2021/06/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にフィアさんが現れました。
■フィア > 入り組んだ貧民地区の路地の奥
崩れかけた建物がひしめき合う一画に、ほんのわずかな広場が存在する。
どこか淀んだ空気が漂う街中ではあるけれど、修道院が建つその周囲だけは幾分清潔感が保たれている。
その理由は明白。
週に一度、炊き出しが行われるから。
日々、シスターたちが清掃を行っているけれど、それだけではとても追いつかない。
けれど、ひとたびここでタダ飯が食えるとなれば、途端にごみを捨てる者も、糞尿を垂れ流す者もいなくなった。
シスター見習いの少女ととしても、そのことに思うところがないわけではないけれど、
食うに困っている人を放っておくこともできないし、街もきれいになるのだから文句の言いようもなく。
「あ、あの……っ、次の方、ど、どうぞ…っ」
ただひとつ苦言があるとすると、長い列ができるほどに集まった人の相手をしなければならないことで。
できることなら裏方に徹したいのだけれど、若いシスターは配膳係に回されてしまうのが常で。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にブレイドさんが現れました。
■ブレイド > 貧民地区の路地…ふらりとフードの男が顔を出すと
そこには、貧民地区の奥とは思えぬほどの人だかり。
…それでも、平民地区などの賑わいほどではないのだが、人付き合いなどまるで無いようなこの区画では
珍しい光景だとも言えるだろう。なんでこんな事になっているのか…そしてなぜこのあたりだけ妙に綺麗なのか。
顔を上げれば答えは明白。
少し寂れたような修道院に…薄くたなびく湯気。
今日は炊き出しの日だったか。数人のシスターが浮浪者やらこの辺の住人やらに食事を配っている。
その様子を確認すれば、フードの奥で少しばかり渋い顔。
「クソ、まずったか…」
今日は炊き出しの日だったか。
正直、ノーシスの連中の目にとまるのは困るのだが…。
とはいえ、変な動きをして目立つのも嫌だ。するりと長い列から外れて
幼いシスターの傍を通る。彼女だけ視線が定まっているようには見えない。
傍を通っても目立たないと思ったのだ。
■フィア > 無償で温かい食事が振舞われるとなれば、辺りの浮浪者たちはこぞってやってくる。
炊き出し自体は、朝から行ってるのだけれど、昼前のこの時間になっても列は無くならない。
長くなったり短くなったりはしているのだけれど、だらだらと続く人の列に、
用意していた肝心の食材の方がそろそろ底をつきそうで。
「あ…っ、ご、ごめんなさい……もう、空っぽで……」
最後のひと掬いを注いだ深皿に手渡したばかり。
けれどもスープの入っていた大鍋の中身はすっからかん。
ぺこぺこと頭を下げる見習いシスターを前に、並んでいた髭もじゃの男が詰めよってくる。
曰く、長いこと待たせておいて無くなったとはどういうことか云々。
飢え死にしろというのか云々、それが神の教えを説くものの所業か、
先に貰ったヤツの分を取り戻してでも待っている奴に配れ、などと無茶を言い放題で。
「あ、あの……そんなことは…えと、あの、そう、言われても……」
どうにか口を挟もうとするのだけれど、勢いのまままくしたててくる男に、
おどおどした少女が言い返せるはずもなく、言葉だけではなくじりじりと距離も詰まってくる。
いい加減業を煮やしたのか、男が「何とか言えよ」と詰め寄り、腕を振り上げる。
普段ならば護衛の騎士が止める場面ではあるのだけれど、足りない食材を調達に出たのか、
他でもトラブルがあったのか、どちらにしても少女の元に駆け寄ってくるような姿はどこにもなく。
■ブレイド > 何事もなくそばを通り過ぎようと思った矢先。
少しばかり様子がおかしい。いつもはこういう場ではおとなしい連中が騒ぎ始めたのだ。
はじめはザワザワとした小さなざわめき。
