2017/03/21 のログ
ホウセン > 大人気なく呪う程ではないが、さりとて妖仙の心身に何の影響も与えないというものでもない。簡素な表現を用いるのなら、少しばかり嗜虐的な方向に欲望の針が傾斜を深めるという結果に繋がる。だが、それも欲望をぶつける相手を見繕えた後の話であり、更に目ぼしい女を探し当てる事に注力することとなる。その結果、妖仙の可聴域ギリギリに子猫の鳴き声が飛び込む。これだけの人が住んでいる街だ。飼い猫やら野良猫が少なかろう筈も無く、然程物珍しい事柄でもない。視線を声のした方へ向けたのは、思慮に基づいた行動ではなく、単なる気紛れだ。

「…何じゃ、餌付けをしておるのかのぅ?」

見える後姿は、傭兵なり冒険者なり荒事にも足を突っ込む職業のものと見受けられ、なればこそ作為的に雪駄の底を鳴らして歩み寄る。不意に驚かせて、護身の名の下に切りかかられては堪らないと。低い背丈を伸び上がらせ、女の肩越しに、餌にありついて押し競饅頭をしながら転がっている毛玉の群れを見出す。にぃにぃと甘えた声を垂れ流しているのは、人に馴染んでいるが故に、媚の売り方を学習しているのだろうと穿った見方も出来るのだけれど。

「嗚呼、いや。儂はここいらの住人ではないからのぅ。餌付けした野良が住み着いて困っておる…等という苦情を言う立場にはありゃせぬ。単なる物見遊山の徒じゃよ。」

細い両手の肘から先を小さく掲げ、簡略化した降参のポーズ。咎め立てせぬといった通行人は、この街やら奴隷市場でなら高値で”売られる”側に組み入れられそうな風体。異邦人たる形質と、仕立ては違えど上等と窺い知れる衣服とが風体との齟齬を生み、真夜中である事も加わって、何とも素性の読み難い事になっているかもしれない。

レーラ > 「……ほら、喧嘩しないで…、ちゃんとお食べ………。」

我先にと与えた餌に食い付く猫達へと声を掛けた其の矢先。不意に背中から聞こえる声が届く。
にゃあ、なんて子猫達に一声掛けてから屈んだままの姿で振り返れば、其処にはあまり見かけない格好の少年がいた。

「………そう、良かった……。たまに注意を受ける時がある……。」

短くそう答えると再び猫たちへと顔を向け、ゆっくりお食べ、とまたも声を掛けてから其の場に立ち上がり、もう一度振り返る。
振り向いた先にいる小さな通行人を改めて見てみれば、時折、似たような格好の人間を見たことがあると思い出す。そう確か―――。

「……シェンヤンの、方から来たのか…。」

問いと思わしき言葉は少年に向けられる。次いで浮かぶのはどういった立場の人物なのか、ということ。
何せ、時間も時間、場所も場所だ。こんな年端も行かない少年が来るべき場所ではない。
けれども、この時間に此処に居るのだからそれなりの事情があるのだろう。
詮索を良しとしない女はゆっくりと首を傾げ、少し間の抜けた提案を一つ。

「……一緒に…、ご飯あげてみる?」

等と明後日の方向にも似たような問いかけを投げてから身体を横に引いて、己の後ろで餌にがっつく猫達の姿を少年へと見せてみよう。

ホウセン > 注意されるとの言葉にさもありなんと心中で頷くが、この辺りの住環境に責任を持つ立場ではないのだし、その辺の事情という奴は当事者間で決着させるべきだとの立場を堅持する。即ち、注意もせず、推奨もせずという都合の良い立位置だ。立ち上がることで目線の上下は逆転する。成人しているということを差し引いても、背丈の高い部類に入るであろう女。身長差のせいで、妖仙の視線の高さと、見事に張り出した胸の膨らみとがほぼ等高となる。好色な存在としては、当然のように乳房を注視してから、申し訳程度に女の顔を見遣る。

「うむ。出身はお主の見立てで間違いはないのじゃ。もっとも、帝国というても、かなり端の方じゃがのぅ。」

聞く者が”問い”と判別するのに確信を抱き難い物言いも、問いと判じた様子で、己の出自を開陳する。異国出身の商人を標榜しているのだし、今更隠し立てする類の情報でもないが故に。続いての素っ頓狂な提案に、大きな目に瞬きをさせること幾度か。提案の中身は理解できるが、そこに至った思考の経路が読めなくて。

