2022/12/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
■ドラゴン・ジーン > 土砂降りの雨音が聞こえた。夜の天蓋は完全に暗雲に覆い包まれ、そこから降り注ぐ雨滴が地区の一角を満たしていた。排水施設が整ってはいない土壌周囲があっという間に泥濘となり、土が吸い切れない流水は川の如きに区画の一部に氾濫している。
雨具も無ければこの寒々しい冬の季節に水に濡れる事は容易に死の足音を呼び招く事になるのは間違いなく、街中を出歩く足音も殆ど聞こえて来ないのは、当然ながらに多くの街人達が雨宿りに屋根の下にへと引き込んでいるからだろう。
この場所なども雨を凌ぐには悪くはない。誰が権利を所持しているかも定かでもなく、手前勝手に乱造されるあばら家は最早誰のものという訳でもなく。這う這うの呈で逃げ込んで来た野良犬や野良猫の類も、今は一つ屋根の下で一時的に休戦の構えで身を休めている。
黴も生えない程の冷ややかな大気の中でじんわりと水と埃の匂いが蔓延している。木板を張り巡らされた床面はとうに腐っており、月星の明かりも分厚い雲に遮蔽された暗がりの中では、下手をすれば踏み抜く落とし穴のトラップにも等しい状態だ。
そして、そこに一体の怪物が混在していたとしてもおかしい話ではない。
■ドラゴン・ジーン > 「………!」
過剰な水分を抜く為に全身を打ち震わせ、雑巾を搾るかのようにして排出した水滴をびしゃびしゃと周囲に撒き散らす。雨晒しにふやけきって粥仕立ての如きと成り果て、一歩進む為に膝が砕ける程柔らかくなっていた肉体は水を抜いた分だけ寒天ぐらいの堅さを次第に取り戻し、しゃんと四肢を張って自重を支える事も今では出来る。
絶妙に互いに距離を取り合って牽制している、街に住み着く野生動物の群を見回しながら、立ち入る歩みは内部奥の目立たぬ陰りの中にへと踏み込んだ後に、ゆっくりと体躯を伏せ込むようにして座り込んだ。
「………」
ぬばたまの闇夜の中に朧気に輝く触角の燐光が、辺りの様子をぼんやりと窺っている。今もこの家屋の外側では突然に見回ってきた嵐のような風雨が暴れ回る音が聞こえ続けていた。寧ろ吹き付けるその勢いたるや、今も身を隠しているこの建物をぐわんぐわんと揺すりっぱなしだ。今にも倒壊せんばかりの軋みが彼処より聞こえており、その家鳴りの都度にぽたぽたと雨漏りの雫が中にまで垂れ零れて来ている。
■ドラゴン・ジーン > 「………」
過行く時間の概念すらも曖昧だ。普段ならば聞こえる賑やかしさも雨音に殆ど掻き消されてしまっており、荒れ狂う天候の気配しか届かない。皆々じっとしてこの時間をやり過ごしているばかりなのだろう。
ただ、何もしない、という訳ではない。
伏せの姿勢となっている肉体を中心にしてじわじわと蜘蛛の巣のように黒い粘液は糸のように細く無数に分化しながら床を這い、屋台骨となる柱の周囲にへと巻き付いて家の要所にへと拡散する。梁の上にまで黒い粘液質のぬめりをまるで漆喰のように押し込んで補強して回り、少しでも身を隠している此処が壊れてしまわぬように支えている。
もしも明かりを持った誰かが此処に足を踏み入れたならば仰天するに違いない。まるで真っ黒なインクをぶちまけたが如きに四方八方に展開する粘液の浸食が家の内装を蝕んでいるのだから。
ぎし、ぎし、と、周囲では水や風の流れの中に呆気も無く崩れる居宅の気配も感じる中で、この宿り場においては拮抗するかのように堪えている。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からドラゴン・ジーンさんが去りました。