2020/10/08 のログ
■シュバルト > 「……1日で終わるわけないよなー…王城の仕事もあるし。」
今宵は目的達成できず。
周囲の視線も危く怪しいし、と一先ず今夜は撤退を決める。
幾つか見知った路地を抜け、賄賂を払い安全を確保しつつ、貧民地区を脱するのであった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からシュバルトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ―――うらぶれた路上は、荒れた路地は、小さな戦場と化していた。
拳を交える、一人は小柄な女。もう一人は体格の良い若い男。それが、互いを打撃し、躱し、激しく競り合っている。
「――ッ…!」
めき、と鈍い音。重い音。痛い音。顔面に容赦なく食らって倒れそうになった、が――。
距離が一気に縮まったその時、拳が振り抜かれた瞬間に渾身の膝蹴りをとある暴漢の鳩尾に極めて――、
「っは、はあ、は、ぁ、あ………」
荒い呼吸、拳を受けた右頬が腫れて熱を持ち頭にまで響いていて、これで終わらなければむしろ敗北はこちら……と云った態だったが。
しかし鳩尾にヒットした膝が最後の決定打となり、よろめき膝をつく己と同年代程の男。如何にも貧民地区の住人といった、ガラも悪ければ身なりも悪い若い男は、身体を捩りながらもふらふらとした足取りでその場から撤退してゆき、その際には憎々し気な罵声を投げつけて……。
「はあ、あぁぁ~……ぃ、いたいぃ………」
闘争相手が背を向け去りゆき、見えなくなると、貧民地区の荒れた路地の真ん中にがくりと膝を付き。身体をくの字に折り。殴られた箇所を抑え呻いた。
顔だけではなく、脇腹や背中やら腿やら、数えてられないくらいあちこち殴打を喰らってしまったので、脱いだら痣だらけだ。骨にまでいっていないと思うが……全身が鈍い痛みに襲われて、もう自分でも負傷の具合が把握できない……。随分手ひどくやられてしまった。勝ったのもギリギリだ。
「あいつ、やるわあ……」
名も知らぬ行きずりの暴漢だったが、舐めてかかれない腕で相手は非常に悪かった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティエラさんが現れました。
■ティエラ > 宿の近くで、誰かが殴り合いをする音がしていた、貧民地区ではよくある事だ、荒んだ心を持つものは、大したことでなくてもすぐに怒りをあらわに殴り合う。
やれ、見た目が気に食わないとかその程度の事でさえ、此処では殴り合いの―――殺し合いのスイッチ。
気にすることはないと思って居たのがつい先ほど、準備を終えて酒場に繰り出そうと思い、宿の入り口から出てくるローブ姿の女。
流石に、寒くなり始めたこの時期、踊り子の服だけで街を歩くほどには強くない、体調管理という事も含めてプロと言うもの。
さて、行きましょうかと路上に足を踏み出した瞬間、其処に倒れている人物を目にする。
「……ティアちゃん?」
女は、駆け寄る。
道の真ん中に倒れ伏す少女は、知り合いであり、友達と言える女の子で、自分の事を大事にしない悪い子だ。
彼女の住まいはこの近くではない筈だが、何故ここに倒れているのか、と言う思考の前に、女は吐息を大きく吐き出して見せる。
「動ける?意識はある?痛みは、感じているかしら?」
そう、まずは彼女の救護だ、倒れ方が尋常ではないうえに、顔が、可愛い顔が台無しと言うぐらいに傷だらけで、所々こぶになっている。
顔だけ、と思わない方が良いだろう。見た目では服の上からでは、傷や打撲が判らない。
とりあえず、彼女を安全な場所に運ぶ必要があり、ちょうど、自分の宿は背後にある。
それならば。
「少しだけ、我慢為さい。」
女は、ティアフェルの事を横抱きに抱きあげる。
之でも鍛えているから、小さな女の子を抱き上げる程度難などはない。
有無を言わさずに、自分の塒である宿へ、引き返す。
■ティアフェル > 回復魔法は失っている。とある術師から譲り受けた、魔法を使えなくても使用できる回復カードは……置いて来た。
痛みに耐えるしかない――だけのようだったが。
しかし、傍らに転がる愛用のスタッフを震える手で握り締め。
『痛みを取り去り・傷を塞げ・癒しの光・ヒール』
痛みを押して集中し術式を編み上げ、詠唱を口ずさんだ――
しかし、最初からそんな技を持っていないかのように沈黙し、生まれる筈の暖色の光も温かく包む癒しの力も欠片もぴくりとも発動されなかった。
「……あぁ……」
死んだような力ない瞳で虚ろに杖の先を見つめた、その時――
「え……?」
不意にこちらへ駆けよる軽い足音。体重をどこか感じさせないそれは踊り子のステップのようで……聞き覚えがあるような気がした。そして名を呼ぶ声。驚いて見開く双眸に映る鮮やかな紫――それは良く知っていた姿だった。