「何じゃ、儂も共犯者に引き込もうという魂胆かのぅ?なれば、中々に見所のある悪党じゃが… くくっ、生憎と獣の類にはあまり好かれんでな。必要以上に近寄ると機嫌を損ねてしまうんじゃよ。」

正確には、妖仙の人ならざる気配を敏感に察知して怯えてしまう事が多い。目下で繰り広げられている、庇護者の前での餌の取り合いという生温かい生存競争に水を差すのも野暮だと、一定の距離を保ったまま。薄い肩を竦めて、これ以上子猫たちに近寄るつもりはないとの意思表示。

「然し、こうも甲斐甲斐しく面倒を見ておるのじゃ。お主が飼うてやれば良さそうなものじゃのぅ。何ぞ、そうできぬ事情でも?」

子猫の前だ。立ち話の間繋ぎに、煙管を咥えることは差し控えよう。

レーラ > 立ち上がり、見下ろす先の少年の視線が己の胸元を注視している事には気付くのだが、其れも日常茶飯事か。
気に留めることもせずに、返ってくる答えに頷きを返し。

「北方は広いと聞いている…。」

独り言のようにも聞こえる程度の声量と抑揚の無い響きで一つ漏らした後。
己の何処か間の抜けた提案を受けた目の前の相手の様子を見れば、矢張り何処か可笑しい提案だったのだろう。
けれども、当の本人は少しばかり残念そうに項垂れて。

「そうか……、其れは残念だ……。動物に嫌われているのか?」

動物に好まれない、機嫌を損なわれてしまう―――。その言葉の本当の意味は当然、女には計り知れぬことである。
傭兵家業をしてはいるが、女にしては腕の立つ方、程度の力量では相手が人外などとは気付くことも難しい。
さて、猫好きという同胞では無かった相手との距離を一定に保ったままに問われた言葉。
其れを聞けば、うぅん、と低く声を漏らしてから腕組みをしよう。
そこらの娼婦も顔負けという程の有り余る乳肉が腕の中に寄せ集められる。
首から垂れ下がるチョーカーが見事に乳房の合間に突き刺さるのだけれど、その弾力からか痛みというより少しばかり痒い程度である。
それに気付かぬ侭に異国の少年の問いに、答え難そうに口を開く。

「………色々あってな、金が無いのだ……。……まあ、猫を拾ってくるなと言われているのもあるが……。」

初対面というにも関わらず、金銭的事情を簡単に口にしてしまうのも少しばかり恥知らずでもあるのだが、
逆に初対面だからこそ、素直に言える部分もあるだろう。
その次に出てくる“猫事情”も根が素直だから出てくる言葉とも言える。
そして肩を竦めて自嘲気味な笑みを薄く晒すと、またも首を傾げ―――。)

「そちらは?身形からして一人で旅と言う訳でも無いのだろう?」

異国の出で立ち故に職業やら立場やらは不透明な部分があるが、その素材からして旅人や何かではないという程度に察しはついたからの問いである。

ホウセン > ”聞いている”との表現に、恐らくは足を運んだことはないのだろうと察する。尤も、妖仙の興味はその先に。含意なく、そこはかとなくしょげた気配のする女に、俄かながらに同好の士を求めていたのかと、これまたそこはかとなく合点がいった。となれば、己の回答はさぞ温かみに欠けたものだっただろうが、この位で良心の呵責を感じる善良な性根はしていない。それでも少しばかり微笑ましい心地であるが故に、リップサービスの一つぐらいは舌に載せる。

「嫌われるというより、余所余所しくされるのぅ。決して儂が動物嫌いという訳ではないが故に、何というかアレじゃな。片思いという奴か。それはさて置き、世の中の困り事の八割は金で解決するというが、強ち間違えではないようじゃな。」

裏返せば、困り事の八割は金銭絡みだということだ。女自身は無頓着にしている仕草の一つ一つが、当人が望もうと望むまいと妖仙の目を愉しませているのだけれど、意図して指摘しない。指摘する事で無防備さが減じてしまっては損だと打算的な思考によって。取り澄ました顔をしているものの、腹の底は紳士的な潔癖さとは縁遠い。釣られて妖仙も腕組みをするものの、風体がちんちくりんだから、どうにも大人の真似事をしている子供のような滑稽さは拭いきれないだろう。

