2017/04/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティエラさんが現れました。
■ティエラ > ―――カラン、店のベルを鳴らし、一人の女が入ってくる。
口元を薄めのヴェールで隠し、ローブを身に纏った女は、客の中をくぐり抜けて、マスターの元へと。
「ここで、踊らせてもらえないかしら?
路銀が欲しいのだけれども。
場所の代金は一割……如何?」
客の入りは良さそうなのでの提案、店主は首を横に振り二割を求めてくる。
無料よりはましか、と女は同意をみせる。
店主の許可が下りれば、女はローブを外してカウンターの隅に置いた。
――――シャランと音がする。
女の身に纏うアンクレットが、ブレスレットが重なりあう音。
人のごったがえした店の中、女は静かに立ち尽くす。
肌も顕な格好は、乳房を、股間を申し訳程度に隠してしまう程度の布切れ。
女の割れた腹筋が、腕の、足の筋肉が、踊りによって作り上げられたそれが酔客に晒される。
艶やかな笑みをヴェールの下に作り上げつつ、女は腕を振り上げる。
客の合間を縫うように、するりするりと店内を移動するように、踊りを始める。
甘いコロンの匂いが酒の匂いに混じり、小さな金属音が店内の喧騒に紛れるように鳴り始める。
■アイル > 扉の開く音に、何気なく顔を向ける。
ローブを身に纏う姿に視線を投じ、彼女がこの店に何をしに来たかを見てみようと。
マスターの元へ行き、何やら交渉を重ねているらしい。
既に中身が無くなりつつあるエール瓶を片手に、ふとブレスレットの鳴る音を耳にした。
見れば女は身につけていたローブを脱ぎ、肌も露わな、扇情的とも取れる格好を酔客の目に晒していた。
「―――踊り子か」
小さく呟く。音楽もなく、女は腕を振り上げ艶やかな踊りを始める。
女騎士は、他の酔客のように声を上げない。ただ口を噤んだまま、しかし視線だけは踊り子から離さずに。
頬杖をつき、口元に微かな笑みを浮かべて、踊りに見入る。
■ティエラ > 音楽もなければ、歌もなく。女は、只、只、踊りを踊るのみ。
滑らかにに腕を上げれば、シャランとブレスレットが小さく音を響かせて、ステップを踏めば、靴が木の板を鳴らす。
滑らかに、艶やかに、そして、情熱が篭った旅人の踊りは郷愁を、激情とともに表現をする。
腰をくねらせ、くるりと回れば、熱気で浮かぶ汗が周囲に飛び散る。
注目を集めるように手拍子を打てば、女は一人の客の近くに移動し、酒に酔い、濁った目をする男の頬ををなでていく。
男が手を伸ばせば、するりと流れるように逃げて、周囲はそれに沸き立とう。
くるり、くるり、と縦横無尽に店内を移動し、踊りを見せていく踊り子。
自分を見つめ続ける騎士に、切れ目の瞳は流し目を。
そして、ぱちり、とウインクを一つ。
踊りの時間は、そんなに長くはないだろう。
アンクレットが、手拍子が、ブレスレットが、音を作り。
下品な野次が飛び出そう、脱げと言われても半裸の女は全身を汗にてらてらと濡れ光らせる。
踊り子に声はなく。己の感情の全てを踊りに込めて。
汗を飛び散らせながら、腕を振り、足を舞わせ、終焉を彩る。
――――しばし、終焉の形のままに動きを止めて踊りの終わりを認識させた。
■アイル > 腕が上がる度に、ブレスレットの淡い音が耳に心地よく響く。
音楽は無くとも、自身が鳴らす音があれば十分だと。そう言いたげにステップを踏み、女は舞う。
酔った男の手を華麗に躱し、それに客達はどっと沸き立つ。
その喧騒と一線を画し、女騎士はただ踊り子だけを見つめていた。
鮮やかに舞う中、彼女が此方へウィンクを送るなら、口元に浮いていた笑みは深くなる。
下品な野次もどこ吹く風か、女は暫し踊り続け――やがて、足を止めた。
一瞬の静寂の後、酔客は割れんばかりの拍手を酒場内に響かせる。歓声が飛ぶ。
その中で女騎士は、微笑みを益々深めながら踊り子へ静かな拍手を送っていた。
