2016/06/10 のログ
■リーゼロッテ > 「……ティルヒアは、あの子を戦争に使うために父親を殺したわ。ここに来ても、魔族や人の欲望で傷ついたり、汚れる度に憎む気持ちを隠してた。それが積み重なって生まれたのが私」
正確には、とある淫魔の手で最終的な形となるキッカケを得たわけだけれど、敢えていう必要もないだろうと伏せておいた。
淡々と説明しつつ掌を重ねれば、変わらぬ肌の感触と体温を伝えていく。
「……貴方が知ったら、傷つくと思うの」
彼女がいない間に起きた出来事、それを知れば、自分を責めて苦しまないだろうかと思うと、更に言葉が消え入りそうになる。
こちらへと向ける視線に重ね返すことが出来ず、悲しげな顔で視線を逸らしたままうつむいていた。
けれど…言わねば進まない、恨まれるのを怖がっても好転はしないからと、自らに言い聞かせるとゆっくりと口を開いた。
「……大体5日前ぐらいかしら、王都の富裕層が多い地区で、人に化けた魔物にあの娘は騙されて、拉致されたわ」
その日付に覚えがあるだろうか?
偶然にも彼女が故郷から帰り、港についた日である。
そんなに遠くもない場所で拐われた事実を語れば、更に言葉を重ねた。
「遺跡にある地底湖に連れ込まれて、そこでミレーの偵察班の娘達が、廃人にされて魔物の養分にされているのを見せつけられながら…踏みにじられたわ。諦めずに、折れずに…戻るためにって気丈に耐えながら」
こうして口にすればその日の夜を思い出す。
直ぐ側で自分と同じ心をもった、本当の少女が壊されていくのを見ているだけの時を。
踏みにじられ、潰され、切り裂かれ、心が傷だけで作られていくような凄まじい心身の陵辱を。
何をされたかまでは語れず、声が震え、ぎゅっと手を握りしめるだろう。
「薬漬けにされて…最後に私の様に全てを呪って壊れようとしたわ。でも、それだけは…と思ったから、あの娘を心の奥に押し込めてるのよ」
虫の息となった心を引きずり上げて、奥底へと封じ込める。
ゆっくりと時間が傷を癒やすのを待つように、今は誰も居ないところで過ごしていた。
起きたことを掻い摘んで説明すれば、少しだけ怯えながら彼女へと視線を戻す。
助けたとはいえ、半分見殺しにしかけたという自責がズグズグと心に突き刺さる。
■リーユエ > ティルヒア、その名前は聞いた事だけはあった。王国に宣戦布告をして敗れた、その程度の知識だ。
祖国で、更に王国で、細かくは聞かされないも受け続けた仕打ち。
別の人格を生み出してしまう程なんて、想像出来るものではない。
先ずは其処が始まりと云うかの様に聞かされるその言葉に、目を伏せた。
触れる手の温もりだけが、僅かながらも其れを和らげてくれる。
知れば自分が傷付く。きっと、其れは自分が離れていた事を指しているのは容易に想像が出来る。
語り始めの5日前は、まさに其れだった。
彼女の懸念は間違ってはいない、話が進むに遵って自分の表情が沈んでいくのを見れば分かるだろう。
良かれと思って、数日ならばと思って、自分が行った行動が彼女を…
今の彼女の思いとは違うも、彼女に握られる手が、強く握り返していく。
唯一の救いは、今居る別の人格と云う彼女が表に出て来た事。
自分が求める彼女は、静かに眠っているのだろうか?
其れとも、身に受けた事を悪夢の様に繰り返し思い描き苦しんでいるのだろうか?
「…私には、リゼさんが何処までの事をされたのかは、分かりません。
其れは、私に伝えられない程に酷いものだから、伝えられないのでしょう?
