2018/04/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」にシスター・マルレーンさんが現れました。
シスター・マルレーン > 「………少しは、気持ちが楽になりましたか。」

穏やかに語り掛ければ、年端も行かぬ小娘は小さく頷いて、頭を下げて部屋を出て行く。
フードをつけたままの冒険者シスターは、少女を見送ればふう、と吐息をついて。

金髪も鮮やかなシスター兼冒険者の彼女、通称マリーは、今日も今日とて山のように積まれた所用をこなしていた。
今現在終わらせた所用は、立て札の立て替え、屋根の修繕、柵の修復、城壁工事のお手伝い、共同墓地の増築作業……
あれ、私左官でしたっけ、と目から光が消える。
いいやこれも修行、これも修行のうちなんです。そう思わせてください。


今日は古い教会の懺悔室待機。
悩みの深い貧民地区の教会である。
罪に手を染めてしまった人の悩みや、被害を受けた人の苦しみ。
様々なものがストレートに流れ込んでくる、割と重いお仕事。

シスター・マルレーン > 「……ここも修繕しなきゃですよね。」

本来であれば、こういった話を聞く場は、顔を向き合わせることは無いのだけれど。
話す側と聞く側を隔てる薄い壁は、無残にも壊されて。
ただの面談室と化していた。

ええ、酔っ払いに絡まれて神父様が怪我をされたので、その代わりです。

「今度は、金属部品で作りましょうか………。でも、そういうのは流石にまだあまり触ったことは無いんですよね。」

木工は比較的経験があるが、金属加工まではやったことが無い。
新しい来客も来ないので、一人部屋でうんうん唸る金髪シスター。

シスター・マルレーン > 「……ふー。」

その実、彼女は結構消耗していた。
ぶつくさぼやきながら毎日働いているとはいえ、人のために身体を動かし、それで一つでも二つでも、「良かったこと」を生み出せるのだから。
ここに来るのは、何かしら………法でも、己の力でもどうにもならない胸の内の重荷を抱えた人たちばかり。
その人達の悩みを聞いても、何も助けてあげることはできやしない。
聞いて、頷いて、教えと自分の考えをしっかりと優しく伝えて。
それでも、救われない人が大半である。

……己の無力さを味わうには十分すぎる時間だった。溜息、もう一つ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」にツールさんが現れました。
ツール > 男の足音が歪に響く。
靴が地面を踏む音、そして杖の先が地面を打つと引きずるような音が響く。
その足音と共に軽い足音の四つ足の獣が付き従う。

その足音の主は共同墓地の方から徐々に教会へと近づいていく。

「ふぅ ようやく墓参りができたな…」
等とつぶやき横を歩く犬がくぅんと小さく鳴いて答えた。

シスター・マルレーン > ……ふー、とため息を一つついて。
彼女は落ち込まぬ人間ではない。むしろ割とよく落ち込み、よく泣く方だ。
ただ、そこから立ち直ることはできると自分自身は思っている。
無力は十二分に感じたが、頬をぱちん、と強く叩いて。

「……? …誰かいらっしゃったかな?」

なんて、よいせ、と立ち上がって表に出て、きぃ、と扉を開けて顔だけひょこん、と。
金髪がフードの端から零れ落ちるシスターが教会の扉から目をぱちぱちと。

ツール > 扉に近づけば、軋んだ音と共に開く扉。
以前遠くから見た記憶のあるシスターが扉を開けてこちらに向けられる視線。
相手の前で鍛え抜かれた体を簡易な服に包んだ、傷だらけの隻眼の男が足を止めた。


「ふむ。 不信心者だが、少し休ませてもらってもいいかな?」

隻眼の目で相手を見やりながら静かに問いかける。
そして、杖で足が悪い事を示す様にこつんと自分の足を叩く。
傍の犬は主人が止まれば隣で座り、シスターの事を興味深そうに見つめながら尻尾を上機嫌に揺らしていた。

シスター・マルレーン > 「ええ、もちろん。 中に入って大丈夫ですよ。」

二つ返事で答えれば、どうぞ、と大きく扉を開いて中に招き入れる。
ちょっと段差がありますからね、と手を差し出すが、捕まるかどうかは相手に任せて。

尻尾を揺らす犬には、膝を折って視線を合わせて、小さく笑う。
ものすごく、ではないにしろ、動物は好きだ。
流石に不用意に手は出さないまでも、視線だけはあわせて。

「……と、そこのソファ使ってもいいですからね。
 今、お茶でも持ってきますから。」

と、慌ててひょい、と立ち上がって奥へと。せわしない。

ツール > 「ありがとう。 感謝をする。
ふ、シスターがいくら鍛えていても大きな体では大変だろう。 気持ちだけで大丈夫だよ。」
手を差し出されれば、男はやんわりと辞退してから、杖をつき段差を上がる。

