。その上まだ小さな少女。それをどうこうしようなど流石にそれが良い行いとは思えなかった。
「ほら」
裏手に回って親猫を離す。仔猫と共に猫は大人しく座っている事だろう。
男はクルリと背を向ける。
「こっちに人が来ないか見張ってる。早く猫の分の飯取ってこい」
そう言い放つ。しかし、先ほどまでは魅了のお陰で甘目の対応になっていた。でも今は邪な感情を抑える為に少し距離をおくような、突き放すような。不機嫌なような。そんな言い方になってしまう。
それが彼女にはどう映るだろうか。
■ミュゼット > 教会の裏手に回れば、そこはゴミ屋敷もさながらのありさまだった。
まだ綺麗にされた表の広場と異なり、ごちゃごちゃとガラクタが積み上げられている。
それでも有用なものは住民たちの手で運ばれているだろうから、ここにあるのは本当に何の役にも立たないゴミでしかなく。
「ありがとうございます。
たしか炊き出しに使ったお肉の切れ端くらいは残ってたはずなので。」
ひとり納得している様子の傭兵が見張りを買って出てくれるのに甘えて、
ててて、と教会の裏口へと消えていく少女。
ややぶっきらぼうなその物言いには、普段なら怯んでしまったかもしれない。
けれども今は、言葉が通じているのか、逃げる素振りも見せずに、大人しく座って待つ猫の親子に注意が向いていて。
程なく戻ってきた少女の手には、干し肉がひと切れ。それとミルクの入った小さなお皿が携えられており。
「ほら、お食べ? 美味しいよ。」
野良猫への餌やり厳禁などという不文律は、少女の辞書にはない。
満面の笑みを浮かべて、干し肉に齧りつく親猫と、ミルクを懸命に舐める仔猫を見つめる。
しゃがみ込んで猫たちを覗き込む少女は、深いスリットからすらりとした腿が露になっているのにも気づいておらず。
「見張りありがとうございます。
もう大丈夫なので………えと、もしかして猫が苦手だったり、されますか…?」
戻ってきても、距離を置かれたまま。
先程までの対応との違いに違和感を感じて、はたと思い当たることを口にしてみた。
でもさっきまで親猫を抱きかかえていたような、としゃがんだままで首を傾げ。
■クレイ >
正直、ここまで感情が揺れる時点でなんらかの効果があの花のような香りに含まれていることは理解していた。
とはいえ、神父に護衛を依頼された。その時点で離れるわけにもいかない。ここで離れて彼女に何かあれば傭兵として恥も良いところだから。
だから突き放してやり過ごそうとしたが、どうしても目線は彼女を見てしまい。スリットから見えている足を見てしまったりするが。
「別に、そう言う意味じゃねぇ」
話しかけられればやはりというべきかプイッと目線を外に向ける。
それはやはりというべきか不機嫌そうなままに見えるだろう。
「終わったんならさっさと表に行くぞ。あんまり裏にいると何してんだってなるだろ」
人の目があれば流石に自制心が働く。
この場所が不味い。襲おうと思えば簡単に襲えてしまうこの場所が。
今度はこちらが不注意を働く。周囲を見ずにさっさと歩こうとした結果、ゴミから突き出していた棒で手をひっかいてしまう。
「ッ」
一瞬それに反応する。鋭利な物で引っかいた右手の甲には傷が出来ているが。それを誤魔化すようにそのままポケットにねじ込んで歩き出そうとしてしまうだろう。
■ミュゼット > 「………?」
何か気に障るようなことをしてしまっただろうか。
目も合わせてくれなくなった相手に、ちょっとばかり淋しそうな表情を浮かべる。
それでも確かに相手の言うとおり、いつまでも休憩しているわけにもいかない。
名残惜しくはあるけれど、猫の親子に別れを告げて、立ち上がる。
「え? 大丈夫ですか!? 怪我されたんじゃ……」
さっさと前を行こうとした男の手が瓦礫から突き出た木材にぶつかったように見えた。
さすがに骨に影響はないだろうけれど、打撲くらいになってもおかしくはない勢いで。
後ろから駆け寄ると、その手を取って。
「やっぱり!
血が出てます。ちゃんと手当てしないと、化膿しちゃいますから…!」
化膿するだけならまだしも、破傷風にでもなったら一大事だ。
相手の許可も取らずに、先程と同じ聖句を口にする。
ぽぉ…っと白く淡い光が、その手を包みこみ、匂い立つような花の香りが立ち込める。
■クレイ >
「この程度怪我に入らねぇよ。弓矢喰らって初めて怪我だって……お……い」
手を取られて、抵抗できないのはやはり魅了のせい。出来ないというよりしないが正解だ。体が本能的にそういった物を切り離してしまっている。
治療を受ける間も大人しく。その光を見ていた。だが香りは強くなる。
「……ホント、勘弁してほしいぜ」
そう小さい声でつぶやいてしまう。
傷は確かに治るだろう。だが、表情は少し浮かない。
この距離、そして触れられたままで香りが強くなってしまえば抵抗は出来ない。
「……少し、最低な事をする。たぶん、今の俺ならお前なら逃げられるだろうから。嫌なら逃げろ」
今は彼女に対して抵抗するという感情が消えてしまっている。拒絶されれば大人しく下がるかもしれない。そう自分で思ったからこそそう言う。
治療がおわったのち、そのままグイッと手を引き寄せる。もし抵抗しないならそのまま抱きしめられる形になるだろう。
傭兵らしい力強く、だが彼の本性らしい優しい抱擁で。
■ミュゼット > 「きゃっ!? え? ど、どうされたんですか…?」
不意にぐっと抱き寄せられる。
思わず小さな悲鳴を上げてしまうけれど、そこに怯えた色がなかったのは、それが強引ではあっても乱暴なものでなかったから。
けれど、その言葉の意味が理解できずに、相手の腕の中、戸惑う表情で見上げるようにして問いかける。
人気のない物陰で抱き合う二人のその後を知るのは、猫の親子だけで―――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からクレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からミュゼットさんが去りました。