2018/06/07 のログ
■紅月/コウゲツ > かか、と、紅蓮の鬼が薄暗い石の通路を駆ける。
何故王都の中であるのに娘ではなく鬼なのか…それは、彼女にとって此れが弔い合戦であるからに他ならない。
だがしかし…その頭から紅い角が煌めいており尖った長い耳まで携えておれば、それは比喩ではなく確かに鬼の類いに相違なかった。
「待てぁ己らぁあっ!
この、紅から、逃げおおせると…っ、舐めるなぁあああ!!」
般若の形相で開いた鉄扇を力一杯振りぬく。
薬の売人やその用心棒共ごと、鎌鼬に吹き飛ぶ壁。
…どうやら今まで居たのは地下であったらしい、崩れた正面斜め上、そこから光が漏れている。
とん、と、と跳べば、そこはどこかの建物の中。
乱雑に打ち上げられてすっかり伸びた売人と、体制を体勢を立て直す用心棒共…まだ、やる気があるらしい。
忌々しいことだ、実に。
■影時 > 手にした編笠の裏には手裏剣を一本、差して仕込んでいる。咄嗟の時には抜いて投げつけてもいい。
傍目にこそ、武装らしい武装は提げていないようにこそ見えるが、総身を凶器として鍛えているならば不足はないだろう。
足音らしい足音は響かない。数枚の革を重ね、消音の工夫を凝らした履物と相俟って響くとすれば、微かな床の軋みだ。
衣擦れらしい衣擦れも響かない。足音をも殺すために培った、肩の線のブレもない体重制御の賜物である。
「……こっちも、か。そうなると……下か?」
二階に至る。此処まで来ると、いよいよ所々に雨漏りらしい音色と湿り気の気配がする。
誰かが居たらしい痕跡はある。床に堆積した埃の具合を見るに、そう年月は経っていないことだろう。
一階は見た。二階は今見た。そうなると、次にあるとすれば地下か。
手甲をつけた手で前髪を掻き上げ、は、と吐き出しては口元を捩じる。あり得ない話ではない。
地下水道もまた、逃走も含む移動経路の一つだ。
「細かく潰すのは嫌いじゃあないが、この街の地下は臭くて敵わ――ぬおっ。……揺れたか?」
足元が、揺れる。まるで大槌を叩きつけられたかの如く、振動した気配に目を瞬かせる。
まさかなと首を捻りつつ、一階へと降りよう。歩んで把握した間取りで向かう先は、この廃屋の奥にある箇所だ。
地下への出入り口があるとすれば、そこだろう。
■紅月/コウゲツ > 「やっと…やっとよ、随分かかっちゃった」
目を伏せて呟く。
眼前の敵と、仄かに纏わりつく地下の湿り気や臭気…どちらも不快極まりない。
であればせめて片方だけでも消してやろうと、迫り来る白刃を、キン、と退けつつに焔を纏う…愛しい其れで上書きするように。
しゅう、と音がしたかもわからぬ程、一瞬の猛火…相手にそれを放たないのは室内であるからというのが一番の理由ではあるが。
何より…そんな一瞬で終わらせてやる優しさを、今この時は持ち合わせていなかったからで。
少なくとも、良い具合に脅しにはなっただろうそれ。
「さぁ、彼岸へ渡りたいのは…だぁれ?
おいでなさいな、紅がちゃあんと送ってあげる」
いかにも優しげな声で、にっこりと。
巨大な鉄の扇を両手に携えて、地下通路へと繋がる穴の前に立つ。
扇の片方を床に刺して立てたかと思えば、片腕を差し出しゆるりと誘って首を傾げて。
…気配に敏感な忍であれば、気配というより瘴気に近いかもしれないドス黒い怒気を感じるだろうか。
■影時 > まさかと思うが、地下で火遁――火術や火薬の類でも使ったとでもいうのだろうか?
