2022/11/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にアッシュさんが現れました。
■アッシュ > この地区に幾つか並ぶ娼館街のひとつ、その通りの入り口辺り。
脇道の壁に寄りかかりながら行き交う人々を眺めている、どこにでも居そうな平凡な中年男が一人。
そそくさと足早に通りを横切る者や、満面の笑みと共に二人連れで通る者、或いは客引きに纏わり付かれている者、それらの様子をそっと陰から観察している。
「どうもここに現れるらしい、と言う情報で張ってはみたが……」
娼館街と言うのに、視線を向けるのは行き交う男達の方、何やら人探しでもしているようだ。
数刻この場に張り付いていたらしく、成果が出ずにいるのかため息混じりにぶつくさ呟いて。
■アッシュ > 「偽情報だった、と言うヤツか。全く……こんな場所でただじっと待ってるってのは割に合わんね」
仕事柄、じっと数刻ただ待っている、などと言うのは慣れてはいた。
が、楽しそうに娼婦達を物色したり声を掛けられたりしている者達を何組も視界の端へ見ていれば、面白い気分ではない。
そろそろ張り込むのには見切りを付けて、ひと遊びでもして行くか?などと考えもするが。
いやぁ、金を払っておいてその気になれなかったりすれば、ただ疲れるだけだ、と苦笑いする。
互いにどうも乗り切れないなんてのはなんとなく分かってしまう事もあるもので、そういう時の気まずさを思い出せばなかなかに、よし買って行くかとは思えない。
■アッシュ > 今日の調査はここまでにしておくか、と諦め混じりに一息吐けば、気が緩んだのと同時に少々腹が減ったような気もしてくる。
自前の干し肉がまだあった筈だと携行袋を漁ると、数切れある中から一切れをつまみ出し、ひょいと口に放り込む。
もごもごと塩気を味わっていれば、寄りかかっていた壁の、張り出した装飾石の上へひらひらと舞い降りる虫のような何か。
「お、戻ってきたか。やっぱり居ないだろ?――いや、お前は干し肉なんか要らないだろ……」
頭上のそれへ話しかけると、すぐに呆れたように肩を竦めて笑っている。
男のすぐ目前へひらひら降りてくるそれは、小さな妖精の姿。腰に手を当て怒っていますよと言うような仕草で羽ばたくのを、伸ばした掌の上に降り立たせ。
■アッシュ > 「わかったわかった、後で新しい香料でも買ってやるよ。なんでこうワガママに育ったかねぇ」
別に自分が育てたと言うわけではないし、元からそういう調子らしい小妖精。
そもそも遺跡から掘り出してきた魔法の自動人形、と言うことを考えると場合によっては自分より遥かにおばあちゃんな可能性もあるのだが。
兎角、子供扱いされてまた何かぷりぷりと怒っているのであろう様子をけらけら笑って。
本日成果無し、の張り込みに辟易気味だった所を、小さな相棒のおかげで笑って済ませられる。
依頼の関係で話す事務的な内容以外にはなかなか他人と触れ合う機会も無い寂しい人生の中で、そういう所は、延々とたった一人で居るよりいいのかね、とつい思ってしまうのだ。
■アッシュ > で、ホントに食う気なのか?と小さめの切れ端を取り出し見せてやるが。
勿論、干し肉どころかそもそも食べる機能が存在しないし、必要性もない。ぷい、と顔をそむけてくるのをまた笑いながら、取り出した切れ端は再び自分の口の中へ。
「食わないくせに、俺が何か食ってると毎回文句言って――」
途中まで笑いながら言っていたのが、ふと唐突に真顔になる。視界の隅に捉えた、通りを横切る痩せ気味の男の姿を目で追って。
……おい、と小妖精に目配せすれば、懐から人物像の描かれた紙を取り出し、見比べる。それはたった今通っていった姿とよく似ている。
「一旦戻れ、フィー。状況次第ではまた呼ぶ」
その声に、くるんと膝を抱くように丸まる小妖精は、すっと彫像のような色に変わって動かなくなる。
それを懐にそっとしまい込むと――行き交う人々のこちらを見る視線が途切れた一瞬で、男はその場から煙のように消えている。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からアッシュさんが去りました。