2022/09/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にサマエルさんが現れました。
■サマエル > 街灯の薄暗い路地裏、そこで目を閉じている少年が歩いている。
裕福そうな服に身を包み、歩き続ける少年は困ったように首を傾げる。
「いけません……迷ってしまいました」
最初は単純に、この国の地形を覚えようと適当に歩いていたが。
いつの間にか富裕地区から平民地区、そして貧民地区へと歩いてしまっていたらしい。
ついつい歩くのが少年は好きで、何時間も歩き続けた結果がこれである。
「ここ、どこでしたっけ……。今すぐ帰る必要はないですが……」
腕を組んで、しばらく考えた後。
その辺の長めの木の枝を手に取り。
それを立てた後、カタン、と枝が適当な方向に倒れる。
「よし、こっちに行ってみましょう」
と、その枝が倒れ方向の道へと、目的もなくまた歩き始めた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にメルルゥさんが現れました。
■メルルゥ > 走る。走る。息が切れても、限界が切れても走る。
胸に自分の愛しい子供を抱きかかえて走る。
バレてしまった。自分に子供がいることが、だからそれをネタに脅迫された。
だから脅してきた男の股間を思い切り蹴り上げて家にまで戻って、急いで我が子を抱いて走る。
後ろからは怒号と、下衆な愉しげな声が木霊して聞こえてくる。怖い。怖い。
もう、手が届く場所に男たちが来ている。
「はぁ……! はぁ……!」
そして、何度か路地を曲がって、見えてきたのは子供。
このままでは巻き込んでしまう、けれど、自分の子供と他人、どちらが可愛いかは明白だ。
だから、目の前のこどもには悪いけれど。と、思った所で、なびいていたフードを引っ張られ、お尻から倒れ込んだ。
「たす、たすけて……!」
この際なんでも良い。子供にだって、声をかけて助けを乞うて男たちの注意を金髪の見目麗しい子供へ向けよう。
自分が下衆だってわかっているけれど、どうにか我が子だけでも逃がす機会になれば、と。
「そこの少年! ごめん!」
けれどもし、彼がもし、戦えないのなら、意を決して見えている路地に逃げ込んで気を逸らそう。
そうしたら、彼は追われなくて済むはずだ。
子供は、土下座して見逃してもらえれば良いのだ。良心は、まだ残っていた。
■サマエル > 歩いている途中に、こちらに向かって走ってくる気配を感じた。
気配的に、二人、いや、その背後にも何人か……?
その走り方には余裕がないように感じるが、いったい何が起きているのだろうか。
そう思っていると、こちらへと話しかける。いや、助けを求める声。
「ど、どうしましたか?」
その助けを求める声についつい駆け寄ってしまう。
いったい何が起きているかはわからないが、絶対にろくなことではない。
それでも求められたらつい手を差し伸べてしまうのがこの少年であった。
すると、複数人のゴロツキらしき気配。こういう場所にもいるものなのだなと思ったが。
逆にこういう場所だからいるのかなと思って。
その者らは自分の方へと向くと、なにやら下卑た言葉をしゃべっている。
下品な言葉遣いに思わず眉をひそめていると、その助けを求めた者が駆けだした。
「……えいっ」
その人を追いかけるゴロツキたちに、足を引っかけて転ばせる。
「女性を寄ってたかって追いかけまわすのは感心しませんよ」
■メルルゥ > さて、優しい少年は応えてくれた。
駆け寄ってくるその少年の姿に心を痛めながら、残っていた良心をかなぐり捨てる。
この子のため、我が子のために犠牲になってもらおう。と。
そのまま少年の横を走り抜ける。と、背後で男の汚い声が聞こえ足を止め振り返って座り込んでしまう。
そうしたら、一人の男を転ばせたであろう少年の姿を見た。
本当は、このまま少年に背を向けて逃げるべきなのだろうけれど逃げられない。
疲れてしまって、足が言うことを聞かないのだ。
「……ぇ……」
嬉々心地の良い声色に、その言葉はまさに天使を見ているかのようで。
胸に抱きついている我が子を抱きしめながら少年を見据える。
激高したゴロツキたちは、ころんだ男を合わせて四人。
ころんだ男が立ち上がり少年へとガンをつける。
残っている三人も、少年へと詰め寄り罵声を浴びせるだろうか。
もう、引き返せない。ついにやってしまった、と罪悪感に苛まれながら見守ろう。
四人は少年を舐めきっているのか『殺すか売るぞこのガキ』と胸ぐらをつかもうと動くはずだ。
■サマエル > 胸倉を掴んだ男は、あまりにも少年の体が軽いことに気が付く。
見た目は小学生ぐらいだろうか。そんな少年の体は本当に軽く、片腕だけで持ち上げられそうなぐらい。
まぁ、そんなことを気にする者ではないだろうが、少年一人に凄んでくる男たちに少年は見上げて。
「汚い言葉ばかりですね。そこのお方があなたたちに何かしたんですか?」
そう聞くが男たちは生意気な態度に少年へと拳を振るおうとするだろう。
その瞬間、強い風と衝撃が男たちを襲う。
勢いよく吹き飛ばされた男たちは、壁や床へと思い切り体を叩きつけられ、痛みに苦しむ声があたりに響いて。
その中心にいる少年は、目が開かずともひどく冷たい視線を向けていた。
「大丈夫ですか?」
そして少年はゆっくりと振り向いて、座り込んでいる女性へと歩み寄って。
とても可愛らしい声で、幼い顔立ちはまだ少女だと思わせるが。
男性的にはまだ見えることから、やはり少年であるとわかるだろう。