犬も目線を合わされれば心なし嬉しそう尻尾のぱたぱたのスピードが増す。

「それでは遠慮なく。 いや、お茶までは…」
甘えるわけにはいかないと言おうと舌が相手は忙しなく動き回り苦笑いを浮かべる。

そして、薦められたソファに腰を下ろし、横につく犬の頭を撫でる。

そして、男はゆっくりと、教会内に視線を滑らせる。
見れば、貧民街の協会。 古くはあるが、よく手入れされていることが分かる。
懺悔室に至っては扉が開いている所から覗ける範囲では、面談室の様になっていた。

シスター・マルレーン > 「ふふ、こう見えて冒険者とかもしてるんですよ? でも、大丈夫なら。」
辞退するならばするりと手を引いて、さあさ、中にどうぞ、と犬にも声をかける。

元気なシスターは相手の言葉を置いてけぼりにしてしまえば、程も無く、ことん、とお茶の入ったカップを置く。
安物であるが、心が落ち着くハーブティーだ。

「………今は懺悔のお時間ですけれど、そんなにいらっしゃることもありませんから。
 あ、司祭様は今はご不在なんです。」

周囲を見回す男性に説明するように言葉をかける。
他に人がいないのはそういう理由なんです、と。

ツール > 「最近のシスターもすごいものだな…。」

自身が傭兵や冒険をしていたのもすでに10年も20年も前である。
その頃のことを思い出しながら片方の目を細め、昔をほんの一瞬思いだし。
声を掛けられれば犬も喜ぶようにワフと小さく一鳴きして、男の後を付き従う。

シスターが自身の前にお茶を受け取れば薫りの穏やかなハーブティー。

「懺悔の時間か… まぁ このあたりの連中もシスターと同じで常に忙しく動き回っているからな…
一人で留守番しつつ、いろいろな仕事をしているか…、シスターもやはり大変だな。」

ハーブティーの香りを楽しみながらカップに口をつけ一口。
男はゆるりと吐息を漏らした。

シスター・マルレーン > 「あはは、……そうですね、最近はそういう方も増えているみたいです。
 冒険者として動けるなら、人を直接助けに出よう、と言うことらしく。」

苦笑を浮かべながら、向かい側のソファによいしょ、と腰掛ける。
自分の分のお茶を軽く手に取りながら。

「………そうかもしれません。 もっと能動的に困っている人に働きかけられるといいんですけれど、なかなか。

 今日はどこかに寄られた最中でしょうか。」

苦笑しながら首を横に振る。先ほどまで、散々無力を感じさせられたところだ。
相手に話題を振って。

ツール > 「確かに表で人を助けるも道の一つではあるな。」

向かいのソファーに腰を下ろす相手。
犬は一度主人の方を見やってから頷かれれば、尻尾をパタパタと振りながら相手の方へと進んでいく。

「俺としたら墓の面倒や孤児の面倒を見てくれるようなシスター達もありがたいものだよ。
ん? 俺か? 春にもなったからな、季節の移り変わりを友と話をしに来たついでに酒を飲ませに来た帰り道だ。」

この共同墓地の一つに男のかつての戦友が眠っている。
季節の移り変わりや、気が向いた時にこちらに来る男。

シスター・マルレーン > 「……私は、今はひとところに留まって、その周囲の人の心を安心させるような。
 そんなシスターにはまだまだ修行が足りないんですよね。」

胸の前で腕を組んで、理想を語り。 ………その上で、とほほ、と肩を落として少し微笑む。

「ですから、今しばらくは表で、直接。
 そう生きて修行しろと言われております。」

おいで、と手をのばして、その犬の頭を撫でる。 んふふー、と満足げに笑いながら。
下手したらぎゅっとしたいくらいだ。流石にしない。

「そうだったんですね。
 きっと、喜ばれたことだと思います。 先ほどおっしゃられた通り、忙しいとは思いますが、またいつでも。」

相手の言葉を察するくらいには聡くもある。
頷きながら言葉を受けて、その上で。

「もし、壊れている場所や汚い場所などあれば、教えてくださいね。
 つい先日、ちょっと直したんですけれど、やっぱりまだガタが来ているところ、たくさんあるみたいで……。」