しかし、すぐに怒鳴り声が聞こえてくるようになった。それに呼応するように列は乱れ
そばを通り過ぎようとした幼いシスターに男が詰め寄っている。
列を離れるものが多いところを見ると、どうやら炊き出しの食料は底をつきたようなのだが…
男が一人、それに対してごねているようだ。
貧すれば鈍する。さっきまで食事をもらおうと並んでいた者たちはそれを止めることもない。
遠目から見たり、そそくさと寝床に帰ろうとするものばかり。
もらうものがなくなればようはないと言わんばかりだ。まったく、勝手なことだ。
正直、ノーシス主教に関わることは損にしかならない。
損にしかならないのだが…止めに入るであろう騎士すらいないこの状況。
誰かを待っていれば、すぐにでもあのこぶしは少女に振り下ろされるだろう。
「はぁ…」
溜息一つ、男の振り上げた腕…後ろからその手首をつかめば、背中の方に回し関節を極めてしまう。
「…穏便にしろよ、次からメシがもらえなくなっても知らねえぞ」
これで男がおとなしくなら解放するのだが…そうでないなら多少痛い目をみてもらうのがいいか。
■フィア > 害意を向けられた少女のほうはと言えば、咄嗟に頭を庇うようにして蹲ることくらいしかできなかった。
それでも華奢な身体は、大の大人に殴られれば吹き飛んでしまうだろう。
痛みを覚悟してぎゅっと瞳を閉じる。
「………??」
けれど、痛みはおろか衝撃さえもやってはこない。
恐る恐る瞳を開けて見上げてみると、小柄な青年が男の腕を掴んでいるのが見え。
そのまま捻るように背中に腕を回されると、男が呻き声を上げる。
初めのうちは、威勢も良かったのだけれど、抜け出せないとわかるとぐちぐちと悪態をつき始め。
「あ、あの……私のパンなら……お分けできますから……その……」
その様子に、慌てたように声を掛ける少女。
小さなパン一切れきりではあるけれど、差し出したそれは少女の昼食で。
そんなことをすればかえって助長しそうなものではあるけれど、
それよりも少女としては自分が我慢すれば穏便に収まることの方を選び。
■ブレイド > 栄養の足りない貧民街のあらくれもどきと冒険者では大きな隔たりがある。
ぐちぐち煩い口ももう少し腕をひねり上げてやれば悲鳴に代わるかおとなしくなるだろう。
ため息交じりにさらに腕に力を入れようとするも、その前におどおどとした少女の声が届く。
自分のパンをこの男に分けようというのだ。
自分に暴力をふるおうとしていた男…しかも、反省の色も全く見せない様子だというのに。
お人好しもいいところだ。
だが、それで手打ちになるというのならば、それでいいだろう。
彼女の申し出を邪魔し痛めつけてもいいのだが、おそらく、そこまでしてしまえば余計なお世話…。
男がそれで渋々であろうと納得するのであれば手を離そう。
しかし、それはそれとして…
「優しいこったな…なにされるかわかんなかったってのによ…」
流石に呆れてしまう。
男がパンを受け取るようならばそのままこの広場に続く路地の方へと背中をついて追い払うだろう。
■フィア > 貰うものが貰えれば、男としてはそれで満足なのだろう。
多少は実入りが少なくはなかったかもしれないけれど、ここでごねてもそれ以上は期待できないという計算だけは働いたか。
「分かればいいんだよ」と捨て台詞を残して、さっさと広場を後にする。
「はぁ………」
それを見送った少女はと言えば緊張が解けたのか、その場にぺたんとへたり込んでしまう。
他の列でも炊き出しが尽きたらしく、並んでいた人々も散り散りになっていく。
「え、あ……その、あ、え……あり、が……とう、ございました……」
フードを被った青年が呆れた声を掛けてくると、ハッとして頭を下げる。
本来ならば、地面に座ったままでのお礼など礼儀がなっていない処の話ではない。
修道長に見られたらお説教では済まないかもしれない。
けれども、抜けてしまった腰には力が入らずに、どうにもならず。
泣きそうになりながら、消え入りそうな声でどうにかお礼の言葉だけは紡ぎ。
