2019/05/12 のログ
リタ > 彼の力はある程度知っている上、一対一では勝てない事も承知の上。
だから敵として対峙すれば、己の最大限の力を発揮するか、逃げるかの二択である。

「…アレって?言ってくれないと、読みが正しいのかわかんないな。うん。」

自分の指によって赤くなった彼の頬、それを見ながら笑いつつ。
そんな強さを持つ彼を苛めるのは、今しかないと言葉で追い討ちをかけて。

「あはは。私をどんなイメージで見てるのかわかんないけど、
少なくともセインさんの正義と私の正義は同じじゃないと思うよ?
価値観の相違に謝ったらお互いキリが無いし、謝るの禁止。ね?」

自己満足、の彼の言葉に大仰に頷き、笑いながら、彼のグラスに目をやる。
程なく時間が過ぎ、氷がすっかり解けたウイスキー。それを手に取り、中を捨て、新たな氷を入れて。
ウイスキーを注ぎながら、

「私だって嫌。だけどそーゆー場、在り得るんだし。
こーゆー事仕事にしておいて、それを覚悟してなかったとか、言わせないよ?」

直接的に彼を殺せという仕事があれば断るが、間接的に彼を敵に回す仕事は報酬次第である。
店員の立場からしてみれば、彼の存在はやはり厄介なものであり、本日それが証明された。
彼のことが気に入っていても、それはそれ、これはこれであり、そんな酷な言葉を濁すように冗談めいた言葉で彼に告げた。

セイン=ディバン > 逆に言うと、相手と遠距離戦になった場合、男に勝ち目は無い。
相手の狙撃地点を割り出せればいいのだが、そうでない場合はそもそも打つ手が無いのだ。

「……え、えっと。俺が女になってたら、このお店でイっちゃった……時のお話、っすかねぇ……」

思いっきり視線を逸らしつつそう漏らす男。
脳裏によぎるは天敵の顔。戦闘能力で勝っていながら、どうにも苦手意識のある同業者の高笑い。

「……ん~。わかった。
 ただまぁ、俺が勝手にリタちゃんを良い子だ、って思うのは自由だよな?」

継ぎ足されたウイスキーを飲みつつ、くすり、と笑う男。
一度信を置き、気に入った相手のことは勝手に、盲目的に信じる口。
例え悪だとしても。男にとってはそんな世間の評価などどうでもいいのだ。

「そりゃあ、覚悟はしてるさ。
 ……そうなったときに、相手を殺さず、自分も殺されないようにする覚悟をね」

気に入った相手、でないのならそんな覚悟はしない。
ただの知り合いなら、殺すことになんの躊躇もないのだ。
だが、目の前の相手は男にしてみれば良い女だし……。
何より、行きつけの店の店員さんだ。害したくないし、もっと打ち解けたいと思っている。
だからこそ。男は、心から本気で、相手とそういうことになった場合……。
殺しも殺されもせずに場を収める、などと言ってのける。

リタ > 「うわーそんな事があったんだねー、セインさん。」

言わせておいてこの棒読みである。すっかり苛めモードである。攻め時は今しかない。
…しかし少々悪い事をしているな、と思ったのか、その攻め手を休め、話を方向転換する。
きっと彼の思う天敵ならば絶対しないであろう。

「…自由だけど、勝手に私の像、組み立てて、勝手に自分で壊さないでよ?
なんかこう、セインさんって優しいというか…甘いというか…なんていうか隙、あるよね。うん。」

信頼されて嬉しくない訳では無いが、仕事の結果とお金が全てでもあるこの世界。
やはり彼は優しいのだろうな、と思いつつも、その優しさに漬け込まれる事もあるんだろうな、とちょっと心配。
続けられる彼の言葉も、この種の仕事をしている人間からは殆ど聞けない言葉であって。

「…ねー、セインさん。セインさんの命、差し出したら私が助かるって状態の時、セインさんはどうする?」

二人の命が助かるならそれに越した事は無い。しかしそれが危うい時、彼はどうするのだろう。
それでも彼は二人の命が助かる術を模索するのだろうか…
彼の言葉の真剣さに、ふと、店員は疑問を投げ掛けた。