「ぁー……はは、お姉さまー……。だ、だいじょぶ、だいじょぶ。んなの、屁でもないって……――っぅ」
声を掛けてくれるのはお友達になった女性で、その顔を見てほっと安堵、というより気まずい様な恥ずかしいような気持になって、咄嗟に強がったが。しゃべると肋骨に響いた。腫れた顔を歪めて小さく呻いたが。
「えっ? ええぇ……ッ? うそっ、重い、わたし重い、からっ……」
抱き上げられて慌てた。急いで声を放ったのでごほごほと咳き込みつつ、ほ、ほんとに大丈夫だからと狼狽えながら――運搬されていってしまう。
■ティエラ > 自分で魔法を発動し、治療をしようとしているようだけれども、それは失敗した模様。彼女は今、魔法を失っている。
理由こそわからないが、彼女の魔法の復活は、まだまだ先のようで、今現状の彼女には、絶望の色が見て取れる。
杖が重々しく持ち上げられ、力なく下ろされるのも、見える。
「お黙りなさいな、ティアちゃん。貴女は今、大怪我をしています。
私と貴女の立場が逆なら、貴女はどうする?」
彼女は治療師である、大怪我をしている人がいれば、彼女はこうするだろうことは判る。
大丈夫、と言う相手の表情、大丈夫に見えない。大問題にしか見えない、可愛い顔が所々腫れているし蒼くなっている。
その手にも力がなさそう、と言うよりも立ち上がれない時点で十分大怪我だ。
「重くないわ。全然重くない。もっと食べて、もう少しふっくらしたほうが、女性的な魅力あると思う位。」
それ以上喋ってはダメ、と彼女の眼を見て言い切る。
ティエラの部屋は、宿と言っても、宿の主から直接部屋を貰っているので、二階が、そのままティエラの居住区となっている。
寝室に、浴場に、研究室―――家をそのまま宿に詰め込んだような間取り。
その中で、寝室へと、連れていく。
寝室は、ほんのりとリラックスの出来る甘い香を焚いていて、ベッドもこの周囲の宿では―――富裕地区の一等ホテルのような柔らかなベッド。
サイドテーブルなどもしっかりと置いてあり、水差しは、冷たい水が入っているのだ。
そんなベッドに彼女を寝かせる。
「―――治療は、要る?自分で、する?」
その質問は、彼女だからこそ、だ。
先程も、彼女は自分で自分を治療しようとしていた、失った魔法を、自分で取り戻そうという努力。
それを踏みにじりたくないから、問いかける。
治療のための道具もあるし、ここでならば、彼女の治療魔法に引けを取らない治療ができる。魔法の陣を作れば、良いのだから。
■ティアフェル > 「……怪我なんて、」
不発に終わった回復魔法。唇を噛み締めて彼女の声に反応して云い掛けた言葉を切った。
怪我なんて、何も大したことじゃない。そう思う声は、心配をしてくれている人の前では云うべきではなかった。封じて押し込めて。溜息を吐いた。そして、その代わり顔が腫れて歪んでしまう笑みを薄く浮かべて、口にした。
「見た目より……平気よ」
内臓や骨には幸い異常はないと感じた。不幸中の幸いは喧嘩慣れした相手はそれなりに殴るのもうまかったようだ、ということ。
――滅茶苦茶痛いけども。アホみたいに痛いけども。
「………ん」
声を発すると怪我に響くのを察されて、しゃべるな、と留める彼女の優しさに、ただ小さくひとつ、くすぐったげに瞳を見返して笑って肯くにとどめた。でも太るのはヤだなあ、と内心で暢気なことを考えつつ。
そしてワンフロア丸ごと貸し切っているらしい彼女の住居に運んでもらい『あぁぁ…階段~』絶対重たい、絶対しんどい、と鍛えられてはいるが細腕で運ばれて階段を上ってもらう時には、死ぬ程気が引けた。罪悪感が過ると云ってもいい。わたしの喧嘩のせいでと気が咎める。
部屋がいくつかあって、浴室まであるようで一人住まいだとしたら物凄く豪奢である。貧民地区とは到底思えないような内装に目を瞠り。そして、寝室まで運んでもらってベッドに寝かせてもらうと……てれ、となんだかちょっと照れた。……そのような状況でもないのだが。
ふっか、と全身を柔らかく受け止めてくれる柔らかなベッドにほっと息づくとともに……綺麗なベッド…汚れちゃう、と眉を寄せていた。
「………甘えてもいい…?」
彼女が誰にも使えるようにしている紋章術は、簡単な使用法だったが、今日はお願いすることにした。一応専門外の術であることは間違いないし、なんだか今は魔法を使えない自分に疲れていた。何より全身が痛い。殴り合うのに疲弊して動くのも億劫だ。
少々情けない顔で小首を傾げベッドに横たわって微苦笑気味に尋ねかけた。
■ティエラ > 「それなら、………良かったわ。もう、喧嘩をするな、とかそんなことは言わないけれど。場所は考えて欲しいわ?
