2021/04/19 のログ
ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
そんな『噂話』を耳にしたのは、平民地区の商業ギルドでの会合の帰り間際。
貧民地区の薬物中毒者の戯言だろう、と一笑に付すつもりだったが、商人たちは至って真面目な表情。
貧民地区とて彼等の商圏。そこで起きた問題が長引けば、商売に影響が出るかも…と思案顔だ。

そこで、衛兵を派遣するかどうか。
先ずは自分の目で直接確かめてみようと訪れてみたは良いものの。

「……特段何もないではないか。治安が悪いのは兎も角、魑魅魍魎の類が居る様には見えぬが…」

此の地域を闊歩するには似付かわしくない装いの少年。
豪奢な衣服。整えられた髪型。華奢な体躯。
『さあどうぞ誘拐してください』と言わんばかりの姿で、のんびりと散策していた。

武術の心得も経験も無い少年。
悪意や敵意には宮中を棲家とするが故に敏感であっても、単純な気配察知においては鈍い部類。
屋根の上を駆ける少女にも、全く気付かぬ儘。

タマモ > とん、そんな少年に目を付けた少女は、側に建つ建物の屋根に降り立った。
軽く身を屈ませ、その姿を見れば…

「………うん?」

その姿、実に見覚えるあるものだった。
…まぁ、名前は忘れたが。
とは言え、相手が誰であろうとも、やると決めた事は実行する。
そのまま、そっと己の影に手を添えれば、何やら呟いて。

それに合わせてであろうが、それを知る事もなかろうか。
そんな少年の側で、ずるり、と何やら気配が蠢いた。
悪意、敵意に敏感な少年。
しかし、その気配には、何ら感じる事もない。
それを抱く、害意と言うものを、その存在は持っていないのだ。
ただ一定の距離を保ち、その者の側に居る事、それだけが与えた指示なのだから当然である。
これから以降、少年は、噂通りの足音を聞く事となるだろう。

「さてはて、どんな反応を見せてくれるかのぅ」

くすくすと、少女は笑いながら。
始まる悪戯を、眺めるのだった。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
ぴたり、と少年の足が止まる。
ひたひたと迫る様な足音。どうやら『噂』を引き当てたらしい。
聞いた話によれば、振り返っても誰もおらず再び前に進めば足音が迫るのだとか。
今のところ危害を加えられた、という話は聞かないが――

「……ノームか小鬼かの悪戯であれば、放っておいても…善くは無いな」

さて、少年の取った方法は至ってシンプル。
前を向いた儘、肉体強化の魔術を発動。
とはいえ、その効果は限定的。具体的には、少年の右足にのみ、その魔力が集中する。
そのまま、近くにあった石ころをつま先で引き寄せると――

「……足音がするなら、実体くらいはあってほしいものだが」

思い切り、踵で後方へ蹴り飛ばした。
僅かに砕けながらも、少年の真後ろへと強化された右足で蹴り飛ばされる小石。
マスケット銃の弾丸程の速度で、文字通り"飛んでいく"のだろう。

問題があるとすれば、少年は武術も体術も全く心得が無い。
おまけに、目標を視認していない。
従って――やたら当てずっぽうに、銃弾の様な勢いの小石を放ったという傍迷惑な行為になってしまっていた。

タマモ > それ以上は何もしない、少年を眺めているだけだ。
そんな少年が、己へと見せた動き。
足音に気付いた途端、何やら行っている気配を感じるも。
しかし、少女は何もしない、何も起こらないのが分かっているからだ。

さて、何をするのか?
そう思えば、不意に足元の石ころを蹴り飛ばす。
普通ならば、緩やかな弧を描き、己が作った影へと飛んで来る訳だが。
そんな、生易しいレベルのものではなかった。
その石ころは、弾丸のような勢いで、影を撃ち抜く。
が、己が手繰るのは、ただ闇夜に紛れる影。
言ってみれば、幽霊みたいな存在なのだ…普通では見えないのも、同じだが。
その石ころは、目標とした影には正しく飛来したが、すり抜けて。
ごっ!と衝撃音と共に、壁に小さな穴を作った。

「お、おぉ…見た目に反して、とはこの事か…
いやはや、怖い怖い」

と、肩を竦め、それを見ていた少女は続き呟く。
その言葉に、本当に怖がっているような含みはないが。
ただ一つ、分かった事は。
明らかに、怖がってないな、と言う事だった。