ツール > 「若いうちの経験も物言うからな…。 足りないからと言って無理をすることのないようにな。」

そうはいっても無理をするのも若さの特権であろうか…。 男は穏やかな表情を相手に向けた。

「んむ。 生きるが大事よ。
生きていれば、また、人を助けることも出来る。」

犬も撫でられれば、嬉し気にその手に頭を摺り寄せ。ほらもっと撫でてとばかりに尻尾をパタパタ。


「ふふ あぁ シスターの元気な顔を見るついでに来るのも悪くはないだろう。」

頷く相手に男は愉し気に笑いながらうなずき。

「いくら鍛えているとはいえ、一人でやるのも大変だろう。 何か手伝えることがあれば頼るといい。 こう見えても腕は器用だぞ?」

壮年の男は穏やかな表情を相手に向けながら、ゆっくりとハーブティーを一口。 男が視線を向ける先は面談室になってしまった懺悔室。

シスター・マルレーン > 「ええ、大丈夫です。 ……無理はしないようには……して……
 ……して…… いませ……います!」

言い切った。ええだって今はもう痛くないし! だから大丈夫!
犬を優しく撫でながら、ゆっくりと頷いて。
多くの死を見送るお仕事でもある。身に積まされる言葉だ。
少しだけ表情が遠いものに変わり、犬を撫でる手が虚ろになる。

「……ふふふ、お世辞を言ってもなーんにも出ませんよ? お茶くらいですか。」

相手の楽し気な言葉に、ふふーん、と冗談らしい雰囲気を出しながら片目を閉じてウィンク一つ。

「ああ、そうなんですよ。あそこに木の格子をつけていたんですけれど、先日壊されてしまいまして。
 金属製の格子の方がいいのかな、と。 ……でも、ちょっと冷たいですかね?」

ツール > 「いくらシスターとはいえ、もう少し余裕をもたないとな。」

ごまかしきれていない正直な相手の言葉に小さく笑い。
犬は撫でる手に気持ちが入らなければその手のひらをぺろぺろと大きな舌でなめ始める。

「世辞一つで、美味しい茶が飲めれば安いものだな。」
はっはっはっと男は快活に楽しそうに笑う。

「そうだな…金属製の格子では牢屋を思い出して辛いものもいるだろう。 壊れたとしても木の方がいいのではないかな?
それに、壊れるものだからこその尊さもあると思うし、それを教えるのもシスターの仕事では?」

男は静かに、目先に囚われない見方も相手に伝え。

シスター・マルレーン > 「余、余裕ですしね。ええ、大丈夫大丈夫。
 もう治りましたし。」

ええ、と頷きながらよしよしよし、っと犬を撫でる。
ほらほら、と笑顔を取り戻して、一瞬見せた遠い感覚はすぐにかき消えて。

「……たしかにそうですね。
 ただ、壊される場合、中にいる方に危険が及ぶ場合もあるので。
 この状況だと、……それこそ身を護るすべを知らない場合、本当に危険ですからね。
 頑丈な木で、がっちり組んでみようと思います。」

うん、うん、と頷いて。相手の意見を取り入れながら、自分の言葉、考えに直して案を伝えてみる。

ツール > 相手の言葉と笑顔を取り戻す様子を楽し気に笑う。
相手が再び笑顔で撫でてくれれば、喉の下を撫でてもらったりと手にじゃれ付いて。

「それもたしかに。
まぁ、木を扱うなら俺でも手伝えるからな。 丈夫な木なら心当たりもあるし。」

がっちり組むという相手に男も頷き。
丈夫な木樫で会ったりより強い武器にも防具にも使える木材であれば男も紹介も準備もできる。
そんな提案をしてみたり。

シスター・マルレーン > ………
真面目な顔で考えて、ふむ、と唸る。

「ちょっと待ってもらえますか?
 いや、分かるんです。 必要だと思うんです。

 ただ、私実はその、先ほど言った通り冒険者をしておりまして、こちらのお手伝いをさせてもらっているんですよね。
 ですから、その。」


………言いづらいなぁ、と頬をぽりぽり

「予算が出るかどうかで大分変わるんです。
 実はその、自分で取ってこようと思っていたくらいで。」

ツール > 何やら真面目な顔でうなる相手。

続く言葉男は遮るでもなく静かに聞いている。

「木を取りに行くのは大変だろう…。」

静かに考える男。

「そうだな。シスター達には友が世話になっているからな。予算がなくても融通させてもらおう。
そうすれば取りに行く間に他のことも出来るだろうしなかなか良い案だと思うが。」