■ブレイド > 男はおとなしく去っていった。他の連中もぞろぞろといなくなってくれたのは幸いか。
パンを渡したことを皮切りに自分にもよこせと言ってくるような連中がでてこなくてよかった。
座り込む修道女を見下ろすと、座ったまま、震えた声で礼を言ってくる。
あのようなことがあったのだから仕方ないだろうが、ここだけ見れば自分がなにかこの少女にしたようにすら見えるだろう。
護衛やらなんやらがいなくて良かった…というべきだろうか。
そもそも、そういう連中がいれば自分が手を出すまでもなかったという話は置いといて。
「べつに、つかアンタのメシどうすんだよ。立てるか?」
私のパンと言っていたが…他に食料があるのならばいいのだが
あの男にやってしまっては彼女の食べるものはないだろう。
正直、ノーシス主教は嫌いだが、別に少女個人に恨みがあるわけでもない。
座ったままの彼女に手を差し出して。
■フィア > 他のシスターたちは、既に後片付けを始めている。
少女も早く始めないと、午後の奉仕に遅れてしまう。
そうと分かってはいても、やっぱり殴られそうになったのはかなり怖かったらしく。
まだ立てそうにもなかった。
「え、あ……そ、その、私は別に……夕ご飯はちゃんと貰えますし……」
声を掛けられ手を差し出されると、びくっと緊張が走る。
けれどもそれは先程の男とは違って、暴力をふるうためのものではなく。
何度か視線を彷徨わせてから、恐る恐る手を伸ばす。
何より、立ち上がろうにも、自力ではどうにもならなさそうだったので。
「その……ありがと、う…ございます……」
ふらつきつつも立ち上がると、今度はきちんと淑女らしい礼を取る。
厳しい修道長の薫陶の賜物か貴族の令嬢のそれにも引けを取らない綺麗な礼。
お辞儀をするときだけは、丸まり気味の背中もピンと伸びて。
ただ話し込んでいる時間はないらしく。
遠くから少女のものらしい名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「も、もう行かなきゃ……そ、その、お礼に、あの……
いつでも、治癒して……差し上げますので…っ!」
先程の完璧な礼はどこに行ったのか。慌てたように頭を下げて、大鍋を手に修道院の方へと駆けていき。
■ブレイド > 周りはまるで何事もなかったかのように片付けを始めている。
こういうときに場をおさめるのは同業の年長者の役割だろうに…
そういうところも含めて気に食わないが、それを彼女に言っても仕方あるまい。
恐る恐る伸ばしてきた少女の手をとり、軽く引き上げれば
まだ足も声もおぼつかないというのに礼だけはいっちょ前。
こういうことに慣れているというわけではないだろうが
それだけ躾けが厳しいのか…それとも少女の気質なのか。
「べつにいいって…ま、いつか世話になるかもしれねーが…」
かしこまって礼を言われると照れくさい。
まぁ、そんな少女であっても自分がミレーだとわかれば手のひらを返すのだろうが…。
しかしながら、彼女の厚意は受け取っておく態度を見せておこう。
すると、すぐに片付けを終えようとしている他の修道女の声が聞こえる。
「おい、これやる」
呼ばれたようで立ち去ろうとする彼女の背中に声をかけ
自分の荷物袋から保存食を取り出せばゆるく彼女に投げ、そのまま立ち去る。
気づけば受け止めるか、拾うかするだろう。
■フィア > 放り投げられたそれを拾うと、すぐに返しに戻ろうとする。
けれども背後からの声は、先程よりもひとつ声高になって聞こえてくる。
あわあわと視線をあっちとこっちに彷徨わせたのちに、先程以上に勢いよく頭を下げ。
そのままくるりと踵を返して修道院の中へと駆けていき。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からフィアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からブレイドさんが去りました。