ちなみに、先の通り、影が受けた指示は一つ。
そんな事があろうとも、やはり、それ以上に起こる事はないのだ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
手応えは――ない。
何かが倒れる音も、痛みに呻く声も聞こえない。
石ころは何処かの壁に当たりはした様だ。
外してしまったのか、当たったが意味の無いものだったのか。
取り敢えず、その疑問は残した儘――

「………ふーむ」

くるり、と振り返る。
恐らく、視線の先に『足音』の正体はいないのだろう。
それは噂通りだろうと思いながら…今度は、今来た道をそのまま戻る様に歩き始める。

つかず離れず、という噂通りなら少なくとも先程迄は自分の後に何かが居た筈、と。
丁寧な装飾の施された革靴で、砂利道を踏み締めながら真直ぐに。
今迄自分が歩いてきた道を、少し大股で戻り始める。
それで得られるものがあるかどうかは、さておき。

タマモ > 見ていて思ったのは、これは、悪戯として失敗するかも…と言う事だ。
少年の次の動きは、元来た道を戻って来たからである。
足音の正体、戻ったとしても、そこには何も居ない。
そして、戻っている間は、その足音は聞こえない。

あくまでも、先を進んでいる時、足音を立てる。
なのだから、戻ってしまったら、それが出来ないのだ。
とりあえず、影は距離を保ってはいるが…
さて、これを知って、少年はどう動くのか?

何も得られず、再び先に進むならば、また足音が。
諦めて、そのまま帰るならば、何も起こしようがない。
…が、うん、その時はその時で、また何か考えねばならないだろう。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
「………足音はしない、か」

恐らく、向かう方向とか場所は関係無いのだろう。
単純に『前へ進めばついてくる』という類なのだろうか。
足音がしなくなれば、ぴたりと足を止めて暫し考え込む。

(前へ進めば、また足音がするんだろうか。
少なくとも、後戻りしている間は足音がしなかった。
ということは、近くには居るが足音が立てられない…ついてこれない…?)

ふむむ、と考え込む少年。
こんな場所で何をしているのか、と思わなくも無いが頼まれたのだから仕方ない。
やがて、一つ思いついたのか視線を上げて周囲を見渡した後。

「……"遊び"は此の辺りで良いだろう。
怖がっている者も出始めている。ここいらで大人しくするなら、此方も手出しはしない。
しかし、止めないというのなら衛兵と神官を呼んで大事にせざるを得ぬぞ?」

少女と少年の狭間の様なアルトテノールが周囲に響く。
これは、単に"遊ばれている"のか、或いは危害までは加える事の出来ない低級霊の類かと踏んだのだ。
だから、二つのメッセージ。

『遊びならもう止めろ』
『遊びでないのなら、討伐する』

それだけを告げて、此方の声に対する反応を静かに待つのだろう。
反応があればそれで良し。無ければ神聖都市辺りの生臭坊主に、若手を数名派遣して貰う事になるだろうか、と思案しながら。

タマモ > 「ほほぅ…年の割には…」

少年の行動に、感嘆の言葉を漏らす。
この状況、浮かんだ考えは二つなのだろう。
何者かが、この状況を作り出している。
幽霊等の存在が、何やら悪さをしている。
多分、こんなところか。
もっとも、実のところ、後者であれば害意を感知出来るはず。
実際には答えは一つ、なのだ。
まぁ、少年の能力を細かく知らないのだから、己としては一つに絞れはしないが。

よいせ、と屈んでいた身を起こし立ち上がる。
そして、とん、と再び屋根を蹴った。

「いやはや、若いのに、なかなかどうして。
それに免じて、今回はこれで満足しておこうかのぅ」

そんな言葉を、少年へ向けながら。
しゅたっ、と綺麗な着地を決めるのだ。
降りたのは、少年の背後。
こちらを向けば、異国風の着物姿。
人でない、ミレー族のような狐の耳と、複数の尻尾を持つ少女の姿が見られるだろう。

気軽に、挨拶代わりに、ひらひらと手を振っておこうか。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
突然、上空から"降って来た"少女。
その気配に全く気付かなかった少年は、少し驚いた様な表情を向ける事になるのだろう。
とはいえ、狼狽える様な素振りは見せない。
直ぐに、驚きの表情は尊大さと傲慢さを交えたものへ。
少年の外見年齢からみれば、ちぐはぐな程に"様になっている"王族らしい表情へと。