ですが、あのリゼさんが、其処までしないといけない処に迄追い詰められたのは、私にも責任の一端は在ります。
約束を守れず、一人にしてしまった…少なくとも私が一緒に居れば、そこまでの目には合わなかった筈。
事を起こすタイミングなんてものは、常に最良なんて選べる訳が在りません。
だから…手を差し伸べれなかった私に代わって、ギリギリとは云え救ってくれた貴女には感謝します。
貴女が貴女自身を責め様とも、少なくとも、私は」
彼女の事も気に為って仕方がないのは事実。
でも、自分には目の前の今の彼女も気になってしまう。
少なくとも彼女は完全に壊れてはいない、ゆっくりとでも癒す事が出来ているならば、もっと良い方法も見付かるかもしれない。
希望は繋がれている。
だから、怯えている様な彼女へと、笑顔を向けた。
■リーゼロッテ > 故郷に戦争を齎したのも、自分達が守ろうとするものを壊すのも、全てを踏みにじるのも魔族が悪く、同等の悪ならば人間でも呪った。
何時もの子供っぽい微笑みの裏には、誰にも気づかれなかった真っ黒な闇が隠れていた。
事実を語っていくと、彼女の表情がどんどん沈んでいくのが見える。
握り返す力が、こちらに縋り付くようにも感じて一層胸が苦しくなり、表情は曇るばかり。
「…えぇ、伝えられないわ」
それほど酷かったと、壊れていくのを間近でみた存在として、その様子は語れなかった。
続く言葉に緩やかに頷くと、何時もと変わらない甘い香りが広がっていく。
お揃いで使い始めた草の青い香りを消すための香水も、昔と変わらない。
「ありがとう……。それと、壊れそうになる瞬間まで、貴方の為に耐えようとして、踏みとどまれたわ。だから…私より、貴方の存在が…あの娘にとって、かけがえのない支えなのよ」
それと…と小さくつぶやくと、彼女の微笑みを見つめながら、元気の無い笑みを見せる。
奥底で起きた変化を喜ぶべきか、憂うべきかわからなかったからで。
「ずっと貴方の声を聞いていたら…あの娘が起きたの。出たいって強請ってるわ」
でも、彼女が想像するような光景とは違うと知っている。
そこまでは言わなかったけれど、会いたい?と確かめるように問いかけた。
■リーユエ > きっと自分にはとても想像の出来ないもの。
其れを、あの何時も天真爛漫な、自分とは正反対の太陽の様な笑顔を浮かべる少女は受けていた。
比べれば、自分はどれだけ幸せであるのかと思ってしまう。
伝えられない事だろうと聞けば、思った通りに、伝えられない事だと返って来る。
ふと鼻に付く甘い香りに気が付けば、一度眼を閉じて、其れを強く感じていった。
「…そうですか。其処まで、私は…」
彼女に想っていて貰えたのか、自分が彼女を想っている様に。
何処か擽ったく感じるも、矢張り嬉しいものは嬉しいもの。
こんな状況である筈なのだけれども。
「…勿論会いたいです。でも…貴女は如何なるのですか?
思ったんです、貴女が以前から居たのならば如何していたのかと。
ずっと眠り続けているのですか?
それとも…一人、リゼさんの中で何も出来ずに只見ているだけなのですか?
どちらにしても、私は貴女に気付いてあげる事も出来なかった…申し訳在りません」
会いたいか?の質問には、会いたいとは答える。
けれども、自分の至らなさも同時に感じれば、今の彼女に深々と頭を下げた。
次いで、出来れば場所を変えたいのだと提案はして。
今、この場所で目を覚ましてしまっては…眼を一度だけ、足元へと向ける。
■リーゼロッテ > 意識を共有していた隼ですら気付けなかった闇、底抜けに明るくいられたのも、闇を切り離していたからだろう。
壊れた後、僅かに残っていた所持品の中にあった香水は、おそろいということもあってか、絶やすことなく使い続けている。
目の前の少女との繋がりを残すために。
その甲斐を感じさせる、リーユエの喜ぶ姿にこちらも柔らかに微笑み安らぎを感じていた。
「じゃあ……そうね、後者に近いわ。あの娘の中で、あの娘の目を通して見ている。そんな感じね」
会いたいと頷くなら、早速と切り替わろうとしたところで問いかけられる。
簡単に説明を返せば頭を下げる彼女に、ゆるゆると頭を振って気にしていないとうっすらと微笑みかけた。
「いいのよ。私は…あの娘の暗い部分で、気づかれないために切り離されたのだから。今はもう落ち着いているけど…あの娘、貴方に傷物にされるぐらい、爪痕を欲してたのよ?」
気づかなかったでしょう?と狂った欲望を苦笑いで可笑しそうに語ると、掌を頭を下げる彼女の頬に触れた。
提案の言葉に、そういえば賊を狩っていたのだと周りの様子に気づいて、小さく頷く。
「それなら……皆の住処へ行きましょうか。そこなら邪魔は入らないわ」
自分を形つくった存在は、淫魔故に鴉達の領域に入ることが出来ない。
人間である彼女なら鴉達も騒ぐ様子もなく、こちらの言葉に抗う様子もなかった。
鴉達に目配せすると、バサバサと二人の周りを飛び交い、黒色に包む。
禁忌と神に追放された、葬魂の森へと誘い、残るのは鴉の羽と事切れた男達だけだ。
■リーユエ > 閉じていた眼を開き、彼女の言葉に困った様な表情を浮かべる。
つまり、今までの二人の出来事は、二人に見られていたのだと知ったから。
絡み合う香りに包まれ乍、気を取り直して表情を戻す。
「…爪痕…ですか…?」
思い出そうと思えば思い出せる事、傷物の意味は、何と無く分かってしまう。
だからこそ、ポツリと呟くその言葉に僅かに赤くなった。
其れを望んでいた…だけど、それを自分が出来るのだろうか?そんな不安も僅かにあって。
「…はい、御願いします」
皆の住処とは何所なのだろうか?そんな疑問も在るには在る。
それでも、彼女と会う場所に邪魔が入っても困ってしまう。
なので、その提案は素直に受け取っておいた。
後は今の彼女に身を委ねておいて…
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリーユエさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリーゼロッテさんが去りました。