2018/04/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にジェルヴェさんが現れました。
ジェルヴェ > (卓の上には伝票で出来たテーブルクロスが広がっている。
決して座り心地が良いわけではない安物のソファーのど真ん中に陣取って、それと対峙を始めてどれくらいになるだろう。

―――治安の悪い煤けた地区の路地裏に建つ、或る酒場。
店内は嫌に静かで、聞こえてくるのは壁に掛けられた時計の秒針が規則正しく働く音と、ここよりどこか離れた場所で上げられる人の悲鳴や怒声くらいなものだった。
それも当然。店内にはソファーの背凭れに寄り掛かり、眼鏡の奥で細く細く双眸を眇める酒場の店主、ただ一人の姿しか見当たらない。)

「―――…めんどくせー」

(ついに、作業を始める前に己へ課した禁句が放たれた。やる気の欠片もなく半開きになった口から、首を擡げ仰ぎ見た天井に向かって。
せめて形だけは真面目に取り組もうと決意して、そぐわない後ろ向きな独り事は排除、文字を読み書きし易いよう眼鏡まで掛けたが成果と言えばゼロだった。愚痴については時計の長針が一周する間くらいは耐えられたが、伝票の整理は一向に進んでいない。
右手に握ったペンの先はとっくにインクが乾いている頃だろう。蓋を開けっ放しにされたインク壷の中身だって、そろそろ表面が乾き薄い膜を張り始めているに違いない。)

ジェルヴェ > (背凭れにへばり付けた体をじりじりと起こし、今度は手前に上体を倒し卓上を覗き込んだ。敷き詰めた長方形の紙の海、その左上から順に視線を走らせてゆく。
―まず、字が汚かった。まともに注文が記されている分もある。あるにはあるが、殴り書きで始まった一枚は最後まで殴り書きで締められている。記された注文が多いので、多分その日は忙しかったのだろう。しかし時折筆跡が明らかに異なる伝票が混ざっているのは一体どういう訳だ。従業員は自分ただ一人だけだと言うのに。
眉間へ深く深く皺を寄せ、自問自答してそっと伝票の一枚を拾い上げる。線と線が繋がっていない。恐らくはウイスキーと綴られているが、字が間違っていた。

何となく記憶はある。常連客と一緒に飲んだ日があった。何杯が付き合うと言った程度の範疇を超え、それはもう浴びるように。
それで、もう一々勘定を取るのが面倒臭くなって、仲間に言ったのだ。もう適当に書いといて、とか、そんな事を。きっとそれだ。

そんな伝票が、他に十数枚ほど散見できる。元々ロースタートだったやる気が音を立てて急下落していくのを、はっきりと感じた。)