「…貴様が今回の騒ぎの犯人か。街の住民相手に悪戯紛いの事をするのは構わんが、程度にもよりけりだ。
噂話が立つほどまでになれば、此方も相応の手段を取らざるを得ない場合がある。程々にしておくことだ」

じっと少女を観察する様な視線。
纏う衣装は、極東の民族衣装に似ている。着物、とか言っただろうか。
複数の尻尾とミレー族の様な獣耳は、狐の様に見える。
しかし生憎、それだけでは正体となる種族の名前に思い至らない。帝国の者なら、詳しいかもしれないが。

兎も角、少女が敵意が無い様子であれば、此方も警戒した素振りは見せない。
尊大さと傲慢さ。そして、幾分呆れの混じった声色と言葉が、少女に向けられるのだろうか。

タマモ > ちらりと、少年を見遣る。
己の気配を読み切れず驚いたのは、その気配の揺れで分かった。
石ころを弾丸のようにする、そんな力はあれど、前に立って戦うタイプではないらしい。
と、そこから立ち直れば、お偉い連中みたいなものへと、その雰囲気が変わる。
そんな少年の様子に、つい、くすりと笑う。

「ふふ…軽い悪戯程度のもの、じゃろう?
そこらで聞く、あくどい噂と比べれば、可愛いものではないじゃろうか?
とは言え、まぁ、これくらいの畏れが溜まれば、妾も満足じゃ」

ばさり、気が付けば手にしていた扇子、それを広げ、ぱたぱたと扇ぐ。
そんな少年に対し、こちらはこちらで、余裕を持った態度で応じている。
己を見、何を思うかは分からないが、気にする事もなかろう、と。

「ふむ…にしても…」

そんな呟きを零せば、ひょい、と少年の側にまで歩み寄り。
軽く身を屈め、見上げるようにして、少年を見詰める。
ただの好奇心、目の前の少年を、じっくりと見定めているのだ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
「貴様にとっては軽い悪戯でも、力無き人間にとってはそうではない。
正体も分からぬ者に追い回される、というのは存外恐怖心を煽るもの。
悪戯に民草を不安がらせる様であれば、私も捨ておくわけにはいかぬのだがな」

やれやれ、と小さく溜息を吐き出しながらも、少女に向ける視線は変わらない。
何処かで会った――いや、見た様な気もする。
特徴的な装いの少女をはっきりと覚えていないということは、何処かの催し物でその姿を見たのだろうか。

…何て思考に耽りかけた時。
此方に歩み寄り、見上げる様な態勢の少女と視線がぶつかる。
意図せず、少女を見下ろす様な形になれば、少年は其の侭不思議そうに首を傾げて。

「……私の顔に何かついているかね。それとも、横暴な貴族の顔を覚えて闇討ちでも算段しているのかな?」

と、人外の少女の金色の眸を、静かに見返して尋ねるのだろうか。

タマモ > 「ふむふむ、そうかそうか。
妖である妾等にしてみれば、それが馳走である訳じゃが…
まぁ、お主のような者が現われれば、止める事にしておる、安心せい」

とか、とても安心出来るような言葉ではないが、さらりと言いのける、平然と。
命の危険を招くまでは到らせない、それがあるからなのだが…
相手からすれば、どちらも堪らない事もあるものなのだ。

と、どうやら、少年はおぼろげにしか己の事を覚えてないようだが、それは仕方無いだろう。
己とて、軽く見遣った程度の出会いだったのだから。

「………ふむ。
いや、なかなかに可愛らしかったようと、改めて見て思っただけじゃ。
お主、物騒じゃのぅ。
闇討ちをするくらいならば、愉しむ方が面白い。
そうは思わんか?ん?」

少年を見詰める瞳が、すぅ、と細められる。
少女からすれば、気に入らない相手が居たら、思い知らせるだけで十分。
闇討ち等でさっさと命を奪うよりも、ある意味、生かされていると思い知らされる方が堪らない。
そんな考え方も、あるだろうが。

くすくすと笑いながら、ずぃっ、と顔を更に寄せる。
鼻先が触れる程の、近い距離。
相手の反応を、確かめるような、そんな動きだ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ >  
「理解して貰えたのなら何よりだ。
貴様の馳走だか何だかは知らぬが、そういった物が欲しければハイブラゼールかヤルダバオートにでも行く事だ。
此処に住む民は貧しくも懸命に生きる者達。
そんな者達を脅かして馳走を得る等、悪趣味が過ぎる」

