2018/07/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にディールさんが現れました。
ディール > 貧民地区一角。不衛生な場所の片隅で珍しくも医者としての行いを行なう男がいた。
貴族としての責務を見える形で行なっておかねば、何かと鼻の効く王国の狗が何かを嗅ぎ付けるかも知れない。
叩けば埃の塊の様な己だ、あまり力有る者、権威ある者に目を付けられるのは忌避したかった。
魔族としての力量が上がったとはいえ、所詮王国内部の結界の中では扱える力に大幅な制限が掛かる。

「毒蜂の毒か。吸い出すな。」

例えばだ。目の前の少年は以前施しを受けた時に甘い物を口にしたそうだ。
その甘さが忘れられず、愚かにも毒蜂の巣を破壊して蜜を得ようとしたらしい。施しは善悪両面の要素を孕む。
こういう事態も起こり得る為だ。

「……金はいらん。今日はそういう気分だ。泣くな。」

先日狐耳の娘より得た魔力により、王国内の結界でもそれなりの魔法治療を行なえるまでに至っている。
以前ならば出来ぬ治療や解毒も今は苦も無く行なえる。
それに持ち込んだ薬もまだ余裕はあるのだから。
蜂の刺し痕は無数にある。一つずつ潰して行くのでは少年の命も持つまい。
泣き喚く少女に泣くな、と一言告げた後。少年の膨れ上がった肉体に自らの魔力を突き立てる。
注射針ではなく、解毒魔法と治癒能力を併せた魔法点滴。内部の毒素を薄め、打消し。
毒素に犯された細胞を非活性化させる分低下する体力を治癒魔法で補う物。
鈍い銀色のそれは水銀の点滴を連想させるように、突き立てられた魔力の全長は徐々に短くなっていく。

ディール > 臨時の医院は時折気分で開く。
あくまで臨時であり、今日は気分が乗ったから開いただけの話だ。
そこに子供が駆け込んできたのは、言い方は悪いが自分にとっては都合が良い。
子供の命を救うならば、まぁ美談の一つにはなるだろう。
目くらましや自分の裏側の顔や商売に目を向けなくさせる煙幕としてはそれなりに有用だ。

「飯の面倒までは見れん。」

腹の音は聞こえる。が、自分は食事を与えない事を明言しておく。
そこまでお人好しでもない。善良なる人間でもない。
一時の施しを与え、そして悪の道に足を進めるように仕事を与える事も頭に過ぎるが――そういう気分でもなかった。
復讐者を志すには、目の前の兄妹はまだ、瞳に濁りが足りない。
そんな相手にこれ以上の身銭を切るつもりもない。
精々治療に感謝してもらい、風評を広めてもらう程度の利用で十分。

「お前はなんだ。」

暫く点滴が終わるまで粗末な寝台に横たわらせ、これも気分だ。
その寝台の横に木箱を置いておく。座るには十分だろう。
つい、僅かな麦粥をその木箱の横においてきたが知らない話だ。
次の患者は、冒険者か。見習いかはしらないが。体には幾つもの傷がある。刀傷というよりも獣相手の傷にも見えるが。

「魔獣相手か。ふん、そんな粗末な装備で挑むなど正気か。」

ディール > 皮の鎧はお世辞にも上等とはいえない程薄い皮。
魔獣の爪を受け止めるどころか、普通にナイフすら受け止められないような粗末な鎧。
腰の武器はダガーの様にも見えるが、はっきりいってしまえば何の変哲もないただの武器。
駆け出しの冒険者が魔獣に挑むのは大抵事故の元。
魔獣にも変異種はいる。弱い魔獣だからと迂闊な行動を取れば、稀に統率する知能を持った魔獣もいる。