「儂か?何から答えればお主が満足するか分からぬが――」

そう前置きをして、言葉を選ぶ為に瞑目する。

「儂は平民地区の端に居を構えた商家の愚息じゃ。少しばかり王都から離れておったのじゃが、今日戻れてのぅ。久し振りの都じゃし、少しばかり”遊ぼう”と思って散策しておったのじゃよ。」

この界隈で”遊ぶ”といえば、どの様な行為まで求めるかはさて置き、女を侍らせるという部分は共通する。此処はそういう街で、特にそういう場所だ。遊ぶ客が斯様な子供の見た目をしていようが、金銭さえ積めば何事も可能となってしまうのも、揺るがぬ事実である。警備の仕事を請け負っている女なら、その辺りの事情は了解していても不思議はあるまい。

「じゃが、生憎と今のところ眼鏡に適う者が見つからず、意気込んで用意した重い物を懐に押し込めたまま、使い道を探すのに四苦八苦しておる…そんな所じゃな。何か興が乗る使い道があれば、そこに注ぎ込むことも吝かではないのじゃがのぅ。」

少し迂遠な表現を用いているが、財布が重いという財力の誇示だ。パッチリとした両目の内、右目だけを開けた悪戯っぽい表情。

レーラ > 「そうか、そうなのか。……どうだ、コイツ達は私に懐いているから一緒に居れば……。」

片思い、という言葉を聞いて女の瞳が少しばかり輝きを放つ。
其の勢いで猫と戯れてみないか、などという提案をしたくなるのだけれど、次いで発せられた世の中の世知辛い事情、
というか真実の一端を聞けば、押し黙ってしまうのも仕方の無いことだろう。
妙に古風な言葉遣いは国の違いかとも思えたが、淀み無く語られた少年自身の出自の切れ端を聞いてみれば、頷ける部分もある。
あるが―――、其の中で出てきた“遊ぶ”という言葉には少々驚いた。
この貧民街で“遊ぶ”となれば指す意味は一つしかない。
落ち着き払った態度や指摘した出で立ちから察するにそれこそ“遊び慣れて”いるのだろう。
これが平民街の学生院の子供であれば、少しばかり注意を促すところだが、
スラスラと流れ出る言葉からして言うだけ無駄だろう。故に諦めたのか、通りの方へと視線をやりつつ、少し愚痴のような言葉が出てしまう。

「まったく……、金というのは持っているヤツは持っているものだな……。」

皮肉なのか、羨望なのか―――、低いトーンでそう漏らすと視線は通りへと向けたままにして次の言葉を紡ぐ。

「興が乗るも何も……、使い道は一つなのだろう?……ほら、あの女はどうだ。若いし…、今のところ、客もついていなそうだぞ。」

何を思ったか、ちんまりした少年に娼婦の斡旋染みた事をし始める。
“遊び”に来たのだから、猫と戯れる女と無駄話をさせるのも申し訳ない―――、恐らくはそんな動機。
けれども、猫好きの女が指した娼婦が彼のお眼鏡に叶うかどうかは分からない。
例えば、己と比べるのならば―――、若さこそあるが、肉付きの良さ―――、もっと言えば抱き甲斐のある肢体かと言えば遠く当たるだろう。

ホウセン > 庇護者の下であっても、確りと躾けられている上に余程言い含められていない限り、今の団欒から急転直下して”フゥー!”等と威嚇される未来図が思い描かれてしまう。見た所、庇護者は甘やかすばかりで、そもそも猫に躾けというのも中々にそぐわない取り合わせ故に、女の思い描いた光景は実現するのは難しい。距離感が掴み難い女と、これもまた距離感の掴み難い妖仙。明け透けに開陳した素性と、この辺りのあまり治安のよろしくない地域を訪れている目的。表情や言動に如実な反応が現れ難いらしいと、この短時間で女の挙動に目星をつけたお陰か、呼吸の僅かな乱れを拾い上げて”驚”の感情の欠片らしきものを認識できよう。

「呵々!持っておるが故に、使うことも使命と思うておる。さもなければ、世の中の銭が方々まで回らなくなってしまうからのぅ。遊び銭故、元々の目的に比肩する遊興となるのなら、転用を躊躇う理があろうか。…と、ふむ。お主、思いつきで言うておるじゃろう?或いは、男の機微が分かっておらぬか。」