逆に言えば、賭博に興じる余裕のある者や、碌な神官のいない(と少年は思っている)神聖都市なら
好きに脅かして構わないとのたまう少年。

フン、と相変わらず尊大な態度で答えたのだが。
少女が更に顔を近づければ、その表情には僅かな変化。
疑問符、ではなく戸惑いと困惑。
思わず一歩後退ってしまうその様は、僅かに年頃の少年の様な片鱗。

「……可愛い、という形容詞は男に向けるには相応しくなかろう。
とはいえ、愉しむ方が面白いという貴様の意見には同意しよう。
決して、闇討ち云々そのものを否定はせぬがね」

と、言葉だけは一人前だが。
少年の僅かな変化は、少女なら容易に察する事が出来るだろう。
敵意や悪意ではなく、純粋な興味。少なくとも、少年を害さない感情。
そういうものを間近で受ける事に、些か慣れていない様は、あっさりと見抜かれてしまうだろうか。

タマモ > 「…?…あぁ、ここの者達であれば、別で遊んでおったぞ?
妾を畏れさせていたのは、他の地区から来た連中じゃ。
それに関しては、ちゃんと言っておかんとな?」

違う違う、手を振りながら、そう答える。
必死に生きる者達には愉悦を…これも、ある意味、あれではあるが。
ふと、少年の言葉に引っ掛かりも感じるが、あえてそこは突っ込まない。

顔を寄せてみれば、僅かに見せるその片鱗。
もちろん、それは容易に見抜いてしまう。
変わらぬ笑みを、浮かべたままに。

「いやいや、時の場合によっては、相応しいと思うぞ?
まさに、今のお主が、そう思えたようにのぅ?
妾も、それ自体は否定せんが。
時に、その方が身に染みる時もある、と言う事じゃ」

そう言葉を紡げば、顔の距離はそのままに、するりと身を寄せる。
軽く何やら思案する、そんな仕草。
それを解けば、少年の腕を取って。

「さて、とりあえず…お主をここに来させた問題も、これで解決じゃろう?
が、妾はもう少し、ゆるりとしてゆく予定じゃ。
せっかくじゃからな、お主、付き合うか?」

そう問いながら、取った腕に身を寄せて。
再び、軽く上目使いに見上げるようにして、少年の答えを待つのだ。
応じるならば…軽く、遊んでみようと。
そうでないならば、それはそれで、普通に別れるだけ、なのだが。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > ぱちくり。
そんな表情を浮かべる少年。
そういえば、ギルドの商人達は確かに噂道理の目に合っていたと聞いているが、彼等はそもそも此の地区の住民ではない。
そして、元々貧民地区の噂など王族である少年には詳しく入ってこない。
其処まで分かっていれば…と、肩を落とすが、終わった事は仕方のないこと。
手を振って否定する少女に対して、了承した様に力無く頷くに留まるのだろう。


しかして、笑みを浮かべた儘言葉を続ける少女には、一歩後退った事で落ち着きを取り戻したのか。
腑に落ちない、と言いたげな表情を向ける事になる。

「確かに、男にそういった形容詞を用いる事が無いとは言わぬ。
しかし、私は別にそういった男の様な装いも言動もしてはおらぬ。
百歩譲って、貴様の見た目だけならそういった褒め言葉も相応しいやも知れぬが、私自身に向けられぬのは好かぬ」

褒めたのか褒めていないのか。
そんな偉そうな口振りで取り敢えず少女の容姿が優れている事は認めつつ。
少年自身が可愛らしい、と評される事にはむっ、とした様に否定の言葉を投げかける。

そんなやり取りの後。
身を寄せ、腕を取る少女を拒絶はしない。
今度は何だ、と言わんばかりの視線で見下ろすに留めて――

「……まあ、確かに解決してはいるから構わないが。
妖の暇潰し…遊び、とやらは私に害を及ぼすものでなければ良いのだがな」

少女の提案に同意すれば、其の侭少女に腕を引かれるが儘に、二人の姿は此処から消え去るのだろうか。

二人は、どんな"遊び"で共に過ごしたのか。
それは神のみぞ知る…という程大袈裟なものでもない。
日陰でのんびりとしていた野良犬と野良猫が、仲良く二人を見送ったのだろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区のどこか」からタマモさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区のどこか」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。