2016/09/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/安酒場「酒樽の小蠅亭」」にカリラさんが現れました。
カリラ > 貧民地区にある酒場なぞ、決して綺麗でも無ければ居心地の良いものでもない。
酒と煙に焼けた喉からがなるように声を出す酔客共に、耳障りで甲高い声した娼婦達が群がっては安っぽい媚びを売る。薄汚れたランプから立ち上る煤けた空気に饐えた臭気が入り交じり、大きく譲歩したとして路地裏のゴミ捨て場よりはマシな空気だと評するのが精々。
そうした猥雑な空気も濃厚な店内に、また一人……奥向きの階段から下りてくる者がいる。長い黒髪は濡れたように色合いをした、派手な色合いをした衣服は腰元の切れ込みやら胸元のだらしなさやら、一見して娼婦の其れを分かる出で立ちした女がL字型をしたカウンターの暗がりへ滑るように進むと同時。

「……酒。強いの。」

ただ、それだけを店主らしき初老の男へ告げ、止まり木へと腰を降ろした。
酒が届けられるまで暫くの間、陰の暗がりへ身を潜めるように……喧噪にやや背を向けるように肩を入れ、何度も神経質そうに前髪を整え直していた。

カリラ > 有象無象。年がら年中酒場に巣くってる輩もいれば、一見さんでそれっきりという客もいるのが酒場の常。
そうした中で、このカウンターの片隅に腰掛けた売女は此処数日からこの酒場に顔を見せ始めた新参。
新参という引け目 ――此の女が引け目を感じるほどに控えめな性格であれば、という非常に確率低そうな条件付きだが―― もあるのか、テーブル席でしなを売る他娼婦達に入り交じることも無く、物陰を住処にただ黙々と酒を飲む姿が数日前からあるが。酔いどれ客にその存在を知られているのかいないのか。
……それも、恐らくは余り関係無しとばかり。目の前へと押し出されたグラスを片手に、やや背を丸めるようにして顔を寄せて酒を啜る。

「……は。」

やや濁りのある液体は酒精も強く、喉から臓腑を焼かんばかりに熱する物だが。其の熱さに瞬き一つほどの間だけ眼を細めたかと思えば、また神経質そうに前髪へと指を掛け直す。
スカートの側面に長く大きく入る切れ込みから、やや青白い肌をした足が脛や膝はおろか太腿も半ばまで露わとなっている。
此処まではテーブル席で髭面客に腕を絡ませている売女共と大差ない娼婦の出で立ちだが、薄汚れたランプの灯りに時折チラチラと浮かぶ胸元には余り娼婦らしからぬ大きな傷跡が首筋から胸の肌を斜めに通り抜けているのだった。

カリラ > 澱んだ空気が渦巻く、暗い天井を見上げるようにして杯を干す。
酒は半ば以上がまだ残っていたが、其れを一息に流し込むようにして嚥下。白い喉が二度三度と上下してから、血色の悪さを誤魔化すように厚く口紅の塗られた唇から小さく息を吐いた。
……数分。酒精が全身の血管を巡り、濁った頭に爛れた刺激がやっとのことで届く。
ほんの僅かばかり頬の血色を良くした売女は、

「……勘定、此処に投げとくから。」

とだけ、店主らしき男に告げて小銭をカウンターへと転がした。
値段は決して高くはない。貧民地区にある酒場なのだ、其れも当然という値か。
其れは兎も角、止まり木から降りた女はゴミの散乱する床を縫うように歩き、表玄関から夜の暗がりへと消えていった。
今夜も何処か目立たぬ路地裏で、数枚の小銭と引き替えに身体を売るのだろう――――――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/安酒場「酒樽の小蠅亭」」からカリラさんが去りました。