確かに予算は大事な問題である。
相手の言葉に頷き。

シスター・マルレーン > 「…いやまあ、ここ最近そんな仕事ばっかりなんですよ。」

遠い目をするシスター。
そう、開墾からこなすシスターとは私のことです。辛い。
相手の言葉に、少しだけ目を見開いて、………では、と僅かに微笑みを返して。

「……お願いを一つするのであれば。
 そちらから申し出があったと、こちらの神父に伝えてもよろしいでしょうか。

 ………………
 あー、いや、その。
 なんだかんだで私もよそ者なので、こういうの私が勝手に決めたり、交渉してるとかになると、結構その、睨まれるんですよね。」

あははー、と小さく笑いながら頬を掻く。
このシスターはこのシスターで、苦労をしているらしい。

「っと、お名前を聞き忘れておりました。
 私はシスター・マルレーン。 マリーで構いませんよ。」

ツール > 「ふふ。 シスターも大変だな。」

開墾からこなすシスター男に取っては好感を覚える。
そして、相手からのお願い。

「ん。 あぁ。 シスターも本当に大変の様だな。
まぁ、シスターの思う様にするといい。」

やはり、人が多くなればいろいろ余分な苦労もあるようで…。

「あぁ 俺はツールだ。よろしくシスター・マリー
キホンは武器や防具を取り扱っているから物入りになったら、甘えてくれると嬉しい。」

苦労性のシスターに男は穏やかな笑みを向けたまま頷き、自分の名前を相手に告げて。

シスター・マルレーン > 「………やー、ありがとうございます。
 あはは、……いやまあ、私は丁度偶然ここにいただけですから。」

特別ではないですよ、と微笑みを向けて。
相手の言葉に頷きながら、空を見上げる。

「ではツールさん、お名前を伝えさせて頂きますね。
 ふふ、そうですね……防具は遣うものですから、壊れたらまたどこかでお世話になると思います。」

頷きつつ、ハーブティーのお代わりを運んで。
休憩が終わるまで、ゆったりと話は続いていく。

ツール > 「偶然の積み重ねだからな。
なかなか面白い出会いもあったしな。」
楽しそうに男は頷き。
空を見上げる相手を男は愉しそうに眺め。

「あぁ。 頑張ってるマリーの手伝いなら喜んでさせてもらおう。」

相手の休憩時間が終わるまではゆっくりと、季節の移り変わりの事などを話し、教会を後にしていったあ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」からシスター・マルレーンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 教会」からツールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にネコアシさんが現れました。
ネコアシ > 見上げ夜空は何処も同じか、もしかしたら富裕地区とかだけ違うのかもしれないが、見たことがないので、何処の夜空も見上げれば一緒……だと思うことにする。

今宵も貧民地区の通りを一人歩いている小柄な少年が一人。
今日に限って何故か人通りが少なく、時折その状況を不思議そうに首をかしげているけども、貧民地区の何処にでも居そうな少年が何かを探すように歩いていた。

探しているのは今宵の寄生先、若しくは施し、寧ろ獲物。
金持ちか油断している若者かバカ者か、貧民地区に迷う込んだ平民階級の奴等か美味しいのは貴族階級の奴等か、ともかく、そんな財布が重たくて仕方ない人たちと遭遇して、少しばかり中身を分けてもらおうという算段である。

落ちた階層の人間特有の濁った瞳、輝きの薄れ失われた眼を左右に廻らせ、時折治安維持というこの街でも稀有な事をしていそうな人間を見かければフードを深く被り直して顔を隠して、自慢のネコアシを活用し、獲物を探してウロウロと歩く。

「しかし、今夜は人が少ない……ね?何だろう何か有ったのかな?」

と言葉にはするけども、きっと自分には関係ない出来事だろう。
広くも狭い貧民地区で生まれてきっと貧民地区で死ぬだろう自分には何かあってもあまり気にする余裕など全く無くて……軽装にフードのついたボロボロのローブにヒトとの関わりも相手の印象もあまり気にする事は無かった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にネコさんが現れました。
ネコ > 「……」

