2022/09/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 夜の訪れが、目に見えて早くなってきた頃。
夏の暑さも、真昼間の幾許かにしか残滓を感じ取れぬ昨今ともなれば、横着ものの妖仙とて街の徘徊を活発にしようというもの。
その一端として、猥雑な風情を求めて貧民地区に足を運んだのだ。
露店で安価で味の濃い、決して上品とは言えぬ軽食をぺろりと平らげて、色街に繰り出したのだが。
「ふむ…どこから見ても天は天よな。
聊か下が騒がしいのは否めぬが、喧騒とてつまみにするぐらいの気概があってもよかろう。」
夜空に浮かんでいる丸い月に招かれ、ぴょんっと安普請な家屋の屋根の上に。
人目に触れぬよう路地裏で跳躍したのは、少なくとも人間の子供の為し得る事柄ではなかったから。
両の手を互い違いに袂に突っ込んで腕組みをする風情で、人ならざる美貌を月光に晒して。
■ホウセン > 真に芸事に長じているなら、ここで詩でも吟じるのだろうが、そこまでのものではない。
人の営みに寄り添い、上辺を剽窃する道楽者でしかない人外なのだから。
故に、黒く大きな瞳に満月を映し、袂から煙管入れを取り出す。
煙草を詰め、指先に火気を集めて火をつけ。
ふっくらと柔らかそうな唇には不釣り合いな嗜好品を口に咥えるのだ。
「――ふぅ。
とはいえ、俗物たる儂の感性では、長く眺めていても飽きが来ようというものでな。
ちぃとばかり禊をした心地で、遊興に耽溺するのが相応しかろう。」
子供が大人を真似てする、形ばかりのものではなく、深々と肺腑に紫煙を吸い込んで、ふぅ…と。
煙の白味は濃い黄の月光に照らされ、染められ。
ゆっくりと立ち上り、端からそこに無かったかのように霧散していく。
酒でもあれば、もう少し屋根の上に滞在する理由になったのかもしれないが、如何せんこの辺りで手に入るものは、質が悪いか水で薄められているのが常だから。
口の端に煙管を咥えたまま、上った時と同様の唐突さで屋根の端から飛び降りる。
城壁や貴族の屋敷に比べたら微々たる高さとはいえ、備え無しでは只で済みそうにない。
が、地面に衝突する僅かに手前で落下速度は減速し、ふわりと音もなく軟着陸。
少なくとも魔術なり何なり、超常の力を発揮したと露見し得る振る舞いは、場面を選んで行うのが常の筈。
だが、今日、この夜。
無分別に、そして迂闊にも、着地点に意識を向けなかったのは、妖仙とて月に浮かされていた証左なのかもしれず。
路地裏に舞い降りたこの場にそぐわぬ子供の姿を、誰彼かが目撃したのなら――
■ホウセン > 無事、誰にも見られず地に降り立った人外は、そのまま色街に消えて――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からホウセンさんが去りました。