セイン=ディバン > 「……くぅっ。あの時のことは忘れたい過去だっていうのに」

やはりあの天敵とはケリをつけねばなるまい、などと呟きつつ、相手を見る。
かの同業者と、この相手。どうにも、結びつきが想像できないのだよなぁ、と。
そんなことを考える。どうやって知り合ったのか、とか。
どんな友人関係なのか、とか。色々と考えてしまう。

「そりゃあ流石にしない。俺もいい歳だ。そこまでガキではない。
 よく言われる。だからいつまでたっても冒険者として二流なんだ、ともな」

くっくっ、と笑いつつ、相手の言葉を否定しない男。
もう、ほんの少しでも非情になりきれたのなら。
恐らくは冒険者としての階級ももうちょっとは上がっているのだろうが。

「……? 罠とか、敵の策略に嵌って、っていう仮定でいいのかな?
 そんなの決まってる。俺の命を差し出すさ。
 ……もちろん、最後の最後まで足掻くけど。
 まずはリタの身の安全を確保してから抵抗する」

あたりまえだろ? と。
男はなんの気負いもなくそう宣言する。
迷いも無く、ウソもない。男は本気で。そういう状況のときはそうする、と。
そう決めているのだ。女を犠牲に生き延びようなどとは、欠片も考えていない。

リタ > 『(本当に忘れたい過去は、脳が勝手に遮断するって話、聞いた事あるよ?ホントは忘れたくなかったりしてー)』
店員の脳裏にそんな言葉が過ぎった。しかしここでそんな事を言えないのが店員である。
彼の言葉を聴き、その真剣さに小さく溜息を落とす店員。
非情になりきれないのは彼の美徳でもあり、欠点でもある。恐らく彼自身が一番知っているだろう。

「二流の冒険者さんに仕事ぼろぼろにされた三流の私が言う事じゃないけど…
セインさんの命を差し出して生き延びるのは私。私は以降、その罪の呵責に苛まれる事になる。
そんな辛さ、私に負わせる気ぃ?」

にやにやとそう告げながら、店員は思う。想定していた通りの彼の回答だった。その優しさがきっと、仇となる。
彼の言葉は本音なのだろう。だからこそ強くもはっきりと言えるのだ。
恐らく、「まず自分の事を」なんて言っても彼は否定するだろう。
だから返す言葉に詰まる。

「…その甘さも魅力なんだろうねぇ…」

その一言が精一杯だった。

セイン=ディバン > 「……?」

相手の沈黙に、首を傾げる男であったが。
なんとなく、言いたいことを理解できないでもない気がする。
そのまま、一気にウイスキーを呷り、ソテーを口の中にねじ込むと。

「そんな情況になったら、まぁ、なんとかはするさ。
 みすみす死ぬ気もないからね。リタには内緒にしてるけど。
 俺、結構奥の手あるのよ?」

だから。キミにそんな罪の意識なんて背負わせない。
そう目線で訴えつつ、男は立ち上がり、一度伸びをする。
細巻を灰皿に押し付ければ、相手を見て一度、ウインクをし。

「ん? なんか言った?
 まぁ、とりあえず今日の所はご馳走様。
 ……その皮袋。持って帰るの面倒だからさ。今後の飲食代として預かっといてよ」

相手の呟きを聞き漏らしたのも気にせず、男は一方的に言い、店を後にする。
残された皮袋の中身は……少なくとも、金貨100枚程度ではない、というのは分かりきっているだろうが。
男は、相手が袋の受け取りを拒否するよりも早く、店からいなくなっていた……。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からセイン=ディバンさんが去りました。
リタ > 「奥の手、ねぇ…女になれたり、とか?」

ここにきて再度、攻めに入る店員。どうやら彼の虚勢にも似た言葉に反応して、意地悪な言葉が出るらしい。
食事を終え、伸びをする彼をジト、と見ながら皿を下げ、洗う準備を。

「今後の飲食代?え、ちょ、待って…」

店員が彼の言葉を聴き、慌てて視線を向ければ彼はもう居らず…残されたのは金貨の詰まった皮袋。

「…二、三週間はもつよ、コレ…居座る気だったら追い返してやるんだから。」

金貨の入った袋を持ち上げ、下げると彼の座っていた席、そのテーブルを拭き…
本日最後のお客様を嫌味混じりの言葉で見送った。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリタさんが去りました。