2022/10/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」に紅刃さんが現れました。
紅刃 >  薄暗く汚れた貧民地区の、更に暗く狭い路地裏。食堂の勝手口から現れた女がドアの向こうの人物に頭を下げ、ゴルドの入った袋を懐に収める。100ゴルドの給金は、貧民地区で飢えずに暮らせる最低額と言えるだろう。
 その気になれば、何とか暮らしていける。そんな絶妙なバランスが保たれているからだろうか。貧民地区に住む住民の間には、湿り気を帯びた重苦しい無力感が立ち込めている。人間、追い込まれなければ一念発起など中々出来ないものだ。たとえ貧民から抜け出せないことで様々な災難にあったり、あくどい金儲けに利用されたとしても、である。

「……」

 食堂から出てきたこの女もその1人と言えるだろう。血色の瞳はどこへ向けられているか判然とせず、ゆっくりとした足取りには焦りも、長閑な雰囲気も感じられない。ただ、生きているだけ。ただ、死んでいないだけ。
 清潔さだけは保たれている、物置のようなちっぽけな宿屋を目指し、淡々と歩を進める。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にリベルタさんが現れました。
リベルタ > こちら方面には色々と表には出回らない魔法の薬や道具が回る場合もある。そういった品物を目当てにここへ来たのだが、そんな帰り道にすれ違った1人の女性。その目に惹かれてしまう。
 生きているだけ、死んでいないだけ。その目にはどこか見覚えがあった。いや、いつしかの自分もあんな目をしていた。
 それを思い出して。思わず、その場で振り返って。

「こんにちは、今お時間大丈夫ですか?」

 なんて、この場所ではむしろ警戒されてしまいかねないような声のかけかた。
 それでも、その声はどこまでも優しく。危険などを感じさせえない程に澄んでいる。

「ご迷惑だったらごめんなさい……なんとなく1人というのも寂しくて。よろしければ少し食事でもご一緒しませんか?」

 そしてそういった目をした相手に同情を見せると反発される場合がある。だからあえてこちらが寂しいから付き合ってほしいと。そんな風に言って。

紅刃 >  声を掛けられた時、女は立ち止まった。無視して立ち去るという行為は、存外意思の力を必要とするからだ。通り過ぎたばかりの相手に背を向けたまま、言葉に耳を傾ける。

「……何ら取り柄なき端女ゆえ、お役に立てるかどうか」

 肩越しに振り返り、女にしては低めの声を発した。腰まで伸びる黒髪が顔の右半分を覆っており、それが白い肌と紅色の瞳を一層際立たせる。相手の問いに応えているようで応えていない微妙な言葉を返した後、その場で静かに佇む。

リベルタ >  
「お役に立てない、なんて思ったら声かけていませんよ」

 そう言って少し笑えば踵を返して隣へ。
 そして相手の顔を見れば。少し微笑み自分の髪を触る。

「同じ前髪ですね。後ろの髪は違いますけれど」

 こちらも赤い髪で右目を隠している。ショートカットなので肩辺りでこちらの髪は切っているが。
 それから考える素振りを見せる。

「この先に露店があるんです。結構美味しいんですよ。そこで食べましょう」

 なんて言って歩いていく。
 とはいえ、今日あるかどうか。露店なので無い時には無い。

紅刃 > 「は……」

 隣に来た相手に対し、僅かに視線を下げる。彼女の望み―勿論、「食事でも一緒にどうか」とは別の望みについて―に思いを巡らせていると、相手が歩き出した。

「私のような者と食事など、貴女様にご迷惑がかかるのではないでしょうか」

 貧民地区の露店で得られる美食など記憶にないが、それは普段から生きていくためだけの食べ物しか得ていないからかもしれない。あるいは、自分を別の場所へ連れていくための口実かもしれない。
 拒絶するのも煩わしかったので、女は彼女の後を追うことにした。斜め後ろに付いて歩調を合わせる様は、主人に仕える召使を思わせる。

リベルタ >  
「……」

 歩き方、セリフ。それらから誰かの下につく事に慣れていたのか。それとも、そうしないといけないような環境だったのか。
 どちらにしても警戒されているのだろうと。ではどうするか。
 これを仕事にしてしまえばいい。

「じゃあこうしましょう。私は寂しがりです。食事するのも1人は嫌です。なのでお付き合いください。チップは出します」

 迷惑ではないかと言われればそんな事を言って振り返る。
 そして微笑みを浮かべて。

「その後の事はとりあえずその後に決めましょう。そこでお別れでも、一緒に宿を取っても。どちらでもいいですから、ほらあそこです。本来はこの地区の人じゃないらしいんですけど残り物を捨てるのももったいないとかで格安でたまに売りに来るんです」

 と平民地区にほど近い場所。ハム等を適当に挟んだサンドイッチを売っている露店がある。
 そこでサンドイッチを2つ購入してひとつを差し出す。

紅刃 > 「それは……はい、承りました」

 振り返った相手と目が合った後、女は頭を下げた。その姿勢のまま短い間目を閉じ、貧民地区の路地裏を見つめながら小さく頷く。

「有難く存じます、ご親切な御方。……では、頂戴いたします」

 差し出されたそれはサンドイッチ。食べ物の種類自体は見慣れているが、普段食べているものと比べると新鮮さも大きさも全く違う。目を見開き、吐息を零し、口を付ける前に相手を見返した。