促された先に目を向けるが、鑑定時間三秒で結論が出た。否。少なくとも、この妖仙の眼鏡には適わなかったらしい。大きな黒い目を半目にして、じっとりとした視線で傭兵の顔を見上げ、唇を尖らせる。不満の表明だ。こんなちんちくりんな子供が、男を代表して――そもそも、好みは千差万別だろうに――物申すのは噴飯ものだろうが、当人は至って真面目なつもり。

「よいか。アレだけ若いというのに”立ちんぼ”というのは、店に居られぬ事情があるか、店という裏付けがあると出来ぬ事柄を企んでおるかのどちらかである公算が大きい。前者は…例えば素性を隠して素人がどうにか稼ごうとしておるという場合が多く、シマ荒らしとして一悶着に巻き込まれるやもしれぬし、後者は美人局なり昏睡強盗が例に挙がろう。」

立て板に水と、事実か如何かは兎も角、経験則から学んだ遊びの心得を告げる妖仙。もっともらしく理由を付けているが、核心は後段に。

「それに、化粧で誤魔化しておるようじゃが、そう見目麗しい訳ではなかろう。肉付きは…尻は及第点としても、乳が圧倒的に足りぬ。」

ストレート過ぎる表現で言及した所で、ふと傍らに視線を移し、無造作に女の尻肉を小さな手で一撫でしようとする。あまりにも自然体で、音もなく、邪な気配もなく。人混みで揉みくちゃにされていると事故として際どい部分に他人がぶつかるかのような、注意を引き難い接触。

「乳は検分の必要なく合格じゃったが、尻も中々如何して。さて、ここで少しばかり提案ぞ。儂の重うて重うて仕方のない儂の財布じゃが、お主に少しばかり軽うする手伝いをしてもらおうかと思うてのぅ。其処な猫介共の餌代に数ヶ月単位で困らず、お主自身も暫く一品二品副菜の増えた食事にありつけそうな額にはなろう。」

報酬が払われたとて、女自身に還元されるかは妖仙にも分からぬ話ではあるけれど。尻から手を離し、改めて女の前で仁王立ちして踏ん反り返る。偉そうにしていても、滑稽さの拭いきれない子供相手である。小遣い稼ぎの相手としては、大の男を相手するよりは手軽と目されても当然の帰結だ。誘う側は与り知らぬが、警備の仕事の途上であるという事情を踏まえ、傭兵が如何な結論に達するかは――

レーラ > にゃあ、にゃあ、と後ろで騒ぎ立てる猫達の声をBGMとしながら、ちんちくりんの少年の饒舌さ具合が止まらない。
厭味も含まれた女の言動に返ってくる言葉はさすがに遊びなれているからか、何れも頷ける点を突いている。
感心したように頷いていれば、不意に伸びてくる小さな手。
咄嗟の出来事に油断しているとは言え、傭兵といえども反応できず、尻肉への悪戯を許してしまう。
その悪戯な手とその主である少年へと視線を落としながら、続く言葉に瞼を二度三度と瞬きしてこれまた驚いてしまう。

「………なんだ、私も一緒にお前の好みの女を探せば良いのか…?」

またしても的外れな回答をしてから女が気付く。
そんな事で金を得られる訳も無し、また“遊び慣れた”少年がそんな事を望む事も無い。
されば、考えられることは一つ―――。腕組みしていた片手を僅かに離し、頬の辺りを掻きながらぼそりと呟く。

「………私を買おうと言うのか……。初めてではないが、子供に言われるのは初めてだな……。」

恥らうのかといえば、そうでもなく、悩む素振りを見せるだけ。
口振りからしてこういった“遊び”の誘いを受けたことは初めてでは無い事を指し示しながら、一つ真っ直ぐに少年を見詰める。

「今夜はまだ警備の途中だ。折角“遊ぶ”つもりでいたところ、申し訳無いが日を改めるのはどうだろうか?」

どこか真面目なのか天然なのか分からない女はまじまじと少年を見詰めながらそんな提案を口にした。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からレーラさんが去りました。
ホウセン > よく言えば擦れていない、悪く言えば天然気質であることは、もう疑う余地は無い。それでも紆余曲折の果てに、正解に行き着いたようで。仕事中だという事情を足蹴にするまで傲慢でも、切羽詰ってもいない妖仙は、鷹揚に頷き――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からホウセンさんが去りました。