2017/09/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にジュリエットさんが現れました。
■ジュリエット > 茜の色を群青が飲み込んで、あっと言う間に夜が更ける。
娼婦の笑い声と、野犬の遠吠え、重なる杯が高らかに鳴って――其々にとっての一日が終ろうとしている。
「おいおい…。」
――筈、だったのに。
そうは問屋が卸さない。眠り切るまで止まらないのが此の界隈だ。
今日も其の一角で一騒動。
崩れ掛けた塀に蔦が這った安宿のバルコニー。今にも崩れそうな手擦りを乗り越えた場所に、男が立って喚いている。
「おい、大将!何があったか知らねぇが、馬鹿な真似すんなって!」
低音を張って声を上げたのは、見上げる野次馬の後ろに立つ長躯の男。
有体な言葉を投げれば、五月蝿ぇ!と矢張り有体な言葉が返って来た。
参ったな、と金糸の前髪をがしがしと掻き上げて、掛ける言葉を捜す。
「死んだら悲しむ女も居るんじゃねぇのか!」
何にせよ陳腐だ。口に出した端から後悔したが、
其の女が裏切ったんだろうが!と怒鳴り返されれば、後悔は一層深く。
視線を追えば、野次馬の中心、腕をむっつりと組んだ黒髪の娼婦が、其の原因らしい。
同僚らしき女達が、何とか言っておやりよと取り成している。
■ジュリエット > 惚れた腫れたは犬でも喰わない。
首を突っ込むべきで無いのは百も承知だが、こうして目の前で騒動が起きれば放っても置けないか。
大体、女に味わわされた痛みは、同性としては胸に迫る物が無くは無い。
そんな端から、あんたなんて死んでもお断りだよ!と黒髪の娼婦が啖呵を切った。
「火に油を注ぐんじゃねぇよ、馬鹿。」
野次馬の輪からは外れて居た物だから、娼婦の口を覆うのが今一歩遅かった。
罵声は確りと響いたし、口許を押えた男の掌にも真っ赤な紅がべっとりと付いた。
あからさまに顔を顰めてシャツの肩口で紅を拭えば、失礼な男だね、と娼婦からも顰め面を返される。
「どうすっかな…。」
そんな娼婦の様子に構いもせず、眉根を寄せた儘再びバルコニーを見上げて。
興奮状態の男は、説得には応じないだろう。
唯一説得出来そうだった想い人も、此れでは頼れない。
手段があるとすれば、バルコニー上の庇だ。
隣の建物から屋根伝いに移って彼処まで行けば、男を取り押さえられるだろう。
――…が、己がやるのには幾分、明る過ぎる髪の色と、上背の所為で悪目立ちする。
どうした物か、とシアンの視線が野次馬をするりと巡って。