2022/05/25 のログ
ご案内:「貧民地区 無縁墓地」にイェンさんが現れました。
イェン > 『ブヒャヒャヒャヒャ、こらまたべっぴんな嬢ちゃんが来てくれたもんだ。よぉ、嬢ちゃん、ゾンビなんぞ放っといて一晩オレの酌でもしてくれよ。なぁに、ギルドにゃあしっかり仕事してたって言っといてやるからよぉ』

(手に持った酒瓶と無精髭がなんとも不潔な印象を醸す中年墓守からのそんな言葉で出迎えられたのは、夕日に染まった貧民地区の無縁墓地というロケーションにまるでそぐわぬ学生服姿の美少女だった。品の良い墨色を基調としたタータンチェックのプリーツスカートから伸びる白脚はすらりと華奢。にも関わらずリボンタイも可憐な白ブラウスの胸元は豊満な膨らみによってまろやかな曲線を描いている。目弾きの朱が鮮やかに彩る双眸は紫水晶の瞳に理知を宿し、引き結んだ桜色の唇と共に冷淡なまでの澄まし顔を作り上げていた。そんな美貌に無言のままでじっと見つめられた墓守が若干たじろいだ所で発するのは)

「―――お断りします。私に支払われる報酬は、ゾンビを討伐した数による出来高ですから、貴方の相手をして無駄に使う時間はありません」

(温度という物の感じられない声音による拒絶。呆然とする中年墓守を後目に、切れ長の双眸が周囲を見回した。イェンと同様にゾンビ討伐を受けた者がいるのであれば、ここに来てもおかしくない。茜色の残光が西の空へと沈み行くのを見送りながら、イェンは腰に下げたランタンに火を灯す。)

イェン > (ゴブリン、コボルト、ホーンラビット。そうした定番の討伐依頼ではなく敢えて人気の無いゾンビ討伐を選んだのは、その四種の中でゾンビとだけはまだ戦った事が無かったから。『未知の相手との戦いを積極的にこなして対応力を鍛える事は、冒険者として生きていくつもりならば必ず役に立つ』 そんな、冒険者上がりの講師の言葉に従っての事でもあった。 ――――日が落ちる。)

「―――朝までに三度、休憩室に顔を出すつもりです。何かあれば大声を上げるなどしてください。では」
『お、おい…っ!? ――――ッケ! 精々ビビリ散らして小便漏らさねぇ様に気をつけるんだな!』

(墓守からの罵声を背に、制服姿の新人冒険者は墓場に向かって細脚を踏み出した。腰から下げたランタンには技術者の工夫が込められていて通常の物よりも広い範囲を照らしてくれるのだけれども、それでも淡い橙光は月明かりさえ差し込まぬ曇天の夜闇においてあまりに頼りない。そんな光に照らし出された墓石や捻れた立木の作る色濃い影の揺らめきは、動体に反応するイェンの意識を引き寄せて周辺警戒を散漫な物とさせる。)

「―――なるほど。障害物の多い場での夜間行動。これだけでもかなりの経験になりそうです」

(生温かな夏風に揺れる梢の立てる音。おそらくは貧民窟の野良犬が発する吠え声。そんな雑多な物音にもいちいちびくりと細肩が跳ねるのは、冒険者としてはまだまだ未熟である事の証左だろう。)

ご案内:「貧民地区 無縁墓地」にヴィルヘルミナさんが現れました。
ヴィルヘルミナ > そんなイェンの、よりにもよって背後から近づく影あり。
気付かれねば彼女は、声を掛けながら肩を叩いてくるだろう。
振り向けば、戦闘用の半甲冑に身を包んだ貴族の学友の姿が見えるはずだ。

「一人で進むと危ないわよ?イェン」

肩に長大な両手剣(ツヴァイヘンダー)を担ぎ、手には魔導ランタンを持ったヴィルヘルミナ。
イェンより少しばかり経験がある分なのか、それとも育ち故か、夜中でも余裕綽々といった風情だ。

「ゾンビが出現してるって場所はあっちよね?行きましょ」

ランタンの明かりを向けながら、ざくざくと土を踏む音を立てながら進んでいく。
生憎の曇り空、視覚的に頼りになるのはお互いのランタンの明かりだけだ。

イェン > 「――――――ッ!?」

(ぽんと肩を叩かれた次の瞬間には、地を蹴り前方へと飛び出したイェンのプリーツが翻り、一瞬のチラリズムで純白の三角布を覗かせた。白脚が地面につく頃には構えを取った留学生の四方に暗紫色の巨剣が顕現している。そのまま有無を言わさず四剣を振り抜いていたとておかしくない力みぶりは、血の通わぬ鉄面皮に見えたとて普通の娘と変わらぬ怯えを豊乳の奥に秘めていたのだと知らせよう。が、紫水晶が暗がりの中に捉えたのが、イェンと共にここに来て、一足先に墓場の見回りを初めていた友人の勇ましい姿であると気付いたならば)

「お、どろかさないでください、ミナ」

(どっ、どっと跳ねる鼓動を持て余しつつ、吐き出す溜息と共に召喚剣を霧散させる。先に立って歩き始めた彼女の背を追い、切れ長の視線で周囲を警戒する。その立ち位置が普段よりも若干近いのもまた、夜の墓場の持つ不気味な雰囲気による物だろう。)