■ティエラ > 満場の拍手と、歓声。
女はヴェールに包まれた、ソプラノの声で皆に願う。
「万来の喝采、ありがとうございます。
はしたなくは思いますが、ご満足頂けたなら、少しばかりの報酬をお願いいたします。
ご満足頂けなかったならば、無理にとは、申しません。
旅の踊り子ゆえに、どうか、今宵のお食事にご協力を。」
静かに、軽く言葉を紡いで見せて、女は願う。
払ってもいいと思えるなら、少しだけ恵んでくださいな、と。
そして、客の反応が来る前に移動して、先にお酒を飲んでいた女騎士の脇に移動しよう。
「―――お隣、よろしいでしょうか?」
今、踊り終わったあとの女は、汗ばんでいて、申し訳なさそうに願うのは。
客の入りのせいでほかに場所がなかったから。
まあ、願えばほかの客は移動してくれそうだが、空いている場所があるなら、そこでと。
彼女が嫌がるなら、別に移るつもりで。
■アイル > ソプラノの声で、少しばかりの報酬と願われれば、男達が反応しない筈はない。
我先にと酔客が財布を取り出し始める中、傍へやってきた踊り子を微笑みを湛え迎える。
「あぁ、どうぞ。そこまで広くもないテーブルだから申し訳ないが…」
円形のテーブルを囲み、椅子が幾つか置かれている席。
自分が座っている椅子以外は空いているから、どこでもどうぞ、と勧めよう。
「……報酬と言っては何だが。素敵な踊りを見せてくれたお礼に、一杯奢るよ。何でも好きなものを注文してくれ」
ひらり、片手を揺らしてマスターを呼ぶ。
エールのおかわりと、他に何を頼むかは彼女に一任するつもりだ。
■ティエラ > 今宵も食事にありつけるようだ。
酔客たちにはお礼の言葉を放ちながらも彼らの夜のお誘いは当たり障りもなく断り、報酬を受け取る。
彼らの報酬からきっかり二割店主に渡しつつ、ローブを回収。
「ありがとうございます。
広くなくても、二人で飲む分には十分と思います。」
酔客は目の前の客を恐れているのか誘うのと報酬を渡す以外にはよってこない模様。
彼女の寛大な対応に礼を言葉にしながら腰を下ろして。
一杯という言葉に、笑みを浮かべてみせる。
「では、彼女と同じくエールをお願いいたします。」
マスターの注文には、同じものを注文し、葡萄の視線を彼女に向ける。
「男性からは喝采をいただけましたが。
同性の騎士様からは、どういうふうに見えました?」
ちゃんと、踊れていましたか?
女は、軽く楽しむように問いかける。
■アイル > 夜のお誘いをすげなく断られた男達は、肩を落とすとともに自棄酒と洒落込む。店が潤うことは間違いないだろう。
二割きっかり渡された店主は満足げに頷き、注文を聞いてカウンターへと引っ込んでいった。
「そうか。なら、遠慮なく寛いでくれ」
下卑た眼差しを踊り子へと向ける酔客に威嚇の視線を流し、女騎士は頬杖をつく。
葡萄の眼差しを静かに見返した。
「あぁ、素晴らしかったよ。久々に酒の席で素敵なものが見れた気がする」
「君さえよければ、またこの店で踊ってくれると嬉しい。――あの男どもの野次を我慢できればの話だがね」
ふふ、と冗談めかして笑う。
■ティエラ > 「ふふ、騎士様に守っていただけるのであれば。
何よりも安心して寛げますわ。」
視線で男どもを追い払う姿に、笑みを浮かべ、ヴェールを外す。流石に付けたまま飲むのは失礼であろうから。
青い色に彩られた唇は、笑みを浮かべていて、マスターが持ってくるエールの器を受け取る。
自分を見つめる黒い瞳をじぃ、と見つめ返して。
「嬉しい事です、男性の方は、皆胸とかお尻とかばかり見て、踊りを見てくださらないんですもの。」
「ええ、構いませんわ。男性の反応はどこで踊っても、同じですもの。」
いろいろなところで踊っていれば、男性の反応はわかってくる。
なら、客の入りの良いところで踊るのは必然。
ここは十分にお客の入りもいいし、稼ぐこともできた。