「このような場所で子連れで出歩くのは危ないですよ。早くおかえりなさい」
と、優しく声をかけたのだが。
■メルルゥ > 本当にすごい光景を見せつけられている。
生意気な言葉に怒った一人が、拳を振り上げた瞬間だった。
その瞬間、自分を追い詰めていた男たちが吹き飛んだ。
その強い風に目を閉じ、収まったのを感じれば目を開けてみる。と。
「すごい……ぇ、夢?」
まさか子供が一人で成し遂げたとは思いもせず。
その身なりから護衛でもいるのだろうかとあたりを見渡してもいない。
なのであれば、目の前の子供、いや、少年が起こしたのだろう。
そうして、優しい言葉をかけてもらえた。
けれどその言葉は、精神的に追い詰められていた自分の、
母親としての資質を攻められていると勘違いし、激昂しかけるが、無理やり落ち着かせよう。
「あ、あはは……帰る場所も、ご飯も、毛布もないんだよ? どこに帰れっていうの?」
落ち着けたけれど、その言葉は、どこか棘があるだろうか。
我が子は、恐る恐ると彼に視線を向けどこかぼうっと「天使様」とつぶやいたか。
■サマエル > 帰ってきた反応に、少年は一瞬、眉をしかめる。
それは思わずイラついたからというわけではなく、不快になったからというわけでは。
……いや、不快になったのだろう。
口ぶりから察するにこの者はかなり追い詰められている生活をしているのだろう。
銭すら稼ぐのにも苦労して、帰る場所も寝る場所もないともなると。
どこかから逃げ出した奴隷かなにかだろうか、と思うが。
「ん?」
天使様、という言葉に思わず自分の頭に手を伸ばして。
気が付けば、先ほどの力を使う際に飛び出していたのだろうか。
頭の上には光る輪っかがあり、背中には小さな2枚の翼が出ていた。
「あー、しまった。ちょっと勢いよく使いすぎちゃいましたか……」
困ったようにそう言うと、こちらを見ているその者たち。
おそらくは、親子か、親であるらしい人が抱えている子供へと目を向けて。
「仕方ありませんね……」
コツ、コツ、と石畳の上を歩いてその者らへと近づき。
「帰る場所が欲しいですか?どこか遠い場所へと行きたいですか?
食事があって、温かい毛布があって、夜風を過ごせる場所へ行きたいですか?」
そう聞きながら、手を差し伸べて。
「そのためにあなたは、何を捧げられますか?
それを応えられるなら、どうかこの腕を……お取りください」
そう喋る彼の姿は、まさに天使のよう荷も見えて、同時に。
その魂を食らおうとしている、悪魔のようにも感じられて……。
彼女たちは、どう答えるのだろうか。
■メルルゥ > 助けてもらった少年に、こんな棘のある言葉を吐いてしまった。
こんな、こんな自分はもう、最悪の部類に入る人間だ。
助けてもらって、こんな言葉を吐くなんて人間として、奴隷としても終わっている。
不快になったであろう少年が眉をしかめる。
不快になって当然だ。恩人につばを吐いてしまったのだから。
けれど、その前に、少年の頭の上に浮かぶ光る輪っかに小さな二枚の羽。
それに目を奪われてしまう。
ああ、本当に天使様で、天使様にこんな言葉を吐いた自分は罰せられるのだろう。
次いで聞こえた言葉に肩を震わせ、石畳を歩く彼を震えた様子で見守る。
我が子だけは助けてもらおうと、口を開こうとした。
けれど、予想に反して帰ってきた言葉は――温かい、言葉。
「――……ぇ? そんな場所、に……連れて行って、くれるの…?」
手を差し伸べられる。
こんな事があるのだろうか。未だ信じられない。
けれど、この暖かな、けれど、悪魔のように冷酷にも聞こえる言葉
思わず、頷いてしまうのだ。
「わ、私を……捧げます! 一生の忠誠も捧げます……!
心も体も……どこだって捧げます……! だから、お願いします」
我が子も、何かを悟ったのだろう『ささげます!』と母親の言葉を真似して叫ぶ。
今はもう、暖かい場所、安心できる場所に行きたい。
天使でもあくまでも良いから――彼の、腕をしっかりと握った。
■サマエル > 握られたその手は、とても冷たく、傷ついていて。
その言葉を聞くとその悪魔は、天使の笑顔を浮かべて。
「ではそれを契約として受け入れましょう。僕はサマエル」
ぎゅ、とその手を少年の柔らかい両手が包み込んで。
その白い翼が大きく広がっていき、彼女たちを人肌温もりある翼が包み。
「では行きましょう。……そこがあなたにとって、望んだ場所になるかはわかりませんが。
その願いは、叶いますから」
そうして翼が少年すらも隠すと同時――――最初から何もなかったかのように、倒れ気絶しているゴロツキたちの姿しかなくなっていた。
■メルルゥ > 浮かべるのは、天使の笑顔。
その裏側は悪魔だなんて、わからないけれど。
この人になら全てを捧げられると、そう思ったのだ。
「サマエル、様……私は、メルルゥ……この子は、シシイ」
少年の柔らかい両手が、触れて涙が出そうになる。
これから、今よりももっといい場所へ行けるのだと信じて。
翼に包み込まれたのなら双眸を閉じ、身を任せよう。
「もう、貴方に身を任せます……サマエル様」
温かい翼が身体を覆いかぶさると同時、意識は、視界は別の所へと飛んでいた。
その話は、三人しか知らぬ話――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からサマエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からメルルゥさんが去りました。