2017/12/23 のログ
ご案内:「貧民地区 孤児院」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > その晩、小柄な妖仙は、自他共に認める道楽者であることを加味すると、物珍しい所で時間を過ごしていた。
貧民街にいることは、さして不思議ではない。
良質な娼婦を求めてあちらこちらに足を伸ばすのが常であったのだから。
平素なら女遊びに繰り出している頃合になっても、今宵はまだ酒の匂いも、煙草の匂いもさせていないのだ。

「えぇい、離さぬか。
 儂はお主らの湯たんぽでもなければ、抱き枕でもありゃせんのじゃぞ?」

代わりに身に纏わせているのは、質素…を半歩ばかり通り過ぎた、粗末な衣服に袖を通した子供達。
妖仙の外見は十歳そこそこだが、それよりも何歳か幼い頃合と見受けられる。
一応は来客用にと、この建物の中では奮発した部類に入るであろう、所々破れて中身が食み出しているソファの上で、幾人かの孤児達が鈴なりになっている。

ホウセン > 女っ気も殆ど無い所に、日が沈んでからも滞在している理由。
紐解いてしまえば簡単なことで、入れ替わり立ち代り”構え””遊べ”と、無尽蔵な体力を発揮する孤児達に拘束されてしまっているから。
無論、にべもなく振り解いて立ち去ることは難しくないが、訪問の用件が用件だけに、荒っぽい真似はしたくないという事情もある。
天上天下唯我独尊の妖仙とて経営者として振舞うことがあり、今が丁度その時。
何のことはない。
縁のある孤児院に、年末の寄贈品を届けに来たというだけの話だ。

「じゃから、髪を引っ張るでない。
 儂の髪を一本二本せしめたところで、お主の髪が儂のように真っ直ぐなものになる訳では無いのじゃぞ…
 というか、目を離した隙に、服で水っ洟を拭おうとするな、戯けめっ!」

縁のあるといっても、その縁は偶発的なものではない。
貧民地区にあっても、孤児達を搾取の対象としていない良心的な経営方針であること。
少なくとも、その一点は必須事項だった。
何しろ、単なる奴隷が欲しいだけなら、態々遠回りな手段を用いず、奴隷市場で購入した方が手っ取り早いのだから。

ホウセン > いつもなら孤児達をたしなめる立場の大人達も、今は搬入された寄贈品の仕分けや収納に手間取っているらしい。
そろそろ”卒業”の近い年嵩の孤児を数人残して、この応接室を離れたままだ。
元より格式云々に重きを置かぬ性質であることは知れているようで、フランクな対応をされることには慣れているが。
当面、多勢に無勢で揉みくちゃにされている妖仙に、救援は望めないかもしれない。

「これこれ、お主らも生温かい視線で眺めておらんで、儂を助けぬかっ。
 このままでは寝技の実験台にされてしまうのも時間の問題じゃっ。」

持ち込んだのは、冬季には必須であろう燃料の類と、中古品ではあるが冬物の衣服。
保存の利く食料品と、そこそこ大量の甘味、幾許かの玩具と本。
多少の金銭もあるが、現金は意図して小額に。
貧民街のことだ。
羽振りが良い等と勘違いされたら、折角繋がりを作った箱庭が、不埒者の注意を引いて荒らされる危険性が増すばかり故に。
だから、妖仙にとっては手に入れることも作ることも容易い、魔法仕掛けの暖房具を施すこともしないのだ。

ホウセン > そのお陰というべきか、そのせいというべきか。
運び込んだ燃料は、薪なり炭なり幾つかの種類に分かれるも、合算すると荷馬車数台分。
収納用の倉庫を拡張するなどという贅沢は、最も後回しにされてしまう此処では、ありあわせの施設に無理矢理に物資を押し込む他ない。
非効率で手間取ることを承知の上で。
それが大人達が出払っている理由。

「よし、よしよしよし。
 くははっ、小童共め、是で我が逃走は成就しようぞ…!
 ……いや、待て。
 拾い上げるのは良い。が、儂は猫ではないのじゃっ…!」

妖仙の救援要請を受けて、十代半ばと思しき年嵩の部類に入る少年がソファの脇に。
然し、あろう事か妖仙の項の辺りを掴んでプランっと。
せめて着物の襟を掴んでいるだけ救いはあるが、どう見ても猫を扱うがごとき雑さである。
おまけにすぐ放り出さないものだから、妖仙の脚を孤児達がしかっと抱きしめて、さながら何処かの蜘蛛の糸のお話の如く。

ホウセン > 救い上げていると見せかけて、その少年も遊びに一枚噛ませろということなのだろう。
それを察して、己の四面楚歌の八方塞な孤立無援っぷりに、今更ながらに気付くのだけれども、手遅れも良いところ。
再びお子様達の渦中に放り込まれて、揉みくちゃにされるの無限ループ。

「はーなーすーのーじゃーっ!
 お主らは、もうそろそろ床に就く時間じゃろうがっ。
 何?
 ……断るっ。
 今でさえこの惨状で辟易しておるというのに、雑魚寝なんぞしたら寝相で蹴り飛ばされて寝不足になることが目に見えておろうっ。」

寝るのは吝かではないが、妖仙も一緒にだとか、まったくもって怖いもの知らずな我侭オーダーをぶつけてくる孤児との攻防戦。
十数年経過して見目麗しくなっていたら考えてやる等と口にしないのは、微かに残った常識的な判断のなせる業か。
然し、何故こうまでして孤児院と繋がりを持っているかといえば、将来的な従業員を確保する為である。
勿論、外部からの人間を雇い入れることの方が多いけれど、それでも幼い頃から性質や才能を見知っている”生え抜き”がいて損はあるまいと。
”卒業”した彼らの幾人かは、妖仙の店で奉公することになるのだが…
それにしても、このワンサイドゲームは、第三者の介入が生じぬ限り、新たな局面は生じないのかもしれない。

ホウセン > 夜はまだ終わらない。
年の終わりのささやか過ぎるお祭り騒ぎは、もう少し続くようで――

ご案内:「貧民地区 孤児院」からホウセンさんが去りました。