2019/03/31 のログ
ご案内:「王都マグメール貧民地区 崩れかけの礼拝堂」にサウラさんが現れました。
サウラ > 普段は余り立ち寄らないようにしている地区だが、
月に1、2回くらい、どうしても来て仕舞う場所がある。
それがこの崩れかけの石の礼拝堂だ。

かつては沢山あっただろう燭台も持ち去られ、一部崩落した天井から光が差し込んでいる。
説教壇から堂の後ろまでずらりと埋め尽くしていただろう長椅子も、
今はところどころ歯抜けのように無くなっている。
恐らくいつかの極寒の冬の日に、長椅子は薪にされて仕舞ったのだろう。

説教壇から一番近い最前列の長椅子のひとつに腰掛けて、
額から滲む汗を手の甲でゆったりと拭う。今日は抑制薬の効きが余り良くない。
長く続く厄介な時期においては、思った通りにならないことも多々ある。
それが偶々、今日だったというだけの話だ。

サウラ > 視線の先、説教壇の後方の窪んだ壁に白い石像が安置されている。
その顔は砕かれており、造作からして人に近しい姿の神の像か、
あるいは守護聖人の像だったのか。祀られていたのは何者だったか、今はもう判別できない。

もしも叶うなら、この像に顔があったときに見て見たかったと思う。
顔が砕かれている今のかたちでも、こうして眺めていると不思議と安らぐ心地がするからだ。
額の汗も心なしか引いて、効かなくなったら如何しようという不安も徐々に薄れ、
漸くと落ち着きを取り戻す。膝の上で軽く拳を結んで、解く。今度は強く結んで解く。
それを何度か繰り返す。

サウラ > 古い廃油を使った蝋燭が燃える臭い、埃と黴の臭い、そして微かな花の香り。
感覚が外へ投網を広げるように拡がり、周囲のオドの気配を捉える。
説教壇の裏に鼠、屋根の上に猫、床下に絶滅を免れた太古の虫。
感知力は正常に戻っている。これなら仕事に戻れる。十分に能力が発揮できる。

ふっと満足げに表情を緩め、長椅子から立ち上がる。
緩やかに瞬いて顔のない石像をもう一度眺め、踵を返して礼拝堂の外へ――

ご案内:「王都マグメール貧民地区 崩れかけの礼拝堂」からサウラさんが去りました。