貧民地区。そこは、この街の暗部。あるいは吹き溜まりか。
闇に隠れ、様々な欲望が蠢くその場所に、一人のメイド少女が立っていた。
表情は、いっそ冷たいほどに無表情。何を見ているのか、視線は揺らぎもせずにまっすぐだ。

「……チッ」

苛立つように舌打ちこそするものの、表情に温度は宿らない。
しばし立ち尽くしていた少女は、ゆるゆると歩き始める。

「……」

この場所は。少女の生まれた場所であった。いや、正確には生まれた場所というよりは、昔暮らしていた場所、だ。
貧民地区で、娼婦の母親から生まれた子。幼き頃に捨てられ、ストリートチルドレンとして生活していた。
今では、新しい『ネコ』という名前と、メイドという身分を手に入れたものの。
なぜか、今日は足がここに向いてしまっていた。二度と来るつもりもなかったのに。

「……あれ?」

貧民地区を去ろう。そう思い歩いていれば。少女はとある人物の影に気づく。
どこか、見たことがあるような。あるいは、初対面かもしれないけれども。
少女は、その姿が気になり、その人物へと近づいていく。

ネコアシ > 違和感のある人影なら気がつけよう、明らかに敵意を向ける相手であれば絶対と言って良いほどに気がつけるのだが、もしそれが敵意も無く貧民地区の空気を掻き混ぜる新参者でない、空気に幾分か馴染んでいる人物であれば……気がつくはずがない。

冒険者は目指したけども冒険者になれ無い冒険者未満、一般人以下、貧民地区の人間と同等の少年には鋭い何かが無ければわからず、近づいてくる人物には無防備な姿を曝け出してしまう、それこそ貧民地区では餌食になりそうなくらいの無防備な姿をだ。

「……あー今夜も空振りかな……こりゃ。人が少なすぎるもん仕事になりゃしない……。」

演技化と思うほどに大げさなほどに両肩を大きく竦めて、口からはその竦めた肩と同じだけ大きな溜息を深くハァー……と吐き出し、無防備な財布を捜すのを止めて、道案内や手伝いで小遣いを探す方向へと意識を変えていく。

――…さて、どうするか、今夜は寝床に帰って不貞寝をするか、平民地区まで足を伸ばして夕食をお借りしてくるか、噂によると美味しいパン屋が「新しく」出来たという噂、ならばまだ警戒されて無いだろう、と考える。

人の疎らな夜の貧民地区の通り。
その真ん中で考え事をしているのだから、周囲からはさぞ邪魔だと思われているに違いなく、苛立ちやら何やらの視線を浴びているから、他の人の視線には気がつかず立ち尽くしてしまっている。

深くフードを被り表情を隠し、ほんの僅か見せる眼は周囲の人間と何らかわらないどんよりと闇の絡みつく濁った眼差し、その姿は貧民地区に馴染んでおり、誰も苛立ちと言う感情以外では見向きもしない、が決して知り合いの居ない人間でもなく、若しかしたら誰か見知った顔が居るかもしれない。

ネコ > ここに少女が暮らしていたのはいつごろまでか。少女的には思い出したくもない記憶。
なので正確な年数は覚えていないが。おおよそ、3年ほど前まではここにいた気もする。

「……ねぇ」

少女が、その人影の近くに十分に接近し、声をかける。
それは、いつものこの少女の声色とは違う。
どこか、優しげですらある声だった。

「ねぇ、そこのアンタ。さっきから邪魔になってるよ。
 ……悪いんだけどさ。そのフード、取ってくれない?」

相手が通りの真ん中で立ち尽くしているのを指摘し、くいくい、とローブをひっぱり、道の端へとゆっくりと引き寄せようとする。
そのまま、いきなり少女は、相手に顔を見せて欲しい、と願い。
そう。少女は、この顔の見えない相手。その雰囲気から。
もしかして、ストリートチルドレン時代の友人……まではいかないが。
知り合い、仲間なのではないだろうかと思い、声をかけたのだ。
さて、相手は素直に顔を見せてくれるだろうか。見せてくれたとして、知り合いだったとして。
名前も、姿も変わった自分に、過去の面影を見出せるだろうか?