第一発見者が私でなければ、ティアちゃんお嫁に行けなくなるのよ?」
場所が場所である、此処で、見目麗しい女の子が―――否、女性が倒れているとなれば、直ぐに犯されてしまう様な場所だ。彼女が動けないことを良い事に、自分の欲を吐き出して、そして連れ帰るか、殺すことだって最悪あるだろうこの場所。
そんな所に友人がボロボロで倒れているのを見る衝撃は、如何ほどの物なのか、と、女は目を細めて、にこやかに問いかける。
ええ、ええ。それなりに、怒っております。
「ここはね、宿の体を成しているけれど……私のお姉様……血のつながった方の、ね?経営している宿なのよ。色々と便宜を図ってもらってるわ。
その代わり、お姉様のお仕事のお手伝いとかはしてるのだけど。」
彼女の痛みを和らげるために、気を紛らわせるために、女は軽く言葉を紡いで見せる。なんでこの場所に住んでいるのかと言う理由を軽く伝えて見せて。
だからこそ、こんなに豪華な場所なのである、自分で作ったり、買って持ってきたのだから。
冒険者をしてるし、お金も稼いでいるし、それなりに裕福なのよ?なんて冗談を。
ベッドに寝かせる彼女、自分で出来るか、を聞いたときに帰ってくる返答。
小さく笑みを浮かべて見せて静かにうなづいて見せる。
「甘える、ではないわ?助けを求める事よ。任せなさい。
其処で寝ているだけで、つやつやのピカピカにしてあげるから。
水を飲んで待ってて。」
そう、女はすい、と離れて工房へと移動する。戻ってくるその手に有るのは石灰石、石などに、白い文字を書くための物。
それで、彼女を中心として半径8m程の縁で、ベッド毎囲む様に円を書いていく。
その縁の中に、幾何学的な文字を、魔法の文字を書き込んでいく、その魔方陣が意味するのは、治療の魔法、彼女に与えたカードに書いて有る物を、複雑に、大掛かりにしたもので。
「では、行くわ。」
書き終えてから、女は、起動の為の魔力を流す。
ティアフェルを包み込む半円形の白いドーム、その中で、彼女の治療が始まる。
緩やかに、しかし、彼女の全身を、内部をしっかり綺麗に、血糊さえ、最初からなかったように、治療を施していく。
■ティアフェル > 「…………それでも嫁にもらってくれる相手にするわ」
傷物になってもそんなゴリラでもいいって相手にする、と呟くように口にした。――そんなもの思い切り空想上の生き物のようだが。顔はぼこぼこだし全身酷いもんだったので、見た目なんか悪いボロ雑巾女だったが、それでも路上で半死だったら、突っ込めるもんさえあれば、とタダでは済まなかったのは良く分かる。少し無謀が過ぎた。分かってはいた。だから、にこやかな笑みの向こうに何か修羅のようなものが見えて……押し黙った。正直すみませんでした、とぷるぷるしながら顔を反らし。
「お姉さまのお姉様……いいな。本当のお姉ちゃんかぁ……」
自分が姉の立場なので姉妹なんてとても羨ましく感じる。彼女の姉というなら。とても綺麗な人なのだろう。そしてこんな風に優しいかも知れない。想像して、いい姉妹だ…と勝手に悦にいった。
猿のような弟しかいない現実を、このやるせなさをどこにぶつけりゃいいんだ、とすら思った。
話しを聞いてそんなことを考えていると、全身を襲う鈍い痛みも少し紛れて、ほんのりと薫る質のいい香にも癒されて。ここに住みたひ…と妄想した。
冗談に、でしょうね、と深々と納得し。
「……ありがとう……元より美人にしてねぇ……」
無茶な軽口を叩きつつ、助けを求められることを快く応じてくれる声に、嬉しそうに肯いて。お姉様通り越してお母さん……と故郷のおかんすら頭に過った……うちのおかん、こんなしっとり美人じゃないけど……怒らすとヒグマみたいだけど……。
遅れてお水、と反応して、よっこいしょ、と上半身を起こすとベッドわきの水差しからグラスに水を注いでこくり、と含んで顔をしかめた。唇を切っているようで血の味がする。こく、こく、と数口飲んで、ふう、と息を吐き。
「お願い、します……」
そして、水を飲んでいる内に手際よく、工房から石灰を手にした紋章術師がベッドの周辺に魔方陣を書き込んでいく。随分と難解で複雑に見える図形を仕上げていく速度に舌を巻きながら思わずじっと目を奪われて作業の手元を見つめ。
「―――っ……ん……んー…!
わ、わぁ……や、ば………」
魔力が流されると即座にドームが形成され、その中心で横たわっているだけで、男の拳や蹴りやらで傷ついて腫れあがった顔が、腕が、脚が、胴が、一切合切何事もなかったかのように修復されていく……伴って激しい痛みも嘘のように払拭されてゆき。驚いたように目を瞠り。起き上がって、あちこち叩いたり捻ったりして。傷の跡形もない様子にぺたっと右頬に触れて。
少し放心気味に。