「美味しそう……柔らかくて、大きくて、良い匂い。本当に、私が頂いてしまってもよいのでしょうか?」

 口調こそ静かなままだが、声音が若干弾んでいる。

リベルタ >  
「むしろ、食べてもらわないと困っちゃいます。1人で2つも食べれないので」

 本当は別に食べられなくはないのだけれど、そう言わないと食べないだろうと。
 その後にフフン笑って。

「それに欲しかったらまた買ってしまえば良いんです。なので食べたりなければ言ってくださいね」

 そういってサンドイッチを食べる。
 元は平民地区、それもそれなりのお店のサンドイッチ。野菜もお肉もこの辺りに出回っている物と比べれば随分と新鮮で味も良いだろう。


「今少しうれしいんです。やっと少しだけ感情出してくれましたし」

 声が弾んだのを聞いてそんな風に笑う。

 

紅刃 > 「それでは……ん……」

 相手が食べたのを見た後、ぺこりと一礼して自分も口にする。挟まれた野菜はたっぷりと水気を含んでいて、良い塩梅で焼き上げられた肉には香辛料ともあいまって絶妙な絡みと塩気、そして何よりも旨味があった。口内に広がって鼻に抜ける風味に、目を細め頬を緩めた。

「美味しい! ……あ、申し訳ございません。騒がしくしてしまい」

 声を上げて相手に笑いかけた後、再び頭を下げ、頬を染めつつ少しずつサンドイッチを食べる。食べる速さの差を見れば、一口ずつ味わっていることが分かるだろう。

リベルタ >
「さっきよりずっと良いです。結構ひどい顔してましたから貴女」

 と少しだけ本来の目的を明かす。
 それが目的とまでは言わないけれども、そんな顔をしていたとだけ。

「私もそうですけど、そういう時には美味しい物を食べて気分を入れ替えるのが1番です! なんて、いつも食べれないのにするのは迷惑かなとも思ったんですけど」

 ちょっとだけ申し訳なさそうに笑う。
 今度からが辛くなる。それはわかっていてもどうしても何もしないという選択が取れなかった。道場と言ってしまえばその通り。だけど無視はできなかった。

「少し自己満足すぎますね。ごめんなさい」

紅刃 > 「いいえ……いいえ、そのようなことをおっしゃらないで下さい、親切な御方」

 淡く微笑んだ女が、ゆっくりと首を横に振った。

「私はこの街に、この地区にずっと独りで住んでおりますし、働いている場所も、住んでいる場所も、他の方と言葉を交わせるようなところではありません。ですからこうしてお声掛けいただいて、こんな美味しいものまでご馳走になって、本当に嬉しかったのです」

 普段の暮らしぶりからは想像もできないほど高価なサンドイッチを食べ終えた女は、両手を膝に触れさせて深く頭を下げる。

「改めて御礼申し上げます、親切な御方。……私でお役に立てることがあれば、どうか仰って下さいませ」

リベルタ >  
「そう言ってくださってありがとうございます。お役に立てる事……ですか」

 どうしても煩悩が出てきてしまう。
 だけど、彼女は話していた。独りだと。大義名分というのも変だが、少しだけ意地悪な質問を投げる。

「では、一緒に宿に行きませんか? この街でこういう事の意味は分かると思います」

 と、言ってからですがと付け加える。

「逃げ道を封じるのは嫌です。だからそうですね……ついてくるなら凄く貴女を甘やかします。凄く優しく愛します。それを受けたいなら来てください。これはお仕事じゃありません。私が望むのならという理由で来るのは無しです」

 と近寄って手を出して。

「貴女が来たいなら。私が受け入れる。そういうお話です」

 それが癒しになるかと言われれば人によるとしか言えない。けれども少なくとも自分が寂しさを埋めるのに使った方法はこれだった。
 だから同じ方法を彼女にも使えればと。だがそれを嫌う人もいる。だからこそ選択権を彼女投げる。
 貴女が望むのならと。

紅刃 > 「宿へ? ……それは」

 俯いた後、視線を彷徨わせる。意味は分かると思う、という相手の言葉には返答しないけれども、ある意味、この仕草で答えていることになるだろう。膝に触れていた手を後ろに回し、上目遣いに相手を見た。

「来たいか否かについては、自分でも分かりかねます。ただ、ここまでご親切にして頂けたのですから、そのまま立ち去りたくありません……それが、嘘偽りない気持ちです」

 そう言いつつ差し出された手を見つめ、もう一度相手の目を見遣った後、指先に触れた。そして口をつぐんだまま、一歩歩み寄る。

リベルタ >  
「わかりました、とりあえずはそれでも良しとしましょうか」

 流石にいきなり自分から来たいと思わせるのは無理だろう。だからとりあえずはこれで良しと。
 触れた指先を引っ張るようにしてキュッと手を握る。

「それじゃ、行きましょうか。良い宿があるんです」

 そうしてそこまでの道を手を引いて歩いていくだろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から紅刃さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリベルタさんが去りました。