否、その可能性は薄いと考える。火には煙がつきものだ。煙に巻かれて窒息すれば、元も子もない。
殊勝にも自爆して証拠隠滅に勤しむ売人というのは、ついぞ聞いた事がない。
其処までできるものとなると、売人の皮を被った下忍やらよく訓練された間者の類であろう。
さらに、地下に通じる扉に近づくに従い、一つ嫌な予感が強くなる。
嗅ぎなれた気配だ。狐狸化生の類が放ちそうな瘴気に似た具合のそれである。
「ふン。真逆、この国まで来て此の手の気配を感じるたぁ思わなんだ。だが……」
近づくにつれて、いよいよこの気配は強くなる。さらに熱気の如き気配さえ混じってくる。
悠長に歩いている訳にもいくまい。隠形を意識せず、速足で進んでは行く手の先に見える扉を見つめる。
腰裏に手を回し、流れる挙動で抜き放つ黒い刃の苦無に氣を流し、振り上げ様に閂を切り裂いて開けば――。
「よぉ、別嬪さん。……お取り込み中のところ悪いが、そこまでにしてくんねぇか?」
見えてくる情景と吹き付けて来る熱気交じりの瘴気じみた気配に口の端を釣り上げつつ、声をかけよう。
狭い扉の縁に左手をかけつつ、右手で弄ぶ苦無を仕舞って投げ掛ける声は悠長にも聞こえるかもしれない。
だが、其処には相手とは裏腹に冷静な、だが、どこか愉しむような風情がある。
■紅月/コウゲツ > キィン…と小気味良い音がした。
さて新手か、それとも…?
「あら、まぁ…どちら様かしら?
今、本当に取り込んでるの…紅に用事なら、後にしてもらえると助かるのだけど」
ふふ、と、笑んで…少しの威圧と共にそんな言葉を投げて寄越す。
どこか愉快げな空気を纏った男…その姿、というよりは服装か。
それはどこか馴染みのある雰囲気で。
…おそらく『そういう』連中の一人なのだろう。
であれば、武装解除していても警戒は怠らぬ。
しかしまぁ…別に怨みがあるわけでなし、火力は弱めて対話の意思を示そうか。
「…それとも『これら』に用事かしら?」
■影時 > 事は速やかに成す。察するに悠長に時間を費やしている暇もない。
手にした編笠を適当なところに立てかけつつ、この熱気のある場所へと降りてゆこう。
「名乗るようなもんじゃあない。しがない使い走り、といったところだ。
俺もそいつらに用があってなァ。何やら思う所もあるようだが、そいつらを殺されると困るんだ。とても困る」
改めて相手を見遣り、目につく色は赤。髪と着物を染める紅色。
街中を歩んでいればすぐに目立つことだろう。その色を纏うものの風情もそうだが、見目も良ければ尚の事だろう。
この地の装束を基本に己の衣装は改造を加えているが、所持品等から考えれば同郷の可能性もある。
その誼でという論法は流石に役立つまいと思いつつ、最低限の目的は果たさねばならない。
「こいつらをふん縛って連れて来い、と言われてな。
半欠けになってても俺は一向に困らんが、死なれてちゃあ元も子もない」
腰に付けた雑嚢から、縄を取り出そう。何の変哲もない細縄だ。
忍びでなくとも、冒険者であればこの手のロープは持っていよう。登攀から此の手の捕物等、使う場面は多い。
■紅月/コウゲツ > 「……、…そんなこと、言われても、なぁ?」
眉を寄せて…それはもう隠す気もないとばかりに思いっきり眉を寄せて。
更に圧をかけてみるものの…まぁこの手の手合いは主人に忠実である事を誉としている以上、譲ってはくれぬだろうし、なぁ。
「使い走り、ふん縛って連れてこい…ねぇ。
………ハァ、冒険者か何かかね、あんさん」
カクリ、ふっと掻き消える焔と同時に脱力して。
目を瞑り、息を吐き、駄々漏れていた怒気をどうにか引っ込めて。
「仇討ちと八つ当たりと、ついでに紅のご飯にしようと思ってたのに…
……しょうがないなぁ、もう」
うなじを軽く掻きながら、今度はただただ恨めしげに男の目を真っ直ぐ見詰め…実に、不満そうに。
「…持ってけば?困るんでしょう?
