2022/05/26 のログ
ヴィルヘルミナ > イェンがゾンビ2体相手にあっさりと勝利したころ、ヴィルヘルミナもまた特に苦戦することなく勝利していた。
1体のゾンビなど力は強かろうが、それ以外はゴブリン以下である。
構えや回避など何も考えていない両手を前に突き出すだけの姿勢で、
唸り声を上げながら走り寄ってくるゾンビを、ただただ両手剣の重量をもって袈裟斬りにする。
その瞬間、両手剣が纏っていた炎がゾンビの身体に移り、その身を猛烈な勢いで燃やしていく。

「ゾンビは燃やしたほうがいいわよ~?ただ斬るんじゃ臭いでしょうし」

腐臭に顔をしかめる友人の姿を見て、ヴィルヘルミナは笑う。
その時、暗闇の四方八方から悍ましい唸り声が響き渡る。

「……ま、これで終わりじゃないわよねやっぱ」

身体を引きずりながら歩く音が、周囲から二人に近寄ってくる。
腐臭を漂わせ、今にも崩れ落ちそうな腐り切った死体たちが、次々と二人のランタンの明かりに照らされる。

イェン > (最初の二匹をあっさりと斬り倒したイェンだったが、友人の方へと向けた紫水晶は軽い驚きに見開かれる事になった。彼女の向かったゾンビは、イェンが倒した二体とは異なる俊敏性を見せていたからだ。ここに埋められてから間も無い死体だったのかも知れない。全ての個体がゴブリン以下ののろまだと思っていると痛い目を見ることになるかも……。そんな風に己を戒めながら)

「残念ながら、私は火の魔術は扱えません。私に出来る事はこの四剣でただ斬る事のみなのです」

(死してなお身悶える活きの良い松明に留学生のしかめた美貌が照らし出される。煌々とした明かりが照らしたのはそれだけでは無かった。四方八方からのそりのそりと無数の人影が寄って来るのが見えたのだ。)

「――――これは……ギルドに伝えられていた情報とは大違いですね」

(相手の数は5匹や6匹どころではない。今目にしているだけでも20体近いゾンビがじわりじわりと包囲を狭めつつあった。いくら動きの遅いモンスターと言えど、あれだけの物量に囲まれてしまえば流石にまずいことになるだろう。派手に数匹斬り倒して見せて周囲を牽制するというのも、死の恐怖など感じないゾンビ相手には取れぬ手だ。じっとりと冷たい汗が背筋に流れるのを感じつつ、無意識に一歩後ずされば――――……とん。プリーツのお尻に触れる柔らかく、暖かな感触。背中合わせとなった友人の、こちらと同じ制服スカートに包まれたお尻の感触だった。強張っていた美貌にも思わず小さな笑みが浮かぶ。)

「―――そうではなくては困ります。単価はゴブリンやコボルトと大差無いのですし、2、3匹では大食らいのミナと一緒にスイーツを食べに行けば足が出る程度の稼ぎにしかなりませんから」

(いつぞやの大衆食堂でツインテールのお嬢様の見せた意外な健啖―――イェンの方とて同様だったがそれは棚に上げておく―――を思い出しての軽口。)

「向こう側は貴女にお任せします。あの程度の雑魚に、武の名門、ゾルドナーの一人娘が遅れなど取りませんよね?」

ヴィルヘルミナ > 「それは勿体ないわね…せっかく魔術師なのだから、もっとレパートリーを増やさないと」

オンリーワンの魔術を行使するイェンも優れた魔術師ではあるが、やはり魔術師は多彩な方が歓迎される。
自分も自己強化は出来るがあくまで剣士が本業である。
彼女に誰か、優れた魔術の教師が紹介できればいいのだが…。