「お前だけ逃げ帰ってこれたのか。判断を責めるつもりは無い。いい判断だ。」

この有様では仲間達と奮戦した所で何れ死ぬのは明白な傷だ。
ならば自分を優先して逃がす事の何が悪い。それでこそ人間というものではないか。
片目も瞑れ、粗末な布を宛がうだけ。血は止まっても化膿は防げないだろう。
まず傷周りの消毒だ。傷だけをふさいでも化膿している箇所が箇所だ。
率直に言えば命にも関わる。

「痛みを和らげる麻酔は無い。そうだな、これでも口にしていろ。」

そういって相手の口に捻じ込むのはサトウキビの茎。硬く太くかみ締め甲斐のあるそれは、いい歯を食い縛る時の補助剤になる。
また僅かな糖は彼の苦痛は癒せずとも、目先を変えるには役立つ。

ディール > 先ほどの少年への治療もそうだが。
自分の魔法を使った治療は兎に角即効性に欠ける。
時間が掛かるが毒、傷を癒していく、どちらかといえば瞬時回復【ヒール】ではなく再生助長【リジェネレーション】に近い。
これは自分の魔族としての特性も影響しているのかもしれないが。
傷周りの毒を抜き、保護する膜を張る。
新たな化膿となる危険性を取り去ってからゆっくりと皮膚の内側から再生をさせていく。
細胞は生み出され、肉は張り直され。ゆっくりと盛り上がり、傷を押し出す様に小さくさせながら最後は被膜を張るように皮膚が再生される。

「復讐など詰まらん事を考えるなよ。どうせ今ここで助かった命だ。違う事にでも使え。それでも魔獣への復讐を願うなら優秀な仲間を増やし、自分も強くなる事だ」

折角治療した相手が直に死にに向うのはこちらの大損だ。
精々生き長らえさせ、自分の医者貴族としての風評を高めてもらってから死んでもらうべきだろう。

ディール > 欠点が瞬間的な回復力に欠ける為、治療が間に合わない場合がある。
但し利点としては魔力が続く限り同時に大人数を少しずつ治療していく事が出来るという点。
ある程度以上緊急を要するなら魔法による治療。
そうではないならば、普通の医者として薬草や薬物を用いた治療をしていく。
軍医には向かないが、大衆への医療行為には向くだろう。

そういう意味では金の稼ぐアテが増えた事はありがたかった。
後は医者としての名声と貴族としての名声。ゆっくりこれらを蓄え、国の内側を腐らせる復讐を始めれば良い。
貴族も王族も、宗教も騎士も関係が無い。
ただ憎しみあい、ただ堕落を貪り、ただ快楽を求め堕ちる魂。
それらを目にする為ならば一時の茶番くらいは我慢して見せよう。

ディール > 今日の治療はこれで仕舞い。
復讐の仕入れこそ出来なんだが、まぁ。貴族としての風評稼ぎには一役買うだろう。
ともすれば、貴族としての顔にコロリと騙されるような人間も出てくるかもしれない。

先ほどの兄妹の末路は気になるのでちらりと臨時の医療テントを出る際に目を向けたが。
麦粥は半分だけなくなっていた。
――だが、少女の口周りではなく。
未だに水銀の様な鈍い銀色の点滴を受ける少年の口元が僅かに濡れ、麦の粒がこびり付いていた――。

その光景から目を逸らす様にしてまた貧民地区へと足を向ける。
全く人間と言うのは面倒なものだ。輝かしい者から度し難い程醜い者まで多種多様に混在するのだから。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からディールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にイグナスさんが現れました。
イグナス > 夕暮れ時の貧民地区、路地裏。――どことなく気持ちの悪い空気は、こういう場所だからだろうか。
あんまり寒くもないのに一度、ふると体を震わせた。

「んー……悪い空気。だな、おい。」

視線を周囲へ。どこからか見られてるような気配すらある。
実に心地悪い。気のせいだともわかっていたし、そもそも何が出てきたって問題なんてないんだけども。
やれやれと肩を竦める。
――思考を切り替えよう。路地裏の真ん中で腕を組んで仁王立ち。

「飯、どうすッかなあ。」

なんだかんだ、考えるのはそういうこと。