2020/06/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」に影時さんが現れました。
影時 > ――偶にはこういう依頼も、良いだろう。

“高貴なるものの義務”の手伝いという奴だ。
属する冒険者ギルドに発布された依頼によると、さる貴族の夫人が昨今の貧民街区の有様に私財を擲ったという。
いくつかの施療院に寄付という体で投入した金子による炊出し、という奴だ。
危険地帯に不慣れな者たちを守れ、という護衛ということで幾人かの冒険者が集められた。

己もその一人だ。この地の者ではないが、信任が厚いというのは有難くもあり、遣り辛くもある。
時に放埓に振舞いたいということもあるが、如何せん己とて稀人だ。
分を弁えぬものは、長く生きていられない。山野に潜むにも限界があるのだ。

「あー、並べ並べ。こっちだ。列から逸れんようになァ?おい、ちっこいの。二回並ぶな」

だから、こういうこともやる。
建物の合間、切り取られた陽光が弱弱しく注ぐ正午過ぎ、見た目の良い廃屋のひとつに並ぶ人の列がある。
炊出しとして配給される粥と薬品類を求め、並ぶ貧民たちのものだ。
その列を守らせながら、二重取りを企むものたちを制止する。時に不測の事態にも備える。
そのための腰の刀である。見た目に分かる武器を持っているというのは、それだけで抑止力にも繋がる。

影時 > よく分かっていない子供たちについては、仕方がない。育ち盛りだ。腹も減る。
だが、ただただ貪欲な大人は駄目だ。見過ごすわけにはいかない。
粥や薬、あるいはきれいな水ばかりで腹が膨れないというのは分かる。
さりとて、この炊出しにも限界がある。
子供の過ち程度であれば、まだいい。しかし、大人の過ちと云うのは看過はしておけない。

「……――全く。貧すればなんとやらたア、言え」

配給を受け取る者が纏う襤褸の合間より人間にはない形質のものを持っていても、不問だ。
幾人か反対するもの、抵抗するものは居たが、それが発起人の意向である。
偽善と嗤うもの、無駄な浪費と囁くものも当たり前のように多くとも、貫く心意気は嫌いではない。
報酬としては多くないにはしても、関わる甲斐があるものは寧ろ好ましい。

「ついでに、色々と耳に挟むにゃ良い機会だからなぁ……と、おぅ、お疲れちゃん。交代か」

そう嘯いていれば、交代を告げに来る冒険者に会釈を向け、差し出される水袋を受け取る。
それを手に、近くの壁しか残っていない廃墟が作る日陰に入ろうか。

影時 > やれ、何処其処の残飯より旨い、何某という処からくすねた奴より売れそう、だのと。
携帯式の氷室や魔法で冷やされていたのだろう。
薄っすらと水滴を纏う水袋から、水を啜りながら聞き耳を立てる。
興味を引く事柄が転がっていれば、それを散歩ついでに確かめてみればいい。
そうやって、採取の仕事の取っ掛かりを拾うこともあれば、仕様もない事件に突き当たることもある。

「……ふむ?」

あの子と一緒に食べたかったな、とか。どうしているかな、とか。そんな言葉も微かに聞こえる。
こんな場所だ。死人が出るのも人攫い等が出るのも、決して珍しいことではない。
しかし、僅かに気にはなる。口を締めた水袋を腰に吊るし、立ち上がる。

「なァ、お嬢ちゃんたち。その話聞かせてくれるかい?」

羽織の袂を漁りながら、声の主の方へ歩んで行けば背丈の違いか怖れの表情が彼らに見える。
否、知らぬものだからという恐怖であろう。故に膝を曲げ、目線の高さを合わせてゆきながら取り出すものを示そう。
小さな布袋の色は地味だが、猫や犬の形質を持つもの達であれば直ぐに感づいただろう。中身は砂糖菓子だ。
気を付けて食べるんだぞ、と告げながら、不安をやわらげた上で幾つか聞き出そう。
立ち去ろうとする素振りを見せれば、気を付けてなーと手を振って見送り、吐息を吐き出して。