2021/08/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――右から、左から、前から、後ろから、行く手を塞がれる――判り易く八方塞がりだ。

「何よ……、絵に描いたような取り囲み方してんじゃないわよ。芸も個性も知性もないわね」

 この治安の悪さでは群を抜いた地区の路地裏で、当然のように数名のガラの悪い男たちに取り囲まれていた。
 別に珍しくもないし、なんなら何事もなくこの界隈を通り過ぎられれば拍子抜けしてしまうほど、であるけれどもやはりうざったいものはうざったい。

 しかも、一人や二人で勘弁してくれれば簡単なのに徒党を組んで取り囲んできてくれなくてもいいのではないか、と男達の上背にすっぽり収まってしまう体躯の女は周囲から見れば誰がどんなふうに絡まれているのか少々不明瞭な見た目に仕上がっていた。

 漏れ聞こえる明らかに揉めているような声と、その中心に女性がいるということくらいは誰の目からも判ることではあったので『婦女子、ゴロツキ共に絡まれるの図』ということを通りすがりに理解するのは容易いだろうが。

 ――昼間のじわじわと表皮を焼くほどの強い日差しで熱された街は、宵を迎えて貯えた熱を放出するようにべったりと纏わりつくようなうっとうしい暑気が渦巻いていて、空気も街並みも荒れたこの辺りでは不快指数も余計に高く感じる。
 そんな暑さに加えてさらに暑苦しい男性に周りをぐるりと囲まれれば、神経は凪いでもいられない。

 下卑た笑いを響かせて品のない言葉を口々に投げかけられて、神経をとげとげと尖らせてしまい、それは声にも滲んだ。

「――いやよ、付き合う訳ないでしょ? なんであんたたちに貴重な一晩をくれてやんなきゃいけないのよ、そんなことするくらいなら舌噛んで死んでやるッ」

 べえーと思い切り舌を出して睥睨の視線を四方へ巡らせながら啖呵を切る――無鉄砲な跳ね返り娘だったが。

 この状況でそんなことをしてタダで済むわけはなく――、大人しく従えば痛い目には見せなかったものを、とかっと頭に血を昇らせた連中の一人から早速拳が上がった――

ティアフェル >  死んだ方がマシというなら、そうしてやろうじゃねえか、と男達の誰からともなく声が上がった。

「あー……キタキタこれもう……」

 上部から振り落とされるように向かって来る拳を頭を低くして避けながら無意識にボヤいた。
 どーせこうなる、こうなるんですよ、と胸中で不平を零すも――その後はそんなに悠長にしている場合でもなく。袋叩きの幕開け、となったものだからそれなりに無我夢中。

 侠気にも倫理にも欠けた沸騰状態のゴロツキ相手に女一人、手加減を。なんて求めても無駄だ。
 男四人が囲んで作る壁の中で、毬のように蹴り上げられ膝を入れられ、足蹴にされ。
 たったのひと時でボロ雑巾の仕上がりだ。

 滅多打ちにしてすっかり薄汚れたかわいげのない女など、もう触手の動く対象ではなくなり。その内あっさり、カゴメの輪からぽいと棄て去られるのであった。

 ごろり、と路上に投げられたゴミくずのように転がって衣服も肌もぼろぼろに裂けて汚れた暴行後の女――そんなものは特に目新しくもない貧民地区だ。
 気にするものもおらず、時折足元に注意を払っていない迂闊な通行人に踏まれるだけのものに成り果てた。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からティアフェルさんが去りました。