「まぁ大きな墓場だものね。そりゃあ死体もいっぱいあるわよ。
多分、放置していたらもっと増えるわよ」

ゾンビに殺された者はゾンビになる事もある。鼠算式に増えることすらあるのがこの動く死体の厄介なところだ。
まぁ、しかし、勝てない相手ではない。20体ならゴブリンのほうが脅威だ。
不意に、臀部に感じる柔らかい感触。知らない間に、背中合わせがお尻合わせになっていたらしい。

「貴女が食べなさすぎるだけよ。もっと食べないと筋肉付かないわよ?」

大剣を振るような戦いには、やはりそれなりの食事が必要なのだ。
ヴィルヘルミナは燃える両手剣を、再度油断なく構える。

「勿論、ノロマが10体歩いてくるだけじゃない。じゃ、後ろは任せたわ」

そう言うとヴィルヘルミナは両手剣を振りかざしながら、ゾンビの集団に真っ向から突っ込んでいった。

イェン > 「私もそうしたいのですが、どうも、私には他の魔術の素養が備わっていない様なのです」

(回復魔術などが使えれば……といつも思うのですが、と続けながら、一芸特化の四剣使いは仏頂面で首を振る。)

「それにしてもこの量は、異常と言わざるを得ません。何かしら理由が有るとは思いますが、それもこれも、この場を乗り切ってから――――ふふ、そうですね。のろまが10体。ただ、それだけです」

(のっそりと迫り来る物量も何のその。まるで恐れる様子の無い友人の豪胆な物言いに、イェンの背に伸し掛かっていた恐れも消えた。この場に見えるのは20と数体。しかし、これがこの場に蠢く全てであるはずない。更に30程は相手取る事になるだろうし、それらに取り囲まれてしまえばいかな四剣を振るうイェンであろうともまずいことになるはずだ。 ――――が、それならそれで、そうなる前に片っ端から撫で斬りにして包囲などさせなければ良いだけの事。そんなシンプルな答えをそれを十分やってのけるだけの実力を有する友人の自信満々な言葉が教えてくれた。ならばもう迷いは無い。燃える剛剣を振りかざした彼女が駆け出すのに合わせ、こちらもまた荒ぶる四剣を舞い踊らせて不死者の只中へと入り込む。闇色の竜巻の如く巨大な召喚剣を振り回し、時に墓石を削り、捻れた枯れ木を爆ぜ飛ばし、近付く腐者共を片っ端から斬り伏せて行く。流石に返り血の一滴も浴びないなどというスマートな戦いは出来なかった。腐汁はもちろん、どの部位の物かも定かではない腐肉も身に浴び最後の一体を斬り潰したのは東の空がぼんやりと明るく染まり始めた頃。イェンだけでも60を超すキルスコアは、もしもこの日、二人の学生冒険者がゾンビ討伐を受けていなければ、貧民に少なからぬ被害が出ていた可能性も匂わせていた。)

「はぁ…っ、はぁ…っ、はぁ…っ、はぁ…っ、…………ぶ、無事、ですか、ミナ」

(その場にへたんと座り込み、腐汁で斑に汚れたブラウスの胸元を上下させつつ傍らの伯爵令嬢に問いかける。汚れと疲労こそ酷い物の、イェンは擦り傷一つ負ってはいなかった。それも常に傍らで獅子奮迅の活躍を見せてくれていた友人が、死角を潰してくれていたからこそ。)

ヴィルヘルミナ > 「あら、意外ね。じゃあ私のほうが魔術を使えるのかしら?」

それとも、マグメールの魔術はシェンヤンの人間には使えないということだろうか?そういうこともあるまいと思うが…。
なら何か、物理的な攻撃方法を増やすべきだろうか。

「ま、そこら辺は大人の冒険者とか役人に任せましょ。
元々情報が間違ってたんだからいざという時は逃げたって文句は言われないわ。
……私も貴女も逃げる気は無さそうだけどね!」