ヴィルヘルミナ > 「敵だったら肩を叩いてなんてくれないわよ?ちゃーんと周囲を見張ってないと」

少々散漫になっていたらしい友人の姿にくすくすと笑みを浮かべるヴィルヘルミナ。
イェンと会話しつつもその紅い瞳は絶えず周囲を警戒している。
そうして、墓場の奥へと進みながら、ふとヴィルヘルミナはイェンに訊ねる。

「そういえば貴女、人の姿をした相手を斬った経験はあるかしら?
……まぁ無いわよね。私もゾンビぐらいよ」

相手は所謂動く死体。当然、腐ったり損壊したりはしていても人の姿をしている。
知性の無い動きを除けば、ゴブリンよりも人を斬っている気分になるだろう。

「まぁ一応、元は生きてた人間だったのだから手早く仕留めてあげなさいね?」

その余裕があれば、の話ではあるが。

イェン > 「ゴブリン程度でしたら何体かは斬って捨てましたが、確かに人相手の禊はまだ済ませていませんね。とは言え、相手はゾンビですし、おそらく問題ないかと思います」

(その辺りの心構えは《牙》や《蛇》での教育で散々教え込まれてきたし、その際にゴブリンなどの人型妖魔も斬って来た。そろそろ人相手にもという話が出て来た辺りで《華》へと所属を変えたイェンではあるが、駆け出し冒険者の中ではそうした相手に攻撃する事への抵抗感もかなり薄い方と言えるはずだ。)

「――――流石の私もゾンビ相手に近接戦を挑むつもりはありませんし、この《剣》を使えば基本的には一撃で事足りるでしょう」

(言いながらヴォンと中空に顕現させるのは、反りのある広刃の特徴的なファルシオン。身幅はイェンの太腿程もあろうかという重量物が暗紫のオーラを滲ませながら、制服姿の乙女の傍らに浮いている。ぴくんっ。そんな女学生の細眉が跳ね、伸びた背筋がプリーツの翻りも優雅に振り向いた。切れ長の紫水晶の見つめる先、のそり、のそりと近付く人形の影。)

「早速現れた様ですね。2体……いえ、向こうからも1体近付いているようです。ミナ、貴女はどちらを?」

(ヴヴヴン。更に3本、それぞれに形も種類も異なる巨大剣を召喚し、鎧姿の友人の背にこちらもそっと背筋を寄り添わせながら囁き問う。この留学生、夜の墓場の不気味さには普通の娘と同様の怯えを抱くも、事、モンスターとの戦いともなればそうした怯えも消えるらしい。)

ヴィルヘルミナ > 「ふふ、頼もしいじゃない。確かにゾンビ相手なら魔法のほうが楽ね」

大抵のゾンビは頭が破壊されれば動かなくなる。
また、丸ごと灰にする炎魔法や、アンデッド全般に効く主教の神聖な力等も有効だ。
そんな会話をしていた時、ヴィルヘルミナもまた、空気に漂う微かな腐臭に気付き、イェンと同時に振り向く。

「まだたった3体?なら多い方は貴女に任せましょうかしらね?イェン」

元はといえば彼女のランクに合った依頼であり、ヴィルヘルミナのランクであれば苦も無くこなせるものだ。
ヴィルヘルミナは1体のゾンビに向き合うと、魔導ランタンを腰のベルトに引っ掛け、両手剣を眼前にかざす。
そして、呪文を唱えながらその刀身に手を翳す。エンチャント魔法である。
次の瞬間、その刀身は赤熱し、炎に包まれるだろう。
ヴィルヘルミナはそれを構え、ゾンビへと向かって行った。

イェン > 「では、譲られた手柄にふさわしい働きを――――ッフ!」

(背後にゴゥッと炎熱の発生を感じつつ、火剣を携え駆け出す友人とは逆側にイェンも疾走る。ランタンの橙光に照らされた狭円の中で景色が流れ、迫る敵への危機感も、殺戮への昏い悦びも感じさせぬ歪な人影との距離が詰まる。タタンッと軽いステップが地を蹴り、墓石を踏みつけにして華奢な制服姿を宙に浮かせて)

「―――――シッ! 呀ァアッ!」

(ドギュッ、ゾンッ! 逆袈裟の半月が人影の胴を半ばから断ち割る。振り上げた繊手が撚る身の旋転と共に振り下ろされ、それに従いギロチンめいて落下したクレイモアの一振りが両手を持ち上げイェンに迫ろうとしたもう一体を頭頂から唐竹割りに断斬した。落下の衝撃を膝を柔らかく使って往なした細身が立ち上がり、巨剣の血振りも重々しく周囲に警戒の視線を向けながら友人の元へと戻っていく。かすり傷一つどころか返り血の一滴すら浴びていない見事な勝利ではあったが繊手で小鼻を覆う美貌は、鉄面皮にしては珍しくはっきりと不快さを示して眉根に皺を刻んでいた。それもそのはず、生温かな夏の夜風に漂うのは、腐った肉の独特の酸臭と溶け爛れた臓物の醸す汚物臭なのだから。)