冗談にたいして、目元を細めながら返答を返して。
「でも、それだけでいいんですの?」
からかうように、問いかけつつも、彼女の返答を聞かぬふりしてエールを一口。
■アイル > 「それがお役目でもあるからな。酔っ払いの相手をするのは面倒だがね」
相手にもエールの器が届けば、軽く器同士を合わせて微笑む。
葡萄色の瞳は吸い込まれそうな程に鮮やかで、思わず見入ってしまう程に綺麗だと感じた。
「ふふ、その格好のせいもあるだろうけどね。まぁ、男とはそんなものさ」
「私もちょくちょく来るだろうから、顔をあわせることも多いと思う。楽しみにしているよ」
客の入りも良し、ちょっとした金持ちから貧乏人まで様々な人が集う酒場。
路銀を稼ぐにはうってつけの場所だろう。
「うん? ……まぁ、君の体を見て興味を惹かれないといえば嘘になるがね」
「でも、娼婦ではないのだろう? なら、同意もなく手を出すようなことはしないさ」
いかにも騎士らしい、真面目な性分を覗かせつつエールを一口飲む。
「私の名前はアイル。アイル・ローレイ。名前だけでも覚えておいてもらえれば嬉しい」
■ティエラ > 「では、安心してお酒を飲ませていただきます。
騎士様というのも大変ですね。」
器を軽く当てて乾杯し、こくり、こくりとエールを嚥下していく。
そして、マスターに手を挙げて、軽食を注文する。
「踊り子は見られて初めて輝きますから。」
「毎回同じところには来ませんが……この国でのホームを此処にしてしまいましょうか。」
ホーム、といってもくる回数を増やす程度のもの。
色々な場所に行き、学ばねばならぬことも多いのでそこかごめんなさいね、と。
「ふふ、正直なお方、普通は同性愛など憚るものなのに。」
「娼婦でないからこそ、だと思いますけども?
いくらなんでも、娼婦でもない女が、同性に思わせぶりに問いかけますか?」
ころころ、と笑いをこぼしながら女は彼女の言葉に返答する。
「私は、ティエラ・フローレスと申します。
覚えておかない方が、いいかもしれませんが。」
旅の踊り子は、少しばかり自嘲気味に言葉を放ち、ローブを身に纏う。
汗の臭いと、顕な肌が、コロンと、布に隠される
■アイル > 「大変だけど、やり甲斐もあるさ。まぁ、今のこの国はそういう騎士ばかりではないのも確かだが」
ため息をつく。その憂いを掻き消すようにエールをまた一口。
少し前まで踊り子に夢中だった男達は、早くも別の話題で盛り上がっているらしい。派手な笑い声が聞こえてくる。
「それは確かに。先程の踊りも、輝いていたよ」
「あぁ、別に毎度毎度、を求めているわけじゃない。君の気が向いた時で良いさ」
いつ来るか、どれくらいの回数来るか――などは自分が決めることではない。
女騎士はそう言って笑った。
「この国では、同性愛などもはや珍しいものでもないさ」
「……ふふ、それもそうだな」
返答にくすりと笑い、届いた軽食を軽くつまむ。
酒は強い。頰がほのかに染まっている以外は、乱れた素振りも見せない。
「ティエラ。……いや、覚えたよ」
「生憎、人の名前を覚えるのは得意なんだ」
ローブに隠される、踊り子の褐色の肌。
それを見届けた後、エールの器へと視線を外した。
■ティエラ > 「そういう騎士が多い方が私としてはやりやすいんですけどね?」
お仕事に忠実なのが多いと、追い出されてしまう……過去を思い出して、軽くエールを一口。
もう、興味をなくした男たちの笑い声に、一過性でしかない事実に、軽く肩をすくめてみせる。
「ありがとうございます、精進しますわ。」
「ふふ、騎士様に会いにいくかも?」
別に仕事の時だけに来るとは言ってない。
気が向いたら行きますわ、とあてのない約束を。
「奔放なんですね……でも、寧ろそのほうが私としては居心地いいかもしれませんわ。」
どちらかといえば、女性の方が好きな自分。
そういうのが認められているなら、こそこそする必要もない。