ついでに、この下を水に沿って行った先にも色々あったから…任せていい?」
むっすりと不機嫌に、自分の背後を親指で指して。
獲物の首を譲る代わり…もう色々と面倒を押し付ける腹積もりで言って。
■影時 > 「そうだなぁ――そうでもあり、そうでもない。
今は依頼を受けたから事を為してる。それだけのモンさ」
韜晦するわけではないが、正直に話してもそうなってしまう。
或る貴族の私兵じみた食客であるが、好き勝手に遣れるときはこのように冒険者としての仕事もやる。
此の手の仕事に限らず、信用第一だ。最低限果たすべき義理は果たしてこそ、信頼を得ることが出来る。
ひょいと肩を竦めつつも、想定していた最悪時にならなかったことに内心で安堵して。
「敵討ちか。そいつは悪かったなァ。
八つ当たりは少々気になるが、嗚呼、少し待て。喰い足りんってなら喰わせてやる。如何に?」
仇と聞けば気になるものは少なからずある。
ほう、と目を細め、続く言葉にどっちだとばかりに呆れが混じった表情を見せよう。
化生の類は気まぐれが混じるということもあるが、その手の事例であろうか。
そう考えながら、提案をしよう。結果的に己の為すべきことは済んだ。その手間分は最低限報いるべきだろう。
提案を述べた上で相手が指差す先をひょいと見遣り、死屍累々としてそうな具合にあちゃあと顔を覆う。
「……若しかしたら、根こそぎじゃねぇか。任されたというか、一先ずふん縛っておかなきゃ飯も食いにいけんなぁ」
取り敢えず、動きそうにない売人からまずはしっかりと縛って転がして、その後用心棒といこう。
最低限受けた依頼として、売人を抱えて持って帰れば事が済む。その後、依頼人に引き渡して後の事を任せればいいだろう。
少なくとも、食いに行くとすれば手持ちの金で一先ずはなんとかしよう。そう心に決める。
■紅月/コウゲツ > 「…両方、のつもりだったんだけどなぁ。
とりあえずお酒、かなぁ?」
事実どちらでもあった…仇討ちだって、やったところで生き返りはしないのだから、平たく言えば八つ当たりの一種である。
己は基本ヒトは捕らないが、下衆な悪人は例外…肉を貪り喰って良しと決めていて。
けれども其れにもまだ用途があるなら致し方ない。
基本、基本は、ヒトと敵対しないと決めている以上…うぅむ、無念。
「…それとも甘味でも食べに行く?殿方はだいぶ目立つけど」
クスクス、と笑って言う。
冗談半分嫌がらせ半分…まぁ、たぶん酒の方を選ぶのだろう。
己としては酒でも甘味でも構わないのだし、そも、興味が削がれた今となっては適当に気晴らしの散歩ができればそれでいい。
水路に視線を移して顔を覆う男を見つつ、また愉快げに笑ってみせて…
「もしかしなくとも根こそぎだし、一応私は殺してないから…頑張って、ね?」
ダメ押しとばかりにケラケラと笑って。
勝手におっ死んだ奴までは知ったことではないが、動きはしっかり封じてある故…だからこその重労働である。
…ま、もう少し話してみて。
この男が面白そうなら手伝ってやろうかな。
■影時 > 「……喰う、嗚呼、そっちの方のか。
止めとけ止めとけ。腹下すぞ。――酒ならば構わんが、俺の財布が死なん程度に頼むぞ」
はて、と。響く言葉の中身に脳裏に引っかかるものを思えば、ぽんと心中で手を叩く。
化生の類であるとすれば不思議な事ではない。喰えるのだろう。
だが、こうも思うのだ。喰いでがないどころか、腹も壊しやしないのだろうかと?
蟒蛇の予感もあるとすれば、改めて言っておく必要もあるだろう。物入りになる時はなるが故に。
「――……それはそれで構わんがね、俺は。あー……木や石でも変えて縛る方が早いか…?」
甘味も嗜むときは嗜む。
所謂バター等を使った重いものよりも、軽いものの方が好みではあるが、この街だと希少な部類だろう。
若しかしたら、この御仁であれば何か知っていよう可能性はある。
持ち帰るべきものだけはしっかりと縛り、残り物についての扱いは思案した末に忍術で通路を作る木材や石材を転用する。
錬成の術を以て手枷や指枷宜しく形状変化させ、手首や指を拘束しておけば、動きようもあるまい。
事を為すまでどれだけ時間を要したかは定かではないが、終われば米俵よろしく売人を抱えて立ち去ったことだろう。
報酬を受け取り、酒か、甘味か。帰路に相手を伴うことがあれば、使途について話し合ったことだろうか――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2/廃屋」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2/廃屋」から紅月/コウゲツさんが去りました。