両手剣は元々集団相手を想定した武器である。囲まれさえしなければ、こういう状況はむしろ得意だ。
腕力で振るというよりは、その重量に身を任せるように、
ヴィルヘルミナは位置取りのみを気を付け剣を振りまわし次々とゾンビを切り捨てていく。
それはさながら、踊りのステップを踏むかのよう。
その度にゾンビの頭が飛び、胴体が千切れ、手足が宙に舞う。
びゅん、と風を斬る音、ばちばちと燃える音が墓場に漂う。
切り捨てた肉塊が焼け焦げ、灰になっていく。
その業火の中で、ヴィルヘルミナは獰猛な笑みすら浮かべていて。
……明け方にはすっかり、立っている者は二人の少女のみとなっていた。

「これで…最後っ!」

上半身のみとなりながら、尚も地を這っていたゾンビに燃えるツヴァイヘンダーを突き立てる。
そしてヴィルヘルミナは、ようやく額の汗を拭った。

「ふぅー……。えぇ、お陰様でかすり傷も無いわ」

こちらを心配する留学生に、親指を立てて応える。
こちらは片っ端から燃やした為に腐汁はそれほどでもないが、その代わり煤塗れである。
そして、どちらにせよ汗だくだ。

「とりあえず、報告だけしたらシャワーでも浴びましょうか…」

イェン > 「シャワーだけでは不足です。制服もこの有様では戻るに戻れませんし、以前共に入った温泉宿にでも行って身を清め、服も洗わねば……」

(肩にべちょりと乗っていた腐肉を払い除け、汗と泥と腐水に塗れた肢体を見下ろした留学生は、この時ばかりはポーカーフェイスも崩して細眉の尻を情けなさそうに下げた。)

「元々本日はお互い講義も無いのですから、……その、今日は一日温泉宿でゆったりと過ごすのも……良いと思いませんか、ミナ?」

(どろどろに汚れきって居てさえ欠片も損なわれる事のない美貌を明後日の方向に逸らし、汗だくの白皙に気恥ずかしげなピンクを滲ませ投げる誘い。それは、先日一線を超えてしまった友人と《一日温泉宿でゆっくり》などしてしまえばどの様な事に分かった上での言葉だからこその反応だった。 ―――彼女がその誘いを受け入れたかどうかは分からぬ物の、明け方までに3度顔を見せると言っていた女学生が、来たばかりの頃の清潔さがウソのような有様で報告に来た事に酔っ払って寝落ち掛けていた墓守は大いに驚かされる事となった。そして、二人の少女が一晩で討伐せしめたゾンビの数の多さは、報告を受けたギルドがベテラン冒険者による即日の調査を決定した事から見ても異常な物だったのだろう。通常の討伐報酬に追加して特別報酬の支払いを受ける事となった二人の稼ぎは、Fランクの討伐依頼とは思えぬ程の物となったのだとか。)

ヴィルヘルミナ > 「……正直、温泉に行くにしてもちょっとぐらい水で流してからのほうが良さそうね」

このままの状態で行ってしまえば営業妨害になりかねない。
服ごと川に飛び込んでずぶ濡れで行ったほうがまだマシだろうか。
そんなことを思いつつも、イェンの提案自体は嬉しいもので。

「あら、これは何かのお誘いかしら?じゃあ頑張ったイェンへのご褒美ってことで、二人っきりで楽しみましょうか♪」

にこにこと笑みを浮かべながら、へたり込んだイェンに片手を差し伸べる。
報告を受けたギルドは大騒ぎとなり、しばらくは忙しい日々が続くのだろうが、
依頼を終えたんまり報酬を頂いた二人にとってはもう関係の無いこと。
二人は一日ゆっくりと温泉を堪能し、出された料理も堪能し、
ついでにお互いの体も堪能したのかは、二人だけが知るところだろう。

ご案内:「貧民地区 無縁墓地」からイェンさんが去りました。
ご案内:「貧民地区 無縁墓地」からヴィルヘルミナさんが去りました。