楽しげに笑い、エールを一口。踊りを踊り、酒を飲んだせいかほのかに熱く感じられるが。
流石に汗の臭いは隠したいので、ローブは纏ったままにしておこう。
「騎士様に名前を覚えられてしまいました。
怖いですわ。」
口では軽く怖いと言いながらも笑みを浮かべる女。
軽食を摘み、思う。
この国は、排斥するのだろうか、と。
彼女がこの国の一般的なのかどうかが、今まだわからない故に、迷いもあり。
■アイル > 「それなら安心するといい。この王都にいる騎士の大体は、不真面目な者ばかりさ」
肩を竦める。
怒るというよりも、呆れているといった風情。エールを半分ほどに減らしながら苦笑した。
「ふふ、私に会いに来てくれるというなら嬉しいがね。一杯を奢るのは今日だけだよ?」
あてのない約束。それでよい、と女騎士は頷いた。
踊り子をこの店に縛り付けるつもりは毛頭ないし、そんな資格も己には無いだろう。
そう考えながらエールを飲み、軽食を口に運ぶ。
「あぁ。かくいう私も、女性しか受け付けない」
「奔放だよ。むしろ奔放すぎるくらいだ……な。まぁ、私一人が気を揉んだところで何も変わらないが」
葡萄色の瞳を見返す。
男達が下品にあげる歓声や笑い声を、自分とは関係のないものとして拒絶する。
踊り子の声がより聞こえやすくなった気がして、ちょっと微笑んだ。
「何も怖くはないさ。この国ではな」
「人間も、ミレーも、少しだが魔族も。皆が皆混ざり合って暮らしている国だ」
「その一人一人に一々目を光らせていたら、身体が幾らあっても足りない」
■ティエラ > 「あら、騎士様らしくない。そこは志を持って治すとか言いませんの?」
肩をすくめて呆れている、諦めにも取れる言葉に、からかいの一言を向ける。
根深いものなのだろうし、追求するつもりもないが、真面目な彼女にしてはの姿に意地悪をしてみたくなった。
「残念。
餌付けしてくれませんのね。」
次からは自腹と言われて、残念そうに軽く言葉を放ち、エールをくい、と飲み込んだ。
お金がもうかるなら、この店に縛られるのも、ある程度はいいなと思う。
気まぐれゆえに、確約はできぬだけ。
「だと思いました、踊っている私を見る目が、そう告げてましたから……私と同じだと。」
自分を見る黒い瞳、こっそりと囁くようにトーンを下げて言葉にしてみせる。
軽食をつまみ終われば、エールを干して。
「怖いかどうかを決めるのは、私ですわ、騎士様、参考にさせてはいただきますけれど。」
「さて、そろそろ、失礼いたします。良い、夜を」
微笑む相手に、女は軽くウインクを放ち、再度ヴェールで口元を覆う。
自分の軽食の代金を支払い、立ち上がって。
する、と流れるように店から出ていくのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティエラさんが去りました。
■アイル > 「らしくない、か。……私にもう少し力があれば、そう言っていたかもな」
自嘲気味に、とも取れる口調で呟く。
真面目ゆえ、返答も真面目な者のそれである。面白みは無い。
「餌付けは私に頼むものじゃないだろう。店主に頼めばいい」
先程の踊りは、この店の主人にも少なからぬ影響を与えたようだ。
軽食の量が心なしか、増えている気がする。食べきれるかどうかは兎も角として…
「―――読まれてしまうとは、私もまだまだだな」
トーンを下げた言葉。そう呟きつつも、女騎士とてただ見惚れていたわけではない。
男達をあしらう様、そして自分だけに送られたウィンク。
その意味が語るところは明白であろうから。
「そうか。……少しでも参考になるのなら、何よりだよ」
流れるように店を後にする踊り子の背を見送り、女騎士は小さく息を吐く。
今、器にあるエールを飲み干した後は、代金を払って自身も店を後にした。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からアイルさんが去りました。