ネコアシ > (……………………?…………。)

誰だろうか、不意の問いかけに声をかけてくる主の方に無防備に振り向いてしまうのは警戒心が薄い証拠で、何時も後で色々と反省する要因となる一つである。

いや聞き覚えのある声色、その中にやんわりと混ぜられた優しげに聞える音に無防備になってしまったのかもしれない。

今宵の様に考え事の多い夜でなければ決してそんな反応をしなかっただろう、と思いたいが、聞き覚えのある声が悪い、と今だ考え事を継続しながらも、ローブの裾を引っ張られ通りの端へと引っ張りこまれて、初めて其処で道の往来に立ち尽くしていたことを理解し、アー……、と間の抜けた声をあげ、またもや溜息を一つ吐き出した。

問題はそれからだった。
「邪魔だ」と言うのは理解出来る、うん。
だが「顔を見せて欲しい」と言う願いは食い物を泥棒した時に衛兵に言われた事以来で、矢張り普通なら断るところを両手をローブつきのフードに差し込むと髪を後ろに流すような感じでローブを後ろへ落し、素顔を曝け出す。

――…有り触れた澱み光の薄い黒い瞳、剃刀や何かダガーなどで乱雑に切り落とした身近な黒髪、不健康な白い頬と何かを妬み恨み続けるに似た上目使いの眼差しを、無理難題を言う誰かに向ける。

そんな妬みに満ちた薄汚れた表情が一瞬にして崩壊し、浮べる表情は驚きの表情で、両目を見開き声をかけて来た人が顔見知りだった事に驚く表情と幽霊でも見たかの表情の混雑した微妙な笑みの薄い表情、で、だって視線の先の相手は行方不明になったと思っていた仲間の中でも年上の頼りになる姉分であり、会えた嬉しさもあるが、その行方不明になって死んだとでも思っていたから……の幽霊でも見たかの表情である。

視線も無意識に相手の足元に向けてしまうのは、何を考えているか露骨に態度に出てしまう悪い癖。

「………ハァー?………。」

言いたい事が良くわからない言葉になってしまうのも昔と代わらない癖である。

ネコ > 声をかけているのに、相手の反応はどこか鈍い。
とはいっても、それは別段貧民地区では珍しいことではなかったりする。
ストリートチルドレン時代、一週間水しか飲めず、空腹で倒れそうになっていたときは自分もこんな感じだったかな、なんて思いながら。

「……ちょっと、アンタ大丈夫?」

とはいえ、ここまでではなかったか、と思い直す少女。
相手はずいぶん呆けているし、ため息をついたりして、疲れてる様子だ。
だが、言葉は理解してもらえていたのだろう。
相手がゆっくりとローブのフード部分を後ろへと送り、顔を見せてくれれば。

「……やっぱり、ネコアシだ。久しぶりだね。
 何? 今でも路上生活? ってか、アンタちゃんとメシ食ってんの?」

現れた素顔は、少女の記憶の中にあったもので。
貧民地区に暮らす子供たちのコミュニティ。グループと言ってもよかった。
そこで比較的仲良くしていた、年下の男の子。ミレーである自分を、差別しないで居てくれた子。
ある意味では、ギラギラとした瞳。何かをうらみ、妬み。
いつも、暗い憎しみを滲ませていたその姿。
少女は懐かしくなり、相手の頭を撫でる。いつも、口げんかしたりしたとき。
こうして、何を喋っていいかわからなくなって、地面をじとっ、て睨んでいたっけ。そう思いながら。

「あ、アタシのこと、分かるかな。
 ホーア。ここでアンタたちと一緒に暮らしてた、ホーアだよ。
 ほら、酔いどれ悪魔のベッド亭の、特に売れっ子でもなかった娼婦が産んで、すぐに路地に捨てた」

なでなで。相手の頭を撫でつつ、自分のことを語る少女。
覚えていてくれるかな。そんな暖かい気持ちが、つい。
捨て去ったはずの名を、口にさせた。そのまま少女は、相手の手を軽く引く。

「ね。お腹すいてない? ご飯食べようよ、その辺の酒場で。
 私さ、新しい名前と、ちゃんとした仕事も貰えたんだ。
 話もしたいしさ、ね?」

相手がまだ状況になじんでいないだろうに。少女はそんなことを言う。
その姿は、ストリートチルドレンとして、荒事や、犯罪に身をやつしていたころの少女とは違う。
一回り成長した、ちょっと大人の女性の余裕があった。