2021/11/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 夜の帳は、降りて久しい。
そろそろ冬至も近付いているとなれば、陽光の残滓などある筈もなく、只管な闇が横たわろうというもの。
されど、王都たるこの街なら、必ずしもそうとはならぬ。
例え、その人工の光が、穏やかさとも、明朗さとも、温もりとも乖離していいたとしても。

「嗚呼、此度は本当に長く離れることとなったが、この風情には多少なりとも帰ったという実感が湧かぬでもないな。」

貧民地区の繁華街。
居を構える住民の懐具合は兎も角、人が集まれば娯楽が生じぬという事はあるまい。
決して上品とは呼べぬ喧騒が漏れ聞こえ――どころか、路上でも乱痴気騒ぎが見え隠れ――ている、飲食店やら宿屋やらが立ち並ぶ区画。
供回りも付けずに浮世離れした小童が一人、言の葉とは裏腹に特段表情を移ろわせぬまま、カクリと小首を傾げた。

ホウセン > 夜風は冷えるし、空気も乾いている。
家の中に籠って、暖炉で火に当たるなり、毛布を被って早々に寝付くのが健全な判断ではあろう。
だが、しかし、なればこそ。
酒精によって身体の内側から暖を取ろうという輩も、己以外の人肌によって熱を得ようとする輩も、枚挙に暇がない。

「然し、この辺りは店の入れ替わりが早いと記憶しておったが、こうも面影が乏しいのは予想外じゃ。」

喜怒哀楽の内、哀の表情を浮かべることが稀な妖仙とて、すっとした柳眉を僅かに曇らせる。
王都の外から帰還し、平民地区にある己の店に顔を出すのを後回しにして娯楽を求める性分は如何ともし難く、三つ子の魂…というものであろう。
それが百をとうに過ぎている人外とて、基本的な構造は変わらぬものらしい。
通りのど真ん中に突っ立って通行を邪魔するのを憚る程度の社会性は持ち合わせているようで、数秒に満たぬ停止をした後は、端に居を移す。
酷く落ち着き払ている事に目を瞑りさえすれば、この時間、この街角、迷子か男娼の手合いと誤認されても文句は言えぬだろうが。

ホウセン > 何時ぞやの皇女降嫁の折より、北方帝国に由来を持つ文物を見かける機会が増えている。
それは人とて同様らしく、黒い瞳と黒い髪をした小童であっても、体感する範疇では以前よりは奇異の視線で見られることは少なくなっている。
尤も、好奇の視線が皆無というものでもない。
相応に上等と窺える異国の服に袖を通した子供が、治安が宜しくない土地に一人で佇んでいるのだ。
あまりにも鍋道具を一式抱え込んだ鴨過ぎて、何かしらの罠にさえ見えかねぬが故に、逆説的に悪漢に絡まれずに済んでいるという側面もあろう。

「惚けておるのも冷えて仕方がない故、何ぞ一休みできる所でも探そうかのぅ。」

酒場が良いか、飯屋がいいか、娼館が良いか。
懐から煙管入れを取り出し、黒漆と銀細工の施された煙管を咥える頃には、欲深い道楽者の顔に戻る。
慣れた手付きで煙草を詰め、燐寸で火を点して一服。
幼子の柔らかさを多分に残している唇から、ほぅ…っと紫煙を吐き出して。
くるっと方向転換すると、袖口から手を引っ込め、肩で風を切る風情。
これがちんまりサイズでなければ、多少様になろうものではあろうが。

ホウセン > ペタペタと、雪駄の足音がする。
街を整備するだけの予算が無く、或いは担当する役人が懐に収めてしまい、傾きや凸凹が駆逐されていない石畳を歩きながら。
煙管の先には赤々とした光が灯り、息遣いに合わせて明るくなったり暗くなったり。
麝香のようなやや甘い香気を含んだ紫煙が後方に棚引き、妖仙の体から五歩ばかり離れた所で霧散する。
酔漢達のふらつく足取りを傍目に見つつ、小回りの利く身体は衝突といった醜態を晒すでもなく。

「ん…ここは変わっておらぬようじゃな。
 新規開拓というのも心躍るが、今宵は手堅くしておこうかのぅ。」

そうして進んだ先、記憶の端に残っていた看板を見付け、押戸を潜る。
ベルが取り付けられておらぬものの、ぎぃ…っとあがった軋みが、来客を知らせるの役目を負っているらしい。
店主と給仕の二人でどうにか店を回している割に、客入りは悪いものでもない。
だからこそ手の回らなさに拍車をかけているという側面があるとしてもだ。
目ざとく見つけたカウンター席に、ぴょいっと身軽に腰を落ち着け、手始めにエールを一杯と適当なつまみ。
大人用の椅子に座しているせいで、両脚はプラプラと宙に浮いている有様だが、酒精を注文してもとやかく言わぬ方針がここを選んだ動機の一つではあって。

ホウセン > 夜は更ける。
小腹を満たした妖仙が、闊歩するまで、後暫し――

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からホウセンさんが去りました。