2017/03/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 久方振りに王国の都に戻れたのは、冬の短い昼に比べて日が長くなったこの頃だというのにも拘らず、紛う事なき夜の時間になってからだった。この小柄な妖仙が、意に沿わず販路拡大中の王国から姿を消していた理由は、主に帝国内でのいざこざが主要因だったのだけれど、突き詰めると、己の流通経路に横合いから食い込もうとする不調法な輩とのテリトリー争いの類。それについては苦労の甲斐あって事なきを得た。というか、二度と不利益を引き起こす気がしないようになるまで性根を磨り潰してやったのだけれど、それはそれ。結果として、王国内で活動する時間的資源が浪費された事は否めない。

「久方振りの王都じゃが、やはり帝国とは毛色が違うのぅ。」

自身の経営する商店に顔を出したのも束の間、小さなシルエットはさっさと歓楽街に繰り出した。そんな遊興第一の存在が口にした台詞は、建築様式でもなく、街の雰囲気でもなく、春を鬻いでいると思しき女達の風体についての言及だ。帝国への滞在中であっても、気が向けば女を買っていたという放蕩具合だからこそ、王国の女と食べ比べをしたいという下世話な好奇心が疼くのである。

ホウセン > 商店の本店にある執務室に滞在したのは、都合小一時間程度。魔術やや呪術やらに長けている存在であるが故に、商談に係る事務連絡の類は帝国内に在っても遅滞無く受け取ることが出来たし、反対に指示を送る事もできた。それ故に、喫緊の裁量を要する事柄は殆ど残っておらず、細部の報告事に目を通すだけで済んでしまったのだ。だからといって、休養もとらずに歓楽街に繰り出すのは、この妖仙の性質に起因しているということに疑う余地は無い。

「はてさて、どこぞに良い女が転がっておれば僥倖じゃが…」

貧民地区といっても、荒廃した廃墟のような様相は呈していない。全体的に古い建物が多く、街区の構造が無計画に整備されていた頃に成立したのだろうと察せられる路地の入り組み具合が著しいぐらいのもので、外貨――貧民地区以外からの資本という意味で――を稼ぎ出す歓楽街ともなれば活気に溢れていたし、建ち並ぶ娼館やら酒場やら宿屋やらも、少なくとも外面は小奇麗に整えられている。小型の馬車がどうにか行き違えるかといった広さの通りを物色しながら闊歩する。手始めに探しているのは、娼館に所属していない、所謂立ちんぼの娼婦。専ら、一本二本裏に回った路地裏でこそ見かけそうなものだけれど、表通りであっても物怖じせぬ性根と、自身の商品価値に対する自負のある娘がいれば面白かろうと。その一方で、見知った遊興仲間に行き違えば、近々に目ぼしい娼婦が在籍するようになった店は無いか等と世間話に興じる。ここに相応しくない子供の風体ながらに、通いつめて軽んじられぬ程度には地盤を構築しているのだろう。

ホウセン > こういった貧民地区においては、所属する娼婦の出入りどころか、娼館そのものの出入りも決して少なくない。背後にパトロンの類でもいれば話は別なのだろうが、”伝統の”だの”格式”だの、長く看板を掲げる事で手に入るステータスが、他の地盤が固まっている地域に比べて客寄せの効能を発揮しないのだ。こういった人の価値が軽んじられる刹那的な界隈では、これまで何を提供してきたかよりも、これから何が提供できるかに視線が向くのが原因なのかもしれない。ともあれ、知己のある店の一つにおいて経営者が変わったであるとか、知名度のあった娼婦が何処ぞの貴族の愛人として買い上げられたとか、一月近くの間の空白埋めるべく遊興仲間の言葉に耳を傾ける。

「ふむ、ふむふむ。いや、参考になったのじゃ。何しろ、ここ最近はとんと足が遠退いてしまっておったからのぅ。時間をとらせてすまんかった。恩は何れ、何かの形で返そうぞ。」

世間話の締めくくりに軽く手を掲げ、往来の中で別れる。止まっていた歩みを再開させつつ、腕組みして思案の仕草。名の挙がっていた娼婦は、緩く波打った金髪と妖仙の頭を二周り程度サイズダウンさせたような左右の乳房が見事で、如何にも”王国の女”という風情に溢れた存在だ。以前に幾度か褥を共にした事もあり、この物色散歩が空振りに終わろう物ならば、所属する店に顔を出そうか等と目論んでいた折に、先制攻撃を喰らった訳で。

「ぬぅ、侭ならぬ。」

やや唇を突き出し、不貞腐れた表情。心の底から、囲い込んだ貴族とやらを呪う心地には至らずに済んではいるけれど。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にレーラさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にレーラさんが現れました。
レーラ > 深夜の貧民街―――、行き交う人々が疎らということは決して無い。寧ろ、日中の平民地区よりも人通りは多いと言っても過言では無いだろう。
そんな活気で溢れる平民地区に今宵訪れたのは、無論仕事である訳だが―――、その内容といえば大層な内容ではない。
傭兵としてそれなりに名が知られるようにはなってきたものの、あくまで少しばかり腕の立つ女という程度でしかない。
故に回ってくるのは貧民地区の見回りやら用心棒やら何やらという具合なのだ。
無論、己一人で見回れる程狭くもなく、またそのように単純な街ではない訳で、数人が別れて見回りを続けている。
それぞれが単独で見回りを行なう為、それぞれのタイミングで休憩を取る事になるのだが、女はこの仕事に就く度にとある路地裏で足を止めるのだ。
何故なら、そこには毎度毎度、腹を空かせた野良の子猫が何匹か寄り添っているからである。

「………ほら、ご飯………。」

無防備にも街路に背中を向けながら何匹かいる子猫に、骨付きの魚を分け与える。
その微笑みは普段無口な女からは想像出来ないほどに柔らかいのだが―――、誰一人気付かない。